Sightsong

自縄自縛日記

纐纈あや『祝の島』

2012-06-17 09:56:56 | 中国・四国

ようやく、中古DVDを入手し、纐纈あや『祝の島』(2010年)を観る。昨年訪れた祝島の小さな売店にも置いてあったが、鞄が一杯だったので買わなかったのだ。

山口県上関町、祝島。対岸の長島には、新たな原子力発電所の計画があり、既に土木工事がはじまっている。長島の集落からは見えない、祝島に向かい合っているところだ。

島民の方々は、1982年の計画公表以来、ずっと反対を続け、漁協でも補償金の受け取りを拒否し続けている。その間には、賛成・反対で地域社会にヒビが入り、人間関係が壊されてきたともいう。それでも、毎週1回、大勢で原発反対と叫びながら、島をねり歩くことをひたすら続けている。オカネにも屈せず、一度は原発のために中断した祭まで復活させ、地域の生活を守っている。これは大変なことである。

映画では、上関町役場での諍い、漁船での直接反対行動、島内の週1回の反対行進が示される。しかし、それ以外には、ことさらに大きな事件を示すこともなく、拍子抜けしてしまうほどゆっくりと、島の生活が紹介される。お年寄りたちの山口のことばは、場所は違うが、わたしのことばでもある(字幕はわたしには要らない)。にこにこと笑いながら四方山話をしたり、カメラに向かって話しかけたりする様子を視ていると、何だか心の奥をさすられているようで、切なくなってくる。

上関町議の清水敏保さんが登場する。昨夏、わたしたちを案内してくださった方である。映画の中では、町議会で激しく原発推進派の町議に喰ってかかり、また一方では、島の集まりで古い歌を唄ったり、船のペンキ塗りを手伝ったりと、いろいろな表情を視ることができる。愉快な人なんだな、もっとお話すればよかったな。

名物の「練塀」が多く残る集落の他にも、昨夏足を運ぶことはできなかったが、何十年もかけてつくられた立派な棚田や、島の反対側にはウニやひじきが採れる磯がある。また行きたくなってくる。

都市住民の勝手なロマンチシズムではあるが、原発建設を退け、島の生活文化と海とを守ってほしい。今後の大きな分岐点は、7月29日投票の山口県知事選であろう。長期に渡る平井知事、現在の二井知事という保守王国ではあるが、亀裂は入るだろうか。亀裂が入ったとして、それは別の奇妙な道につながらないだろうか。(いまは勘繰っているだけなので何とも言えない。)

そういえば、昨夏、生れたばかりで側溝に放置されていた猫を、同行した方が牛乳なんかを与えて救出し、「祝」(ほうり)と名付けて杉並まで連れ帰っていた。先日気になって訊ねたら、元気に育っているということだった。


集落と海と長島のブルーシート(2011年) Pentax MZ-S、FA 77mmF1.8、Velvia 100F、DP

●参照
○長島と祝島 >>
リンク
○長島と祝島(2) 練塀の島、祝島 >> リンク
○長島と祝島(3) 祝島の高台から原発予定地を視る >> リンク
○長島と祝島(4) 長島の山道を歩く >> リンク
○既視感のある暴力 山口県、上関町 >> リンク
○眼を向けると待ち構えている写真集 『中電さん、さようなら―山口県祝島 原発とたたかう島人の記録』 >> リンク
○『これでいいのか福島原発事故報道』 >> リンク (上関の原発反対運動について紹介した)
○1996年の祝島の神舞 『いつか 心ひとつに』 >>
リンク
○内田康夫『赤い雲伝説殺人事件』 寿島=祝島、大網町=上関町 >> リンク


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2 コメント

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Unknown (永田浩三)
2012-06-17 21:39:40
「祝の島」は、とてもチャーミングな映画で、大好きです。出てくるひとたちの生きている時間が、素晴らしいです。こたつでごろごろする時間、石垣を守る時間、島を行進する時間、それらは本物の時間です。未来に禍根を残す、今だけ良ければいいというのは、偽物の時間だと思います。纐纈監督の第1作ですが、今ロケ中の「屠場」のドキュメンタリーも楽しみです。
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Unknown (Sightsong)
2012-06-17 23:41:00
永田浩三さん
石垣をつくった祖父の詩を、石に蚤でじっくりと彫り続けるシーンなどは、まさに本物の時間ですね。その石垣も、何十年もかけて人力で作られた。自分は何をしているのだろう、と思わせられます。
纐纈あや監督の次回作があるのですね。『屠場』ということは、本橋成一さんとの関連でしょうか。
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