Sightsong

自縄自縛日記

『八ッ場 長すぎる翻弄』

2012-03-03 08:22:13 | 環境・自然

「NNNドキュメント'12」において放送された、『八ッ場 長すぎる翻弄』(2012/2/19)を観る(>> リンク)。

1947年のカスリーン台風を契機に、大規模治水工事の計画が持ち上がり、1952年に八ッ場ダムの計画が公表された。さらに、1960年代の高度経済成長を背景に利水面も付け加えられる。その後、治水・利水面での必要性は消えていっても、多くのダム公共工事と同様に、それは偽装され続けた。

このドキュメンタリーでは、1965年頃の貴重なダム反対運動の映像を紹介している。しかし、計画と事業の停滞が半世紀の長きにわたり、川原湯温泉はさびれてゆき、住民は人生設計を建てられず散り散りになってゆく。住民同士は分断され、いがみ合い、賛成と反対の家族の板挟みになって自殺した青年もいたという。その挙句、民主党政権になってダム建設中止が発表される(2009年)。そのとき、地元住民から反対の声があがったのは、無駄なダムというものへの評価如何ではなく、半世紀もの間、国家権力に人生を振り回され続けたことへの怒りの発露であった。

2011年12月、民主党政権はダム建設続行を表明する。ドキュにおいてうつし出されたのは、地元とは言っても、前田国交相を前に万歳三唱する首長たち、地主たちの姿である。一方、食堂を営む住民は、地主ではなかったため受けられる補償金が少なく、代替地でも新たな生活をはじめることが難しい。それでも、ダムや新たな温泉地ができるのかどうか明確でないまま、思い切って代替地に小さな食堂を作るのだと決意する。権力に翻弄される人たちの姿をとらえたドキュであり、これでこそ、大本営放送のような報道と一線を画するというものだ。

事業が2年半止まっていた間に、なぜかダム完成時期は2019年へと4年再延されてしまった。ダム本体の工事が着工される前だというのに、総事業費4,600億円の半分以上がすでに使われた。もちろん、無駄なダム、環境破壊という評価は変わらない。さらに、吾妻川の水質の悪さという問題もある(強酸性の水を多量の薬剤で中和し、それが貯められる)。地盤が弱いという問題もある。何かの問題が起きたとすれば、それは原発事故と同様に、明らかに人災だといえる。

●参照
八ッ場ダムのオカネ
八ッ場ダムのオカネ(2) 『SPA!』の特集
『けーし風』2008.12 戦争と軍隊を問う/環境破壊とたたかう人びと、読者の集い(奥間ダム)
川で遊ぶ、川を守る~日本と韓国の水辺環境(川辺川ダム、韓国四大河川改修)
ダムの映像(1) 佐久間ダム、宮ヶ瀬ダム
ダムの映像(2) 黒部ダム
天野礼子『ダムと日本』とダム萌え写真集
ジュゴンのレッドデータブック入り、「首都圏の水があぶない」
小田ひで次『ミヨリの森』3部作(ダム建設への反対)
『ミヨリの森』、絶滅危惧種、それから絶滅しない類の人間(ダム建設への反対)

●NNNドキュメント
『鉄条網とアメとムチ』(2011年)、『基地の町に生きて』(2008年)
『風の民、練塀の町』(2010年)
『沖縄・43年目のクラス会』(2010年)
『シリーズ・戦争の記憶(1) 証言 集団自決 語り継ぐ沖縄戦』(2008年)
『音の記憶(2) ヤンバルの森と米軍基地』(2008年)
『ひめゆり戦史・いま問う、国家と教育』(1979年)、『空白の戦史・沖縄住民虐殺35年』(1980年)
『毒ガスは去ったが』(1971年)、『広場の戦争展・ある「在日沖縄人」の痛恨行脚』(1979年)
『沖縄の十八歳』(1966年)、『一幕一場・沖縄人類館』(1978年)、『戦世の六月・「沖縄の十八歳」は今』(1983年)


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