Sightsong

自縄自縛日記

ロル・コクスヒル、2010年2月、ロンドン

2010-05-08 00:39:47 | アヴァンギャルド・ジャズ

ロンドンの夜、ロンドン・インプロヴァイザーズ・オーケストラを聴きに、Cafe OTOに出かけた。地下鉄を降りて電車に乗り継ごうと思ったらなぜか運休。駅員はバスで行けというが、路線バスなんて日本でもどこでも地域住民にしかわからないものだ。飛び乗って不安に思い、隣に立っていた女性に尋ねると、ああOTOか、音楽を聴くんだろう、私も行くところだ、などと言う。近くに住んでいるのかなと思って一緒に降りると、本当にOTOに向う途中だった。小さいライヴハウスOTOの客は30人くらいなのに、路線バスで巡りあうとはもの凄い偶然だ。そのマリアという女性は、友達の彼氏が演奏するので会いに来たのだった。

OTOに入るのははじめてだが、裸電球がぶらさがっている暗い小屋という印象だ(演奏中も本当に暗い)。Tri-Xを3段増感し(ISO 3200)、50mmの開放F2.0でシャッタースピード15分の1。いかにミラーショックのないレンジファインダーとはいえ、8分の1にしたら手ぶれが無視できない。自分にはこれが限界だ。やはり露出不足だった。下の写真でも、背後のカーテンは明るいようだが、実はまったく明るくないのだ。こうなると、ノクチルックスやノクトンといった超大口径レンズが欲しくなる。それでも、この暗い状況でピントを合わせられるのはライカならではだ。これが一眼レフであったなら、AFであってもMFであってもピンボケは避けられない。


コクスヒルを探せ Leica M3、Summicron 50mmF2.0、Tri-X(+3)、フジブロ4号

OTOは怪しくて暗くてとても自由な雰囲気、さっそく好きになってしまう。演奏がはじまるまで、誰が客で誰が演奏者かまるでわからない。演奏者がときどき入れ替わり指揮者となる即興集団だった。

エヴァン・パーカーが来ないかなと期待していたが、それは叶わなかった。しかし、よくみるとサックスを持ったロル・コクスヒルが座っている。時々、脱力するような個性的なサックス・ソロが聴こえて嬉しくなった。ファースト・ステージが終わって話をすると、新宿ナルシスでの演奏(1998年)も覚えていた。当時、大した手ごたえのない演奏だと感じたのだが、それは実は故なきことではなかった。


ロル・コクスヒル(1) Leica M3、Summicron 50mmF2.0、Tri-X(+3)、フジブロ4号


ロル・コクスヒル(2) Leica M3、Summicron 50mmF2.0、Tri-X(+3)、フジブロ4号


『Freedom of the City 2005』(EMANEM)にサインを頂いた

さて、今日、帰宅してから愛聴盤のLP 2枚組『Frog Dance』(Impetus Records、1986年)を改めてじっくり聴いた。映画『Frog Dance』のサントラでは「とりとめがなく、退屈だろうから」という理由で、コクスヒルが考える形でアルバムにした作品である。

サックス・ソロ、猛禽やトドの鳴き声、バグパイプとのデュオ、ピアノとのデュオ、ベース・ヴィオラ・チェロとの共演など冗談のように多様な演奏が、切れ目なく唐突に切り替わる。プールやトンネルの中での共鳴が激しい場所での演奏も、動物園で鳥が鳴き叫ぶところでの演奏もある。美術館であちこちの部屋を行き来しながらの演奏も収録されている。音響的に脳の特定の部位を刺激されるのだ。

ところが、帰宅したばかりで疲れていることもあってか、時折、意識が混濁し、朦朧とした状態で聴いていることに気が付く(眠いとも言う)。ひたすらユルいコクスヒルの音楽にしては緊張感がある音源にも関わらず、である。恐らくこのユルさこそコクスヒルのキャラであって、新宿で1998年に聴いたライブで手ごたえがないと感じたのは当然なのだった。あなたはあなた、私は私。

●参照
コクスヒル/ミントン/アクショテのクリスマス集


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