Sightsong

自縄自縛日記

新崎盛暉氏の講演

2007-08-18 09:53:58 | 沖縄
沖縄・一坪反戦地主会関東ブロックの方に誘われて、新崎盛暉氏の講演「沖縄から見る安部政権の歴史的性格 ― 辺野古への海上自衛隊出動の背景を探る」を聴いてきた(2007/8/17、中野区立商工会館)。参加者はいつの間にか増えて40人くらい。新崎氏の説明は、これまでの著作(最近の『基地の島・沖縄からの問い―日米同盟の現在とこれから』感想)と同様に、とても明解で納得できるものだった。

配布されたレジュメには、最近半年間の出来事として、①教科書検定における「集団自決」書き換え指示(3月)、②辺野古への海上自衛隊出動および米軍再編特措法成立(5月)、③米国下院での「慰安婦決議」採択(6月)、④参院選で自民党惨敗(7月)、が挙げられている。これらの一連の出来事が、「イデオロギー的には極右に純化したが極めて危うくもろい」安部政権の意図を反映したものだという説明がなされた。

参院選の結果を受けて首相退陣論が云々されているが、その背後では淡々と米軍再編特措法の施行令が閣議決定されている(2007/8/15→毎日新聞記事)。つまり、選挙とは関係なく、政権の政策はあくまで続いているということだ。メディアに頻繁に登場するのは靖国参拝問題、防衛省内のイニシアチブ、首相のテレビ目線問題(笑)といったところだが・・・。

新崎氏の指摘は以下のようなもの。

○82年の教科書検定時よりも今回の指示のほうが政府による姿勢が強い。
○82年には、日本軍による沖縄住民虐殺部分の削除、他国への「侵略」を「進出」に書き換える、などの指示がなされた。沖縄で問題視されたのは前者だが、ヤマトゥやアジア諸国で報道され抗議の声があがったのはむしろ後者だった。その結果、教科書検定の基準に「隣国条項」が盛り込まれた。しかし、これは歴史への認識についてではなく、感情に配慮するという本質的でない考えであった。同様に、沖縄県民の感情に配慮、とする意見も、歴史のことはともかく気持ちはわかる、ということであるから限界がある。
○「国民保護法」では武力攻撃にあったときに国民をどう保護するのか、自治体に計画策定を求めている。都道府県は全て策定したが、期限を過ぎても作っていない市町村が70以上ある。そのうち沖縄県内が27であり、これは沖縄県の市町村数の過半数にのぼる。有事の際に、「住民を守るどころか死に追いやる軍隊」という沖縄の歴史が、それに影響している。
○防衛庁から防衛省への昇格、それにともなう海外活動が本来任務に組み込まれたこと、さらには自衛から米国の海外での戦争への協力、という動きのなかで、日本軍に対する歴史上のマイナスイメージを背負うわけにはいかないという考えがあるのだろう。
○沖縄戦における軍の住民虐殺の前に、イメージ払拭の標的とされたのが「慰安婦」問題だった。しかし、米国下院での圧倒的多数での決議(日本政府が歴史的責任を認め謝罪すべし)は、現政権の挑発が自ら招いたものだ。具体的には93年宮沢政権時の「河野談話」(慰安婦問題への官憲の関与を認めた上での「お詫びと反省」)を撤回しようとする動き、そして「強制性」には「広義」と「狭義」があり、慰安婦問題は「狭義」にあたらないとする首相の発言、さらにはその後の訪米時の取り繕い、といったところ。
○米国下院での「慰安婦決議」に対しては、日本のメディアでは、「米国にも現政権がやられた」(と喜ぶ)、「日米同盟に亀裂が入ってしまう」、「米国だって原爆や住民の無差別虐殺などをしたではないか、とする反発」が見られた。また、決議案を提出したマイク・ホンダ議員に対する誹謗中傷が多くなされた。しかし、実際には、ホンダ議員は敵性外国人として収容された経験もある日系人であり、また、リベラルな中国や韓国のアジア系米国人の考えが決議として実ったものだ。
○確かに米国は米国自身の責任を問うていくべきだ。しかし、これを、同盟や政治や国籍を超えて、平和に対する民衆の連帯に向けた契機と捉えるべきではないかそしてこの民衆の連帯をとりこんでいくことが、私たちに必要なことではないか
○戦争体験を持つ人々が次第に少なくなってきている。一方、世代を超えて歴史的体験を共有する可能性は、社会的体験や後天的な学習を通じて存在する。『ヒロシマナガサキ』(日系のスティーブン・オカザキ監督→感想)は極めて練度の高い作品であるし、『ガイサンシーとその姉妹たち』(日本に留学したことがある班忠義監督)の影響力は大きい。二人とも戦後生まれだ。そのような世代の感性を取り込む工夫が必要とされている。
○辺野古への「ぶんご」派遣に関しては、政府には「住民に銃口を向けた」つもりすらないのではないか。これまで中曽根政権などがやりきれなかったことを、軽々と、軽薄にやっていることが極めてあやうい。
○参院選の結果、与党から第一野党に票がシフトしただけであり、無党派もそこに吸収されている。そして第一野党の民主党にも前原前代表のような自民党に近い議員もおり、決して選挙結果が政策の選択によるものではないことに留意する必要がある。
山内徳信氏が、比例区で個人名記載の票を多数獲得したことは大きな評価にあたいする。糸数けいこ氏とあわせて2人の、沖縄問題に取り組んでもらえる議員の役割を考えるのは、私たちの仕事である。

今回、私としては、米国下院の「慰安婦決議案」を、個人が垣根をこえて平和を希求するうえでの連帯のきっかけになるものだ、とする見方に、大きく心を動かされた。

最後に、沖縄・一坪反戦地主会関東ブロックから、辺野古基地建設のための「えせアセス方法書」が縦覧されていること、それに対して那覇防衛施設局や防衛省に意見を送るべきとの働きかけがあった。私も何らかの考えを送るつもりでいる。


次回の勉強会は9月28日、前田哲男氏


講演する新崎氏


辺野古の海でとれたもずくを買った

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2 コメント

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Unknown (どじょうのとうさん )
2007-08-31 00:42:36
ずいぶん、ていねいに聞いてきたものですね。
私も米国での慰安婦決議の意味については、意外な見解だと思いました。日米対立とかいう国家レベルのことではなく、民衆レベルでの日米連帯の契機になりうるものだ、というのです。
 てっきり日米関係の政治的「解明」があるのかと思っていたのですが、もっと繊細な話でした。参加者は(配布資料の残部から数えたら)52人でしたよ。
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Unknown (Sightsong)
2007-08-31 01:01:38
どじょうのとうさん さん
主催に関わっておられたのですね。ざっと数えた人数でしたがもっといたのですね。
慰安婦決議の見解、最近のオピニオン誌等での意見でも両極化しているように見えます。
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