ロン・マイルス『Circuit Rider』(Enja/Yellow Bird、2013年)を聴く。
Ron Miles (cor)
Bill Frisell (g)
Brian Blade (ds)
ちょっと風変わりなトリオによってどのようなスパークが発せられるのかと思いきや、ここに収められている音楽は、表通りでの格闘などではなく、アメリカン・フォーク・ミュージックだった。チャールス・ミンガスの曲もこの文脈で換骨奪胎されている。
この世界の個人的な記憶は、わたしにとっては、せいぜい、ヴィム・ヴェンダースの映画に出てくる「アメリカ」のような二次的なものに過ぎない。しかし、それでも、強烈なノスタルジアをかき立てられてしまう。ヴェンダースのそれも、もとより二次的な記憶の再現だった。ノスタルジアには、個人の記憶がなんであれたどり着くことができるものかもしれない。
気持ちよさそうにコルネットを吹いているロン・マイルスのことは置いておくとして、この世界の現出に貢献しているのはビル・フリゼールのギターだろう。はじまりも終わりも不明瞭にしてたゆたうような音の時空間を創り上げるスタイルは、ノスタルジアと分かちがたく結びついている。それゆえ、バスター・キートンをモチーフにした作品を吹き込み、また、日本のサイレント映画にライヴで音を付けていくという試みも行ったということもできるのだろう(斎藤寅次郎の『爆弾花嫁』をバックにしたライヴは、しかし、個人的には面白くなかった)。
フリゼールと、その後に登場してきたウォルフガング・ムースピールやベン・モンダーといったギタリストには影響関係がありそうなものだが、だれかうまくそのあたりを論じていないだろうか。