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信州里山通信。自然写真家、郷土史研究家、男の料理、著書『信州の里山トレッキング東北信編』、村上春樹さんのブログも

「自然へのまなざし 〜江戸時代の自然観〜」川中島古戦場の長野市立博物館へ。戌の満水と善光寺地震(妻女山里山通信)

2023-10-28 | 歴史・地理・雑学
「江戸時代は、西洋科学の影響を受けて、自然の見方や世界観が変わっていく時期です。西洋からの技術や知識の影響により、自然の描写は写実的になり、宇宙観や自然観も大きく変化しました。」とパンフレットにあります。入館料は常設展と合わせて300円。11月3日は無料です。常設展の川中島の戦いの展示や動画が人気で県外者も多く訪れます。

 こじんまりとした展示ですが、なかなか充実した内容でした。撮影禁止以外は撮影が可能です。

「旧松代藩領明細地図」信濃教育会蔵。上が南です。割りと正確な絵図なので、地名を入れてみました。妻女山と記してあるのは展望台のある現在の妻女山(旧赤坂山)ではなく旧妻女山で本名は斎場山です。上杉謙信公御床几場と書いてあります。川中島の戦いの本陣ということです。旧松代藩領ということから明治時代に作られたものでしょう。松代城内は更地になっています。

 現在の川中島は、集落や街が連続していて境界が分かりづらいのですが、当時ははっきりと分かります。赤い線は道路ですが、山の周囲や川沿いに引かれた黒い直線はなんでしょう。測量のポイントでしょうか。左上に丸く描かれた皆神山。その下に尼厳山(あまかざりやま)。灰色に描かれた旧千曲川の河道が松代城のすぐ脇を流れていたことが分かります。戌の満水の時に殿様が船で逃げたという話も納得できます。

 寛保2年(1742)の戌の満水の被害を記した絵図。上が北です。濃いグレーに白い点々があるところが、洪水や山崩れの被害が出た場所です。被害の大きさが痛いほど分かります。善光寺と松代の文字は読めると思います。上が犀川、下が千曲川。新潟に入ると信濃川になります。

 妻女山付近の被害の様子。岩野村では村人の約3分の1にあたる160人(男58人、女102人、馬2頭)が亡くなり、家屋144戸が流出という未曾有の被害を出しました。松代藩最大の犠牲者を出したのです。我が一族も二人が犠牲になり、助かった娘が岸に上がると着物のたもとの中に蛇がたくさん入っていたという話が残っています。この絵図は左が北、右が南、上が東、下が西です。
信州『松代里めぐり 清野』発刊と戌の満水など千曲川洪水の歴史(妻女山里山通信)

「於桜村土肥坂望*鑪村震災山崩跡之図」(長野市芋井)。松代藩の御抱絵師、青木雪卿(せっけい)重明(1803享和3〜1903明治36/1804〜1901の説も)の絵。雪卿は、松代藩が壊滅的な被害を受けた弘化4年(1847)に起きた善光寺地震から3年後の嘉永3年(1850)、藩主真田幸貫公(感応公)の藩内巡視に同行し、120日間をかけて「伊折(よーり)村太田組震災山崩れ跡の図」(真田宝物館蔵)などを描き上げました。雪卿は我が家の近所にあり名主をやった先祖とは幼馴染で親友だったそうです。虫倉山は、上部が硬い凝灰角礫岩(荒倉山火砕岩層)で、下部が柔らかい砂岩など。その境界部辺りの岩石が大崩落し、大田の集落を全滅させました。
*鑪村はたたらむらと読むのですが、この村はたたら製鉄と関係があったのでしょう。鑪(たたら・ろ)。

「鑪村震災大岩崩跡之図」(長野市芋井)あちこちで山体崩壊が起きた様です。善光寺地震では死者総数8,600人強、全壊家屋21,000軒、焼失家屋は約3,400軒を数えました。折しも善光寺御開帳の真っ最中で死者が増えました。参拝者の生存率は1割ぐらいとか。松代藩の立てた慰霊碑が、妻女山展望台の裏にあります。
青木雪卿が描いた善光寺地震絵図 現在との対比:現在の場所の写真との対比が凄い。雪卿の正確な描写が光ります。

「須弥山儀」嘉永3年(1850)田中久重作。世界は須弥山を中心に広がっているという古代インドの宇宙観が仏教とともに伝来。太陽と月が時計仕掛けで動くようになっています。北信五岳の妙高山はそれが元の命名です。

