箕面の森の小さなできごと&四季の風景 *みのおハイキングガイド 

明治の森・箕面国定公園の散策日誌から
みのおの山々を歩き始めて三千余回、季節の小さな風景を綴ってます 頑爺<肇&K>

瀧上から雲隣の森、こもれびの森へ

2016-02-25 | 箕面・冬のハイキングガイド

 

16-2-24  

 

 

今日は箕面大瀧の上から雲隣の森、こもれびの森へ

向かいます。

 

 

瀧道から風呂ヶ谷を上り、府道(ドライブウエイ)に出ると

西側を見ながら瀧の上へ

          

 

 (府道から大阪湾を遠望)

 

 

 滝上から見る今日の箕面大瀧

 

 

 

 

 

 

 

 

 

野猿管理事務所前から雲隣の森へ

         

        

 

  

             

 

 

              

 

 

 

雲隣展望所で一休み

        

 

     

 

 

(日本一のアベノハルカスはどこからでもよく見える)

 

              

 

 

才ヶ原林道からこもれびの森へ

            

            

 

 

 

 

こもれび展望所から見る 長谷山、ダム湖、トンネル

     

           

 

 

 

 

帰路はスギ林の風呂ヶ谷を下り、瀧道から箕面駅前へ

         

            

 

 

 

 

              

          

 

 

 

 

今日はお天気ながら、朝方の森は2℃、昼間でも4℃と寒く

冷たい風が吹くたびに身をすくめる。

もう少し寒い日が続きそうです。

 

 

 

 

 

 


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早春の山里から六箇山へ

2016-02-23 | 箕面・冬のハイキングガイド

 

‘16-2-21  

 

 

今日は早春の暖かい陽射しを浴びながら 新稲山里から六箇山へ

 

 

箕面ウエストの新稲の山里を散策

   

 

 

            

 

 

            

    

 

 

        

 

 

                

 

    

 

                

 

 

 

 

山麓のスカイアリーナで一休み

            

 

   

 

 

         

 

 

大阪青山大学東の新稲古墳へ

         

 

 

            

 

   

 

 

教学の森に入り、西尾根道を上る

             

            

 

 

           

 

 

海の見える丘から 

         

 

 

六箇山頂へ

         

 

   

 

           

 

  

 (西の大阪国際空港から大阪湾は春霞がかかる)

 

 

 

暖かいと思ったら急に冷たい風が吹き、思わず体を縮める・・・

寒暖の差が大きく戸惑う季節だ。

 

 


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<トンネルを抜けると白い雪> (1)

2016-02-16 | *みのおの森の小さな物語(創作短編)

 

みのおの森の小さな物語 

               (創作ものがたり  NO-15作 (1)~(7))

 

 

 

  トンネルを抜けると白い雪  (1)

 

 

 

 「 トンネルを抜けるとそこは雪国だった・・・ か 」   

太田垣 祐樹はボソッとつぶやきながら我に返った。

なぜそんな言葉が口をついて出たのだろう・・・か?

 

箕面グリーンロードトンネルを抜けて止々呂美(とどろみ)の出口にでると、

真っ暗闇の中に車のライトに照らされた白く輝く銀世界が広がっていた。

トンネルを入るまでは全く雪がなかったので一瞬ビックリしたものの

すぐにまた自分の世界へと入っていった。

 

三ヶ月ぶりに自宅に帰る・・・

と言っても誰もいない家に帰るのは何とも気が重いものだ。

 

ほんの40分ほど前まで、祐樹は梅田の新ビジネス街に建つ高層ビルの

一室で、苦手な外人バイヤーとの厳しい商談を終えたばかりだった。

その直後、弁護士から 「離婚が成立しました・・・」 と電話があった。

 

   ・・・そうか終わったのか・・・

 

祐樹は26階のオフィスから眼下に広がる光り輝く大都会の街の明かりを

ぼんやりと眺めていた。 

   ・・・やっぱりここはボクの住む街じゃないな・・・ と一人つぶやいた。

そして急にこの連休は一人静かに過ごしたい・・・ との思いから

同僚との飲み会を断り、いつしか車はかつての自宅へと向かって

いたのだった。

 

先日、祐樹は会社の上司からニューヨーク支店への転勤内示があったが、

何度も自分の心と対峙し熟考のうえ辞退を申し入れていた。

同僚や後輩はその早い栄転を羨ましい言葉で賛辞しながらも

やっかみ半分のところがあった。

そのやっかみは祐樹が入社してすぐに感じていたことっだった。

 

   「あいつの入社は俺たちと違ってきっとコネだからな・・・

    何しろ親父は国会議員だし、上の兄貴は地方議員でいずれ

    親父さんの後をつぐんだろうしな。

     母親はその道の家元で全国に教室があるとか聞いたし、

   下の兄さんは大学病院の精神科医でTVにもよく出ているし、

   フランスにいる姉さんはたまに週刊誌にもでてる有名なファッション

   デザイナーなんだろう・・・

   あいつの一族はまさに<華麗なる一族>といったところだからな・・・

    しかし どうもあいつだけはちょっと異色で変わってるよな・・・

   エリートコースのニューヨークを断るなんてバカじゃないの・・・?」

 

同輩や後輩らと飲みに行くと必ず家のことを何かと聞かれるので

祐樹はほとほと嫌気がさしていた。

 

  ・・・ボクはボクなのにな・・・

 みんなボク自身のことより、家族やその背景のことばかり気になる

ようだな・・・ といつも自嘲気味に笑っていたが心は憂鬱だった。

 

  ・・・あんなビジネスの激戦地みたいな所へいったらもう自分が自分で

  なくなってします・・・

  自分らしく生きたい・・・ 小さな自分の夢を追ってみたい・・・

 

やっかみ半分の同僚たちの思いと祐樹の思いとは、全く別の次元のもの

だったが、それは会社の誰もが知る由もなかった。

 

 梅田の会社駐車場から出て新御堂筋に入ると、祐樹の

イタリア製最高級スポーツカーはすべるように江坂、千里中央を経て

箕面グリーンロードトンネルに入った。

 

この車も自分の好みと全く違ったが妻が選んだ車だった。

 

 そこを5分ほどで抜けるとあの梅田の街の喧騒から30分ほどで

全くの別世界に入っていった。 そしてそこには白銀の世界が広がっていた。

 

   ・・・これが幸せと言うものなのか・・・ と思えた1年ほど前の日々を

想う・・・

どこかいつも 違う 違う と思いつつも、祐樹は子供のころから

自分の気持ちを抑え、心をごまかしながら両親や兄姉の指示や

言葉に従順に生きてきていた。

30歳をいくつか過ぎ、やっと祐樹は自分の歩んできた今までの道を

省みていた。

 

 祐樹は母親が41歳のときに予定外で生まれた子供だった。

もうすでに上の兄は19歳、次兄は17歳で姉は15歳と年の差があったので、

それが為にそれぞれにみんなが可愛がってくれた。

 それは一方で過保護となり、過干渉であったりして自我に目覚めると

随分とそのことに悩んだりしたこともあった。

しかし、元来素直で従順で優しい性格の祐樹は、そんな周りの保護の中で

強く自己表現することもなく、常に争いごとを避けて暮らす習慣が身に

ついていた。

 

だが一度だけ大きく家族に反発したことがあった。

それは高校生になったころ、両親や兄姉らがこぞって

 「お前は弁護士になれ・・・ 医者を目指せ・・・ 」 

と次々に干渉され、その必要性を懇々と説かれたことだった。

   「人生の競争に勝つためには・・・ 人の上に立たねば・・・

   権力、名誉、金、力を持てば人はついてくる・・・幸せもついてくる・・・

   自分に合った仕事なんて無い・・・自分を合わせるんだ!

   お前の祖先も両親も俺たちもみんなそうやって成功を

   つかんできたんだ・・・」

  「もういい加減にしてくれ・・・ボクはボクの人生を生きるんだ!」

と はじめてみんなの前で反抗し叫んだときだった。

 

しかし、次の日からまた何事も無かったかのように祐樹の訴えは無視され、

再び過干渉が始まった。

そして祐樹はいつしか ・・・まあいいか・・・ と

それまでの習慣どおり、みんなの意見に自分を従わせようとしていた。

そしてそれはやがて自分の夢や希望や感情までも抑え、家の重圧に押され

毎日現実的な対応を余儀なくされていた。

 

塾に通い、習い事に明け暮れ、競争社会には全く合わない自分を知り

ながらも、いつしかそんな嫌いな社会の渦の中に巻き込まれていった。

 しかし いざとなると自分は人との争いごとの間に立つ弁護士など

天敵とも思えるぐらい全く向かない職業だと思った。

それに医師の次兄の薦めで医学部を目指そうと思ったものの、

本来血を見ただけで怖くて卒倒しそうになるのに、人の死と向き合う

医師など全く存外で自分には向かないと確信して断念した。

 

 「じゃあ 何になりたいんだ・・・」 と問われるので、祐樹は漠然とだが

  「ボクは植物や動物が好きだから・・・山も好きだし・・・絵も・・・」

 「そんなもの勉強したって食っていけるわけ無いだろう・・・

  まじめに考えろ!」

と怒られていた。

 なぜそんな言葉が口をついてでたのか・・・

そこには祐樹に一つ思い出に残る印象があった。

 

 それはまだ祐樹が小学生の頃、家族みんなが仕事で多忙な頃に

家族に代わって周りの取り巻きの人たちが東京のデズニーランドや

大阪のユニバーサルスタジオ、映画や遊園地などにもよく連れて行って

くれた。

しかし、祐樹がもっとも印象に残ったのは、ある日小学校の遠足で行った

箕面の滝への道だった。

近くの山麓に住んでいながらこんな所があるとは全く知らなかった。

 

 箕面川の渓流が岩にぶつかり、白い水しぶきを上げてダイナミックに

流れている・・・

その岩の上に一羽のアオサギがじっと置物のように身動きせず水面を

見つめて狩りをしている姿・・・

美しいコバルトブルー色したカワセミがあっという間に水にもぐり

小魚をくわえて小枝に戻ってきた姿に、祐樹は初めての感動を覚え

興奮した。

 

 山麓に咲く小さなイチリンソウ、ニリンソウなどの野花は、街中では

見られない素朴で清楚な姿をしていて祐樹の心をとりこにした。

野花をみて 「 きれいだな・・・」 と初めて子供心に感動した。

それに野生のサルが群れで木々の上を動き回って木の実を食べている姿は

動物園で見たサルと違って興奮した。

見るもの一つ一つが祐樹の子供心を刺激し琴線に触れるものがあった。

 

見上げれば美しく紅葉した森が広がっている・・・ 

祐樹は落葉したそんなもみじの葉を数枚拾い、持ち帰って本にはさみ

押し葉にした。

今でもその押し葉を見るたびに、あの時の感動を思い出すのだ。

 

祐樹は近くの山麓に住んでいながら今まで家の高台から見る視線は

いつも南側に広がる大阪平野であり、その先に林立する大都会の

近代的ビル群だった。

それが初めて反対側の裏山の箕面の森の中へ行ったとき、祐樹の心を

動かすほどのものがあったのだった。

 次兄にその感動を話したとき・・・

 「お前の生まれる前にもう亡くなっていたけど、祖父は旧帝大出の

  有名な植物学者だったそうだ。 

  それで親父は子供の頃よく束ねた新聞紙を持たされて爺さんと裏山を

  歩いた・・・ とか言ってたな・・・

  なんでも箕面の山には日本の羊歯(シダ)類の相当数の種類が

  自生しているとかで、その採集の手伝いをさせられたんだろうな・・・

  お前はそんな爺さんの遺伝子を引き継いでいるのかも知れんな・・・」 

と笑われた。

 

 「もう勝手にしろ!」 と言う家族の声に これ幸い! とばかりに

祐樹は初めて自分の意思で大学を選んだ。

それはみんなが全く想像外の<心理学>を専攻し、大学院では 

<農学、園芸・森林療法と自然環境学分野との融合> を研究した。

この6年間は祐樹にとって実に充実した日々を過ごした。

 

しかし、祐樹は卒業を前にして再び両親や兄姉からの強い過干渉が

始まった。

そしていつの間にか<特別推薦枠>とかで、考えても見なかった

総合商社へすんなりと採用されたのだった。

それは国際社会を舞台に、ビジネスでの激しい競争を繰り広げる

会社だった。

 

 祐樹は相変わらずどこかで 違う・・・ 違う・・・ と思いつつも仕事に

没頭し6年が経っていた。

この間に名門家系の御曹司で末っ子ということもあり、次々と縁談が

持ち込まれ、親の薦めに反対できず何度も見合いをしてみたが、

祐樹の心に触れる女性は一人もいなかった。

 

 ある日、祐樹は会社の重役の誘いで、ある財界のパーテーに招待された。

そしてそこである女性を紹介された。

祐樹は本来最も苦手なそんな所で酔うことなど無いのだが、仕事の

ストレスもあり、勧められるままにしこたま飲んで酔っ払ってしまった。

そしていつしかその女性から介抱される始末になり、気がつけば彼女の

赤い車の横に乗って家まで送ってもらうことになった・・・

そこまでは覚えているのだが・・・?

