Sightsong

自縄自縛日記

二コラ・フィリベール『かつて、ノルマンディーで』

2016-01-01 10:27:20 | ヨーロッパ

二コラ・フィリベール『かつて、ノルマンディーで』(2007年)を観る。

19世紀、フランス・ノルマンディー地方の農村において、悲惨な事件が起きた。ピエール・リヴィエールという若者が、自分の父親に対する酷い仕打ちを理由に、母親、妹、弟を鉈で斬殺した。

この「ピエール・リヴィエール事件」について、ミシェル・フーコーを中心とするチームが分析を行い、事件の因果関係の語られ方に関していくつものパラレルな言説体系・権力体系があることを示した(ミシェル・フーコー『ピエール・リヴィエール』、1973年)。それを基にして、同じ地方の農民を俳優として作られた映画が、ルネ・アリオ『私、ピエール・リヴィエールは母と妹と弟を殺害した』(1976年)であった。映画は、フーコーが示すパラレルな言説の複数性を形にできず、裁く側と裁かれる側とを見せたに過ぎず、傑作とは呼べないものだった。

しかし、30年後、この別の映画によって、また別の言説があらわれる。撮る者と多数の撮られる者によるものである。撮る側もたいへんな苦労をしていた。フィリベールはアリオ映画の助監督でもあり、実の父が演じた箇所がカットされたという心残りもあって、再び、ノルマンディーに足を運んだ。

かつて俳優となった農民たちは、人生に映画という事件を刻まれていた。甘美な記憶として語る者も、複雑に顔を歪める者もある。人生を見つめなおすきっかけになったと言う者もある。日常生活では忙しくてあまり言葉を交わさない人たちが、顔を見合わせる。そして、肝心のピエール・リヴィエール役は、その後も俳優を志してジャック・ドワイヨンの作品に出演したりもするが、映画界が肌に合わず、神父になってハイチに住んでいた。何ということだろう。

あらたに不思議なパラレル世界を示してくれるという点で、この映画は傑作。

●参照
ミシェル・フーコー『ピエール・リヴィエール』(1973年)
ルネ・アリオ『私、ピエール・リヴィエールは母と妹と弟を殺害した』(1976年)


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