夜明けの曳航

銀行総合職一期生、外交官配偶者等を経て大学の法学教員(ニューヨーク州弁護士でもある)に。古都の暮らしをエンジョイ中。

きことわ・苦役列車

2011年03月09日 | 読書
きことわ

7歳年の離れた幼なじみの永遠子と貴子、永遠子は貴子の母が弟と貴子と夏の間しばしば滞在した葉山の別荘の管理人の娘であり、貴子の遊び相手として毎夏親しく過ごしたが、心臓疾患をもつ貴子の母が急死して以来、別荘に行くこともなくなり、25年間会っていなかった。その別荘が手放されることになり、骨折した母に代わって,40歳になった永遠子が貴子と打ち合わせもかねて25年ぶりに再会する話。

時間と空間が自在に移動し、二人の女性それぞれの人生が描かれるが、文体がゆったりとした独特なリズムをもっている。

「ひとびと」とか、「うごかす」「こわす」というように、意識してひらがなが多用されている。「可笑しい」「揺らぐ」は漢字なのでかなり独特で、それはそれで作家のこだわりなのだろうが、「むつかせる」という明らかなら抜き言葉の文法ミスは作家としてどうかと思った。

純文学の雰囲気はもっているが、中身についてはとくに感心することはなかった。

和雄の姉に対する兄弟愛を超えた思いをもう少し描けば(抑制を効かせたつもりかもしれないが、食い足りない)違っていたかもしれない。


苦役列車

ひたすら自堕落な生活を描いた私小説。

悪を気取って実は小心者であり、また、家賃を踏み倒すとか、友達に借りた金を返さないとか、家族にたかるとか、スケールの小さい悪で、ただの迷惑な生活破綻者の暮らしぶりを描かれても少しも共感するところはない。

悪というなら、世の中の仕組に異議申立するくらいの気概でやれよ。


それでいて、プライドだけは異常に高いというのも反感しか覚えない。

そうした人間としての欠点も、それゆえにすばらしい芸術作品を生み出しているなら納得できるが、小説の出来もそれほどでもない、とすると、読んでいて不快になるだけである。


芥川賞受賞作品は最近全部読んでいるけれど、これはという作品はない。

すごいと感心する作品は『アサッテの人』以降、ないのが残念だ。




きことわ
朝吹 真理子
新潮社



苦役列車
西村 賢太
新潮社

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