 

 ふっと気がついて目を覚ますと、祐樹はホテルのベットに裸で寝ていた。

横には見慣れない女性が寝ている・・・ 

祐樹は あっ! と声をあげそうになった。

 

後日知ったことだが、この女性は中々結婚しない末息子を心配した

父親が、自分の政治後援会長に相談したら、なんとその会長は自分の

人娘を連れて来ていたのだとか・・・

しかし、その後の展開と行為は予想外だったらしい。

 

祐樹は自分の愚かさと女性へのすまなさとで自責の念にかられ、

恐縮の日々を過ごしていた。

そしてそれはやがて祐樹の世界を一変させていった。

 

 

(2) へ続く・・・

 


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<トンネルを抜けると白い雪> (2)

2016-02-16 | *みのおの森の小さな物語(創作短編)

 

トンネルと抜けると白い雪 (2) 

 

 

 祐樹は両親や兄姉の薦めと良心の呵責もあり、さらに積極的な

アプローチをかけてくるその女性との間で、まもなく婚約がととのった。

何も知らなかったが、その女性はアメリカの大学院を出、一時 国際機関で

働いていたキャリアウーマンだとか・・・

いずれ女性国会議員を目指すと言う野望をもっていた。

 それを聞いたとき・・・

  ・・・この人も結局ボクよりもその背景を利用しようとしているんだ

     ろうか・・・? 

と一瞬考えたが、自責の念もあって ・・・これも人生か・・・ と 

それまでの家に対する従順な生き方に自分を合わせ過ごしていた。

 

 

結婚式はそれは豪華なもので、父親の関係で大臣や財界の大物たち、

母親の関係でその道のそうそうたる顔ぶれ、兄や姉の関係から

いわゆる偉い人から有名な芸能人まで多彩におよんだ。

新妻はここぞとばかりにそれらの人々の間をこまめに回り、交わりをもち

積極的に話していたので、祐樹は少し困惑と違和感を否めなかった。

 

新居は千里中央駅前にできた50階建ての高級マンションを両親が

用意しようとしていたが、「せめて住む所ぐらい自分で決めさせてくれ!」

と頼み、やっとの思いで断った。

 

 祐樹は学生時代からの愛読書に、ソローの「森の生活」(講談社)があった。

それはヘンリー・ソローが今から168年前の1845年3月、28歳のときに

アメリカ・ボストン郊外の森、ウオールデン池畔に小さな山小屋を建て、

2年2ヶ月この森の中で生活し、思想し、著述活動をした時の記録であり、

今なお世界中に多くの人々に共感を与えている本だ。

 そしていつしか自分も森の中でそんな生活をしてみたい・・・ と

憧れを抱きながら夢見ていた。

  しかし、現実に結婚して生活するとなるとそうもいかず、ましてそんな話を

するとあからさまに嫌な顔をする彼女に遠慮して諦めようとした・・・が、

せめて森の中に開発された新しい街 「箕面森町」(みのお・しんまち)に

住みたい・・・ と何とか説得していた。

 

やがて祐樹は4区画200坪ほどの土地を買い、その一区画に知人の

建築家に頼んみ、ひときわモダンで瀟洒な家を建てた。

  将来子供が大きくなったら真ん中を庭にし、もう一方に家を建てられるし・・・

祐樹はそれまでの間、好きな農園や花畑にしようと、周囲に果樹木を

植えたり小さな作業部屋まで建てていた。

しかし、妻となる彼女はそんな事に全く興味を示さなかった。

そして結婚式前にその新居は完成した。

 

  <この箕面・森町は・・・大阪府が箕面市止々呂美地区に広がる

   313.5haの森を開発し「水と緑の健康都市」とした街づくりで、

   計画はオオタカなどの生息地だった事や、世情の変化などから

   二転三転しながらも次々と造成し完成しつつある。

    計画では人口9600人、2900戸だが現在はまだ300余世帯

   約1,000人ほどの街だが、自然と調和した緑豊かな住宅地景観を

   作り出している。

    箕面グリーンロード・トンネルも開通し、大阪梅田まで車で50分、

   千里中央まで15分、バスで25分とのこと。 

    更に平成30年予定でこの近くに箕面インターチェンジができて、

   第二名神高速道路とつながるとのことで、将来は便利になりそうな

   街なのだ>

   

 

 祐樹の新生活がスタートした。

新妻はしばらくの間は専業主婦として家庭にこもったが、しばらくして

   ・・・周囲には山ばかりで何もないわ・・・ と

不満を言うようになった。

 祐樹はそんな自然の中での生活に満足していたが、この二人の

感性の違いはどうしようもなかった。

 やがて妻は一人で自分のスポーツカーに乗って都心に出かけ、

友人との会食や観劇、ショッピングを楽しみ、帰りに百貨店の惣菜売り場で

夕食を調達してくるような毎日となった

 やがて妻は・・・

  「わたし掃除、洗濯、料理なんか苦手だし、お手伝いさんを

   雇いましょうよ・・・」 と言いだし涼しい顔をしている。

祐樹は呆気にとられてしまった・・・

 

 祐樹は 「休日には夫婦二人で近くの山や森を歩こうよ・・・」 と誘って

みたが 「とんでもないわ!」 と言う顔でいつも断られていた。

近くの森にはエドヒガン、ヤマザクラが咲き、 タニウツギやヤブデマリの

花々が咲いている。 

祐樹の好きな野花もあちこちに咲いていて、穏やかで美しい山里の

光景が広がっている。

 

 「それよりも今晩は都心のホテルでデイナーにしない?」

 「友人のパーテーに招待されてるから一緒に行きましょうよ」 とか

祐樹の苦手なところばかり連れ出されていた。

それでも ・・・これが幸せというものか・・・ と 祐樹は結婚した事を

少なからず喜んていた。

 

しかしそんな順調に見えた歯車が、徐々に逆回転をし始めた。

 

 祐樹が結婚して半年も経たない頃、母親の経営するその道の家元教室が、

本人の全く関知しない出来事から、まさかの巨額詐欺事件に巻き込まれた。

新聞で散々報道され叩かれたこともあり、全国にある教室が影響を受けて

あえなく倒産してしまったのだ。

 

 次いで次兄の妻が、こともあろうに兄の同僚医師と駆け落ち騒ぎを起こした。 

それはやがて離婚となり、傷心の兄は大学病院をやめた。

 

 極め付きは、父親が国政選挙であれだけ再選確実の勢いだったのに

次点でまさかの落選をしてしまった。

さらに同時に行われていた地方選挙で、長兄もあえなく落選の憂き目に

あった。

 

 そして悪いことは重なるもので、少し前に姉がパリから一人で帰国していた。

何でもフランス人の夫と経営していた会社が乗っ取られたとか? 

  --夫の愛人との確執とか?--  とか 週刊誌には面白可笑しく

書かれていた

 

 祐樹を除き家族全員がその後の半年の間に立て続けに次々と不幸な

できごとが起こり、あっという間に失脚し、失業状態になり、地位も名誉も

誇りまでもが一気に崩れ去ってしまった。

 

 

 祐樹はそんな中、みんなを励ますつもりで父の誕生会をしようと

久しぶりに実家を訪れた。 

家を出るまで妻は一緒に行くことを拒んだが、何とか渋々ついてきていた。

  事前に兄姉の知人、友人、今までの親しいみんなに知らせておいたのだが、

その日集まったのは10数人だけだった。

 それまでは数百人の人々が、家のパーテールームやそれに続く

広い庭園にも人が溢れるばかりでそれは賑やかだったのだが・・・ 

その凋落振りは目に余るものがあった。

 箕面山麓の高台で100年以上続いたこの実家も、このままでは

数ヵ月後には人手に渡りそうな事も聞いた。

 

 祐樹は何かの小説で読んだ一説を思い出していた・・・

 「・・・そして男が死ぬとそれまで体の血を吸っていたノミやシラミなどの

  生き物が ゾロゾロゾロと這い出し畳の隅に消えていった・・・」

とあったが、まさにその通りだと思った。

 

 両親に兄姉たちもどん底に落ち、初めてそれまでの自分たちの生き方や

驕り高慢さを自省し、各々がうめくように猛省している姿が痛々しかった。

 人がそれまでの権力から落ち、地位、名誉、金力を失ったとき、

それまでその傘の下で威勢を誇り、権益をむさぼってきたような人々が

真っ先に去っていった。 

それはまさにあの寄生していたノミやダニが死体から一斉に出て行く

姿だった。

そして一族はその悲哀を嫌と言うほどに味わう一日となった。

 

ささやかな食事会が終わること、それぞれが心に誓ったことがあった。

それは父が言ったつぶやきだった。

 「今日から裸になって本当に一から出直し頑張ろう・・・

  そしてこれからは 謙虚に質素に真面目に生きていこう。 

  お互いに切磋琢磨して協力し この難局を乗り切ろう。 

  そしてこれからは身も心も常に清潔にして清貧を心がけ、

  決して再びノミの巣にしないようにしよう・・・」

 

 家族みんながしっかりとうなずき肝に銘じた言葉だった。

しかし、祐樹の妻だけは呆然とした顔をしてそんな父の言葉を聞いていた。

 帰り道、妻は 「こんな事ってあるかしら・・・私はどうしたらいいの? 」 と

激しく動揺しヒステリックな声をあげた。

しかし、実家のほうは大変だけど、祐樹はサラリーマンで給与が減る

わけでもなく、家が無くなるわけでもなく、今までと生活が何ら変わらない

のでいつも通りの生活をしていればよかったのだが・・・

 

 数日後、祐樹は香港へ出張した。

一週間の仕事を終えて帰国し、空港からタクシーで家に直帰したが、

途中何度か妻のケイタイに電話を入れたが一向につながらないのだ。

 「おかしいな? どこかへ出かけているのかな? 

  それとも何かあったのかな?」

 出かける前、妻の顔色が悪く元気が無かったので少し気にはなって

いたのだが・・・

 

 家は真っ暗だった。

家に入ると中は閑散としていて、妻の持ち物は何一つ見当たらなかった。

机上に一通の封筒があった。

祐樹は呆然としながらその封を切って中を取り出した。

そこには祐樹宛の手紙があり、捺印された離婚届け用紙が入っていた。

祐樹はその手紙を夢遊病者のように目で追いながら部屋の中を

さ迷っていた。

  「・・・もう夢も希望もなくなりました。 お家のゴタゴタはもう沢山です。 

  こんな事になるとは・・・ 貴方に対する愛情はもうありませんので・・・」

と、恨みつらみが延々と綴られていた。

祐樹はいま現実に起きていることを認識できないでいた。

 

 

 あの日から三ヶ月が経った・・・

祐樹はとうとう一度も妻と顔を合わせることなく、弁護士同士の話し合いで

離婚が成立したのだった。

季節はあの衝撃を味わった初秋からもうとっくに冬が来ていた。

 あっという間に正月が過ぎ、二月の厳冬期になっていたが、

祐樹の心も氷のごとく凍りついたままだった。

 祐樹はあの日からなんとなく乗ってきたスポーツカーだったが、

明日には業者に引き取ってもらうので今日が最後のドライブだった。

つかの間の幸せ感も、この家も、この街も、この森とも、

すべて終わりなんだ・・・

 

 祐樹の車はうっすらと雪の積もる箕面森町への道を上り家に着いた。

   ・・・3ケ月ぶりか・・・

懐かしさよりも空しさのこみ上げる玄関を開け、雨戸を開けて

冷たい外気を家に入れた。

外はあの日、あの時に一人で家を後にした寂しい光景が広がっていた。

  一面の雪景色に月の光が優しく降り注ぎ、氷魂をキラキラと輝かせて

いる・・・

祐樹はしばしそんな光景に見とれていた・・・

 

    「きれいだな~ 」

 

 

 

(3) へ続く・・・

 


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<トンネルを抜けると白い雪> (3)

2016-02-16 | *みのおの森の小さな物語(創作短編)

 

トンネルを抜けると白い雪 (3)

 

 

翌朝、祐樹は家の窓を全開し、冷たい空気を胸いっぱいに吸い込んだ・・・

  ・・・気持ちいい~・・・

ヒヨドリが2羽、元気に頭上を飛んでいった。

北側の森の樹林が真っ白い雪に覆われ、まるでおとぎ話しの中の

妖精がいる森のように見えた。

 庭に下りると、野うさぎか? テンか? 小さな動物の足跡も見られて

嬉しくなった。

南側の鉢伏山の方をみると、朝陽にキラキラと輝くダイヤモンドダストが

見られる・・・

 

 ・・・きれいだな~・・・

 

祐樹はしばし家の周辺の景色に見とれながら、何度も同じ言葉を

呟いていた。

 