 伊能忠敬と交流があったという三重県津市稲垣家の定穀作の「地球儀」。オランダ製の地図を参考に製作したと考えられていますが、当時はもっと正確な世界地図があったので、かなりいい加減な地図しかなかったのでしょう。

「天球図」司馬江漢作。天の赤道の北側と南側の星図が描かれています。中国星座の上に西洋星座が描かれている珍しい天球図です。それぞれが何座か分かるでしょうか。

「北斎漫画」。観察力と描写力が凄い。小布施の北斎館は何度も訪れてブログ記事にもしていますがおすすめです。

「異国写鳥図」。孔雀。技法的に稚拙だなと思ったら、これは写本で、元になった絵がある様です。

 明治40年(1907)に牧野富太郎氏が贈呈した「草木図説」。

「人面魚の図」。文化2年(1805)に越中国(富山県)に出現したという人面魚。各地に瓦版や古文書が残っているそうです。ここには人面魚を殺したために金沢城下に火事が出たと伝えています。実際はなんだったのでしょう。左に書いてあるサイズを見るとかなり大きい。

「百鬼夜行絵巻」。夜更けに京の大路を異形のものが練り歩く様。後の水木しげるの「妖怪事典」に通じるものがあります。

「羽毛図巻」。松代藩の御抱絵師である山田島寅(とういん)作。狩野派の系譜なのでしょうか。見事な作品です。

 特別展の後で以前紹介した常設展を観て出ました。川中島古戦場公園(八幡原)は紅葉が美しい。古戦場祭りが開催中で週末には花火大会も。この先に駐車場や土産物屋、蕎麦屋などがあります。なんだか八幡原というより、美大生時代に訪れたパリのブローニュの森みたいだなと思いながら歩きました。

 八幡社の前にある武田信玄と上杉謙信一騎打ちの像。限りなく江戸時代に作られた物語なのでしょうけど、庶民の旅が盛んになり始めた江戸時代中期以降では、善光寺参りの土産物として川中島合戦絵図がたくさん作られ人気だった様です。ちなみに祖先は真田昌幸に仕えた足軽大将で、その長男は真田信繁(幸村)の影武者の一人で大阪夏の陣で討ち死に。もう一人、武田四天王のひとりの山縣三郎の家来で桔梗ヶ原の戦いで手柄を立てて感状と褒美をもらったものが。さらにずっと前に敵方の上杉方の小笠原長時に仕えて武田軍に敗退し村上義清の系統の清野氏を頼って妻女山の麓に定着したものがいます。詳細は不明ですが、戦国時代を生き延びるというのは非常に大変だったことが分かります。

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ハタケシメジを大量にゲット。ホンシメジに最も近いという美味しいキノコ。秋の里山。銀嶺の北アルプス(妻女山里山通信)

2023-10-22 | アウトドア・ネイチャーフォト
 一昨日雨が降ったので出ているかもとハタケシメジのシロへ。はじめは草に覆われて出ていないかなと思ったのですが、よく見るとあちこちに出ていました。ハタケシメジは毎年同じ場所に出るので、シロを知っていれば畑で採る様に収穫できるのです。近年の研究によって、10ミクロンほどのきのこの胞子が、大気中で雨の核(氷晶核)となり、降雨の主要な要因となっている可能性が示されています。 また、樹木はリグニン、セルロースとそれらを結びつけるヘミセルロースからできています。セルロースを分解するのは菌類や昆虫などですが、極めて硬いリグニンを分解できるのはある種の腐朽菌や細菌だけです。よってキノコがなかった古代ではリグニンが分解されず堆積しました。それが石炭です。ついでに石油は生物由来であと40年で無くなるを繰り返してきましたが、近年は地球深部(上部マントルや地殻深所)で無機的な反応により炭化水素を形成し続けていて、ガスや石油はほとんど無限になるという無機起源説が主流になりつつあります。

 苔むした岩の陰にハタケシメジ。周囲を見るとあちこちに出ていました。ハタケシメジは、非常に美味で栄養も豊富、βカロテンも豊富です。ハタケシメジは腐生菌ですが、菌根菌のホンシメジに最も近いキノコです。その気になれば栽培も可能です。

