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「夜間大学」の可能性とは

2017年08月23日 | 社会・経済

志願者急増「夜間大学」の可能性とは

    澤田晃宏 - AERA dot. - 2017年8月21日

   親世代の経済状況の悪化で再び夜間大学に注目が集まっている。魅力は学費の安さだけじゃない。現役生が魅力を語る。

 高校3年生になって間もない頃、父親にこう告げられた。

「大学進学は難しい」

   埼玉県出身の野中麻浩(まひろ)さん(22)は父子家庭の3人きょうだいの長男。生活ぶりから、経済的に余裕がないことはわかっていた。学費の安い国公立大学を目指して勉強していた。奨学金の利用も考えたが、きょうだいのことも考え、進学は断念した。

   しばらくして、大学の担当者も参加する学校主催の進学説明会があった。全員参加だったため、名前を知っている大学をいくつか回った。東洋大学(東京都文京区)のブースで、自分の状況を話した。

「新しい入試が始まるんです」

 渡されたチラシには、夜間のイブニングコースの説明があった。入学金は18万円、授業料などは53万円。国公立より安い。衝撃的だった。夜間の大学があること自体、初めて知った。

   さらに、新しい入試に合格すれば、昼間に東洋大の正職員として働いて稼ぐことができ、また授業料の半分は給付型の奨学金が4年間支給される。これなら親に頼らなくとも働きながら大学に行ける!

経済的な理由から、夜間大学を志望する学生が増えている。東洋大の加藤建二入試部長は、夜間部の状況をこう説明する。

「戦後、勤労学生のために設置された大学夜間部は、1990年代には昼間部に入れなかった学生の受け皿となり、夜間部本来の役割が失われていた。しかし親世代の経済状況の悪化で、夜間部の役割が復活している」

●夜間大学を知らない

   東洋大の夜間部は全国最大規模で、6学部9学科に3381人が在籍する。東日本大震災以降、志願者は1322人(2012年度)から、3475人(17年度)に急増している。

「特に地方では経済的な理由で進学を断念する学生が多い。東洋大の場合、昼間部の学生は1都6県の比率が8割だが、夜間部は6割強だ」(加藤入試部長)

   14年度からは冒頭の野中さんが受験した新たな入試制度「『独立自活』支援推薦入試」を導入。大学事務局で日中働きながら、夜間に学ぶことを前提とした入試制度だ。働く場を保障することで、地方からの学生が挑戦しやすい環境を整えた。

「夜間部が休廃止されていくなか、高校の先生や親から夜間部という選択肢が消えていた。経済的な問題で進学を断念する学生に夜間部という選択肢を提示したかった」(同前)

夜間部の学生数は04年に10万人を割って以降、16年は2万460人と減少の一途をたどる。夜間部を廃止し、昼夜開講のフレックス制を導入する大学も増えた。それでも、夜間部やフレックス制を設置する大学は05年の最大114校から、16年には71校に。一部、東洋大のように志願者が急増する夜間部はあるが、全体的には縮小傾向だ。背景には働く環境の変化もある。

●夜間は昼間の滑り止め

   電大の愛称で知られる東京電機大学(東京都足立区)工学部第二部は、18年度入試から新たに「はたらく学生入試」を新設する。昼間、大学で働くことで給与を得て、働きながら学べる入試制度だ。前述の東洋大の「『独立自活』支援推薦入試」と同様の制度だが、背景は異なる。吉田俊哉教授は「働きながら学べるという選択肢を与えているつもりが、実は与えられていない」と指摘し、こう話す。

「昔のように17時に仕事が終わって、夜間大学にというわけにはいかない。長時間労働が問題になるなか、昼間の働き先を学校が準備することで、これまで応援できなかった人を応援できると考えた」

   社会人向けの「実践知重点課程」も新設し、企業人が求める特定の科目のみの受講も可能とした。卒業証書は得られないが、入学試験もない。工学部第二部長の佐藤太一教授は言う。

「技術競争が厳しいなか、企業には人材を育てたい気持ちが強いが、社員を夜間の大学で4年間学ばせる余裕のある企業は少ない。例えば1年でも技術研修をしたいという企業には、特定の科目だけを選んで履修する制度を勧めたい」

18歳人口の減少で、昼間の大学に入りやすくなったことも夜間部の縮小に拍車をかけている。国立の滋賀大学(滋賀県彦根市)経済学部は、今年度の夜間の入学者からフレックス制を導入した。学費は一部半額(入学金が14万1千円、授業料が26万7900円)と魅力だが、

「志願者数は横ばいだ。第1希望で志願する学生が少なく、定着率が悪い。昼間部で学びたい学生が多く、フレックス制に切り替えた」(入試課の担当者)

 昨年度は46人が入試に合格したが、実際に入学したのは17人だったという。

就活に強い夜間

   ただ、大学夜間部を取り巻く環境が変わるなか、夜間部の魅力は薄れていない。その最たるものが学費の安さだ。国公立の夜間部は昼間部の半額と設定している大学が多く、私立も昼間部より安く設定されている(下の表参照)。東京電機大の場合は昼間部の約半分だが、夜間部の魅力は安さだけではない。同大電気電子工学科4年の九澤渉さん(23)は、こう話す。

「クラスには大手企業で働く社会人もいる。働く現場の話を生で聞けることも魅力です。昼間は時給のいいバイトが見つかりにくいというデメリットもありますが、教授も授業内容も昼間と同じ。4年で卒業もできる」

   保育士、幼稚園教諭の採用数で国内トップを走る聖徳大学(千葉県松戸市)は、短大部、系列の専門学校にも夜間部を持ち、保育士資格と幼稚園教諭免許を卒業と同時に取得できる。

   大学の児童学部の夜間主コースでは、卒業に必要な単位の半分を夜間に履修すれば、残りの単位は昼間に取得することも可能だ。同大児童心理コース4年の菅野純花さん(22)は夜間主コースの魅力を、こう話した。

「夜は働きながら勉強しに来ている人が大半なので、何となく授業を聞いている人はいない。学生数も少ないから、先生との距離も近い。社会人の方から、現場の話も聞ける」

   今回の取材で記者は夜間部に通う6人の学生に話を聞いたが、夜間部の魅力に全員が「学生の向学心の強さ」を挙げた。

冒頭の野中さんは14年、新たな入試制度の1期生として東洋大国際学部国際地域学科のイブニングコースに入学した。現在は4年生で就活を終え、ホテル業界など10社を受け、そのうち7社から内定を受けた。

「就活中、夜間部の学生であることは、自分から積極的に話しました。昼間に働いてきた経験は、面接でも受けが良かった。夜間だからと差別されることはなく、むしろプラスになっている印象を受けました」

 そして、こう続けた。

「夜間部の存在を知らなければ学びを断念していた。今、かつての自分と同じ境遇にある高校生には、諦めず、こうした場があることを知ってほしい」

   ある夜間大学の関係者は「夜間部は大学の負担が大きく、もうからない」と本音を漏らすが、野中さんのような学生を救っているのも事実だ。奨学金の返還が社会問題化するなか、大学夜間部の明かりに希望が見えてくる。

(編集部・澤田晃宏)

※AERA 2017年8月28日号