 「そうだ! 久しぶりに箕面の山を歩いてみよう・・・」

 

 祐樹はこの3連休を何して過ごそうかと思っていたので我ながら

いい考えに喜んだ。

 そうと決めると裏に建てていた作業小屋から、以前から置いている

山靴とリュックサック、ストックなどを取り出した。

  ・・・結局 前の妻とは一度も山を歩かなかったな・・・

 学生時代からあちこちの山歩きを楽しんだけど、サラリーマンになって

からは家の近くの箕面の山を歩いては自然の営みに感動していた。

  ・・・何年ぶりぐらいかな・・・

祐樹は久しぶりのワクワク感でいっぱいになった。

 

 

箕面森町から府道423号線を東へ歩き、高山口から山道を登る。

ひとつ山越えをして豊能郡能勢に入り、もう一つ山を越え 「ここから箕面市」

とある表示を過ぎ後ろを振り返った。

 

  ・・・きれいだな~ ここは雪国か? ・・・ 

と 錯覚するような美しい景色が広がっている。

 雪国の人々の雪害の苦労は大変なものがあるけれど、この大阪・北摂では

年に数回ぐらいしか積もらない雪は珍しい部類に入るのだ。

 そう言えばあの小説「雪国」を書いたノーベル賞作家、川端康成は

子供の頃、ここ箕面の山や森でよく遊んだと言うから、どこかで少しでも

この雪の光景が脳裏にあったのかな? と 祐樹はそんな想像をしながら

登った。

 

 やがて再び豊能郡高山に入った。

登りばかりが続く・・・ 息を弾ませながら祐樹は白い息をハーハーと

リズムよく吐きながら、なぜか体も心も軽くなっていくのが心地よかった。

それまでの心の内に溜まっていた暗く重たく黒い汚い塊を、思いっきり

吐き出すかのように意識して息をはきだした。

そして胸いっぱいに新鮮で気持ちのいい森の空気を精一杯吸い込んで

いたら、いつしか身も心も入れ替えられたような新鮮な気分になった。

 

 やがて高山の村落が見えてきた。

ここはかの戦国大名・キリシタン大名 高山右近の生誕地だ。

近くには「マリアの墓」とか「マリアの泉」とかも残っている。

村落の人口はもう100人足らずで高山小学校はもう何年も前に

廃校になり、箕面森町にできた止々呂美小学校に統合されたようだ。

 祐樹は都市近郊にあってこの田舎の自然が満喫できる高山の村落が

以前から大好きだった。

学生時代は箕面駅前から山々を越え、ここまで3時間足らずで

よく歩いたものだった。

 そして昔懐かしい田舎の風情をもつこの貴重な村落で一日を

過ごすのが何よりの楽しみだった。

 

 祐樹は隠れキリシタンゆかりの「西方寺」前から「高山右近生誕地石碑」

裏山を回り、明ケ田尾山への登山道へ入った。

ここは谷道だが雪はそんなになく、いつもの山道が判断できるので

登りやすかった。

 

 やがて山頂に到着した。

 明ケ田尾山は箕面最高峰で619.9mと聞いた。

祐樹はここで一休みをすると、持ってきた水筒の水を一気に飲み

ノドを潤した。

登りが続いたので汗で下着がぬれている。

  ・・・そう言えば腹が減ったな~・・・

3ケ月ぶりの森町の家には食料の買い置きは無かったし、途中で買う

つもりが国道沿いに店は無く、高山にも一軒の店も無いので仕方ない。

 

 これから尾根づたいに歩き、梅ケ谷から鉢伏山を経由し、

<expo‘90みのお記念の森>から天上ケ岳を下り、2号路から箕面瀧道へ

出るか、ようらく台から前鬼谷を下り落合谷に出てもいいし・・・ と 漠然と

これからのコースを考えていた。

  ・・・それまで水も食料もなしか・・・ しょうがないな・・・

     まあなんとかなるさ!・・・

 祐樹はそれ以上にこうして久しぶりに自分を取り戻し、自然との会話が

楽しめる事に満足し嬉しさでいっぱいだった。

 

     ハックション! ハックション!

 

祐樹は大きなくしゃみをして我に返った。

   ・・・寒 い・・・

寒気がしてきたので祐樹は再び歩き出した。

 

 梅ヶ谷へ下り、再び鉢伏山へ向けて登った後、しばらく気持ちのいい

下りの山道を歩いているときだった。

南斜面なのでここまで来ると雪はないものの、逆に山道は凍りつき、

歩くたびに バリ バリ という霜柱が壊れる音が響いた。

 

 そして事故は起こった・・・

それは祐樹の第二の人生の幕開けとなった。

 

 尾根道には冷たい風が吹き、山道は硬く凍っていた。

それまでの雪道とは違ってまだ歩きやすく、祐樹はバリバリと

霜柱を壊す音を立てながら黙々と山を下っていた。

その時だった・・・

 

   ツルン~   ガクン   バリ  

 

あっという間に左足が滑り、鈍い音がしたかと思うと祐樹はドンデン返し

にひっくり返り、腰を嫌と言うほど打ちつけ、左足首に激痛が走った・・・

 

  「痛い! これは何だ!」

 

何が起きたのか判断するのに時間がかかった・・・

しばらくしてそれは山道に転がっていた太い木の枝に足をとられ

滑ったようだ・・・

  ・・・とんでもないひねり方をしたようだな? 

       これは大変な事になってしまった・・・ 

と祐樹は焦った。

滑った左足は痛みもあるが痺れたような別感覚になっている。

  ・・・このままでは一人で歩けない・・・

    助けを呼ぼうにも山の中では 電波が届かずケイタイが使えない・・・

    案の上<圏外>表示が出ている。 それにまだ一人のハイカーにも

    出会っていないような今日の状況だ・・・  

    どうしよう?・・・

祐樹は激痛に体を横たえたまま頭は思案でいっぱいだった。

 

  ・・・冬の夕暮れは早い・・・

 

 ひょっとするとここで一晩を過ごさねばならないかもしれない・・・

祐樹は横たわりながらリュックを引き寄せ中を見たが、こんな時に

役に立つような物は何も入っていない。 

 水も食料もないし、防寒具といってもこの寒風吹きすさぶ尾根道で

夜を過ごすことなど到底無理なことは分かっていた。

 

左足はどうやら骨折しているようだ。

 

  ・・・後10数分も下れば<みのお記念の森> に着く距離だ・・・

    そこに常駐の人はいないけれで、いつも森の駐車場の開閉に

    ビジターセンターの職員が来るはずだ・・・

    何とかしてそこまでいかねば・・・

時計はもう3時を回っていた。

祐樹は焦った。

 

  ・・・何とか這ってでも下に下りねば 命が危ない・・・

 

少し足を動かしてみるが、そのつど激痛が走り到底動かせない。

祐樹は天を仰いだ・・・

 ・・・家族全員が今最悪の危機の中にあるけど、どうとうボクにも

   死神がやって来たようだな・・・

   ボクの人生もここで終わりかもしれないな・・・まあいいか・・・

   人間はいつかは死ぬんだ・・・それにボクはこの好きな森の中で

   死ぬのならそれも本望か・・・

 

そう自分の運命を受け入れると、祐樹の心も少し落ちつき穏やかに

なってきた。

 祐樹はそのままゴロリと大の字になって空を見上げた。

冬枯れの森・・・ 葉を落とし、枝ばかりのコナラの大木が寒風に揺れ、

枝と枝のすれる音がリズミカルな音色のように聞こえる・・・

空には ヒュ~ン ヒュ~ン と冷たい風が吹き雲が激しく動いている。

 

  寒い・・・ 痛い・・・」

 

そしていつしか祐樹は意識が遠のいていくようにゆっくりと目を閉じた。

頭上を冬鳥が一羽 飛んでいった・・・

 

 

 

(4) へ続く・・・

 


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<トンネルと抜けると白い雪> (4)

2016-02-16 | *みのおの森の小さな物語(創作短編)

 トンネルを抜けると白い雪  (4)

 

 

 

 「大丈夫ですか? もしもし大丈夫ですか?  どうしよう・・・」

 

祐樹は薄れゆく意識を懸命に元に戻しながら、そんな声を耳にした。

 

  「あっ! 気がつきましたか・・・」

   「ああ どうも・・・ どうもありが・・・

    足を滑らせ・・・

    動かせないんで・・・ 痛!」

祐樹は薄れていた意識を取り戻した。

 

 「私が肩を貸しますので立てますか・・・?」

 

気がつけば麻痺しているのか、少し足の痛みが和らいでいる・・・

祐樹はゆっくり女性の肩を借り、やっとの思いで立ち上がった。

  「これなら何とかこの下までは下りられそうかな・・・?」

 

それから何度も休み休みしながら10余分の道を1時間近くかかって

やっと芝生広場までたどり着いた。

 

  「ありがとうございました・・・もうここで・・・

   すいませんがケイタイが繋がる所から救急車を呼んで・・・あれ!?」

 祐樹がボソボソとお願い事を言う前に、彼女はもう一人で走っていった。

15分ほどして一台の軽自動車が前に止まり、先ほどの人が急いで

下りてきた。

 「丁度出会った係りの人に事情を話して車を中に入れさせてもらいました

  さあ早く病院へ行きましょう・・・」

 そう言うが早いか祐樹を抱きかかえるようにして助手席に乗せると

園内を通り抜け市道を下った。

 

  「あの~ この下の箕面ビジターセンターまでお願いできますか?

   あそこで電話を借りて救急車を呼んでもらいますので・・・」

  「大丈夫ですよ! 救急車がこの山を登ってくるのにどれだけ時間が

    かかると思います? それに公共のものはもっと緊急の方の為に

    残しておきましょう・・・ あっ 貴方が緊急だってことは

    分かっていますよ・・・ でも今は私が何とかできますから・・・」

と笑いながら車を走らせる。

 

 車は箕面ドライブウエイをゆっくりと下りながら、30分足らずで

箕面市立病院の救急外来に到着した。

早速レントゲンを撮ると、やはり左足靭帯破断で足首の骨折で

全治3ヶ月の重症だった。

 

  「どこのどなたか知らないけれど・・・

   あっ!  あの方のお名前も聞いていなかった・・・ しまった! 

   ろくにお礼も言わないままに・・・ どうしようか?

   でも本当にありがとうございました」 

 ベットの上で治療を受けている間、祐樹は心の中で感謝の言葉を

何度も呟きながら安堵感でいっぱいだった。

 

 治療が終わるまで3時間近くかかった。

祐樹は手続きなどを済まし、支払いも終え、処方された薬を飲むと慣れない

松葉杖を腕の両脇に挟みながら下の兄のケイタイを鳴らした。

何となく医師だからというだけの事だったが、医者の有難さをしみじみと

実感したからでもあった。

 久しぶりに兄と会話し、自分の状況を説明しておいた。

  「・・・でもよかったじゃないか・・・その方にはお世話になったんだな。

   しっかりお礼を言うんだぞ。 命の恩人だからな・・・」

祐樹はその時初めて本当に命を助けられたんだ・・・と認識した。

お礼を言う前に自分のことで精一杯で名前も聞かなかったことを

心底後悔した。

 

  「それはそうと兄さんは今どこで何してるの?」

  「オレか・・・ 今な 福島にいるんだ。 あの忌まわしい出来事から

  逃れるようにしてここに来たんだがな・・・ 以前 大学病院にいる時に

  派遣されて、大震災直後の被災地に来た事があるんだ。 

  余りにも非日常的なことばかりで過酷だけどやりがいがあたんで、

  それでフリーになったんで再びここへ来てみたんだ。

   今はボランテイアだけど、やっぱりここに骨を埋めてもいい覚悟で

  これから診察活動をしようと思ってるんだ・・・」

 

  「そうか・・・それはよかったね。」

   医師として厳しい任地だろうが、兄は兄なりにやりがいと共に

  やっと自分の居場所見つけたようだった。

 

祐樹は他の家族にはこれ以上心配事を増やさないために

自分のことは黙っておこうと思い連絡はしなかった。

そして会社の上司にだけは電話で事情を話し、しばらく休暇を

もらう事にして病院を出た。

 

外はもう真っ暗だった。 

冷たい風が吹いている・・・ 寒い!

