Sightsong

自縄自縛日記

フィニアス・ニューボーンJr.『Back Home』

2016-06-04 07:05:46 | アヴァンギャルド・ジャズ

フィニアス・ニューボーンJr.がレイ・ブラウン、エルヴィン・ジョーンズと組んだピアノトリオ作品に『Harlem Blues』(1969年)がある。メンバーは凄いものの、フィニアスが全盛期のような絢爛豪華なピアノを弾くでもなく、エルヴィンが叩きまくるでもないこともあって、さほど好きにはなれなかった。

といいながら、気が向いて、『Back Home』(Contemporary、1976年)を聴いた。既に、なかなか弾けず寡作となっていた時代の吹き込みである。

Phineas Newborn Jr. (p)
Ray Brown (b)
Elvin Jones (ds)

あらためて耳を傾けてみると、ダイナミックな和音やポロポロと鼻歌でも歌うように装飾音が惜しみなく出てきて、またその中にああフィニアスだなと実感させてくれる手癖があって、何度もリピートしてしまう魅力がある。レイ・ブラウンのベースは前のめりで手堅く、久しぶりに聴いてもとても嬉しい。そしてエルヴィン・ジョーンズは、最初は控えめなものの、後半「On Green Dolphin Street」において目が覚めるような鞭を叩く。ゆっくりとしたイントロからノリノリになっていく「Love for Sale」もいい(レイ・ブラウンが締めたピアノトリオといえば、ジュニア・マンス『Junior』を思い出す)。そんなわけで、また、同じメンバーによる『Harlem Blues』も聴いてみよう。

油井正一『ジャズ ベスト・レコード・コレクション』という名著に、矢作俊彦による『I, The Piano』という傑作エッセイが収録されている。雨宿りのために駆け込んだNYのバーに、ピアノを弾いている男がいて、取り囲む者たちは固唾を呑んで彼の演奏を聴いている。氏はフィニアスを思い出し、ピアニストに酒を奢る。ピアニストの爪は、泥で汚れていた。しかし、かれこそがフィニアスなのだった、という陶然としてしまう話である。この演奏も、そのような不遇の時期になされたものかもしれない。

ところが、ちょっと比べてみようと思い、フィニアスのデビュー作『Here Is Phineas』(1956年)を再生してみると、笑ってしまうくらいの凄いテクニックで、聴きながらはらはらする。明確な音の粒粒が惜しげもなく放出されているのだ。わたしの愛聴するフィニアスは『A World of Piano!』(1961年)か、ロイ・ヘインズの『We Three』(1958年)だが、それらも圧倒するくらいの鮮烈さ・・・と言いながら、また聴いてみればきっと新たな発見があるのだろうね。どの時期の演奏もきっと唯一者フィニアスである。


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