Sightsong

自縄自縛日記

ヘンリー・スレッギル(8) ラップ/ヴォイス

2010-04-10 12:01:15 | アヴァンギャルド・ジャズ

ヘンリー・スレッギルがサイドマンとして参加した異色盤として、リュウ・ソラ『Blues in the East』(Axiom、1993年)がある。ソラは作曲家、小説家でもあるが、ヴォーカリストでもある。ここではすべての曲を作曲し、京劇の女役のようなヴォイスで漂い、物語を語る。

盤は2つの物語からなる。「The Broken Zither」(壊れた琴)は、琴を持ち、冒険を求めて旅する音楽家が親友に逢い、失う物語だ。スレッギルのサックスは、2曲目、4曲目、6曲目に現れる。アミナ・クローディン・マイヤーズのオルガンやソラのヴォーカル、さらには(ラスト・ポエッツの)ウマー・ビン・ハッサンのラップとも絡む。スレッギルが発する切実なアウトした音は、「陽」で「躁」のラップとは極めて親和性が高い。

それらの曲と交互に現れるアジア的・瞑想的な曲では、なんとネッド・ローゼンバーグが尺八などを吹いている。こういった構成の妙があり、7曲による組曲はまったく飽きることがない。

もうひとつの物語、「Married to Exile」は、文字通り、故郷の中国から政略的に追われ、モンゴルの王に嫁がされた皇帝の愛人・王昭君の嘆きを紡いでいる。ここでも時にスレッギルのサックスが異物としてまろび出てきて嬉しくなるのだが、聴きどころはむしろマイヤーズとジェームス・ブラッド・ウルマーによるコテコテのブルースだろう。ブルースそのものが、米国において、異物性を前面に押し出した音楽だと言うこともできるから、このミクスチャーの迫力には仰天させられる。そして、マイヤーズの通りの良いヴォイスがまた嬉しい。

ラップとの絡みということで言えば、同じ年に録音された盤、ビリー・バング『hip hop be bop』(ITM、1993年)が面白い。ビリー・バングはヴァイオリンを弾かず、ここでは作曲に徹している。(そういえば、スレッギルが参加したバングの『Viet Nam / Reflections』はまだ聴いていない。)

ふたりのラップ・ヴォイスにギター、そしてスレッギルのサックスとクレイグ・ハリスのトロンボーン。ここでも、スレッギルの音とラップとの親和性が明らかになっている。逆に、トロンボーンはこのような文脈ではひたすら間抜けに聴こえてしまう。

緊密に組み上げられたスレッギル・サーカス・ミュージックも良いが、このような異物スレッギルも悪くない。もとよりヴォイスとの絡みの素晴らしさは、New Air『Air Show No.1』でのカサンドラ・ウィルソンとの共演(何しろ、かつて夫婦だった)や、ごった煮『Carry the Day』で証明されている。

ジャズの文脈でのラップとの共演は、たしか、ゲイリー・トーマスの試みから話題になったのではないかと記憶しているが、最近では、御大アーチー・シェップもそのような盤を出していた。異種格闘技的な、『Stolen Moments: Red Hot+Cool』というオムニバスもあった。このあたりの拡がりをもう少し探ってみたいところだ。

●参照
ヘンリー・スレッギル(1) 『Makin' A Move』
ヘンリー・スレッギル(2) エアー
ヘンリー・スレッギル(3) デビュー、エイブラムス
ヘンリー・スレッギル(4) チコ・フリーマンと
ヘンリー・スレッギル(5) サーカス音楽の躁と鬱
ヘンリー・スレッギル(6) 純化の行き止まり?
ヘンリー・スレッギル(7) ズォイドの新作と、X-75
アミナ・クローディン・マイヤーズのベッシー・スミス集


最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。