北の箕面の山々の峰がうっすらと見て取れる・・・

山の中腹にある <風の杜 みのお山荘> の灯かりだけが

ボンヤリと見える。

そして目の前のタクシー乗り場の明かりだけがひときは明るかった。

 

 

  「大丈夫ですか?」

 

どこかで聞いた事のある声だ・・・

祐樹が振り返ると・・・

 

  「あっ! 貴方は・・・まさかここで私を・・・ 待っていて・・・」

 

祐樹はビックリすると共に感謝と感動が入り混じって言葉になら

なぜかポロポロと大粒の涙が溢れ出した・・・

 

  「帰りもお困りだろうと思いまして・・・ それにこの荷物も・・・」

   「あっ ボクのリュックとストック・・・すっかり忘れていました。

    預かってもらっていたんですね・・・ ありがとうご・・・」

 

祐樹が言葉をつまらせ感激の涙を拭いていると・・・

 

  「さあどうぞ! 」

 

彼女は軽自動車の扉を開け、助手席に祐樹を座らせると松葉杖を

運転席との間に置いた。

 

  「さあ出発です! お客様どちらへ参りましょうか・・・?」

 

彼女がタクシー運転手のしぐさをしたので二人で大笑いした。

 

 

祐樹は朝までいた箕面森町の家へは向かわなかった。

上の兄が所有する箕面駅近くの集合マンションの一室を、祐樹は

大学入学と同時に兄から借りて使っていた。

 それまでは両親と一緒に住んでいたが、広い家とはいうものの常に

父の秘書や書生やお手伝いさんや10数人の人たちが寝起きを共にする

中で心に窮屈な思いをしていたから大喜びだった。

しかし たまに上の兄が訪ねて来た時はあわてて掃除をするものの・・・

 

  「なんと汚い部屋に住んでるんだ・・・もっときれいにしろ!

   そんなことしてたらまた嫁に逃げられるぞ!」

 とからかわれていた。

勿論 結婚前に妻となる人をここへ連れてくることは一度も無かった。

 結婚をするまではここが祐樹の城であり居場所だったのだ。

そしてあの人が家を出て行った次の日から、ここが再び祐樹の家だった。

病院から10余分で祐樹のマンション前に着いた。

 

  「遅くなりましたけどお礼を言えなくて・・・本当にありがとうございました。」

  「いいえ! たまたまですわ・・・お役に立てて嬉しいです」

  「ボクは太田垣 祐樹と言います。 ここに住んでいます。」

  「私は吉永美雪と申します。 この東の間谷の団地に住んでます」

 

  「そうだ! よろしかったらお食事をご一緒していただけませんか?

   ボク朝から何も食べていなくてお腹ぺこぺこなんですが、ご迷惑

   でなければ・・・」

 

美雪はすこし戸惑っていたが・・・

  「よろしいんですか・・・?」

   「よかった! うれしいです! ありがとうございます!」

 祐樹はそのまま美雪の車を案内した。

学生時代からなじみのイタリアレストランはすぐ近くだった。

 

 「美味しかったわ! こんなに美味しいイタリアンは初めてだわ・・・

  ご馳走様でした。 でもマスターが祐樹さんの痛々しい姿をみて

  どしたん!? とビックリしていた姿やその顔が可笑しくて・・・

 と思い出したては大笑いしている。

祐樹もつられて二人で笑った。

美雪は祐樹の部屋の前まで送ってくれて・・・

 

  「では失礼します! ご馳走様でした・・・ お大事にして下さい!」

 と手を振りながら帰っていった。

 

長い一日だった。

祐樹は慣れない不自由な格好でベットに横になりながら

朝からのまさに激動の一日を振り返っていた。

そして・・・ 「いい一日だったんだな~」 とため息をついた直後から

薬が効いたのか いつしかゆっくりと心地よい眠りに入っていった。

 

 

 

(5) へ続く・・・

 

 


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<トンネルを抜けると白い雪> (5)

2016-02-16 | *みのおの森の小さな物語(創作短編)

 

トンネルを抜けると白い雪  (5)

 

 

祐樹はこの2日間迷っていた。

あの美雪さんのことが頭からも心からも離れないのだ。

もっと彼女の事が知りたいけど、迷惑かな? どうしたらいいのか?

こんな思いをするのは生まれて始めての経験だった。

別れ際にケイタイのアドレス交換をしていたので、何かメールでもあるかと

期待をしていたのだが・・・

 

3日目の朝、祐樹は意を決し美雪さんの出勤前に伝えようと

メールを送った。

   ・・・先日は本当にありがとうございました。 おかげで命拾いをしました。

    もしよろしければ今晩この前のレストランでお食事でもご一緒に

    いかがでしょうか・・・?

 

祐樹はこの年になるまで、自らデートの申し込みをしたことが無く

何かぎこちないドキドキするような誘い方だった。

 

早速返事が来た・・・ オーケーだ!

祐樹はなぜか飛び上がって喜んだものの・・・

   イタ!  イタ!  痛い・・・!

と足を押さえながらベットに倒れた。

でも嬉しかった・・・そしてまだ文面は続いていた。

 

   「・・・私は今日仕事が休みなのでお昼でよろしければ・・・

    それに差し支えなければ歩くのも不自由でしょうから

    私がこれから美味しい飛び切りの料理を作って持っていきますので、

    それでご迷惑でなければ祐樹さんのお部屋でランチなどご一緒に・・・

    なんて言うのは如何でしょうか・・・?」

 

祐樹は勿論すぐに大賛成の返事をした。

  ・・・このワクワクする気持ちは何なんだろう・・・?

 祐樹はつかの間の心躍る余韻を楽しんだ後 ふっと

   え~ この部屋で・・・!

あわてて部屋を見回すと汚い! 何とも汚れた男部屋だ。

   ・・・ 何とかしなくちゃ! 痛い! イタイタイタ・・・ダメだこりゃ!

 とても自分ひとりで掃除できる状態じゃないので諦めた。

すると何だか心が落ち着き、裸のまま素の自分を美雪さんには

見てもらうしかないと思った。

 

お昼までの時間が待ち遠しかった。

 やがて12時半を回った時、ピンポン・・・とチャイムが鳴った。

   美雪さんだ!

マンション入り口のドアロックを解除すると、やがて部屋のベルが鳴り

祐樹ははやる気持ちを抑えてドアを開いた

 

  「こんにちわ! おじゃまします・・・」

 

そこには先日の山歩きの格好とは違う花柄のワンピースに身をつつんだ

美しい女性がニコニコしながら立っていた。

両手にいっぱいの紙袋を提げている・・・

 

男の汚れた部屋に入った美雪は一瞬にこっと笑った。

 

  「こんな汚いところですいません・・・」 と言った祐樹の言葉に

首をふりつつ・・・

 

  「足のほうは如何ですか? 大変でしたね・・・痛みますか?

   お腹すいたでしょう・・・遅くなってごめんなさいね。 あれから

   懸命に作ったんですけどお口にあうかしら・・・?」

 そう言いながら、テーブルいっぱいに持ってきた料理を並べた。

 

  「すごい・・・美味しそう・・・ これみんな貴方が作ったの?」

   「そうですよ! 私ね門真にある会社の社員食堂で働いているの

    ・・・だから料理を作るの大好きなんだけど、食べ物は

    みんな好みがありますからね・・・ちょっと心配ですわ」

 

   「美味しい!」

 

祐樹は心底美味しいと思った。  

こんな美味しい家庭料理など本当に食べた事が無かったからだ。

それから二時間ほど、二人は笑いを交えながら食事を楽しんだ。

 

  「私ね 祐樹さんにはきっといい人がいそうな気がして、足のことも

   気になってたけれどお伺いのメールもしなかったの・・・

   でもこのお部屋の様子から見て大丈夫のようだわね・・・」

 と大笑いしている。

祐樹も頭をかきながらつられて大笑いしてしまった。

 

   「実はボク離婚したんです。 妻が家を出て行ってしまって・・・

    だから・・・」 と祐樹は唐突に話題を変えて頭をかいた。

 すると・・・

   「私も10年前だけど、二十歳の時に短かったけど結婚してたのよ

    母を早く安心させたかったの・・・ でも夫の暴力に耐えられなくて

    すぐに別れて大阪に来たのよ。

    逃げられた人と逃げた人なのね・・・ハハハハハハ!」

 お互いにこれで気が楽になった。

 

   「私ね・・・北海道の十勝出身で母子家庭なの・・・ 母は町で唯一の

    病院食堂で必死に働いて私を育ててくれたのね  だから

    私は早く自立して今度は私が母を支えようと決めてたの・・・

    でもね 町にはいい就職口がないからと東京の専門学校に行かせて

    もらってね それで栄養士の資格を取ったのよ

    早く自立して母を支えたかったのよ・・・

    いづれは母と暮らしたいんだけど、今は年に一回ぐらい大阪に

    呼んでるの・・・でも母は私の住んでる団地ですごしても

    一週間日ももたないのよ。 

     大地がない、畑がない、自然がない、預けてきた犬が心配だ、

    人との付き合いがない・・・ なんて言うのよ。

    広大な十勝とは違うものね・・・

    それで私の出勤後一人で孤独になっていつの間にか北海道へ

    帰ってしまうのよ・・・」

 

そんな話を明るく可笑しく話す美雪の言葉を、祐樹はしっかりと

聞いていた。

 しかし祐樹は自分の家族の話は少ししかしなかった。

   「ボクの父母も兄姉もいろいろあって、今はみんな失業中なんだ。

     (実際そうなんだ) 

   下の兄はあの大震災後の福島で今ボランテイアをしているようだし・・・

   ボクだけサラリーマンだけど、本当はやりたいことが別にあってね・・・

   今までどうしようか悶々としてきたけど、今回の生死を感じたできごとが

   あってそれで決心したんだ。 だからもうすぐボクも失業と

   なるかもしれないんだけどね・・・ハハハハハハ・・・」

 

   「まあ~ それは大変ね! 

    でも貴方は夢や希望がいっぱいあるのね・・・素敵だわ!

    そうだわ! 私夕方までにこのお部屋お掃除して片付けてあげるわ

    いいかしら!」

と突然 美雪が言い出した。 

そしてそう言うが早いか美雪は早速食事の後片付けをするとテキパキと

掃除を始め、片づけをしだした。

 

   「さあ 祐樹さんはこのイスに座っていてくださいね。 

    口だけ動かして指示してくださいね・・・」

祐樹はそんなみゆきの動き回る姿を、まるで幻でも見ているかのように

ボ~っ としながら見つめていた。

 

 祐樹と美雪はそれからも時々会ったが、なにしろ祐樹の足の硬い石膏は

3ヶ月は取れず、松葉杖も離せず、仕方なく祐樹の部屋でデートする

ことが多かった。

そして美雪は動けない祐樹に代わって部屋の掃除や美味しい料理を

作ったりしてお互いの心は徐々に近づいていった。

そしてこの温かい交わりがこれからも続くものと、二人とも信じて

疑わなかった。

 

 

 祐樹の足の石膏がやっと外せる日がやってきた。

晴れて不自由な足と松葉杖から開放されるのだ。

祐樹は勿論だが美雪も自分のことのように喜んでいた。

  祐樹はこの間会社の配慮でデスクワークをしていたけれど、どうしても

仕事への情熱が別の所へと移っていた。

そして熟考の上、会社にやっとの思いで辞表を提出していた。

いろいろ引きとめ工作もあったけど、何とか受理してもらった日でもあった。

  祐樹は美雪に自分の夢を語り、自分の思いを告白する決意を

固めていた。 ところが・・・

 

    ・・・美雪のケイタイがつながらない・・・? 

   なぜ連絡がつかないんだろう?

   事故でもあったのかな? もっと自宅を詳しく聞いておけばよかった。

   いったいどうしてしまったんだろう・・・?