 コムラサキ(小紫)の実。ムラサキシキブ(紫式部)の実より小さいのですが、たくさんなります。有毒ではないのですが美味しくなく、鳥や昆虫もあまり食べません。

 日溜まりでヤマトシジミが何頭か舞っていました。秋に出現したものはやや小型です。

 ハナニガナは終わっているのでヤクシソウでしょう。キク科オニタビラコ属の二年草で、葉などを傷付けると乳液が出るためウサギノチチ(兎の乳)などの別名があります。

 堂平大塚古墳へ。昔ここに怪我をした子鹿が隠れていたことがあったと聞いたことがあります。横穴式の古墳時代後期のリユースできる古墳です。

 古墳の斜面に柿。これを求めて月の輪熊がやって来ます。この辺りで熊には何度も遭遇しています。いつどういう目的でどのルートを来るのかも分かっています。突然の出会いが最も危険なので大きな音や熊の嫌がる煙などで知らせます。3月上旬、5月上旬から6月は淡竹の筍目当て、クリスマスの頃。ここから8キロ山奥の鏡台山から食料を求めて出てきます。月の輪熊の行動半径は15キロほど。山の凶作だけでなく、人を恐れない熊が増殖しているのが問題なのです。当地では獣害駆除でイノシシ狩りが行われているので、熊はまだ人を見ると逃げます。人と熊は共存はできません。棲み分けが大事なのです。私は鏡台山、聖山、根子岳で藪を近づいてくる熊に気づいて追い払ったことがあります。普通の人は気づかないでしょうし追い払う術も知らないと思います。難しい問題です。

 セイタカアワダチソウ。環境省が要注意外来生物リストに載せている植物で、都会の空き地から里山や耕作放棄地で見られますアレロパシーを持ち、根から周囲の植物の成長を抑制する化学物質を出しますが、最後は自分の出したそれで消えていきます。デトックス効果が高いので、薬草としても用いられます。花は天ぷらで食用に、オリーブ油に漬けるとデトックスオイルに。ただ成分が非常に強力なのでしっかり勉強してから利用を。

 陣場平へ。入り口に妻女山里山デザイン・プロジェクトで作ったインセクト・ホテル。冬になるとテントウムシなど色々な昆虫が棲家とします。カリバチやベニヒラタムシを確認しています。

 陣場平。中央にクマノミズキ。ヤマグワ、キリ、クサギ、ヤマザクラ、カスミザクラ、オオヤマザクラ、サンショウ、カラマツ、アカマツ、イボタノキ、ノイバラ、オニグルミ、シナノガキ、ゴヨウアケビなどが自生します。妻女山SDPが貝母(編笠百合)の保全活動をしている場所です。そして、川中島の戦いで上杉謙信が陣城を築いた場所です。貝母の群生地は日本でここだけです。当ブログやマスコミで知られて、毎年訪れる人が増えています。県外からも。見頃は4月10日から20日頃です。開花状況はこのブログでお知らせしています。

 ノコンギク(野紺菊)の群生。秋の里山でもっともありふれた野菊ですが、もっとも好きな花です。

 菱形基線測点の手前にはエノコログサ(猫じゃらし)の群生があったのですが、全部こいで貝母の球根を植えました。ところがチカラシバが生えてしまいました。これは厄介です。貝母が芽吹く頃には枯れるので様子を見ますが、また全部掘り起こさなければならないかも知れません。

 キシメジ科のキノコ。いくつか候補はあるのですが、確実な同定はできません。

 倒木に多孔菌科のキノコ。サカズキカワラタケかと思ったのですが、傘の根本にサカズキのお椀がない。なんでしょうね。まあ日本のキノコは10000以上あるといわれていて、同定できているのは4割もないのですから。

 サンショウの森で山椒の実を見つけました。色づいています。父はこれで七味唐辛子を作っていました。

 妻女山松代招魂社のソメイヨシノやヌルデの紅葉。低山なのでまだ色付き始め。

 長らく工事中だった妻女山展望台が完成しました。北アルプス、戸隠連峰、信越トレイル、志賀高原、菅平の四阿山などの大展望が見られます。

 そこから北アルプスの白馬三山。一昨日の雨は北アでは雪となり一気に銀嶺に変わりました。右に虫倉山、手前に丸い茶臼山。今年はスーパー・エルニーニョが発生で暖冬とか。2015〜2016の冬の様になるとか。当時は雪が降らずスキー場が開業できない事態に。当地では1月に1センチ、月末に10センチのしかも上雪という有様。2月上旬には梅が咲き、貝母も芽吹きました。この冬もそうなるかも知れません。

