Sightsong

自縄自縛日記

ヘンリー・スレッギル(11) PI RECORDINGSのズォイド

2012-06-11 01:24:30 | アヴァンギャルド・ジャズ

最近のヘンリー・スレッギルの新作を出しているレーベルは専らPI RECORDINGSであり、このところずっと「ズォイド」名義である。LPの1枚を含めると、ズォイドの作品は5枚ということになる。

『Up Popped The Two Lips(ふたつの唇の音色)』(PI RECORDINGS、2001年)
『Pop Start The Tape, Stop』(hardedge、2005年)※LPのみ
『this brings us to / volume I』(PI RECORDINGS、2008年)
『this brings us to / volume II』(PI RECORDINGS、2008年)
『Tomorrow Sunny / The Revelry, Spp』(PI RECORDINGS、2011年)

ズォイドの編成は少しずつ変化している。最初の2作では、スレッギルの他に、ギター、ウード、チューバ(+トロンボーン)、チェロ、ドラムスであったが、『this brings us to』の2作(録音同日)では、ウードが抜け、チェロの代わりにベースギターが入っている。そして今年発売されたばかりの最新作『Tomorrow Sunny / The Revelry, Spp』では、再度チェロが参加した。

あらためて、最近の3作を立て続けに聴いた。

■ 『this brings us to / volume I, II』(2008年)

Henry Threadgill (fl, as)
Liberty Ellman (g)
Jose Davila (tb, tuba)
Stomu Takeishi (bass g)
Elliot Humberto Kavee (ds)

今にして思えば、この連作にさほど熱狂しなかったのは、スレッギルの楽器がフルート中心だからである(わたしが好きなのは彼のアルトサックスだ)。

『I』では、最初の3曲に登場するのはフルートであり、チューバやドラムスが低音アンサンブルの下部構造を形成し、その上でフルートとギターが躍る。緊密さに圧倒はされても熱狂はしない。4曲目のアルトも、構造の中で大人しい印象だ。白眉は次の5曲目だろう。前のめりのドラムスのビートの中、アルトが時空間を切り裂いていく様は、コロンビア時代の次々に怪作を生み出したスレッギルを思い出させるものだ。エルマンのギターソロは、ユニゾンを含めて格好いい。

『II』は、冒頭曲、トロンボーンのソロの後に満を持して登場するのはやはりフルートだ。次のタイトル曲では、ギターとベースギターのソロの後に、アルトが注意深く入ってくる。3曲目のフルートを経て、4曲目は曲の最初からアルトが吹きはじめるが、これも注意深い。しかし、次第にチューバ、ドラムス、ギター、ベースギターによって曲が持ち上げられ、アルトを取り巻く雰囲気が狂騒的になってくる。白眉はこれだ。そして最終曲も、この勢いのままに、アルトソロが力強い。

■ 『Tomorrow Sunny / The Revelry, Spp』(2011年)

Henry Threadgill (fl, as)
Liberty Ellman (g)
Jose Davila (tb, tuba)
Christopher Hoffman (cello)
Stomu Takeishi (bass g)
Elliot Humberto Kavee (ds)

何となく欲求不満な時期が続いたこともあり、待望の新作である。前作メンバーにチェロが再加入した。

1曲目、アルトサックスはこれまでよりかすれたような音色だろうか、何だか印象が異なる。しかし、ソロから受ける印象はより自由闊達なものだ。チェロ再加入の効果は絶大で、低音アンサンブルは緻密なままにより分厚く、さらにチェロの音色がまるで触手を伸ばすように感じられ、音構造が多彩なものになっている。

2曲目のフルートはバイタル、3曲目にはアルトがグリッと肩から入ってくる。それを弦たちのピチカートが引き立てている。

4曲目と5曲目では、チェロが実に良い雰囲気を作り出し、前者ではその上にまるで薄膜をかぶせるようにフルートがかぶさってくるし、後者ではさらにチューバとドラムスが形成し続ける構造の中、ややかすれた音のアルトサックスがしつこく挑むような素晴らしいソロを見せる。エルマンのソロも良い。そして最後に、静かなフルート曲で幕引きがなされる。

もはやスレッギルの音楽は眼を見開いて驚くようなドラスティックな変貌を遂げているわけではないが、それでも、この新作が前作から見せた変化は大歓迎である。傑作。

●参照
ヘンリー・スレッギル(1) 『Makin' A Move』
ヘンリー・スレッギル(2) エアー
ヘンリー・スレッギル(3) デビュー、エイブラムス
ヘンリー・スレッギル(4) チコ・フリーマンと
ヘンリー・スレッギル(5) サーカス音楽の躁と鬱
ヘンリー・スレッギル(6) 純化の行き止まり?
ヘンリー・スレッギル(7) ズォイドの新作と、X-75
ヘンリー・スレッギル(8) ラップ/ヴォイス
ヘンリー・スレッギル(9) 1978年のエアー
ヘンリー・スレッギル(10) メイク・ア・ムーヴ


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