祐樹の不安がピークに達していた時、美雪からの電話が入った。

 

   「無事だったんだ・・・よかった!」

    「ごめんなさいね! 母が倒れたの! 飛行機に乗っていたりして

     ケイタイが使えなかったの! 今から最終の汽車に乗るので

     明日にでもまた電話するね・・・」

 

次の日の昼前、やっと待っていた電話が美雪から入った。

   「今~ 母と病院にいます。 大事には至らなかったけど脳梗塞が

    あって・・・ それに軽い認知症状もあってね・・・ それで・・・

    私~ 母一人子一人だからしばらく十勝にいなければならない・・・

    会社には事情を話して長期の休暇をもらったの・・・ 突然で

    いろいろ大変だけど母を一人にしておけないの・・・」

そう一気に話すと・・・ 

   「あっ! 先生が呼んでいるからまた後でね・・・」 

と 急いで電話を切った。

 

祐樹は呆然とケイタイを耳に当てたまま動かなかった・・・

  「もうこのまま会えないんだろうか・・・?」

 

 

 

(6) へ続く・・・

 


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<トンネルを抜けると白い雪> (6)

2016-02-16 | *みのおの森の小さな物語(創作短編)

 

トンネルを抜けると白い雪  (6)

 

 

 

あれから祐樹はいろいろ悩み迷った。

けれど 会社を退職したばかりなので、自分の選んだ仕事の

準備作業に没頭ししょうとしていた。

しかしその悶々とした気持ちをそれで紛らわせることは難しかった。

 

そんな時だった。

5ヶ月ほど前に申請していたドイツの大学から <クナイプ研究> の

ОK 返事が来たのだ。

 自分の新事業立ち上げにはどうしても勉強しておきたかった事

だったのだが・・・ あの頃はまだ美雪を知らなかった。  

しかし このままの心の状態で無為な時を過ごすこともできない。

    美雪の事が頭から離れない・・・

 

祐樹は何日も熟考のうえ決心し、美雪には半年間勉強してくる

から・・・ 詳しく内容を伝え、帰国したら一度十勝を訪問したい旨を

伝えた。

 

 

 数日後 祐樹はルフトハンザ航空の機内で回想していた・・・

 

 ・・・あれは自分が10年前に会社に入社して間もない頃だったな~

  商社マンとしての新人研修が始まり、ドイツ・バイエルン州の

  ミュンヘン駐在員事務所に一年間配属されたが、

  それは厳しい毎日だった。

  慣れない語学力と仕事の内容にいつも月末にはクタクタになり、

  心身ともにボロボロ状態になっていた。

   そんな頃合を見計らったかのように会社の先輩は自分を

  外へ連れ出し、汽車で一時間程の郊外の森の施設へと

  連れて行ってくれた。

   大体2泊3日の短い週末を利用しての事だった。

  しかし、そこで過ごす日々は自分にとって芯から身も心も癒され、

  翌月はまた頑張れるという不思議な空間だった。

   <クナイプ療法> と言う言葉は、箕面の山歩きのときに

  勝尾寺山門前の階段脇の看板ではじめて見た。

   <・・・森林浴・・・ ドイツではクナイプ療法と言う・・・>

  その変わった名称だけが心に残っていたが、まさかそのドイツで

  自分が体験できるとは夢にも思っていなかったな~

 

それはバート・ウエーリスホーフェンという人口1.5万人程の

小さなの町にある「森林保養所」だった。

クナイプ療法というこの自然療法はドイツでは健康保険が適用

される公的な医療機関で各地の森に点在している・・・

  例えば沢山の散策コースが用意され、森林浴のできるコース、

温水冷水浴法、森を散策してからの運動法、栄養バランスを

取り入れた食事法、アロマセラピーの植物法、心身と体の内外

の自然との調和を図る調和法などの治療から成り立っている

総合的な森林医療施設なのだ。

 

 それは専門の医師会や国の森林局が連携し、広大な森の中で

活動している。

その周辺には専用の提携ホテルや民宿が数多くあり、ドイツ国内

はもとより世界中から年間100数十万人が訪れる人々を

受け入れているのだ。

 その中には心理的に問題を抱えている子供たち、ストレスの多い

仕事人、心身を病む人々、認知症の人々など様々な人々がいて

何度もリピーターとして訪れる森の施設でもあった。

 

 自分が実体験をしてきただけに、これからの日本の社会にも

必要不可欠な施設だと確信していた。

それだけにドイツ駐在から帰国後、時々箕面の森の中を散策

しながら・・・ ここならいいな・・・! とか あちこち勝手に想像して

いたが、日本の行政や諸々の制度や法律に阻まれて動けない・・・

 それで父や兄にも相談していたが、それは遠い国のよくできた

制度だぐらいでいつも終わっていた。  

  政治とは何なんだ・・・ 誰の為にあるのか・・・

と そんな政治家の父と上兄の対応には不満だった。

 

 しかし自分の夢はいつしかさらに膨らんでいった。

    こんな森の施設を箕面の森に造りたい・・・ と。

 

 

季節はあの冬から夏を過ぎて秋を迎えていた。

祐樹は半年間のドイツでの研修を終え、帰国の途についた。

 成田空港に着いた祐樹はその足で札幌に飛び、十勝の美雪の

家を訪れた。

 

 「お帰りなさい!」

 

美雪は祐樹に飛びつかんばかりに満面の笑みを浮かべて

迎えてくれた。

 久しぶりに見る美雪は少しやつれていたが、笑顔の元気な

様子に祐樹は安心した。

母親はその後大きな後遺症もなく元気を取り戻したようで、

大歓迎で迎えてくれた。

 

 祐樹は広大な十勝平野を望む美雪の家で一週間を過ごした。

小さな家だけど温もりがあった。

横を小川が流れ、家の周りにはいろんな果物の樹が植えられ、

野草がいっぱい花を咲かせている。

祐樹と美雪はそんな野草の名前を交互に当てっこして遊んだ。

 

   ワン ワン ワン 

 

 「ミユキこっちへいらっしゃい!  この犬は母の飼ってる犬で

  ミユキっていうのよ。 雑種だけど私が東京へ出た頃、

  家の近くの森に捨てられていた子犬を母が拾ってきてね。 

  それで私がいなくて寂しいものだからミユキって私と同じ名を

  つけて母と一緒に暮らしてきたのよ。

  もう10年以上だからもうおばあさんのミユキだよね・・・」

とミユキを抱きしめている。

祐樹は滞在中、よくこのミユキと散歩し野山を一緒に駆けた。

 丘の上に立つと遠方に万年雪を抱いた十勝連峰が見える。

新鮮で気持ちのいい空気・・・

祐樹が箕面森町で望んでいた生活の想いがここには詰まっていた。

 

それから一ヶ月ほどして美雪は大阪に戻り職場に復帰した。

 「母が早く大阪へ戻りなさい・・・って 毎日のように言うのよ。

  それに先生ももう大丈夫でしょうから・・・ と言ってくれたの・・・」

でも美雪は母親の事がいつも心配で仕方ない様子だった。

 

 祐樹は箕面市内に事務所を構え、新しい自分の事業に生きがい

を感じつつ、夢と希望をもって活動を始めていた。

しかしそれ以上にもう一つ、自分の人生をかけ、どうしても

やらねばならない最重要な大切な事があった。

 

それは祐樹の人生で初めて、自らの意思で決断する日でもあった。

 

 

街中はクリスマスソングが流れ、華やかなイルミネーションに

飾られ キラ キラ キラ と輝いていた。

そして今日はクリスマスイヴの日・・・

 夕暮れ時・・・

美雪は一段とお洒落な服装をし、美味しそうな手作り料理を

両手に持って祐樹の部屋にやってきた。

 

 キャンドルを立て、ワインを傾けながらいつものように大笑いの

内に美味しいデイナーを終えた。

そして美雪がデザートを取りにいこうとしたのを静かに制して・・・

祐樹はおもむろに美雪の前に正座した。

そして祐樹は美雪の目をしっかりと見ながらしっかりした声で・・・

 

  「美雪さん  今日はボクから大切なお話があります。

   ボクは美雪さんを心から愛しています。

   ボクは生涯をかけて美雪さんを、愛し守りたいです。

   どうかボクと結婚していただけませんか・・・」

 

祐樹はもっと格好良く告白したかったけれど、いざとなると練習の

ようにはいかず、もう心の内から湧き出るそのままの気持ちを

素直に伝えた。

 

美雪は目にいっぱい涙をためながら・・・やがて笑顔で大きく

うなずいた・・・

 

   「よかった・・・!」

 

祐樹は世界に向けてこの喜びを叫びたい気持ちだった。

 

祐樹は美雪を静かに抱きしめながら、長い間そうしてお互いの

温もりを感じていた。

やがて祐樹はポケットから用意していた指輪を取り出した。

ビックリする美雪の顔を見つめ、そして左の薬指にゆっくりと

はめた。

それは小さなダイヤモンドが入った、美しい婚約指輪だった。

再び美雪の目から大粒の涙があふれた・・・

 

やがて二人は美雪の作ってきたデザートを食べながら、

その喜びのうちにこれからの事を語り合った。

 入籍は美雪の誕生日の3月1日に、二人で箕面市役所に行き

届出をする事にした。

 

そんな話をしているときだった・・・ 祐樹のケイタイが鳴った。

上の兄からだった・・・

 

 

(7) へ続く・・・

 

 


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<トンネルを抜けると白い雪> (7)

2016-02-16 | *みのおの森の小さな物語(創作短編)

 

トンネルを抜けると白い雪  (7) 

 

 

祐樹は上の兄からのケイタイをとった。

大きな明るい声で兄が話し始めた・・・

 

  「やあ~元気か? オレ来月から東京行きだよ。

   聞いてるかも知れんが前回の国政選挙で当選した霞さん

   だけどな、重大な公職選挙法違反で失職する事になってな・・・

   それで次点だった親父が繰り上げ当選になるんだよ。

   オレも次のこともあるんで親父の公設秘書として国会で仕事

   することにしたんだ・・・」

政治や選挙に余り関心のない祐樹は 

    「そうか それはよかったな!」 とだけうなずいた。

 

   「それに淳子も週刊誌で見てるかもしれんがな、日本で

    自分のファッションブランドを立ち上げることになって、

    春には銀座に店を開くと言うしな・・・

    そうそう  お袋もな有力な支援者が後押ししてくれて

    全国の教室も再開したしな・・・

     それにこの家も手放さなくてよくなりそうだし・・・

    やっと何とか先行きが少しづつ明るくなってきたな・・・」

 

    「そりゃあ よかった! よかったよ・・・ おめでとう~ だな

     ところでこの前 話したけどボクの大切な人を

     今度連れて行くからよろしく頼むよ」

    「それは分かった。 大歓迎だよ! その日は家族みんな

     揃って待ってるからな・・・」

祐樹は少し前実家に帰り、父母や兄姉らに今までのいろんな

いきさつを話しながら、美雪さんと結婚したい旨 しっかりと話して

いた。 そしてみんなから おめでとう! との快諾を得ていた。

 

祐樹は安堵のため息をつきながら美雪の顔を見た。

  「なにか良いことがあったみたいね・・・」

   「そうなんだよ 両親も兄姉も一気に仕事が決まりそうなんだ」

   「本当に! それはすごいわね! この厳しい時代によかった

   わね。 私の会社なんか業績悪化とかで社員のリストラが

   始まったわ。 ストレスでうつ状態になる人なんかもいてね

   だからせめて社員食堂に来てくれた時だけは美味しい

   食事をして貰いたいと思って心をこめて作っているのよ。

    そう言えば下のお兄さんは福島でボランテイアなさって

   いると言ってたわね・・・ 本当にすごい事だわ・・・ 

   私も短期間だったけど会社から派遣されて被災地に入った

   けど、それはすごい大変なものだったわ。 

   でも私被災者の皆さんに逆に力を頂いて励まされたわ・・・」

 

   「下の兄はあのものすごい惨状の中で働いていて

    人の心の温かさを感じたり、仕事のやりがいを感じたり

    して、パラダイムの転換というか、大きなショックを受けて

    人生観が変わったみたいだよ。 それでどうやらそこに

    住みつく覚悟のようだよ」

祐樹にとって兄が医師である前に、その地に人間としての

生きがいを見つけたことに大きな意義があった。

 

   「そうだ! それからね  うちの家族の揃う来月下旬に

    君をみんなに引き合わせたいんだ。」

    「私、少し怖いわ! 大丈夫かしら・・・」

   「両親や兄姉など もうみんなには話してあるからね。 

    大歓迎で待ってるからって今も兄が言ってたからね・・・」

聖夜 二人だけのクリスマスイブが静かに幸せの中でふけていった。

 

 次の日、二人はあのお気に入りのイタリアンレストランで

乾杯した。

 直前に結婚の聞いたマスターは・・・

  「 あっ あのときの方と!」 と大喜びし、急いで店を貸し切りに

するとバンド仲間らを呼び、近くの花屋さんからきれいな花を

全部買い込んで店に飾り、みんなで大いに歌い食べて飲んで

お祝いの宴をしてくれた。

祐樹も美雪もそんな友人らの温かいもてなしに心から感謝した。

 

 数日後、年末だけど祐樹は仕事納めが終わった美雪を

山歩きに誘った。

小雪がパラつく寒い中を、美雪はいつもの古い軽自動車で

祐樹を迎えにやってきた。

 あの日以来 祐樹は車を所有せず、いつも休日にはもっぱら

美雪の車に乗せてもらっていた。

祐樹が助手席に乗ると・・・

  「出発で~す! お客様どちらまで参りましょうか?」 

なんておどけて笑っている。

 

二人は一年ぶりにあの <expo‘90 みのお記念の森> へ

向かった。

 

 「結婚したら次はエコカーを買おうよ・・・」

  「嬉しいわ! 私この車中古で買って10年目なの・・・

   無理しないでね  安くて小さくて燃費のいい車がいいわね」

祐樹は一年前、イタリア製の高級スポーツカーを処分したが、

美雪の望む車が10数台買えそうだ・・・と思った。

 

 「まあ~ ここへ来るのは一年ぶりだわね・・・

  ものすごく遠い昔の事のように思えるわ・・・」

 二人は山靴に履き替え、リュックを担いで山道に入った。

細い道はバリバリに凍っている。

冷たい風が音をたてて吹きすさぶ・・・寒い!