 北には左に戸隠連峰と戸隠富士と呼ばれる高妻山、右に飯縄権現の飯縄山。遠目でも紅葉が見頃だと分かる色合いです。千曲川河川敷では長芋のつる落としが始まり、枯れると焼却します。それが終わると長芋堀りが始まります。

 クマノミズキの紺色の実は鳥や昆虫の大好物。赤い小枝は森の珊瑚の様です。

 ハタケシメジ。写真ではよく分かりませんがかなり厚みがあり、100本以上はあります。洗って掃除には小一時間かかりました。

 友人が作った幻の小麦、伊賀筑後オレゴンをメインにホームランをブレンドして手打ちうどんを作ります。小野式の製麺機で。信州の家庭には昔は普通にありました。

 昨年採って冷凍しておいたジコ坊(ハナイグチ)と採ってきたハタケシメジ、豚バラでキノコうどん。天然キノコは味が強いので出汁は強めに。塩皮鯨、鰹、炒り粉、アゴ、貝柱、昆布で。本味醂と醤油で味付け。馬鹿旨です。

 カニカマとハタケシメジ、野良坊菜と幻の小麦伊賀筑後オレゴンの手打ちうどんで小田巻蒸し(苧環蒸し)。うどんの入った茶碗蒸し。大阪船場の商家のハレの日の御馳走料理だったもの。つゆは白出汁で。具は蟹、海老、帆立、蒲鉾など自由に。舞茸は卵が固まらないので茹でてから。寒い夜にはぴったりの料理です。

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ツル性トリカブトを探して冠着山(姨捨山)と聖山へ。三種類のトリカブトが混生か。イヤリトリカブトか。鞍骨山と天城山のトリカブト(妻女山里山通信)

2023-10-18 | アウトドア・ネイチャーフォト
 前の記事でツル性トリカブトを載せました。花期は終わっているだろうとは思いましたが登ってみました。まず冠着山へ鳥居平登山口から登りました。山頂までは30分ですが、途中北面巻き道の群生地へ。その後で山頂へ。次に聖山へ向かいました。冠着山では、どうも三種類のヤマトリカブトが混生しているのではないかということが分かりました。ひとつは、大町で発見されたツクバトリカブトの変種イヤリトリカブトかも。
 トリカブトは全国的に変種が多く、ヤマトリカブト、オクトリカブト、ツクバトリカブト、イブキトリカブト、タンナトリカブトに加えて長野県北部特産として茎の長さ300cm、上部はツル状のイヤリトリカブトがあるそうです(1~1.5mという記述もあり)。結論からいうとトリカブトには変種が非常に多く、そのためか詳細な分布や研究は充分には行われていないということ。おそらく九州のハナカズラと当地のツル性トリカブトは別種でしょう。トリカブト亜属でも40種以上あり、花弁の舷部が距に向かって膨大するキヨミトリカブト節には、アズミトリカブト、ハナカズラなどがあります。
「トリカブト亜属に属する種は、多年草のなかの疑似一年草に分類される。地上部と地下の母根(塊根、「烏頭(うず)」)はその年の秋に枯死するが、母根から伸びた地下茎の先に子根(嬢根、「附子(ぶし、ぶす)」)ができ、その子根が母根から分離して越冬芽をもち、翌年に発芽し開花する。地上部と地下の母根から見れば一年草であるが、子根が翌年にも生存するため、擬似一年草のカテゴリーにはいる。分離型地中植物とも呼ばれる。」トリカブト(Wikipedia)
  今回取り上げた北信のトリカブトについても、専門的な研究機関がDNAレベルまで調べてくれるといいのですが。

 冠着山北面巻き道の群生地のトリカブト。ツル性ではなく直立性ですが、ここのものは全て斜めに倒れています。

 一瞬つる性のトリカブトと思いましたが、葉を見てマメ科のクサフジの仲間と分かりました。

 ツル性のトリカブトでしょうか。花がないのではっきりしませんが、クサフジの葉ではないですね。ヤマブドウの葉かしら。

 左向こうにツル性かと思われるもの、手前に斜めに太い直立性のもの。さらに手前にはツル性と思われるものがあります。

 それを引いて撮影したカットです。やはり花が満開の9月に来ないと判別が困難です。

 冠着山北面巻き道の入り口。倒木があり藪でとても道には見えません。北面の久露滝コースが合流するのですが、その登山道が廃道になりこの巻き道も廃道となっています。群生地はここから15mほど入ったところですが、あちこちで道が崩落していて大変危険です。

