ぼくは行かない どこへも
ボヘミアンのようには…
気仙沼在住の千田基嗣の詩とエッセイ、読書の記録を随時掲載します。

内田樹 岡田斗司夫フリックス「評価と贈与の経済学」 徳間ポケット

2013-07-16 15:03:50 | エッセイ
 内田樹は、勝手に「我が師」のひとりと崇めさせていただいている。フランス現代思想の専門家にして、武道家。
 岡田斗司夫は、1958年生まれの社会評論家と奥付にあるが、所謂「おたく」系の評論家なのだろうか?私は詳らかにしないが。フリックス(FREEex)というのは、岡田氏が主宰する特殊な会社組織のようだ。
 表題は、固い学術書のようでもあるが、読みやすい気軽な対談本である。しかし、語られている内容は深い。
 この対談において、評価の経済学というのは、岡田氏が唱えることであり、贈与の経済学は、内田師の唱えることだ。(内田師は、内田先生の意、念のため。)
 この本で、内田師の語っていることは、すべて他の本で何度も読んでいることだが、だからこそ、この本では、分かりやすくまとまっていると言える。
 あとがきから引けば、「この対談が、ポスト・グローバル社会における『新しい共同体』のありかたと、そこにおける財貨・サービス・知識・情報の『新しい交易』のかたちをめぐって展開しているからです。」(245ページ あとがき)
 これは、まさしく、いまのわたしの問題意識そのものである。「共同体」のありかた、「経済」のかたち、そのふたつの言葉に問題は集約される。いまのわれわれが生きる世界に、様々な困った問題がある。その問題は、どこで生じているか、その問題をどう解決するか。「共同体」に問題が生じており、「経済」に問題が生じている。では、「共同体」をどうするか、「経済」をどうするか。
 現在の世の論者が語る言説は、すべてこのふたつの言葉に集約されるといって過言でない。
 そこで、「贈与の経済学」であり、「評価の経済学」である。
 「人のお世話をするというのは、かつて自分が贈与された贈り物を時間差をもってお返しすることなんですから。」(148ページ)
 「あっちからパスが来たから、次の人にパスする、そうするとまた次のパスが来る。そういうふうに流れているんですよ。パスを出さないで持っていると、次のパスが来ない。来たらすぐにワンタッチでパスを出すようなプレイヤーのところに選択的にパスが集まる。そういうものなんですよ。…経時変化を動画で流して見れば、『資源をもっている人』がパスの流れの中にいて、すごい勢いでパスを流していて、『資源をもたない人』は最初に来たパスをそのまま抱き込んで、それを次の人に出さないので、そこで流れが切れてしまっていることが一望できるはずなんです。…貨幣も情報も評価も、動いているところに集まってくる」(149ページ)
 自由主義経済的な、功利的で、吝嗇な、自己中心的な振る舞いではなく、むしろ、お人好しな利他的な振る舞いこそが、本来の「経済」を動かしている。ひとに惜しみなく与えること。
 「贈与経済から貨幣を媒介にした市場経済に移ったことで経済活動がしだいにその本道から逸脱してきたわけですから、もういちど贈与経済の背骨を通すということは、経済システムの再生のためには有効ですね。/岡田さんだけじゃなくて、中沢新一さんの農業コミュニティについてのアイディアもそうだし、平川克美くんの「小商い」のアイディアもそうだし。贈与をベースにした共同体のアイディアを語る人がさまざまな領域で同時多発的に出てきているということは、たぶん地殻変動的な社会的変化が起きている証拠だと思いますね。あらゆるものに値札を張り付けて。どれだけコストを下げて、利益を上げるだけを問題にする市場経済のパラダイムそのものが崩れはじめている。でも、その動きを加速しているのがインターネットであるというのが皮肉と言えば皮肉ですね。」(170ページ)
 わたし自身は、この内田樹師の見通しに、完全に同意するものであり、そうあって欲しいと願うものだが、もう一方で、東浩紀氏に代表される言説というのがある。おおざっぱに言ってしまえば、東氏は、この自由主義経済体制と、ばらばらになってしまって修復不可能な共同体を前提とし、そこで何をするかを、深く考えているのだろうと思う。
 わたし自身も、経済体制の変革は可能なのか、共同体の修復は可能なのか、と、この問いを簡単に脱することはできないでいる。自ら、直接に生命をつなぐものの生産には関われず、毎月貨幣の給付(さらには貨幣の電磁記録の変更というべきか)によって、商品を購買することによって生命をつないでいる身である。
 余計なことをひとこと付け加えれば、私は生存のレベルでの贈与者ではないが、広く生活のレベルにおいては、それなりの贈与者として存在しえていると考えているし、そうあり続けたいと願っているものである。

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