しばらくそんな道を登ると・・・

 

 「あっ ここだったわね・・・貴方が倒れていたところ・・・」

祐樹はあらためて美雪に心からの感謝とお礼を伝えた。

そしてふっと北側を見ると・・・

 「あれ!?  そうかこの尾根から見えるんだ・・・」

冬枯れの森で、枝葉を全部落とした樹木の間から視界が広がり

眼下に箕面森町が一望できた。

 

 「そうだ! 美雪さん ボクはあそこに見える町に、小さな小屋を

  持っているんです」

祐樹は自宅の庭の角に建てた作業小屋のことを笑いながら

説明した。

 「六畳ぐらいの小さな部屋だけど、君さえよければ二人の

  新居にしたいと思っているんだけど・・・ ハハハハハハ」

  「わ~ 素敵! 早く見たいわ! あそこにあるのね・・・

   嬉しいわ! 私 貴方と二人ならどんな所でも幸せよ・・・」

そう言うと二人は予定を変更して引き返し、再び車に乗った。

 

祐樹は箕面森町の家へあれから何度か一人で行ってみた。

全てを処分するつもりでいたけれど、美雪と出会いひょっとして~

との思いがあり、車以外はそのままにしておいたのだ。

 そして千里中央から直通バスで25分程なので、庭に植える

果樹の木や花、野菜の種などを持って行き少しづつ整えていた。

 それはあのドイツからの帰りに十勝を訪れ、美雪の母親と三人で

過ごした一週間の間に考えていた事だった。

 

  ・・・この箕面森町なら山々に囲まれた緑の中にあるし、

   十勝での生活環境が造れるかもしれない・・・ 

   今まで一人で暮らしてきたお母さんもここなら一緒に生活

   できるかもしれないし・・・

    それに花壇や菜園を作り、お母さんの得意な料理にも

   生かしてもらえるし、何よりあの大切なミユキ犬が

   ここなら存分に一緒に遊べる・・・

 

  「祐樹さんはなにをニコニコしているのかな・・・?」

   「いやいや 何でもありませんよ・・・後二日で新しい年だね。

   新しい人生が始まると思うと嬉しくて幸せだな~ と思ってね」

  「私もよ・・・祐樹さんありがとう・・・」

 

少し涙ぐみながら美雪の運転する車はトコトコと <坊島> の

入り口から初めて通る <箕面グリーンロード> に入った。

そして全長6.8kmのトンネルを7分程で走り抜けると

<下止々呂美> の出口に出た。

 

 「まあ~ 大阪でお正月前に珍しいわね・・・ 見てみて真っ白よ!

  とってもきれいな雪だわ・・・」

 

祐樹は箕面の山々を装う美しい雪と、妻となる美雪の笑顔に

魅入っていた。

 

(完)

 

 

 

‘16-2月 撮る

  画面をクリックすると拡大へ)

 

 

鉢伏山の尾根道から見る 箕面森町

            

         

          

 

           

         

 

 

箕面森町の風景

      

      

 

 

府道から高山への道

         

 

 

高山の村落から

           

          

 

 

高山から明ヶ田尾山への山道

         

            

 

 

  

 

 

 

 


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教学の森から前鬼谷へ

2016-02-09 | 箕面・冬のハイキングガイド

 

‘16-2-7  

 

 

澄み切った青空に白い雲・・・

今日も大好きな冬の森へでかける。

 

 

桜井駅前から新稲の里、小川口から教学の森へ入り

さえずりコースを上る

 

 

 

            

 

   

   

 

 

 

 

憩いの丘--わくわく展望所を経てゴルフコース脇道を北へ

            

 

 

 

 

                 

 

                

 

 

 

 

前鬼谷へ入る

 

                 

 

 

 

 

前鬼谷を下り、落合谷へ

           

 

  

 

 

 

                 

 

 

 

                

 

 

   

 

落合トンネルを抜け瀧道へ 

すぐ桜道へ

          

 

 

桜道から一の橋 橋本亭前に下り、箕面駅前へ

 

            

 

 

 

時折り小雪の舞い散る寒い日だが、森の空気は凛として

気持ちいい・・・

3時間ほど、今日も冬の森を満喫した。

 

 

 

 

 


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谷山谷から地獄谷へ

2016-02-09 | 箕面・冬のハイキングガイド

 

16-2-6  

 

 

今日は箕面・白島(はくのしま)まで歩き、谷山林道、谷山谷、

才ヶ原の森から地獄谷を経て、化石谷を下り瀧道へ出る予定です。

 

 

白島東から北の谷山林道へ

   

 

 

薩摩池、五藤池ではキンクロハジロ、カイツブリやアオサギなどが

狩りをする

            

 

 

 

谷山谷に入る

           

          

 

  

              

 

 

            

 

 

分岐点から才ヶ原の森へ

         

 

 

 

 

才ヶ原池にて一休み

         

 

 

 

 

地獄谷を下る

            

 

 

          

 

 

 

         

 

  

              

            

 

 

 

 

望海の丘展望所から

      

 

 

 

化石谷を下り、瀧安寺前の紅葉橋につく

           

      

 

 

 

 

瀧道から箕面駅前へ

         

 

 

 

 

ゆっくり3時間ほど、冬の森を楽しんだ。

 

 

 

 

 


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運命の出会い (1)

2016-02-04 | *みのおの森の小さな物語(創作短編)

 

箕面の森の小さな物語 

              (創作ものがたり  NO-13)

 

 

 

 

運命の出会い   (1)

 

 

 「さあ 今日はどこを歩こうかしら・・・」

 

箕面の駅前から西江寺の裏山を上り、聖天の森からヶが原林道へ出ると、

もう初秋の涼しい風が吹いている。

 渡辺まり子は今日も一人で森の散策に出かけた。

 

地獄谷からこもれびの森に向かう途中 東に折れて才ヶ原池で

一休みする事にした・・・ 

  ・・・今日は釣り人が一人もいないようだわね・・・ と独り言をいいながら、

少し出始めたススキの穂が数本 穏やかな風にゆっくりとなびいている。

池畔を周り、いつも座る石のベンチに向かうと・・・ 

どうやら先客がいるようだ。

 

   「こんにちわ!」 

   「あっ  こんにちわ!」    

見るとまだ少年のようで運動靴に普段着の服装、棒キレを一本もった

だけの軽装です。

まり子は自分の山歩き用の完全装備スタイルと余りにも服装が違い、

思わず苦笑してしまった。

   ・・・どこからきたのかな・・・?  

そう思ってもう一度声をかけようとして再び顔を見ると・・・

 

   「あれ!  どこかで見たような顔つき・・・?  

     思い出したわ・・・  貴方と一度会ったことあるわね?」

   「え! そうですか・・・?」

彼はまり子の顔をマジマジと見つめつつ首を振ってる・・・

 

   「そうか! あれは私が見ただけで、貴方は見てないものね・・・

     あれは・・・? そうだわ・・・ 奥の池じゃなかったかな?  

     一人で池を見てたわ・・・

     こんな山の中の池で少年が一人で池を見つめているなんて・・・ 

     どこかありえないと思ったので、印象に残っていたのよ」

   「そうですか・・・ ボク、池を見るのが好きなんです」

   「なんで?」

   「なんでかな?  だって森の中は静かでしょう・・・

    でも、池には波があって揺れているし、鳥もよく飛んでくるし、

    それに魚もいるし・・・  

    じっと見ていると、ボク一人じゃないからかな・・・」 

   「そうか・・・」

   「あ!  どうぞ・・・」 

  

少年は端に座りなおし、まり子に座り場所を空けた。 

   「ありがとう!  ところで貴方はいくつなの? 何年生なの? 

    どこからきたの?  いつも一人なの・・・?」   

また自分のお節介が始まったと心では思いながらも、少年に興味を持った

まり子はいつしか少年への質問を連発していた・・・

   「ボク!  13です、中学一年です・・・  

     この山の下におばあちゃんと二人で住んでます・・・  

     ボク! 山が好きなんでいつも一人で歩いてます」

 

言葉づかいが今時の若者にない喋り方に、まり子は先ず好感を抱いて

いた。

しかし もう仕事を離れて大分経ったのに、いつまでも抜けない自分の

詮索好きに注意していたのだが、また出てしまった・・・  

そう思ったとたん・・・

   「そうだ!  オバサンの作った卵焼き、よかったら食べて

     くれない・・・?」

   「 卵焼きですか・・・?」

   「オバサンね・・・  自慢じゃないけど料理作りが得意でね・・・ 

     いつも美味しいもの作っては楽しんでいるのよ・・・ 

     でもね、一人なので味見してもらう人がいないと張り合いが

     ないでしょ・・・ だから・・・」

そう言いながらまり子は、二人の座った間にすばやく自分の今日の

お昼ご飯を並べた・・・

 

   「わー! きれいですね・・・ 美味しそう!」

   「どうぞ どうぞ!  よかったら他の物も食べてみて・・・」 

   「いいんですか?  じゃ頂きます・・・」

そう言うと少年は、先ず卵焼きから手をつけて口に運んだ・・・

 

  「わー美味しい!  美味しいですね・・・  

   こんな美味しい卵焼きは初めてです・・・」

まい子は本当に美味しそうに食べてくれる少年を見ていると嬉しくなって

しまった。

   「このサンドイッチも美味しいわよ」

   「頂きます・・・  あ! オバさんのがなくなっちゃう」

   「いいのよ! オバサンね・・・ こんなに美味しそうに食べて

      くれる人は初めてなので、胸がいっぱい!  

      お腹もいっぱいなのよね・・・ハハハハ!」

と、なぜか泣き笑いになってしまった。

 

   「ボク、卵焼きを作るのが得意だったんですが、

    こんなに美味しいの作れないな・・・」

   「ボクちゃんが作るの?」

   「はい! おばあちゃんに作ってやると喜ぶんで・・・ 

     ボク、小学校の家庭科の実習で初めて卵焼きを作ったとき、

     先生に誉められたんです・・・ 

     それからボクがご飯を作るときは玉子買ってきていつも

     作るんです・・・ 

     こんなに美味しい卵焼きが作れたらきっとおばあちゃん喜ぶ

     だろうな・・・」

   「そうなの!  でも私のは簡単なのよ・・・ 先ずだしをこうしてね~」

それからしばし卵焼きの講習が始まる・・・  

まり子はまさか少年を相手に、森の中で卵焼きの作り方を教えようとは

夢にも思わなかったが しかし、なぜか幸せな気持ちがして嬉しかった。

 

すると突然に・・・

    「あ!  忘れるところやった・・・ 

    すいません、おばあちゃん迎えにいくのでボク帰らなくちゃ・・・  

    オバさんありがとう  ごちそうさまでした!」

そう言うとボクちゃんは棒キレを持つと、あわてて飛ぶように行って

しまった。

 久しぶりに我を忘れて楽しいおしゃべりに花を咲かせただけに、

まり子は膨らんだ風船が急にしぼむように、この僅かな一時の現実が

まだ飲み込めないまま、心が深く沈んでいってしまった。

 

まり子は保険会社のエキスパートとして30年以上も第一線で働いてきた。

女子の幹部候補一期生として採用され、仕事が面白くて面白くて・・・ 

いろんな男性とのチャンスもあったけど仕事を選び、とうとう一人身で

定年を迎えてしまった。

 お陰で箕面の山麓に新しいマンションも買えたし、蓄えもできたし、

同年輩の女性より高い年金を貰い、老後の経済的な心配はないけれど、

こうしていざ一人になってみるとなぜか無性に 淋しい、空しい といった

気持ちになってしまうときがある。

 友達も沢山いるし、かつての自分のお客さまで、今も新聞やTVで活躍を

されている方々の中にも いまだに マコ マコ! と、親しく呼んでくれて

御付き合いの続いている方も多いので、自分は恵まれた人生を過ごして

きたんだといつも感謝して過ごしているのだが・・・  

しかし いつも何か? 物足りない思いが消えないでいるのだった。

 

唯一 箕面の森を歩いている時は心が安らぎ、自然のもつ包容力が心を

癒してくれたので、森の散策はもう何年も長く続いていた。

いくら得意な料理を作っても、それをいつも美味しいと喜んで食べてくれる

人はいない・・・  一人でそれを食べる時の空虚感は拭いきれなかった。

それだけにあの日 あの少年の美味しそうに食べてくれた笑顔が

忘れられない・・・  

   ・・・もう一度会ってみたい・・・

  

まり子は週に1~2回のペースで箕面の森の一人歩きを楽しんでいたが、

いつも自分の気持ちを大切にしながら、心のおもむくままに、ゆっくりと歩い

たり、浸ったり、気を使わないマイペースの一人歩きが好きだった。

あれから森を歩くたびに キョロ キョロ と周りを見回すようになり、

いつもどこかの山の池をコースに入れるようにしていた・・・ 

だからそれまでのゆったりとした癒しの散策から、人探しの歩きになって

いるようで本末転倒だわね!  と 笑いながらも自分の心をごまかす

事はできなかった。

 

いつしか秋も深まり、箕面の森も見事な紅葉につつまれていく・・・  

まり子は瀧道のすごい人並みを避けて森の奥に入り込み、人のいない

絶好の穴場で一人、紅葉狩りを楽しんだりしていた。

やがて寒い北風が吹くようになると箕面の山も静かになり、鳥たちの賑や

かな歌声だけが響いている・・・  しかし、強い風が吹くと落葉する樹木が

踊っているようで、沢山の鳥の鳴き声と合わせ、まるで大交響楽団の

クライマックスのような響きにとなり、まり子はその自然の感動を味わって

いた。

 

やがて冬がやってきた・・・

ある寒い朝、まり子が新聞をみると、箕面の池にシベリアから

キンクロハジロ今年初飛来した・・・ との記事があったので、

その日早速行ってみることにした。

いつもの冬の山歩きの完全装備スタイルで・・・  我ながらちょっと大げさ

な格好かなと思うけれど、何度か恐い思いをしてきた事もあり、

箕面の山は低山とはいえ、自然は決して侮れない事を体験してきたので、

これでいいのだ・・・ と、改めて納得しながら家をでた。  

今日も紅茶の入った温かなポットに、いつもの特別弁当を持って・・・

 

箕面山麓線の白島から谷山・巡礼道へ向かうと間もなく薩摩池がみえ、

やがて大きな五藤池が見えてきた。

まり子はリュックを下ろして池畔に目をやると、先ず潜水の上手な

カイツブリが5、6羽いる・・・  その手前にはきれいなオシドリの夫婦? 

