坐・高円寺ドキュメンタリーフェスティバル最終日。沖縄県東村の高江で起きている事実を描いたドキュメンタリー『標的の村 ~国に訴えられた東村・高江の住民たち~』(2012年、琉球朝日放送、三上智恵ディレクター)を観た。
沖縄県北部の貴重な亜熱帯林・やんばるには、米軍のジャングル訓練センターがある。ベトナム戦争を意識した森林地帯でのゲリラ戦を訓練するための場所であり、地域では、サバイバル訓練中の若いグリーンベレーが迷い出てくるとか、腹を空かして食べ物を乞うてくるといった話をよく聞く。
ジャングル訓練センターの一部の面積は沖縄に返還される予定ではあるが、それと引き換えに、新規ヘリパッドの建設準備が強引に進められている。しかも、東村の小さな集落・高江を取り囲むように。このヘリパッドが新型輸送機オスプレイを使った訓練のためのものであることは、前々からわかっていたことだが、日本政府は、それを最近まで認めようとしなかった。
住民無視の計画を止めるには、座り込みしかなかった。しかし、国(沖縄防衛局)は、座り込みのメンバーを、通行妨害の禁止を求めて訴えた。いわゆるSLAPP裁判、つまり、公共の場で権利を主張する者に対する、圧倒的な権力を有する側による恫喝的手法である。地裁では、その仮処分対象をふたりからひとりに絞った。控訴審はまだその途中である。
ドキュメンタリーでは、そのあたりの経緯を示す。強引に工事を進めようとする沖縄防衛局、怒りを抑えながら対峙する住民たち。
オスプレイ搬入強行となり、2012年9月、住民たちは、普天間基地の全ゲートを封鎖する(>> リンク)。そこでは、警官隊による剥き出しの暴力があらわとなった。近代民主主義国家とはとても呼ぶことができない姿であった。
行動と言葉でぶつかりあう住民も、警官も、メディアも、沖縄県民なのだった。米国の楔は、国家間だけではなく、国家の中にも打ちこまれていた。
怖ろしいことに、ジャングル訓練センターでは、かつて、高江の住民たちをベトナム人に化けさせ、ベトコンを想定しての攻撃訓練をしていたのだった。それを知る住民は、ベトナム風に模した家を「ベトナム屋小(ベトナムやーぐゎー)」と呼んでいたよと証言する。また、ベトナム戦争に運ぶ枯葉剤を、ここでも使っていた。住民たちは枯葉剤を浴びていた。当時も今も、攻撃や戦略の対象としてしか視ないアジアの田舎に打ちこんだ楔かもしれない。
オスプレイは普天間基地に搬入され、やんばるにも飛ぶようになった。住民たちは、いまだ高江での抵抗を続けている。
上映後、三上ディレクターが壇上で話をした。高江は、日米両政府が沖縄を欺き続けてきたことの象徴だが、「本土」はもとより、沖縄県内でも人びとの視線に晒されることはないのだ、と。また、原発と同様に、国家権力が弱いところに何をするのか、うかうかしていると誰もが加害者になってしまうということに注意しなければならないのだ、と。
実際に、高江の問題が全国放送で流されたことはほとんどない。わたしの知る限り、それは、2010年に姜尚中が高江を訪れたときの「サンデー・フロントライン」(テレビ朝日、2010/8/15)がはじめてのことで(>> リンク)、それに2年半遡る『NNNドキュメント'08 音の記憶(2) ヤンバルの森と米軍基地』(2008/1/28)(>> リンク)では、正面から扱うことの限界を示すものだった。その後も、全国的な高江報道はほとんどなされていないと思う。
会場で、元NHKの永田浩三さんにお逢いして、これが何故だろうかという話をしたところ、報道する側の自粛や保守化もあるのではないか、と言っておられた。その意味で、琉球朝日放送のなかでも独自のスタンスを取り続けている三上ディレクターの仕事は、素晴らしいものだと思った。
>> 『標的の村』
●参照
○2010年8月、高江
○高江・辺野古訪問記(1) 高江(2007年)
○沖縄・高江へのヘリパッド建設反対!緊急集会
○ヘリパッドいらない東京集会
○今こそ沖縄の基地強化をとめよう!11・28集会(1)
○今こそ沖縄の基地強化をとめよう!11・28集会(2)
○「やんばるの森を守ろう!米軍ヘリパッド建設を止めよう!!」集会
○東村高江のことを考えていよう(2007年7月、枯葉剤報道)
○『米軍は沖縄で枯れ葉剤を使用した!?』
○エンリコ・パレンティ+トーマス・ファツィ『誰も知らない基地のこと』
○高野孟『沖縄に海兵隊はいらない!』
○宮城康博・屋良朝博『普天間を封鎖した4日間』
○10万人沖縄県民大会に呼応する8・5首都圏集会(オスプレイ阻止)
○オスプレイの危険性(2)
○オスプレイの危険性
○6.15沖縄意見広告運動報告集会
○オスプレイの模型