ジョージ・アダムスの『Nightingale』(somethin'else、1988年)を500円で見つけ、あまりの懐かしさに入手してしまった。とは言っても、自分がこれを聴いたのは発売後数年が経ってからだった。
何でも、アダムスは87年の「マウント・フジ・ジャズ・フェスティヴァル」において大受けしたのだという。そのアダムスが、日本マーケット向けに投入した甘甘のスタンダード集。ちょうどケニー・ドリューが軟弱なジャケットのピアノトリオ集でヒットしていた頃である。レーベルも、ブルーノートの腰砕け兄弟サムシンエルス。色眼鏡をかける条件はすべて整っていた。
しかし、そこから時代がふたまわりし、いまでは余計なことを考えない。そして、これが悪くないのだ。それまで硬派で鳴らしていたアダムスも、この朗々としたブローを聴かせるアダムスも、まったく違わない。「Bridge over Troubled Water」も、「A Nightingale Sang in Berkeley Square」も、「Going Home」も、ゆったり味わいながら聴くことができる。
もっとも、あとで思い出そうとすると、印象が希薄なのではあるが。
George Adams (ts, fl, ss)
Hugh Lawson (p)
Sirone (b)
Victor Lewis (ds)
『Ballads』(Alfa、1979-84年)も、これに負けず劣らず軟弱路線。やはり軟弱全盛の1991年に、ケニー・ドリューをヒットさせていたアルファジャズが発売している。昔の演奏から、バラードだけをピックアップした作品集である。
基本的には似たようなものだ。しかし、やはり硬派仲間のドン・プーレンやキャメロン・ブラウンと組んでいるだけに、ただの甘甘よりは聴きごたえがある。プーレンの掻き乱しピアノは健在だし、ブラウンのぶんぶんと唸る(「Band in a Box」のような)ベースも妙に嬉しい。アダムスの音は太く、中に唾と気持ちが脳髄のように詰まっている。本当は、ハードな演奏の間にあってより光る演奏のはずではあるが、まあよい。
ところで、「Send in the Clowns」がなぜアダムスの作曲となっているのだろう。どう聴いても、サラ・ヴォーンが歌ったあの曲である。
George Adams (ts, fl, vo)
Don Pullen (p)
Cameron Brown (b)
Dannie Richmond (ds)
Don Pate (b)(1曲のみ)
Al Foster (ds)(1曲のみ)
Azzedin Weston (perc)(1曲のみ)
●参照
○ギル・エヴァンス+ローランド・カーク『Live in Dortmund 1976』(アダムス参加)
○ルーツ『Salute to the Saxophone』(プーレン参加)
○デイヴィッド・マレイ『Children』(プーレン参加)