 山頂すぐ手前にある冠着権現の祠。前の記事に載せた2020年9月にあったツル性のトリカブトは完全に除草されて無くなっていました。ショックで写真がぶれてしまいました。

 山頂にわずかに咲いていたトリカブト。高さは70センチぐらいで上部がツル性です。左下には別のツル性植物が絡みついています。イヤリトリカブト(居谷里鳥兜)でしょうか。300センチはありません。ただ、草丈1~1.5mの多年草。 茎はよく分枝し、枝はつる状に伸びる。葉は互生し、長さ10cm程度の心形で3深裂し、裂片の縁は鋸歯状になる。花柄には屈毛が生える。花は散房花序につき、青紫色で長さ3~4cm。と書いてあるところもあります。環境省の絶滅危惧ⅠA類(CR)です。大町市の居谷里湿原で最初に採取されたのでこの名前があります。大町以外には戸隠高原や飯綱高原に自生していることが確認されています。
 ただ前の記事に載せた聖高原のトリカブトは全部がツル性の様で、そうするとイヤリトリカブトではなく新種か、変種ということになるのではないでしょうか。『長野県植物誌』には載っているでしょうか。

 冠着山山頂から北方の眺め。眼下に姨捨サービスエリアと棚田。千曲川の向こうは茶臼山。奥の戸隠連峰や飯縄山は雲の中です。

 下山の途中で撮影した直立性のトリカブト。風が強くなってきました。夫婦が一組、次いで養護学校の生徒たちが7,8人。トリカブトに触ったり匂いを嗅いだりしないでねと伝えました。さらに登山口で神奈川から来た男性が。聖山に登ってきたそうです。ハウチワカエデの黄葉が綺麗だったとか。聖湖に下り聖山へ向かいました。

 聖山山頂北面のハウチワカエデの紅葉。山頂付近には直立性のトリカブトしかありませんでした。かなり北風が強く寒くなってきたので下山します。前回撮影した車道脇のツル性のトリカブトは分かりませんでした。今年は花期が終わってしまったので、来年また観察したいと思います。

 下山途中から見る三峯山と眼下に聖湖。左奥に噴煙を上げる浅間山。右奥にさっきまでいた冠着山。

 冠着山と聖山は千曲川左岸の山です。以下にあげるのは、千曲川右岸の鞍骨山と天城山(てしろやま)です。
■2012年10月30日【天城山十人平】 冠着山山頂で見たものと似ている上部がツル性のトリカブト。これもイヤリトリカブト(居谷里鳥兜)でしょうか。

■2015年10月10日【鞍骨山】 鞍骨山の鞍骨城本郭手前の尾根で。ツル性かといわれれば悩むところです。ただ左下の向こうに地面をはっている茎が見えます。これがトリカブトのものであれば完全にツル性ということになります。これも確認したいところです。

■2015年10月18日【鏡台山】 暗い林床で。全体を写したものがないのでなんとも言えません。

■2016年10月21日【天城山十人平】 三枚上のカットと同じ場所。高さは100センチほど。やはり上部がツル性です。トリカブトの仲間は北半球に約300種が分布し、日本にはヤマトリカブトなど30種ほどがあるそうです(もっとあると思います)。トリカブト(鳥兜・草鳥頭、学名:Aconitum)は、キンポウゲ科トリカブト属の総称です。つまりトリカブトという名前の植物はありません。

 ハナイグチ(ジコ坊)と里芋の親芋、大根、砂肝の煮物。ハナイグチから甘く極上の出汁が出ます。あとは鰹と昆布出汁に本味醂と醤油だけ。天然キノコで、秋の里山の滋味を堪能。キノコの胞子が雨を生むという説があります。いずれキノコの記事の時に記します。

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ツル性のトリカブトを冠着山(姨捨山)と聖山で発見。絶滅危惧種のハナカズラが信州に?(妻女山里山通信)

2023-10-06 | アウトドア・ネイチャーフォト
 ひとつ前のアサギマダラの記事で、ツル性のトリカブトを載せました。環境省のレッドデータブックー日本の絶滅危惧種で、絶滅危惧ⅠB類(EN)に指定されている離弁花類キンポウゲ科の猛毒の植物です。学名はAconitum ciliare。国内では九州の一部だけに極稀に自生するとされています。それが信州の山に自生しているのです。牧野植物園では、九州、朝鮮半島、中国東北部、ロシア沿岸地域に分布とあります。発見した冠着山(姨捨山)と聖山は何度も登っているので開花時期の9月の写真をすべてチェックしてみました。以下はその記録です。見られた標高は、1100〜1400mぐらいです。

