レコードプレイヤーのカートリッジも取り替えて、部屋も掃除して、そんな目を見張るようなシステムではないけれども、改めてレコードを聴くのが楽しい。もう随分前、ギャラリーでの音楽イヴェントを主催するKさんのお宅にお邪魔したとき、CDとLPとVHSの山に驚いた。しかし、Kさんが発した言葉は、「名盤はあなたの棚にある」だった。もう自分のストックの中身を覚えていられないのだった。
そんなわけで、浮かれて新しい音源を調達するよりも、自分の棚をじろじろと探検する。大きなスピーカーで聴きたいのは低音でもあるから、ベースが主役のLPを探した。セシル・マクビー、ペーター・コヴァルト、バール・フィリップス、チャーリー・ヘイデン、バリー・ガイなど色々とターンテーブルにのせては悦に入る。
なかでもあたたかいのは、マラカイ・フェイヴァース『ナチュラル&スピリチュアル』(AECO、1977年)。アート・アンサンブル・オブ・シカゴ(AEC)のベーシストとして有名な故フェイヴァースだが、自身のリーダー作は少ない。完全ソロとなると、この1枚ではないだろうか。よくは知らないが、AECOというレーベルはAECの肝いりのようで、このレコードは、ドン・モイエ、ジョセフ・ジャーマンのリーダー作に続いて3枚目。この後にAECの作品がある。時期的には、ECMレーベルへの吹き込みを開始するころだ(円熟期と言っていいのかな)。
最初はバードコールのような笛、そしてマリンバの演奏。続くベースソロは馥郁たる香りが漂うようで、厚みがあって、そして暖かみがある。B面の後半は弓で弾いているが、最後の最後になって、また指でテンポよく弾き始め、唐突に終わる。何度聴いても魅力的で、タイトルは嘘をついていない。
ところで、船戸博史というベーシストは、「ふちがみとふなと」の人というイメージだったのだが、実はマラカイ・フェイヴァースの死後まもなく、『LOW FISH』(Off Note、2004年)というアルバムを出している。まさにその1曲目が「マラカイのひとりごと」というベースソロ演奏であり、彼に捧げたものだろうか。
他の曲では、主に、中尾勘二(サックスなど)、関島岳郎(チューバなど)という「中央線」な音楽家(というのも何だが)と組んでいる。この2人が入ると、篠田昌巳と組んだ「コンポステラ」でも、その後の「ストラーダ」でもそうだが、裏寂れた哀愁があってたまらない雰囲気がある。何でだろう。
> AECのミュージシャン・レーベル
そういったものですか。この場合、個人性が前面に出ていて良いですね。
ところで、CD版では、「Spiritual」の前に「the」がついて、タイトルが『Natural & The Spiritual』となっているのを発見しました。何故だろう。