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著書『芸術家たちの生涯』
『ほんとうのこと』
『ねむりの町』ほか

1月27日・マゾッホの夢

2024-01-27 | 映画
1月27日は、「至上の音楽家」アマデウス・モーツァルトが生まれた日(1756年)だが、作家ザッヘル・マゾッホの誕生日でもある。「マゾヒズム」の由来の作家である。

ザッヘル・マゾッホ。または、レーオポルト・フォン・ザッハー=マゾッホは、1836年、オーストリア帝国の伯爵家の貴族として、現在のウクライナのリヴィフで生まれた。
少年時代から、親戚の伯母さんの伯爵夫人を尊敬し、そのスリッパにキスし、ビンタされては感激していたというマゾッホは、法律、数学、そして歴史学に秀才ぶりを発揮して、20歳で大学の歴史学の講師となった。
オーストリア史の論文を書くうち、やがて創作のほうに熱中しだし、ユダヤ、ポーランド、ドイツ、ガリシアなど、作品ごとに民族色を強く打ち出した短編を多く発表し、文筆家となり、文名はしだいに高まっていった。
私生活では、愛人の女性と、女性を主人とし、マゾッホ自身は女主人に絶対服従する契約書を交わして生活した。その愛人への隷従生活を下敷きにして、33歳のときに小説『毛皮を着たヴィーナス』を発表。彼の文学的評価はいよいよ高まった。
この小説を発表した後、彼は愛人の男爵夫人を小説の女主人公と同じ「ワンダ」という名前で呼び、自分のことを典型的な召使の名である「グレガー」と呼ばせ、女主人と下僕の関係でいるという6カ月間の契約を結んだ。彼は愛人がなるたけ毛皮を着ているように依頼し、汽車に乗るときも、愛人は一等、自分は三等の車両に乗ったという。
37歳のとき、マゾッホは結婚した。彼はいやがる妻に強要して、小説のような主従関係の結婚生活を送ろうとしたが、どうも刺激が感じられないと結局離婚し、秘書と再婚した。
その後、マゾッホは、ユダヤとザクセンの人種の宥和や、女性の教育や参政権をテーマとする雑誌を編集し、再婚した妻とともに、反ユダヤ主義に対抗する成人教育の組織を運営した。晩年は精神障害のケアを受け、1895年3月、ドイツのリンドハイムで没した。

マゾッホは自分の美的理想を作品のなかで完成させ、そして現実のなかでも実現しようとした、本能的であるとともに、高度に理知的な人だった。自分の美的理想の集大成として彼は「カインの遺産」という連作小説を構想していたらしいが、それはついに完成できなかった。
マゾッホは、貴族でありながら、同時に自分で創作をする職人、芸術家でもあり、ペンで訴える社会運動家でもあって、多くの顔をもつ、行動する人だった。「マゾ」の側面ばかりが強調されるけれど、けっしてそれだけの人ではなかった。

サドとマゾが対極にあるとは考えないけれど、強いて比較するなら、サドのほうがより本能的、原始的で、マゾのほうがより理知的で、頽廃的である。
どちらかというとマゾのほうがしっくりくる。でも、心のうちには、サドの部分を含め、もっといろいろな側面がある。人間は、複雑な生き物である。
(2024年1月27日)



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