マーク・トウェイン『トム・ソーヤーの冒険』(新潮文庫、原著1876年)を読む。名翻訳家・柴田元幸による2012年の新訳である。
もちろん少年時代にジュブナイル版を読んだし、映画などで、漆喰の塀塗り、家出と悪党の発見といった有名なエピソードに何度も触れてもいる。(そういえば、父親が8ミリか16ミリの映画フィルムと映写機をどこかから借りてきて、自宅で上映会をやったことがあった。弟の顔にケーキをぶつけるラストシーンだった。)
それでも、あらためてオトナになって読んでみると、描写が実に味わい深い上に、幼少期の記憶をほじくり返されるような感覚を覚える。少年時代が甘美な記憶に彩られているというわけではない。むしろ逆で、思い出すと情けなくて叫びたいほど恥ずかしいことばかり。それゆえ、トムに感情移入しながらも、いたたまれない気持ちになるわけである。
トウェインがこの小説を執筆したのは南北戦争の後だが、かれは、戦争前を思い出しながら書いたのだという。黒人差別もある。アメリカの田舎(ミズーリ州)は、こんな雰囲気だったのかという楽しさもある。
些細なことだが、口琴(ジューズハープ)が、当時からあったのだということが発見だった。いまと同じ形だったのかな。
●参照
酔い醒ましには口琴