がいて、先にはマガモが10数羽、波間に浮かんでいる・・・ 

オスの緑色の頭部が鮮やかだ・・・ 

この池にはいつも沢山の水鳥たちが羽根を休めている・・・  

それにしても肝心のキンクロハジロはどこにいるの?   

双眼鏡で眺めていると、遠方から二羽のアオサギが飛び立っていった・・・  

この寒いのに、みんな元気だわね!  なんて独りごとを言いながら、

双眼鏡を覗いている時だった・・・

突然後の方から大きな声がした・・・

 

   「オバさん!」

 

   「えっ!」

 

余りにも突然だったのでまり子はビックリ! 

振り返るとあの時のボクちゃんだ。

   「ボクちゃんじゃないの!  なつかしい  うれしいわ」

まり子は感情が高ぶり、思わず抱きしめたくなるような気持ちをおさえた。

 

   「会いたかったのよ! ボクちゃんに・・・」  

まり子の目からなぜか嬉し涙がこぼれ落ちる・・・

   「どうしてたの?  元気だった?  あれからオバサンは

      ボクちゃんに会えないかなと思って、才ヶ原の池やいろんな森の

      池も回ったのよ・・・  

      どうしてたの?  元気だった?  何かあったのかと心配してた

      のよ・・・ 連絡先も分からなくてね・・・」

まり子は同じことを聞きながら、またお節介虫を発揮して、

つぎつぎと質問を浴びせていた・・・

 

   「あ!  ごめんね!  オバサン一人で喋ってるわね・・・」

一度会っただけの少年なのに、何でここまで気持ちが入ってしまうのだ

ろうか?

それをニコニコしながら聞いていたボクちゃんが、それには応えずに・・・

   「オバさん!  これから山へ行くの?  

      ボクも一緒に行っていい?」

   「勿論よ!」

まり子にとっては願ってもない言葉だった・・・

 

   「オバさん 鳥を見にきたの・・・?」

   「そうなの!  今日新聞でこの池にキングロハジロが越冬する

      ために飛来したって書いたあったからなの・・・」

   「それならさっきみんなで一緒にどこかへ飛んでいったよ!  

      そのうち帰ってくると思うけど・・・」

 

 

ボクちゃんは相変わらず棒切れ一本をもっただけの軽装だった・・・

 

 

(2)へ続く・・・

 

 

 


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運命の出会い (2)

2016-02-04 | *みのおの森の小さな物語(創作短編)

 

運命の出会い  (2)   

 

 

 

   「そんな格好で寒くないの?  風邪引かない?  のど渇かない・・・ 

     あ! また、いらぬお節介してしまったね!  ごめんね!」

    「大丈夫です・・・  いつもこの格好ですから、  

      それに4時間ぐらいなら水もお腹も我慢できますから・・・  

      それにおばあちゃんが心配するから、そんなに山奥までは

     行かないし・・・

     でも今日は施設に一泊するので時間はあるんだよ」    

 ボクちゃんは3ケ月前より少し痩せたようだった・・・

 二人は嬉しそうに仲良く並んで、水神社から谷山尾根を登り、巡礼道へ

 向かった。

 

 

   「そう言えば前に会ったとき、急におばあちゃんを迎えに行く

      ような事いってたけど、大丈夫だったの?」  

 ボクちゃんは少し暗い顔になりうつむいてしまった・・・

 まり子はまたまた要らぬ事を聞いたかな? と思ったけれど、

あれから づ~ と気になっていたことを聞いてみたかったのだ。  

 

   「あの日は、おばあちゃんが施設から帰ってくる時間だったんです。」

そういいながら、少年はやがてゆっくりと話し始めた・・・

それから約1時間、溜まりたまっていた心の内から、まるでその栓が

抜けたように、一気に少年の思いが溢れ出した。

 

 少年の祖母はだんだんと認知症状が進み、もう孫の顔も時々忘れるような

状態とのこと・・・

家族は・・・ 父親がいるようだが、幼稚園の時に一度だけ会っただけで

それ以来ずっと会っていないようで、今はフイリピンで家庭を持っている

お祖母さんから聞いたことがあるとのこと・・・  

 母親は自分の出産の時に事故で亡くなったと聞いているようだ。  

 そして母親の実家であるこの箕面山麓の古い家で、祖母と二人で

生活してきたとのことだった・・・ 

 

 トイレに一人でいけないような祖母、自分の顔も忘れかけている祖母の

介護も含め、13歳の中学一年生が一人で家を守り、学校から日々の

生活まで必死で賄ってきている姿を、まり子は涙ながらに聞いていた。

 それにある日のこと、祖母が入院した時に遠い親戚だという会った事もない

人が家に訪ねてきて、一晩無理やりに泊まっていったとのこと・・・ 

 そして通帳はどこだ?  保険証はどこ?  印鑑は?  現金は? と、

勝手に家中捜しものをしていたらしい・・・

まり子は自分の中学生活を思い出して、なんとボクちゃんの生活が過酷で

悲惨な思いをしているのかと、また新たな涙が頬を伝った。

 

話しの合間に、まり子も自分の身の上話をしたが、余りにも少年との格差を

感じ、話しながらも改めて少年の身の上に愕然とするのだった。

 しかし まり子が自分の心に素直に、こんなにも正直に包み隠さずに、

自分の身のうえ話しを他人にしたのは初めての事だった・・・

あの森の自然の中でつつまれる安心感、穏やかさと同じような不思議な

感覚、しかも13歳の少年を相手にして・・・  なぜ?

 

巡礼道を登りきると七丁石の分岐点にでた・・・

    そうだわ ボクちゃん!  少し早いけどお昼にしない?  

     卵焼きあるのよ!

    え!  本当ですか?  

     ボクあれから家で何回も作ってみたけど、オバさんの

      あの美味しかった卵焼きは絶対できませんでした」

まり子は嬉しくなってしまったけれど、ずっと話を聞いてきたので、

逆に不憫に思えて悲しくなってしまった。

 

七丁石の横に丸太を二本並べたベンチがあったので、二人はそこに

座った・・・

尾根道とはいえ周りを森に囲まれていて少し寒い所だが、二人とも心は

とても温かかった。

 まり子はこの3ヶ月間、いつボクちゃんに会ってもいいように、

いつも少し大目の特別弁当を作っていた。

しかし今日までその期待は外れ、いつも山から帰ると余ったおかずが

夕食代わりになっていた。    でも今日は違う!

 温かな紅茶を蓋カップにそそぐとお弁当を広げた・・・

 

    「オバさん!  美味しそう!  これみんな食べていいんですか? 

      嬉しいな・・・  頂きます!」

 その笑顔を見ているだけで、まり子はもう胸もお腹もいっぱいになって

しまった。

    そうだ ボクちゃん! オバさんはやめてくれる! 

     オバさんの名前言ってなかったわね・・・ 私、まり子・・・ 

      マコちゃんでいいわよ・・・ よろしくね!」 

    ボクも、ボクちゃんは少し恥かしいです  たかおです 

     祖母はタカちゃんと呼んでますが・・・」

    じゃあ決まりね!  マコちゃんとタカちゃんね・・・ ハハハハ!」

 

50歳も違う二人の、何とも不思議な取り合わせ? 

それからも二人の話は尽きず、とうとう夕暮れになってしまった・・・

離れるのが辛いぐらいだったが、今日は夜に学校の先生の家庭訪問が

あるらしい・・・

いろいろ心配されている人もいるようで少し安心はしたけれど・・・

   マコの携帯を教えておいてあげるね・・・ 

    何かあったら電話していいのよ!

    それに住所はこれよ・・・ あの山裾にあるマンションよ  

   近いでしょう!」

 まり子はめったに人には教えない個人情報を、あっさりとタカちゃんには教え

 ながら、それが当たり前のようにしている自分が不思議だった。

 そしてそれが辛い日々の始まりになるとは思いもよらなかった・・・

 

 

あの日からもう一ヶ月が経ったのに何の連絡もない・・・

まり子はいつかいつかと思って、寝る時さえ携帯を枕もとに置いていた。

そして更にもう一ヶ月が過ぎていった・・・ 何かあったに違いない・・・?

タカちゃんの家の事は大まかに聞いたので,山への行き帰りに何度も

それらしきところを探しみたけれど分からなかった・・・ 

住所を聞とけばよかった・・・  

あの子は携帯を持っていなかったし・・・  でも、あの時は未成年に住所や

電話などを聞くのはまずいと思ったので、自分の携帯と住所を教えておいた

のだけど・・・

あれだけ再会できて喜んで、なんでも聞いたつもりで、もうタカちゃんの事は

分かったつもりでいたけれど、全く分かっていなかったのだ。  

   ・・・話を聞かなければよかった・・・

 

あの時・・・

   「どうして山が好きなの?」  って聞いたら・・・

   「ボク 辛い時や悲しいとき・・・  涙がいっぱい出てくると

    小学校の時から家の裏の山の中に入って行って、一人で大泣き

    してたんだ・・・  

    家で泣くとおばあちゃんが心配するから・・・  

    すると森の木や枝や風や小鳥や草花達が何か応えてくれるように

    話し掛けてきてくれるんだ・・・  

    そしたら心が落ち着いて枯れ葉の上なんかですぐに眠って

    しまうんだ・・・  

    目がさめると、もうみんな吹っ飛んじゃって気持ちがいいんだよ」

    そうだったの・・・」  

まり子はタカちゃんの顔を食い入るように見ながら・・・

   「将来の夢はあるの・・・?」

   「 ボク、山が好きなので山小屋建てて、山岳ガイドになったり

      して?  ハハハ・・・ でもね、それじゃお金儲からないから・・・ 

      きっと!  だからボク料理も好きだから調理師もいいかな? 

      なんて思っているんだけど・・・  

      そしてね! やさしい奥さんもらって、子供をたくさん作って、

      楽しい家を作るのが夢なんだ・・・」

 

13歳にして人生の辛酸をなめ尽くしたのに・・・ なんて温かい事を言う

なんだろう・・・  まり子はそのいじらしさに本当に抱きしめてやりたい

気持ちでいっぱいだった・・・

   「オバサンが・・・(そう言いかけて)  しまった!  

     マコが料理を教えてあげようか・・・?」

   「本当ですか!  うれしいな・・・  オバさん・・・  

     あ! マコちゃん・・・ 言いにくいな・・・  

     マコさんでいいですか?」

   「 いいわよ・・・」 

   「 じゃ! マコさんの料理最高だからボク教えて欲しいな・・・  

     きっと上手になるよ・・・  いつから?」

   「いつでもいいわよ・・・」  

そんなやり取りから自分の携帯と住所を教えて、学校の帰りにでも

立ち寄ってくれたらと思っていたのだった。

 

そしてそれ以来、いつ訪ねてきてもいいように道具もそろえ、部屋もきれいに

して今日か 明日か と待っていたのに・・・  もう二か月・・・  

どうしてあの子の事がこんなにも気にかかり、今の自分の生活の最大の

関心ごとになってしまったのだろうか・・・

まり子は気持ちを切り替えようと、いろんな事をやってみたけれど

ダメだった。

いつも最後には思いだしてしまう・・・  どうしているのかな?  

タカちゃん!

