サインホ・ナムチラックがヴォルフガング・プシュニク、パウル・ウルバネクとトリオを組んで、2007年のヴィリニュス・ジャズ・フェスティヴァルで繰り広げたパフォーマンスが、『TERRA』(Leo Records、2010年)となって出ている。サインホはヴォイス、プシュニクはリード楽器(サックス、フルート)、ウルバネクはピアノを演奏する。
ピアニストのウルバネク(Paul Urbanek)の名前を初めて聴くが、どうやらプシュニクと同じオーストリアの出身のようで、ポール・アーバネックではなくドイツ語読みが正しい。
まずは、ずいぶん聴きやすくなったものだという印象を抱く。サインホに初めて触れたのは、ソロ・ヴォイス・パフォーマンス集『Lost Rivers』(FMP、1992年)であったが、怪鳥か妖怪か、凄まじい声の噴出に、拷問を甘んじて受けているような思いを味わいながら聴いたものだった。それに比べると、正統的なプシュニクのフルートやサックス、さらにECM盤かというようなウルバネクの和音の美しいピアノと溶けあって、モダンジャズの境界内に入ってきている感がある。
勿論、サインホのヴォイスの超絶技巧は健在だ。高音から低音までの音域の広さ、語るようなこぶし、喉歌による倍音(サインホはロシアのトゥヴァ共和国出身であるから、喉歌=ホーメイ)。時には、トゥヴァの素朴な民謡そのものにも聴こえる。
これならば、サインホもかつてのようにはキワモノ扱いされないはずだ。久しぶりに来日してほしい。
もうひとつの願いは、大谷石地下採石場跡で撮られたサインホのソロ・パフォーマンス映像をDVD化してほしいということ。六本木の「将軍」というクラブで、音楽評論家・副島輝人氏がサインホのライヴを企画し、あわせて上映したものである。久しぶりに副島氏撮影の貴重な8ミリ映像(>> リンク)も上映される。サインホの映像もぜひ。
●参照
○サインホ・ナムチラックの映像
○TriO+サインホ・ナムチラック『Forgotton Streets of St. Petersburg』
○姜泰煥+サインホ・ナムチラック『Live』
○ネッド・ローゼンバーグ+サインホ・ナムチラック『Amulet』
○テレビ版『クライマーズ・ハイ』(大友良英+サインホ)
○金石出『East Wind』、『Final Say』(プシュニク参加)
○ウィーン・アート・オーケストラ『エリック・サティのミニマリズム』(プシュニク参加)
○亀井岳『チャンドマニ ~モンゴル ホーミーの源流へ~』(喉歌)
○ハカス民族の音楽『チャトハンとハイ』(喉歌)