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速度は光速の99.7%もあった! 中性子星同士の連星による合体で放出されるジェット

2022年11月28日 | 宇宙 space
2017年8月に観測された重力波現象“GW170817”は、中性子星同士の連星が合体して爆発する“キロノバ”という現象で発生したものでした。
その追観測データから分かったこと、それは重力波源となった中性子星の合体で光速の99.7%に達するジェットが発生していたことでした。

中性子星同士の連星が融合して爆発する現象

2017年8月に欧米の重力波検出装置“LIGO”と“Virgo”で検出された重力波“GW170817”。
それは、中性子星同士の連星が融合して爆発する“キロノバ”という現象で発生したものでした。
“キロノバ”は、中性子星の連星または中性子星とブラックホールの連星が融合することによって発生すると考えられている爆発現象。白色矮星への質量降着による爆発で生じる新星(ノバ)の約1000倍の明るさに達することからキロノバと呼ばれる。超新星(スーパーノバ)と比べると10分の1から100分の1程度の明るさになる。中性子を多く持つ鉄より重い元素のほぼ半分を合成すると考えられている。
この現象では、重力波の検出後から数週間にわたって、ハッブル宇宙望遠鏡をはじめとする宇宙・地上の様々な望遠鏡が重力波源の位置に残された残光の追観測を実施。
“マルチメッセンジャー天文学”の成功例になっています。
マルチメッセンジャー天文学とは、電磁波や重力波、ニュートリノ、宇宙線などを協調して観測することで行う天文学。それぞれが異なる発生メカニズムを持っているので、これらの観測結果を総合することで発生源の正体に迫ることが可能になる。
さらに、重力波の検出から2秒後には、小規模なガンマ線バーストも観測されていました。

光速の99.7%で放出されるジェット

アメリカ・カリフォルニア工科大学の研究チームでは、ハッブル宇宙望遠鏡のデータに、電波望遠鏡によるVLBI観測のデータやヨーロッパ宇宙機関の位置天文衛星“ガイア”のデータを組み合わせて分析を実施。
“GW170817”で発生したジェットが、時間の経過とともにどう変化したのかを明らかにしています。
遠く離れた場所にある複数の電波望遠鏡が協力して同時に観測を行うと、口径の大きい電波望遠鏡を使うのと同様の性能を得ることができる。このように複数の電波望遠鏡の観測データを合成して、一つの観測データとして扱う手法を“VLBI(Very Long Baseline Interferometry : 超長基線電波干渉計)”という。
分析の結果、天球上の爆発の発生位置をきわめて正確に特定。
また、強力な磁場で細く絞られたビーム状のジェットに沿って爆発の衝撃波が外へと移動し、ジェットの物質が周囲の星間物質と衝突した様子などが詳しく明らかになりました。

特に、ハッブル宇宙望遠鏡のデータの分析からは、爆発で発生したジェットの見かけの速度が光速の7倍に達していることが示されています。

一方、爆発から数か月後に行われた電波観測では、ジェットの見かけの速度が光速の4倍に減速していることも分かります。

宇宙ジェットの速度が光速を超えているように見える現象は“超光速運動”と呼ばれ、活動銀河核などで発生した光速に近いジェットが地球に向かって噴き出している場合によく見られます。

光速を超えているのは、あくまでも見かけだけで、実際のジェットの物質は光速以下で運動しています。

研究チームでは、この“超光速運動”の分析から、ジェットの根元での速さと噴き出す細さをこれまでにない精度で求めます。

その結果、ジェットは放出された時点で少なくとも光速の99.7%で動いていたことを示していました。
連星中性子星の合体で発生するジェットのイメージ図。中性子星の合体では新星爆発の1000倍に達するエネルギーが解放される。合体後には、強力な磁場で細く絞られた、光速に近い速度のジェットが放出される。(Credit: Artwork: Elizabeth Wheatley (STScI))
連星中性子星の合体で発生するジェットのイメージ図。中性子星の合体では新星爆発の1000倍に達するエネルギーが解放される。合体後には、強力な磁場で細く絞られた、光速に近い速度のジェットが放出される。(Credit: Artwork: Elizabeth Wheatley (STScI))

中性子星合体とショートガンマ線バースト

中性子星連星合体のモデルでは、まず中性子星同士が合体して重量崩壊を起こし、ブラックホールが出来ます。

そのブラックホールの周りに残された物質の一部は、強力な重力で引き寄せられて降着円盤を形成。
やがて、円盤の回転軸に沿って光速に近い(=相対論的な速度の)ジェットが両極から放出されます。

これまで、ショートガンマ線バーストの発生源は中性子星の合体ではないかと長年にわたって推測されてきました。
でも、この両者の関連を示すには、中性子星合体の現場で相対論的ジェットが発生している証拠が必要だったんですねー

