冬はフィンランドの楽しい映画を アキ・カウリスマキ『レニングラード・カウボーイズ・ゴー・アメリカ』

2016年12月18日 | 映画
 『レニングラード・カウボーイズ・ゴー・アメリカ』を観る。

 ハリウッドのスタームービーや金のかかったアクションも楽しいが、たまにヨーッロパの地味ーな映画が心地よいときがある。

 スペインのブラックコメディ『みんなのしあわせ』や、ドイツのむさくるしい男2人ロードムービー『ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア』、ハンガリーの老人反逆映画『人生に乾杯!』に、デンマーク版『シベールの日曜日』っぽい『エマ』などなど、おススメ作品は枚挙にいとまがない。

 そんな数ある名作から、今回はフィンランド代表をご紹介。

 『浮雲』『マッチ工場の女』でその名を知らしめたアキ・カウリスマキ監督の『レニングラード・カウボーイズ・ゴー・アメリカ』である。

 カウリスマキといえば定跡通り『浮雲』から入って、一時期ハマって観たものだが、作品的にもっともラブリーでお気に入りなのが、この『レニングラード・カウボーイズ・ゴーズ・アメリカ』。

 ストーリーはといえば、これはたいしたものは、ないといえばない。

 ロシアのシベリアでほそぼそと暮らす田舎のアンちゃんたちが、

 「バンドやろうノフ! 音楽の力でもって、アメリカで一旗揚げてやるスキー!」

 と故郷をはなれ、あちこちで演奏しながら旅をするというロードムービー。

 まあ、それだけといえば、それだけ。

 なのだが、このレニングラード・カウボーイズの面々が、なんとも愛らしくて楽しい。

 バンド映画というのは、たいてい出てくる連中は楽しくて気が良くてバカと相場が決まっているが、このおろしや国のカウボーイたちは、これまた飛びぬけてイカれている。

 10人編成くらいのバンドだが、見た目はサングラスに黒スーツ。頭は今時、昭和のヤンキーマンガでしか見ないような、それで釘でも打てそうなキンキンのリーゼント。

 いわば、『ブルース・ブラザーズ』に横浜銀蠅を足して、演奏するのが吉幾三、みたいなもの。

 映画というのは「つかみ」が大事だが、もう見た目のインパクトは100点満点で500点。「一回転してカッコいい」といえなくもない、超絶キャラ立ちバンドなのだ。

 地方どころか、シベリアという「世界レベルのド田舎」から出てきた世間知らずの音楽野郎。

 最初は故郷を思いながらロシア民謡を演奏していたのが、やがて少しずつ他の音の影響を受け、ついにははロックンロールなんて弾いちゃうんだから、もう愉快すぎる大人のおとぎ話。

 そのとぼけた味がなんとも幸せな映画なのだ。

 アキ・カウリスマキの映画といえば、その魅力の一つにふわっとした独特のユーモアがある。

 『浮雲』はリストラ、『コンタクト・キラー』は自殺願望が物語のきっかけになっているのだが、両作品ともそれに付随するイメージのような深刻さはあまり感じられない。

 といってもそれは、クストリツァのような、困難をあえてバカ騒ぎで表現しようとする不屈の笑いではなく、また太宰治的な自虐でもない。

 もっとこう、ある種の確信というか、苦しい流れでも不思議に殺伐としない楽天性というか、どこかに確固とした、

 「人間に対する信頼感」

 というものがあるではと思わされる。だから、どんなどん底状況でも見ていて安心感がある。

 そういったカウリスマキの明るい部分が一番開けっぴろげに出ているのが、この『レニングラード・カウボーイズ』。

 田舎バンドが楽器背たろうて車でアメリカを縦断し、どかちゃか好き勝手演奏し、ときおりバカな失敗をしながらメキシコを目指す。なんて能天気でお気楽な映画!

 ラストに待っているオチのゆるやかなバカバカしさと相まって、まったくラブリーで楽しい音楽ロードムービー。

 ほんわかとハッピーな気分になるには、これ以上オススメの映画もない。

 私は未見だが、『レニングラード・カウボーイズ、モーゼに会う』という続編もあるらしい。

 次また作るなら、今度はぜひ日本にきてブレイクしてほしいものだ。やはり、初音ミクとコラボとかになるのだろうか。

 で、アニメソングで一発だけ当てて、洋物バンドでよくある、

 「現地ではまったく無名なのに、日本でだけ人気のあるアーティスト」
 
 になって帰国するの。





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