1976年、「INSPIRATION & POWER vol. II」のプログラムのひとつとして演奏された、翠川敬基の「名状不可能」。その後、この日の記録が、『緑色革命』としてつくられた。翠川を中心に、3人とのソロが行われ、その2つを収録したものであったが、今回、doubt musicから出たCDは、残る1つを追加した2枚組である。この時代に、こんなものを出すという行為はきっと心意気そのものであり、大拍手だ。
翠川のチェロ、ベースと組む3人とは、富樫雅彦のパーカッション、高柳昌行のギター、佐藤允彦のピアノ。
今回追加されたのは富樫とのデュオ「スミナガシ」だ。富樫の音はそれとしか聴こえない独自のもので、<響き>のために要らないものを全て削ぎ落としたような印象がある。演奏は、富樫の鳴らすチャイムベルの音で始まり、終わる。その間の、チェロとパーカッションとの間合いと絡みは緊張感があり、かつ愉快だ。終わったら、また頭から聴きたいという気にさせられてしまう。そういえば、富樫雅彦が亡くなってから2年が経っている。
高柳とのデュオ「くわの木より生まれ出づる姫に」は、微分的であったり、戦闘的であったりと場面展開が素晴らしい。終盤に、まるで溜めていた息を吐き出すかのような、獣の唸りのような局面があり、声をあげて身震いする。柔軟で頑強な両面を感じさせるチェロの押し引きがある。
佐藤とのデュオ「マタロパッチの戦い」では、チェロではなくベースを使う。録音が非常に良く、大きなスピーカーで聴くと、ベースの軋みや誰かの小声が聴こえてくるのは快感だ。何より、砕けるダイアモンドのような煌きとぎらつきを放散する佐藤のピアノが凄い。低音でベースを支えていた(!)かと思うと、突如表にまろび出てくる。そして障壁を取っ払って突き進む時間が訪れる。
いや、どの演奏も本当に凄い。この時代に戻って彼らの活動を目の当りにできたなら、と夢想してしまう。
私自身は、翠川敬基の演奏を聴いたのは、もう10年くらい前が最後だ。いまは大泉学園にあるライヴハウス「in "F"」が保谷にあったころ、故・井上敬三と共演したときだった。坂田明は教え子で・・・と満面の笑みを浮かべて話す好々爺で、「グッドバイ」などを吹く姿には、既に先鋭さはなかった。
井上敬三と翠川敬基、in "F"、1999年頃 Pentax MZ-3、FA28mmF2.8、Provia 400、DP
●参照 富樫雅彦が亡くなった