そう、今回の研究成果は、これまで考えられてきた中性子星合体のシナリオに沿うものであると同時に、中性子星合体とショートガンマ線バーストの間に関わりがあることを大きく裏付けるものと言えますね。
今回の研究成果の紹介動画“Hubble Reveals Ultra-Relativistic Jet”(Credit: NASA Goddard)


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ほとんど知られていないX線偏光の情報を求めて! X線偏光観測衛星“IXPE”が超新星残骸の謎に迫る

2022年11月26日 | 宇宙 space
X線の偏光を高い感度で測定できる初の宇宙望遠鏡“IXPE”。
ほとんど知られていないX線偏光の情報を求めて超新星残骸“カシオペヤ座A”を観測してみると、爆発による衝撃波と磁場の広がり方について新たな手掛かりを得たそうです。

X線の偏光を高い感度で測定する宇宙望遠鏡

2021年12月9日に打ち上げられたNASAとイタリア宇宙機関のX線偏光観測衛星“IXPE(Imaging X-ray Polarimetry Explorer)”。
この衛星は、X線の偏光(電磁波における波の向きの偏り)を高い感度で測定できる初の宇宙望遠鏡なんですねー

ほとんど知られていないX線偏光の情報を求め、“IXPE”が最初の観測対象としたのは、超新星残骸“カシオペヤ座A”でした。
超新星残骸“カシオペヤ座A”。(青)X線宇宙望遠鏡“チャンドラ”、(青緑)“IXPE”、(金)ハッブル宇宙望遠鏡がそれぞれ取得したデータを合成した疑似カラー。(Credit: X-ray: Chandra: NASA/CXC/SAO, IXPE: NASA/MSFC/J. Vink et al.; Optical: NASA/STScI)
超新星残骸“カシオペヤ座A”。(青)X線宇宙望遠鏡“チャンドラ”、(青緑)“IXPE”、(金)ハッブル宇宙望遠鏡がそれぞれ取得したデータを合成した疑似カラー。(Credit: X-ray: Chandra: NASA/CXC/SAO, IXPE: NASA/MSFC/J. Vink et al.; Optical: NASA/STScI)

“カシオペヤ座A”では超新星爆発によって、極めて高速の衝撃波が発生していました。

衝撃波で吹き飛ばされた陽子や電子などの荷電粒子は、同じく爆発に伴って生じた磁場に閉じ込められ、磁力線の周りを強制的に旋回させられることになります。

このとき電子は、磁力線の向きに応じて偏光した“シンクロトロン放射”と呼ばれる強い光を放ちます。

この偏光を調べると、非常に小さなスケールで超新星残骸の内部で起こっている現象を知ることができます。

超新星爆発による衝撃波と磁場の広がり

電波による観測では、“シンクロトロン放射”が“カシオペヤ座A”のほぼ全域で発生していることや、電波全体のうち偏向している物は5%程度しかないことが分かっていました。

また、磁場が残骸の中心から外側へと放射状に広がっていることも確認されています。

一方、NASAのX線天文衛星“チャンドラ”の観測によれば、X線は主に残骸の外側、つまり衝撃波が磁場にぶつかっているところで発生していました。

これまで、そのX線がどのように偏光しているかは観測できませんでした。

でも、予測されていたのは電波とは向きが違うだろうということ。
X線の“シンクロトロン放射”を生じさせている磁場は、電波を生じさせている磁場に対して垂直だと考えられていました。

ところが、“IXPE”が観測したX線偏光が示していたのは、磁場が電波と同じく中心から外へ向かう放射状に広がっていること。
さらに、“カシオペヤ座A”からのX線のうちで偏光しているものの割合は、電波の割合よりもさらに少ないものでした。

このことは、X線源となっている領域は乱流が渦巻き、あらゆる方向の磁場が入り交じっているため、それぞれからのX線が重なり合った結果、全体としての偏光度が小さくなったことを示唆しているようです。
“カシオペヤ座A”の画像に、X線偏光から判明した磁場の向きを重ね合わせた図。緑は“IXPE”の観測した信号が特に強かった領域。全体として磁場は中心から放射状に広がっていることが分かる。(Credit: X-ray: Chandra: NASA/CXC/SAO, IXPE: NASA/MSFC/J. Vink et al.)
“カシオペヤ座A”の画像に、X線偏光から判明した磁場の向きを重ね合わせた図。緑は“IXPE”の観測した信号が特に強かった領域。全体として磁場は中心から放射状に広がっていることが分かる。(Credit: X-ray: Chandra: NASA/CXC/SAO, IXPE: NASA/MSFC/J. Vink et al.)

