Sightsong

自縄自縛日記

ワダダ・レオ・スミス『Spiritual Dimensions』

2010-03-31 00:12:43 | アヴァンギャルド・ジャズ

ワダダ・レオ・スミスの近作『Spiritual Dimensions』(Cuneiform Records、2009年)は、ゴールデン・カルテットオーガニックの2つのグループによる2枚組である。

ゴールデン・カルテットによる1枚目のメンバーを見て驚いた。フェローン・アクラフドン・モイエの2人が後ろでドラムスを叩いている。聴いてみると、スピーディで繊細なアクラフらしきパルスが飛び出てきて嬉しくなる。この2人が同じステージで叩くところを観たなら鼻血が出ることだろう。しかし叩きっぱなしではない。音風景は変わり続け、同じ曲の中でも突然それまでの流れが土中に姿を消し、別の渓流が現れる。時にはヴィージェイ・アイヤーのピアノが水晶のように煌く。その風景の中、スミスがすっと登場してはトランペットを吹き、消えたと思ったら遠くに移動していたりするような印象だ。このあたりの間合いが面白い。

2枚目のオーガニックというグループは奇抜だ。ギターが3本ないし4本(ブランドン・ロスもいる)、チェロ、そしてベース2本。ドラムスはここでもアクラフである。その名の通り、しなやかであったり強靭であったりする弦が有機的に絡み合い、スミスはその世界においてやはり再誕生と再消滅を繰り返す。

ロンドンの「Cafe OTO」で偶然手に取った『WIRE』誌の表紙が、ワダダ・レオ・スミスだった。ここでのスミスのトランペット評は、「マイルス・デイヴィスのように感情を露出しているわけでも、ビル・ディクソンのように抽象的でよそよそしいわけでもない」とし、「ロングノートの間を空け、空間を音と同様に重要なものとする」ものだとしている。音ではなく音と音との間の空間に対する意識。謎めいた僧のように音もなく移動し、個々の場を高音で切り裂く印象は、ここから来ているわけだ。スミスはこれを禅だとしている。

スミス自身によると、ゴールデン・カルテットのメンバーが誰であっても、エリントン楽団のようにサウンドは同じものであるというのだが、実際には、ドラムスが寸止めのようなジャック・デジョネットから変わっただけで印象が激変している。また、オーガニックは「すべての空間が満たされたグリッドであり、すべての楽器が競合せずに、グリッドを唯一の楽器であるかのように利用する」ようなものだと表現しているが、何のことかまったく想像できない(笑)。音楽家本人の言葉もスミス理論によれば音風景・・・それはないだろうね。

それはともかく、霧がかかった山中の広い湖のような音風景は、スミスの企図する空間への意識から生まれていることは間違いないように思った。

●参照
ワダダ・レオ・スミスのゴールデン・カルテットの映像
フェローン・アクラフ、Pentax 43mmF1.9
ドン・モイエ+アリ・ブラウン『live at the progressive arts center』、レスター・ボウイ


最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。