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信州里山通信。自然写真家、郷土史研究家、男の料理、著書『信州の里山トレッキング東北信編』、村上春樹さんのブログも

希少なチャイロスズメバチに邂逅。カブトムシとクワガタの蝸牛角上の争い(妻女山里山通信)

2013-08-05 | アウトドア・ネイチャーフォト
 戻り梅雨のような天気で、湿度100パーセント近くの曇り空の中を登ってくと何もしていないのに汗が吹き出します。こういう日は、蝶も翅が湿って重くなるためか活性が鈍くなります。下の方にある樹液バー(樹液酒場)には下りて来ずに、幹の高い所に留まって翅を広げて風に当てて乾かしているものもいました。そんな中をあるコナラに近づくと見慣れない客人がいます。頭と胸が赤茶色で、腹が黒い蜂。頭を削岩機の様に激しく振りながら吸汁していました。これは希少なチャイロスズメバチか!? 噂通りかなり攻撃的で、アオカナブンやオオムラサキを一切近づけません。来るとすぐに排除します。これはオオスズメバチより凄いなと思いながら撮影しましたが、とにかく動きが速くせわしないので、なかなかピントが合いません。厄介な被写体でした。
◉追記:チャイロスズメバチの写真は、2016年8月の記事にいくつも載っています。アーカイブスを御覧ください。

 このチャイロスズメバチは、社会寄生種といい、極めて珍しい生態を持っています。チャイロスズメバチは造巣能力を持たず、女王蜂は他のスズメバチより遅く活動を始め、キイロスズメバチやモンスズメバチの働き蜂が羽化直後に巣を乗っ取り、女王蜂を殺し相手の働き蜂に自分の生んだ卵の世話をさせるのです。チャイロスズメバチが羽化し始めると巣の中は、二種類の蜂が共存するわけですが、やがて全てチャイロスズメバチに入れ替わって行きます。他のスズメバチ類に比べて強靭な外骨格をもつため、大顎や毒針の攻撃に強く、オオスズメバチの攻撃を受けて逆に撃退する事もあるそうです。それでも、樹液バーでは、さすがにカブトムシやクワガタは排除できませんが。生息地や個体数も少ないので、貴重な出会いでした。一時的社会寄生をするものとしては、トゲアリ(背中の棘が凄い)がいます。これも妻女山山系では極普通に見られる昆虫です。

 同じ樹の左に回ると、そこではカブトムシのメスとノコギリクワガタのオスに挟まれて、オオムラサキのメスが樹液を吸っていました。グラマーなカブトムシのおばさんは、狭い隙間に体を斜め横にして差し込んで吸汁。ノコギリクワガタは角が邪魔なので閉じて吸汁。オオムラサキは長い口吻を活かして吸汁。三匹は争いもなく吸汁に集中していました。カブトムシの脚のひと振りはオオムラサキにとっては脅威で、時には口吻が切断されることもあります。今回は、そういうこともなく、長閑で平和な時間が流れて行きました。この後オオムラサキが飛び立つまでは・・・。

 オオムラサキのメスが飛び立った後にその事件は起きました。なにを思ったかカブトムシのおばさんがノコギリクワガタのイケメン男子にちょっかいを出したのです。体当たりでノコギリクワガタを排除しようとしました。しかし、クワガタに頭を挟まれ万事休す。と思いきやクワガタはカブトムシが重くて投げられない。するとカブトムシはクワガタの下に潜り込んで激しく左右に振りました。クワガタは上から押さえつけようと必死。やがてクワガタが角でグイグイ押してカブトムシを退散させましたが、クワガタが激戦の疲れからぐったりしている間に、カブトムシのおばさんはUターンしてきて何食わぬ顔で吸汁を始めました。やがてクワガタは、もうういいわという様な感じで木を下りて行きました。結果的には、カブトムシのおばさんの勝ちでした。タイトルに荘子の「蝸牛角上の争い」と書きましたが、彼らにとっては生存競争の大事な戦いなわけです。

 やがて陽が射して来ると、オオムラサキの吸汁も見られる様になりました。アオカナブンを真ん中に右にメスが一頭、左にオスが二頭。この時は、お腹がすいていたのでしょう。メスに求愛するオスはいませんでした。腹が減っては交尾もできないということでしょう。なにせ3時間から、長いのになると20時間も交尾しているというのですから。これは、大量の精子を細い管からメスの腹部にある交尾嚢に入れるのに時間がかかるからともいわれています。オスの腹部を見ると、それほど大量の精子が蓄えられているとも思えないので、作りながら入れているのではないでしょうか。メスは精子をかけて受精させながら産卵しますが、精子の粘性で卵を葉に接着します。交尾しなくても一定の時期が来ると産卵してしまいますが、当然無精卵なので孵化することはありません。『オオムラサキの一生(195秒)』

 オオスズメバチが吸汁している所を撮影していると、アオカナブンがやってきて少し離れて吸汁し始めました。撮影していると盛んに吸汁していたオオスズメバチがグイッと頭をもたげました。思わずドキッとしましたが、私を睨んだわけではなくアオカナブンに気がついたのです。この後すぐに強烈な頭突きをかませてアッと言う間にアオカナブンを地上に落としました。オオスズメバチの縦に並んだ勾玉(まがたま)型の眼は、どこを見ているのか分からないので恐怖です。たいてい飛び立つ前には前脚で顔を拭うので、その動作を始めたら飛び立つ方向を塞がない様にしないといけないのですが、稀に顔を拭かないでいきなり飛び立つものがいるのです。これは要注意。顔に激突して飛び去ったこともありますが、それは恐怖の瞬間でした。

 このオオムラサキのオスも、メスと求愛飛行をしていたのですが、なにが気に入らなかったのかお見合いを放り出して、葉の上に留まりました。羽化してかなり経つので翅もずいぶん傷んでいますが、この個体は奇麗な方です。オス同士の縄張り争いだけならこの程度でしょう。中には、翅が根元まで避けてしまったものや、地上でカナヘビにでも喰われたのか、両翅ともU字型に欠損したものもいます。それでもなんとか飛んで吸汁したり求愛したりしているのですから逞しいものです。しかし、コナラの根元にはオスの翅が落ちていました。昨年「今年初見のオオムラサキのメスは三途の川の畔にいた」で書きましたが、襲われて翅をほとんど失う様なこともあるのです。

 今年はゼフィルスの出現が激減しています。蝶の研究家のT氏は千曲市のネオニコチノイド系農薬の空中散布の影響を疑っています。彼が100頭ほど放蝶したウラゴマダラシジミは全く見られなかったそうです。私も一頭も確認していません。そんな中、長野市側の林道でやっと一頭のルリシジミ(瑠璃小灰蝶)を見つけました。翅の表は美しい瑠璃色ですが、留まると閉じるので、せわしなく舞っているときしか見られないのです。縞々の可愛い靴下をはいています。陣場平に出ると、葉の上にアゲハモドキ(擬鳳蝶蛾)というジャコウアゲハにそっくりな蛾がいました。昼間ですが、夜の蝶の雰囲気がある美しい蛾。思わず浮かんだのは、新宿のネオン街。赤く咲くのはケシの花~。藤圭子の「圭子の夢は夜ひらく」。なんとも里山に不似合いな曲ですが、田舎のおじさんはよくラジオで演歌を聴きながら農作業してますから、必ずしもミスマッチではないのかも。ちなみに私は娘の宇多田ヒカルの歌ばかり聴いていますが。さて、今週は暑くなりそうです。オオムラサキのオスは約3週間、メスは約4週間の命です。たくさん子孫を残してくれるといいのですが。

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