Sightsong

自縄自縛日記

ヘンリー・スレッギル(3) デビュー、エイブラムス

2007-01-21 16:16:26 | アヴァンギャルド・ジャズ
ヘンリー・スレッギルは大学時代、級友のジョゼフ・ジャーマン、マラカイ・フェイヴァース、ロスコー・ミッチェルとバンドを組んでおり、またゴスペル歌手のジョジョ・モリスや軍隊のロック・バンドなどと演奏旅行し、シカゴのブルーズ・クラブでハウスバンドに落ち着いていた。

1962~63年、リチャード・エイブラムスの「エクスペリメンタル・バンド」(1961~)に加入、ジャズに全面的に身を投じることになる。エイブラムスは、このバンドを手段として、「精神拡大」による現実の破壊、美の発展、自分自身の支配者たること、スピリチュアルな平面への到達を目指していた(清水俊彦『ジャズ・アヴァンギャルド』)。

●エクスペリメンタル・バンド初期のメンバー(1963年頃)
フレッド・ベリー(tp)、レスター・ラシュレー(tb)、モーリス・マッキンタイアー、ギーン・ディンウィディ、ヘンリー・スレッギル(ts)、ロスコー・ミッチェル、ジョゼフ・ジャーマン(as)、ドナルド・ギャレット、チャールズ・クラーク(b)、ジャック・デジョネット、スティーヴ・マッコール(ds)

※こののちにマッコール、デジョネットはNYCに進出し、後者は65年7月、チャールズ・ロイドのグループに加入する。(「ジャズ批評」27、1977)

1965年、エイブラムス達によって、このバンドを母胎としたAACM(創造的音楽家の前進のための協会)が設立される。エイブラムスとの繋がりはあったが、スレッギルとAACMとの初めての直接的な接点は、アンソニー・ブラクストンがスレッギル作曲のサックス・ソロ曲をコンサートで演奏したことであった(ジョン・リトワイラーによるエイブラムス『Young At Heart/Wise In Time』解説)。

そしてスレッギルのデビュー吹き込みは、1969年、リチャード・エイブラムス(Muhal Richard Abrams)の2作目『Young At Heart/Wise In Time』(Delmark)である。タイトルの「Young At Heart」がエイブラムスのソロピアノ、「Wise In Time」がレオ・スミス(tp, flh, etc.)、ヘンリー・スレッギル(as)、レスター・ラシュレー(b)、サーマン・バーカー(perc)を加えた演奏である。エイブラムスは、このときから、首長という意味の「ムハール」を名のるようになった。スレッギルの演奏自体は、緊張していたのか、まだ独自の個性を出すに至っていない。

この後に「エアー」の結成がなされるわけである。
何作も発表した後の1977年、スレッギルは、エイブラムスのリーダー作に再び参加する。このときには、一発でそれとわかるソロが聴かれる。『1-OQA+19』(BlackSaint)である。

メンバーはムハール・リチャード・エイブラムス(p, voice, syn)、アンソニー・ブラクストン(as, ss, fl, cl, voice)【左チャンネル】、レナード・ジョーンズ(b, voice)、スティーヴ・マッコール(ds, perc, voice)、ヘンリー・スレッギル(as, ts, fl, voice)【右チャンネル】という、相当ユニークなものである。特に、スレッギルとAACMとの接点となった巨魁ブラクストンと左右でフロントを張っているところが凄い。とはいえ、両者のインタラクションは少ない。

1曲目「Charlie in the Parker」(変なタイトル!)と、最終曲「Ritob」での、スレッギルのソロは、エイブラムスと有機的に絡み合い、アナーキーで、かつ、構成主義的である。比較すると、ブラクストンは微分的・構成主義的に過ぎて(彼の持ち味だと思うが)、同類エイブラムスとの組み合わせで一段上に昇華してはいないと感じる。エネルギッシュで知的なこの作品は、何度聴いても飽きないものだと思う。



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