■2011年9月27日【冠着山】
 山頂の北面のトリカブト。急斜面から横に長くツルが伸びています。

 コバルトブルーの青く美しい花。9月下旬なので結実しているものもありました。

 樹木がない開けた斜面に群生地があります。結実しているものもたくさん見られます。茎は長いもので2mぐらいです。上の2つのカットと同じ場所なのですが、直立性で斜めに倒れているものと。明らかにツル性と分かるものがあります。ここは北面巻き道ですがほとんど廃道となり崩れていて危険です。

■2014年9月15日【聖山】
 聖山で。15日だとまだつぼみも見られました。

 聖山の標高1300mぐらいの尾根道。

■2017年9月16日【聖山】
 ツル性とよく分かるカットだと思います。根は林の縁にあり、光を求めて伸びてきたということでしょう。

 聖山山頂直下からの北アルプスの仁科三山。双耳峰の鹿島槍ヶ岳。

■2020年9月5日【冠着山】
 山頂近くの冠着権現の石の祠の脇に咲くトリカブト。ツルは長いものは2mぐらいあり地面をはって横に伸びています。咲き始めなので花の色がやや薄い。つぼみもたくさん見られます。短いものは直立しています。

 鳥居平からのコースの山頂下にある北アルプス展望所。右にアンテナのある聖山が見えます。近いので植生は似ていますが、冠着山には山梨やヤマボウシがありますが、聖山には見られません。

■2021年9月23日【聖山】
 このツルは非常に太く長く2m50cm以上あったと思います。

 鳥兜は舞楽で使用する伶人の冠に似ていることからつけられた名前です。全草が猛毒なので素手で触るのも厳禁です。

 ハナアブが吸蜜。毒は大丈夫なのでしょうか。大丈夫だから吸蜜しているのでしょうけど。猛毒のキノコを食べる昆虫もいますし自然のメカニズムは不思議です。

 聖山から下って眼下に聖湖。向かいの三峯山にはないでしょうか。来年は調査しないといけませんね。右後方に見えているのが冠着山です。聖湖対岸から一本松峠経由で冠着山登山口の鳥居平へ行くことができます。

■2023年9月26日【聖山】
 2021年と同じ場所ですが、夏が猛暑で少雨だったので細いツルが数本あるだけでした。右の花は残花になり結実しています。その下にはだれかに食べられた様な痕跡が。

 結実して葉が枯れ始めているものが多く見られました。花の見頃は、9月10〜20日ごろだと思います。

 2011年に発見して絶滅危惧種と知ったのが今年ですが、絶滅危惧種に指定されたのが2020年なのです。今回ツル性のトリカブトの希少性を知り、北海道以外で本州では上田の半過岩鼻にしか自生しないモイワナズナの例があるので、もしかしたらこれもと思い色々調べてみました。来年はもう少し調査の範囲を広げてみようと思います。私のブログはgooブログ300万以上ある中で常にアクセスランキング1000〜2000番にいます。でも最もアクセスが多いのはBABYMETALやハロプロや80年代ポップスの記事ですが。でもネイチャーフォトの記事もかなり人気があります。私が里山観察で最も重要視しているのは、蝶とかある種の昆虫とかに特化するのではなく、樹木から山野草、哺乳類から昆虫、蜘蛛、鳥類、藍藻類、菌類、粘菌、地質、歴史までと総体で里山を観るということを最重要視していることです。それで里山の全体像が浮かび上がって来るのです。特に日本の里山で妻女山の陣場平にしかない貝母(編笠百合)の記事には毎年凄いアクセスがあります。4月のアーカイブをご覧ください。

●聖山は、長野県の長野市、千曲市、東筑摩郡麻績村の境に位置する山で、標高は1447メートル。
●冠着山(かむりきやま)は、長野県千曲市と東筑摩郡筑北村にまたがる標高 1,252メートルの山。別名は姨捨山(おばすてやま)。両山とも拙書に載せています。

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『信州の里山トレッキング 東北信編』川辺書林(税込1728円)が好評発売中です。郷土史研究家でもあるので、その山の歴史も記しています。地形図掲載は本書だけ。立ち寄り温泉も。詳細は、
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