Sightsong

自縄自縛日記

ジャズが聴こえないジャズ・ミステリ、ポーラ・ゴズリング『負け犬のブルース』

2011-04-27 01:13:46 | アヴァンギャルド・ジャズ

福岡行きの機内で、ポーラ・ゴズリング『負け犬のブルース』(ハヤカワ文庫、原著1980年)を読む。場所はロンドン、クラシック・ピアニストでありながらジャズに手を染め、さらには食っていくために何でも依頼仕事を行う男が主人公である。40歳を過ぎたばかり、バツイチのインテリ、才能はピカイチ、女性にはモテる。そんな奴いるのか、まあ、お話だからどうでも良いんだけど・・・。

どうしてもジャズ・ファンをくすぐる描写に期待してしまうが、実のところ、そのような場面はさほど多くない。デイヴ・ブルーベック、ズート・シムズ、オスカー・ピーターソン、テディ・ウィルソン、ハービー・ハンコック、MJQといった音楽家の名前は出るし、「柳、柳、わたしのために泣いておくれ」といったようにスタンダードの曲名をちりばめたり、ジャズのコード進行とインプロヴィゼーションをスキーのスラロームに例えた講釈をしてみたりと工夫はしている。しかし、ジャズの緊張感を感じさせる演奏場面の描写はまったくたいしたことがない。この作家はジャズに思い入れがさほどないのではないだろうか。

ミステリとしてのプロットや謎解きの面白さも少ない。ようやく最後になって、映画的とでも言うべきカーチェイスのシーンがあって救われた気分になった。

カーオーディオから流れてくる音楽は、バッハの「ブランデンブルグ協奏曲」。映画そのものであっても、このギャップを活かしたら愉快かもしれない。菊地雅章クインテットの音楽がずっと流れるカーチェイス映画、西村潔『ヘアピン・サーカス』(1972年)と比べたら、映画ならばきっと両者互角、小説ならばバッハだろうと思ってしまった。小説で、次々に繰り出されていくジャズのインプロヴィゼーションを表現できれば話が違うかもしれないが。

●ジャズ・ミステリ
フランソワ・ジョリ『鮮血の音符』
ビル・ムーディ『脅迫者のブルース』
シャーロット・カーターがストリートのサックス吹きを描いたジャズ・ミステリ『赤い鶏』、『パリに眠れ』

●カーチェイス
菊地雅章クインテット『ヘアピン・サーカス』


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