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大切な眠り

2018年02月14日 | 健康・病気

毎日新聞 医療プレミア2018年2月8日

糖化・酸化ストレスから体を守るメラトニン  
ホルモンの話【3】

 米井嘉一 / 同志社大学教授

  今回は、脳の松果体という部分から夜間に分泌されるホルモン「メラトニン」についてお話しします。メラトニンは体温を下げて眠りを誘発するなどの作用があり、睡眠と覚醒の周期に関係しています。また、抗酸化作用があり、脳の毛細血管が持つバリアー「血液脳関門」を通過して脳内に入り込んで、脳神経細胞を酸化ストレスによる傷害から防御する役割を担っています。

昼夜の分泌量の差が重要

神山潤著「睡眠の生理と臨床」診断と治療社より引用、一部改変

 メラトニンは、昼間の明るい時は分泌が停止状態にあり、目覚めてから10~12時間が経過した夕暮れ時から分泌が始まって睡眠中に活発になります(図1)。昼間と夜間の血中濃度の差をメラトニン振幅といい、体内時計の調整に深く関与します。加齢に伴いメラトニン総分泌量は減り(図2)、メラトニン振幅は減少します。メラトニン分泌の低下によって入眠障害、中途覚醒、早朝覚醒といった睡眠の質の低下が起こります

米井嘉一著「抗加齢医学 入門」慶應義塾大学出版会(第2版)」より引用、一部改変

 認知症高齢者には時に、昼間に眠って夜に活動する「昼夜逆転」や夜に歩き回る「夜間徘徊(はいかい)」が表れることがあります。このような方はメラトニン振幅が著しく減少しているか、ほぼ消失しています。

メラトニン振幅の復活方法

 メラトニン振幅を復活させる方法に「高照度光照射療法」があります。老人ホームでよく用いられています。入居者に朝、何十万ルクスという明るい照明の部屋で食事を取ってもらい、メラトニン分泌をピタッと止めて、夜になってから再びメラトニン分泌が始まるように生活リズムを整えるのです。

 個人向けには、耳の穴からの光照射機器も開発されています。高齢者だけでなく若い人にも、メラトニン振幅の調整や時差ぼけの解消に用いられています。

生活習慣病と睡眠の関係

 近年、睡眠の質の低下が、さまざまな生活習慣病の症状の悪化と関連があることが分かってきました。

 特に、糖化ストレスが強い糖尿病や脂質異常症といった疾患と深く関わっています。糖化ストレスとは「糖や脂肪、アルコール由来の有害物質、アルデヒドの値が高い状態」です。体のたんぱく質と反応して、強い毒性を持ち老化を進める終末糖化産物(AGEs)を生成します。メラトニンはAGEsの分解を助ける働きがあり、分泌が減って睡眠の質が低下している人は症状が悪化しやすいのです。

ストレス対策にも重要な睡眠

 ストレス対策にも睡眠は重要です。ストレスが過度になるとストレスホルモンのコルチゾールが増え、高血圧や高血糖を引き起こします。良質な睡眠は過剰なコルチゾール分泌を緩和する効果があります。メラトニン分泌を低下させないようにして、良質の睡眠を目指すことが大切です。

 また、人間が光を検知するのは目だけではありません。夜間に眠っている乳児を背負ってコンビニエンスストアのような明るい所に行くと、体が光を検知してメラトニン分泌を停止させてしまうので注意してください。

免疫監視機構を強化?

 盲人は、体の中で最も敏感に光を検知する網膜が機能しないので、メラトニン分泌の制御がかかりにくく、血中メラトニン濃度は昼間でも健常者に比べて高く保たれています。

 この影響と考えられるのが、盲人のがん発症率の低さです。特に乳がんの発症率は極めて低値です。がん化した細胞が増殖するのを抑える免疫監視機構がメラトニンによって強化されているのでしょう。

若い女性はメラトニン低下に要注意

 これまでお話しした成長ホルモンとIGF-IDHEAの分泌は30代を過ぎてから緩やかに下がる傾向がありますが、メラトニン分泌は10~20代から個人差が大きいのが特徴です。

 特に大学生は自宅通学者と下宿生活者で、メラトニン分泌量の差が顕著です。生活リズムが乱れがちな下宿生活者はメラトニン分泌量が低くなります。

 若い女性は、メラトニン分泌低下が長い期間続くと、卵巣機能が低下します。メラトニンは抗酸化作用を発揮して酸化ストレスから生殖機能を守る働きがあります。また、女性ホルモンの分泌、卵子の成育、排卵にも関係しており、分泌低下によって生理不順や妊娠に支障を来すことがあります。

メラトニン分泌を良好に保つには

 生活習慣を改善して、メラトニン分泌を良好に保つ方法を教えましょう。

 第一に、部屋を真っ暗にして寝ること。アイマスクを使うといいでしょう。明るい部屋で眠ると、光がまぶたを通過してメラトニン分泌が抑えられてしまいます。

 第二に、夜間のカフェインの摂取を避けること。私は午後6時以降はコーヒーを飲まず、ハーブティーを飲んでいます。

 第三に、寝る前にスマホートフォンを使うのをやめること。スマホ画面の光はエネルギーが大きく、メラトニン分泌を止める作用が強いため、睡眠の質が大きく低下します。

 食べ物からメラトニンを取ることもできます。白菜や(ケールの)青汁、バナナにはメラトニンやその前駆物質が多く含まれています。夕食時や食後に摂取するといいでしょう。また、アンチエイジング診療を実践するクリニックでメラトニンの処方を受けることもできますので、医師に相談してみましょう。

 

米井嘉一 よねい・よしかず  同志社大学教授

  1958年東京生まれ。慶応義塾大学医学部卒業、同大学大学院医学研究科内科学専攻博士課程修了後、米カリフォルニア大学ロサンゼルス校留学。89年に帰国し、日本鋼管病院(川崎市)内科、人間ドック脳ドック室部長などを歴任。2005年、日本初の抗加齢医学の研究講座、同志社大学アンチエイジングリサーチセンター教授に就任。08年から同大学大学院生命医科学研究科教授を兼任。日本抗加齢医学会理事、日本人間ドック学会評議員。医師として患者さんに「歳ですから仕方がないですね」という言葉を口にしたくない、という思いから、老化のメカニズムとその診断・治療法の研究を始める。現在は抗加齢医学研究の第一人者として、研究活動に従事しながら、研究成果を世界に発信している。最近の研究テーマは老化の危険因子と糖化ストレス。