Sightsong

自縄自縛日記

マッツ・グスタフソンのエリントン集

2008-08-30 22:55:50 | アヴァンギャルド・ジャズ

かなりの変人にちがいないサックス奏者、マッツ・グスタフソンの新しいレコードが出ている。『Mats G plays Duke E』(QBICO EPSILON、2008年)というタイトルで、その名前の通りデューク・エリントン集だ。125枚限定生産と極めて少なく、つくりは意図的にか家庭内手工業的。ジャケットは白いボール紙の中心に写真を4隅でとめてあるだけ。タイトルや曲などは中に差し込まれた紙にしか書いていない。レコード盤自体は、片面だけだ。

演奏はグスタフソンのサックスソロと自身のエレクトロニクスによる音響でなされていて、5曲がおさめられている。愉快なので、3回続けて聴いてしまった。

「In A Sentimental Mood」、「Come Sunday」、「Sophisticated Lady」というあまりにも有名なスタンダードは、サックスの擦音と破裂音、息や共鳴によるノイズ、キーをかしゃかしゃと動かす音(油を注そうとは思わないのだろう)、タンポが穴にボフボフと当る音などとともに演奏されている。楽器を鳴らしきるという思想とは異なるが、これもサックスという楽器の特質であり、容易に聴く者の肉体的な感覚と結びつくもので気持ちがいい。そしてそれらの間のよくわからない2曲はノイジーだ。

世にエリントン集は多数あるとおもうが、たとえば「Sophisticated Lady」を演奏しているものでいえば、セロニアス・モンク『Plays Duke Ellington』(Riverside)や、渋谷毅『Essential Ellington』(クラウン)と比べてもそれぞれ全くといっていいほど異なる世界がある。しかし、あの悩ましいようなメロディを聴いていると、エリントンの曲は良いのだという当然の結論にいたる。

グスタフソンの擦音と破裂音を最初に聴いたのは、ベーシスト、バリー・ガイと組んだ『Frogging』(Maya、1997年)だった。歌舞伎町の「ナルシス」で聴かされて一発で気に入ってしまった。解説を読むと、どうもグスタフソンが生まれ育ったスウェーデンで、1992年になにやら実験的なセッションがあり、そこでバリー・ガイが参加して意気投合したようだ。ガイは1947年生まれ、グスタフソンは1964年生まれだから、このとき20代だったグスタフソンが、だいぶ年上で高名のガイを動かしたということなのだろうか。

後日聴いた、ミシャ・メンゲルベルグ(ピアノ)と組んだトリオ作『The Field Recordings 5』(X-OR、1997年)も面白かった(これも500枚限定と少ないものだと、今気がついた)。ソニー・ロリンズの演奏が印象的な「I've Told Every Little Star」を、マッツ流に演奏している。脇腹が痛くなる。

これまでグスタフソンの演奏を見たことがないが、9月には再来日する。都合があえば今度こそ足を運ぼうかとおもっている。


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