  

 そんな悶々としたある夜の事・・・  携帯が鳴った・・・見ると

  「非通知表示」・・・

また迷惑電話?  でも何だか胸騒ぎがして携帯をとってみた・・・

   「もしもし・・・」

   「あっ オバさん・・・  ボクです」

   「タカちゃんなの?」

   「はい!  オバさん・・・  いやマコさん・・・  

     ボク今から遠い親戚の家に住む事になって・・・  

     今から出発なんです・・・ いろいろありがとうございました・・・  

     ボクね・・・  本当は料理を教えて も  ら ・ ・ ・」

 

その時、10円玉がきれたのか?  ピーという公衆電話の切れる音が

した・・・

   「タカちゃん待って、タカちゃん待ってよ・・・  そんなの嫌よ・・・ 

    待って・・・」

 

まり子はピーとなったままの携帯を握りしめたまま泣き崩れてしまった・・・

自分がどうする事もできない現実・・・

 

 

 

(3) へ続く・・・

 


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運命の出会い (3)

2016-02-04 | *みのおの森の小さな物語(創作短編)

 

運命の出会い  (3)

 

 

 

 まり子はそれからしばらく家にこもり、悶々としたうつ状態になって

しまった・・・

友達やかつてのお客さんまでもが・・・

  「 どしたんや!  何があったんや・・・ 元気だしや!  と、

心配してくれたけど、自分の気持ちをどうする事もできない・・・  

またかつてのあの空虚な日々を感じるようになっていた。

森へは行かなくなった・・・  料理も作らなくなった・・・  

人と会うのも億劫だった。

 でも週1回、仕方なくスーパーへ買い物に出かけるのが、唯一の

外出になってしまった。  

たまに年格好の似た少年が母親と買い物などしていると、羨ましく

感じたりしていた・・・

 

まり子の同級生で20歳で結婚したサトミには、もう40歳を過ぎた子供が

いるし、その子の子供は確か中学生だったから、サトミにはタカちゃんと

同じ13歳位の孫がいるんだ・・・  

まり子には子供がいないけれど、孫のようなタカちゃんとたった数回の

出会いなのに、どうしてこんなに心が乱れるんだろう・・・?

まり子は60数年の人生で初めて感じる異様な自分の高ぶりを押さ

らずに、その感情に翻弄されつづけていた・・・

 

あっという間に冬が過ぎ去り、梅や桃の花が咲き、野山も新芽に溢れ、

鳥も、昆虫も、動物も、植物も、樹木も・・・  

箕面の森も生き生きと活動しはじめた・・・  

もうひと月もすれば箕面の桜、エドヒガンも咲くだろう。

 

その日も、まり子は一週間の買い物に行き、帰りもボンヤリと無気力な

表情でエレベーターに乗り、自分の部屋の階で下りた。  

廊下を歩いていると、前方に座っている人がいる・・・?

しかも、自分の部屋の前で・・・

   「 恐い!  だれ?」

一瞬そう思ったけど、その人が顔を上げてこっちを見た・・・

 

   「え!  まさか・・・ まさか タカちゃん!?  ほんとうに!  

       タカちゃんじゃないの!」

 

気が付いたタカオも立ち上がって駆けてきた・・・

二人はダッシュしてぶつかるようにして無言で抱き合った・・・   

涙がとめどもなくあふれてくる・・・

  

    「うれしい・・・  うれしいわ!」

 

長い間嬉し涙を流していたけれど、マンションの廊下である事に気がついた

まり子はあわててドアのカギをあけて、初めてタカオを部屋へ入れた。

タカオの荷物は薄汚れたリュックが一つだけだった。

 

二人が少し落ち着いた頃・・・  タカオがボソっと話し始めた。

 

   「 あの~ ボク家を飛び出してきたんです・・・  

     それで、もう帰る家がないんです・・・」   

それを聞いたまり子は・・・

   「 え! そうなの・・・ でも心配しなくていいのよ 

     もうどこへ行かなくてもいいの! 

     オバさんの・・・いやマコのこの家にいたらいいのよ・・・  

     ずっとここにいていいのよ・・・ 

     いて欲しいの・・・  

     マコが助けてあげるから心配しなくていいのよ・・・  

     ここにいてね・・・」

まり子はもう懇願に近い声になっていた。

 

   「お腹すいたでしょう・・・」

   「はい!」

   「じゃあすぐ作るから、その間にそこのお風呂に入ってさっぱり

     しなさい・・・

     下着は明日買ってあげるから、それまで・・・  そうね、

     女物だけど新品だから、これ着ときなさいね」

   「はい・・・  ありがとうございます」

   「あのね、そんな他人行儀なこと言わなくてもいいのよ、

      遠慮しないのよ・・・」 

 

それからマコは自分の為に買ってきた食材と冷蔵庫にあるもので、得意の

鍋料理をさっさと準備するとコタツの上に並べた。

 

   「 さあ~お腹すいたでしょう・・・ お話しは後でいっぱい出来るから、

     さあ食べよう・・・」 

 

女物のパジャマを着たタカオが滑稽に見えたけど、そんなことより嬉しくて

たまらないまり子だった。   

話は夜明け前まで、途切れることなく続いた。 

 

タカオの話は悲惨だった。

遠い親戚という人は、おばあさんの預金通帳を探し出し、それを全部引き

出してしまうと、他にないのか・・・?  と、タカ君に迫ったという・・・  

そして、食わしてやっているんだから、中学でたらオレと一緒に工事現場で

働けよ・・・ と、言われていたとか・・・

更にその家の1歳年上の男の子から、ひどいいじめを毎日のように受けて

いたとか・・・  養父は怒ると棒で殴り、酒を飲むと更に恐い人になるので

いつもビクビクしながら小さくなって過ごしていた様子を細かく聞いた・・・  

なんてひどい人たちなんだろう・・・

まり子は怒りが収まらなかった・・・

 

疲れて眠りについたタカオを横に、まり子は次々と手順をメモし、

頭はフル回転していた。

長年培った仕事の手順や段取りを立てるが如く、それに更に怒りと

愛情が絡まってそのスピードは加速していた。

 

朝9時になると、まり子は早速 かつてのお客様で今はいい飲み友達の

弁護士、司法書士、社会福祉の主事、元警察署長、元学校長・・・ と、

次々と事情を詳しく話して相談し、必要な手配、手続きはすぐにとって

もらっていた・・・

みんなは、まり子が最近落ち込んでいる事情が分かり、迅速に

手配してくれて、もうその日の夕方にはタカオの今の養父先にも

警察関係者が事情を聞きに行ってくれた。

 

 そんなまり子の真剣な姿を一日中見ていたタカオは、その夜 

あの汚れたリュックの一番底からから油紙につつんだ封筒を取り出し、

まり子に渡しながら・・・

 

   「 マコさん!  これはおばあちゃんがまだ元気だった頃、

      ボクに渡してくれた物なんです」

   「 なにそれは・・・?」

   「 ボクは知らないんだ・・・ でも、おばあちゃんがその時、

      <これはもし私に何かあった時、お前が最も信頼できる人と

      思った人に開けてもらいなさい・・・> って言われたんだ。 

      ボクはマコさんに開けてもらいたいんだけど・・・」

   「え!  私でいいの!」

   「はい!」

 

まり子はゆっくりと油紙をはがしながら、取り出した封筒の中には分厚い

手紙が入っていた・・・  そこにはしっかりとした文字で・・・ 

自分がもしもの時に、一人残される孫の事を思い、タカオの詳しい

成育歴から両親の事、遺す財産、保険明細からその関係先、

更に押印した遺言状まで入っている・・・  

そして最後には、どうか孫をよろしくお願いします・・・  と、

それは切実な懇願の文面が綴られていた・・・

 

   「タカちゃん!  これは親戚の叔父さんには見せなかったのね」

   「勿論だよ・・・  だってボク全く信頼してなかったもん・・・」

   「マコは信頼してくれるのね・・・」

   「勿論だよ」  と ニコニコしている。

 

まり子は次の日も、それら祖母の手紙など持って関係先を回り、夕方 

タカ君を連れて友人の弁護士事務所を訪ねた・・・

そこには連絡を受けた関係者も加わり、祖母の熱い思いが伝わり、

遠い叔父との縁組解除、祖母のお金の返還訴訟から、転校などを含む

いろんな手続きは順調に進んだ・・・  

そして最後に弁護士はこんなことをアドバイスして、まり子を驚かた・・・

 

   「マコちゃん!  これは二人はもとより関係者や裁判所の同意なども

    いるけど、改めて養子縁組もできるんだよ・・・

   「 え!  ようしえんぐみ・・・?  私とタカ君が・・・?」

  

最初、何のことか分からなかったまり子は、弁護士の説明に目をくりくり

させていた。   

ところがまり子が横にいるタカオに目をやると、ニコニコしながら

   ウン ウン! 

と OKのVサインを出しながらうなずいているので、更にビックリして

しまった。

それはその何分かのやり取りで、二人の養子縁組があっという間に

整ってしまったのだった。

 

数日後、まり子はタカオとおばあちゃんがいる施設に向かった。

認知症患者の病棟は、丁度お昼ご飯時だっけれど、事前に事情を

話してあったので、まり子はタカオとおばあちゃんの席の前に座り

話し始めた。

   「おばあちゃん!  元気だった?」  とのタカオの問いに・・・

   「この人はだれ?」  という顔で、孫の顔を見ている。

まり子は挨拶して自己紹介をすると、ゆっくりとタカオとの出会い、

いきさつ、経過、そしてここ何日の出来事、更にその後の事情、

そして思い切って養子縁組の話まで一気に話した。

 

施設の人も横で話を聞いていてビックリした様子だったが、

   「よかった!  よかったわ!」 

と、手をたたいてくれたが、おばあちゃんは相変わらず

   だれの話か?  何のことかな・・・?  と、全く反応はなかった。

まり子とタカオは、予想はしていても少し寂しかった。

 

  「 おばあちゃん!  また来るからね・・・」  

と、言いながら二人はドアへ向かった・・・

 

するとその時!  介護の人が 「 あ! 」 と声をあげたので

振り返えると・・・

あのおばあちゃんが ヨロ ヨロ と立ち上がり、まり子とタカオに向かって、

深々とお辞儀をしているではないか?   

    「まさか!?」   

まり子は涙でいっぱいになりながら、心を込めてお辞儀をした。

でも、おばあちゃんはすぐに座ると、またそれまでの無表情に戻って

しまっていた。

 

 

箕面の森に夕陽がかかり、その木漏れ日が美しいシルエットを描いている

頃、まり子とタカオは、いつもまり子が行くスーパーで夕食の買い物を

していた。

 

   「今日は美味しいシチューを作ってあげるわ・・・  

     教えてあげるからね!」

   「ボク!  あの美味い卵焼きも食べたいな・・・ 

     それにいつか、作り方教えてくれるって言ってたじゃない?」

   「シチューと卵焼きか?  面白い組み合わせね  いいわよ!  

     いっぱい教えてあげる けど、マコは厳しいから覚悟しとくのよ

     ハハ ハハハ 

     そうだわ!  明日は久しぶりにあの才ヶ原池へ行って見ようか・・・

     ヤマザクラももう満開かもしれないし、お弁当をいっぱい作ってね」

    「 じゃあ教えてもらいながらボクが作ってみる・・・ 楽しみだな・・・」

 

買い物袋を二人で下げながらスーパーの表へでた時だった・・・ 

タカオがポツンと・・・

 

   「ありがとう!  ぼくのお母さんになってくれて・・・!」

   「え!」  

(まり子はもう涙でグシャグシャニなりながら・・・)

   「こちらこそありがとう・・・ タカオ!」 

 

 

家路に向かう二人の背後を、ひときわ美しい夕焼けが

温かく照らしていた。

箕面の森から美しいウグイスの鳴き声が響き渡った・・・ 

 

 

 

(完)

 

 


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みのおの森の楽画記! ‘16-1月

2016-02-04 | *みのおの森の小さな楽画記 !

みのおの森の小さな楽画記(らくがき)

 楽画記! ‘16-1月

 

<教学の森・わくわく展望所から>

‘16-1-8  (379) 

 新春に新筆下ろし画に向かう

 今年初のスケッチへ 暖かいお正月だった。 誰が付けたのか松の木に「謹賀新年」の旗が・・・箕面の森・・・今年もどうぞ宜しく!

 

 <教学の森・松騒コースにて>

‘16-1-14  (380) 

 早春を肌で感じる尾根の道

 ワイルドなコースだが、細い山道を上ると急に視界が開がり箕面を一望、奈良の生駒山を遠望する。冬枯れの森の中は3℃と寒いが、陽射しは暖かく早春を肌で感じる。

 

<初雪の箕面3号路口から>

‘16-1-21 (381) 

初雪に森の自然路踏みしめる

 箕面の森に初雪が降った。自然3号路口も一面真っ白になった。でも描き終えるまでの僅かな時間にももう解け始める。急いで初雪をかみしめ一歩一歩と山道を上ってみた。

 

<箕面八天の森から高山の村落をみる>

‘16-1-30 (382)

故郷の雪山想い村をみる

 遠くの山々にはまだ雪が残る。八天の森から故郷を想いながら高山の村落を眺める。信州のアルプス連山とは違うものの、いつもこの村落を歩くと癒しをもらう。


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