Sightsong

自縄自縛日記

大島保克+オルケスタ・ボレ『今どぅ別り』 移民、棄民、基地

2010-11-27 16:59:02 | 沖縄

大島保克の作品の中では(全部聴いてはいないが)、賑々しい楽団のオルケスタ・ボレと共演した『今どぅ別り』(Off Note、1997年)が最も好みだ。もとより大島の名前を知らないときに、かつて故・篠田昌已と「コンポステラ」を組んだ中尾勘二のサックスや関島岳郎のチューバを聴きたくて手に取った。

つい数日前、沖縄料理店で酒を呑んでいると、誰かの唄う「移民小唄」が聴こえてきて、この盤のことを思い出した。明らかなテーマは「移民」と、タイトル『今どぅ別り(なまどぅわかり)』にあるように「別離」である。

冒頭、曲ではなく、どこかの座敷で旅立ちの宴を開いているのであろう音、三線も指笛もざわざわと聴こえてくる。琉球民謡にしてこの盤を異色作たらしめていることが分かる、その後のサンバとマーチの2ヴァージョンの「IKAWU」。大島抜きで、中尾勘二の裏淋しいソプラノサックス、関島岳郎のチューバ、大原裕のトロンボーン、船戸博史のベース、芳垣安洋のタイコ。これはすなわち「行かうー」、アルゼンチンに移民として旅立つ唄である。そして大島保克の唄三線による「移民小唄」。その後は、曲によって何人かが大島をバックアップする。

大島保克は民謡だけだと爺むさいというか(1969年生まれなのに)、抹香臭いというか、そのような面があって(嫌いではないが)、このオルケスタ・ボレとの共演はまた試してほしいところ。

ジントーヨーワルツ」は、旅の別離と淋しさを「ジントーヨー」(そうだね)と共鳴させる。作詞は知名定繁、知名定男の父であり、大阪から日本復帰前の沖縄に父子で密航した歴史を持つ。何年も前、知名定男が言っていた話。「密航日和」(笑)だったにも関わらず沖縄の警察に捕まってしまい、取り調べ中に他ならぬ知名定繁だとわかるや、警察は収監しながらも敬意を持って丁寧に父子をもてなしたという。

「移民小唄」や「移民口説」を作詞した普久原朝喜も大阪で苦労した個人史があるようだ。ところで「移民口説」の曲は「黒島口説」と似ているが、口説(くどぅち)独自の形式があるのだろうか。

かつて沖縄から南米や南方への移民も、台湾への租界も、多くは国策としてなされた。そしてそれらの中には、手段としての棄民政策も、植民政策も含まれていた。移民の心を唄った数々には、望郷の思いも、新たな共同体への思いも込められている。

明日は沖縄県知事選。米軍基地という必然性のない幻想に基づかせる国策は、現在の棄民政策に他ならない。革命はなされるか。

●参照
『サルサとチャンプルー』(キューバ移民)
集団自決(ハワイ移民)
大城美佐子『唄ウムイ』(移民小唄)
浦島悦子『名護の選択』(広東省珠海・三竈島移民)
松田良孝『台湾疎開 「琉球難民」の1年11カ月』(台湾疎開)
『世界』の「普天間移設問題の真実」特集(伊波洋一)
『沖縄基地とイラク戦争 米軍ヘリ墜落事故の深層』(伊波洋一・永井浩)
屋良朝博『砂上の同盟 米軍再編が明かすウソ』
○シンポジウム 普天間―いま日本の選択を考える(1)(2)(3)(4)(5)(6
『現代思想』の「日米軍事同盟」特集
久江雅彦『米軍再編』、森本敏『米軍再編と在日米軍』
『けーし風』2009.3 オバマ政権と沖縄/ガザ、『週刊金曜日』2009/4/10 戦争ごっこに巻きこまれるな
渡辺豪『「アメとムチ」の構図』


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