これらの結果は、電子を非常に高いエネルギーに加速するために必要な環境を垣間見せてくれます。
観測は始まったばかりですが、“IXPE”のデータは、今後私たちが追跡すべき新しい手掛かりを提供してくれたようです。


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ビッグバンから20億年後の初期宇宙で形成されつつある原始銀河団を観測

2022年11月24日 | 銀河・銀河団
ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の観測により、115億光年彼方のクエーサーのすぐ近くに少なくとも3つの銀河が存在することが分かりました。
ハッブル宇宙望遠鏡のアーカイブデータからは、さらに多くの銀河が存在する可能性が示唆されているので、測していたのは原始銀河団が形成されつつある現場のようです。

この時代の原始銀河団は見つけるのが難しく、ごくわずかしか知られていません。
なので、高密度な環境で銀河がどのように成長するのかを、理解するための手掛かりになると考えられています。

初期の宇宙に存在するクエーサー

ヘルクレス座の方向にある“SDSS J165202.64+17285.3”は私たちから115億光年の距離を隔てた、ビッグバンから20億年程度の初期宇宙に存在するクエーサーです。

クエーサーは、銀河中心にある超大質量ブラックホールに物質が落ち込むことで生み出される莫大なエネルギーによって輝く天体で、あらゆる波長の電磁波を発しています。
遠方にあるにもかかわらず明るく見えるんですねー

ただ、“SDSS J165202.64+17285.3”は遠方にあるので、赤方偏移によって非常に“赤い”クエーサーになっています。
膨張する宇宙の中では、遠方の天体ほど高速で遠ざかっていくので、天体からの光が引き伸ばされてスペクトル全体が低周波側(色で言えば赤い方)にズレてしまう。この現象を赤方偏移といい、この量が大きいほど遠方の天体ということになる。110億光年より遠方にあるとされる銀河は、赤方偏移の度合いを用いて算出されている。
赤外線でも明るくなっている“SDSS J165202.64+17285.3”は、赤外線宇宙望遠鏡であるジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡で観測するのに向いている天体と言えました。

銀河団が形成されつつある現場

今回の研究では、ドイツ・ハイデルベルグ大学のチームが、ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の近赤外線分光器“NIRSpec”を用いて、“SDSS J165202.64+17285.3”とその周辺の分光観測を実施。

光のドップラー効果によって、私たちの方へ動いている物質からの光は波長が短く(青く)なり、遠ざかっている物質の光は波長が長く(赤く)なります。

これにより、分光観測によって“SDSS J165202.64+17285.3”の母銀河周辺におけるガスの動きを調べることができました。
(左)ハッブル宇宙望遠鏡が撮影した“SDSS J165202.64+17285.3”周辺。(右)ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が撮影した“SDSS J165202.64+17285.3”近傍のガスの分布。赤は私たちから遠ざかる方向、青は私たちに近づく方向に動く成分を示している。(Credit: NASA、ESA、CSA、STScI、D. Wylezalek (Heidelberg Univ.), A. Vayner and N. Zakamska (Johns Hopkins Univ.) and the Q-3D Team)
(左)ハッブル宇宙望遠鏡が撮影した“SDSS J165202.64+17285.3”周辺。(右)ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が撮影した“SDSS J165202.64+17285.3”近傍のガスの分布。赤は私たちから遠ざかる方向、青は私たちに近づく方向に動く成分を示している。(Credit: NASA、ESA、CSA、STScI、D. Wylezalek (Heidelberg Univ.), A. Vayner and N. Zakamska (Johns Hopkins Univ.) and the Q-3D Team)
ガスの動きから分かったのは、“SDSS J165202.64+17285.3”の周りには母銀河に加えて、少なくとも3つの銀河が漂っていること。
ハッブル宇宙望遠鏡のアーカイブデータからは、さらに多くの銀河が存在する可能性が示唆されています。銀河間の距離は近く、互いに重力で影響を及ぼし合っているようです。

研究チームでは、この結果を銀河団が形成されつつある現場を観測したものと解釈しています。

この時代の原始銀河団は、見つけるのが難しく、ビッグバン以降、形成するのに十分な時間を与えられたものは少ないので、ごくわずかしか知られていません。

なので、今回の発見は、高密度な環境で銀河がどのように成長するのかを、理解するための手掛かりになると考えられています。

115億年前という初期宇宙で、“SDSS J165202.64+17285.3”のように数多くの銀河が生まれているのは、極めて異例なことと言えます。

大量の暗黒物質が重力によって、物質をつなぎとめていると考えられています。

でも、ただの暗黒物質の密集部では、この状況を再現できないので、2つの巨大な暗黒物質の塊がここで衝突している可能性もあるようです。


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115億光年彼方で起こった超新星、重力レンズによって爆発初日から8日目までの変化を観測

2022年11月22日 | 宇宙 space
115億光年彼方で起こった超新星爆発。
この光が重力レンズ効果によって3つの異なる経路を通り、それぞれ数日の時間差で地球に到達しました。
これによって、超新星の時間変化が分かり、爆発前の星の情報も得られたそうです。

遠方宇宙の超新星爆発

恒星の死に伴う爆発現象“超新星”は、星が属する銀河全体を上回るほどの明るさがあります。

そのため、近年では大型望遠鏡の観測によって、100億光年以上の遠方宇宙で起こった超新星爆発も見つかるようになってきました。

でも、超新星爆発の観測機会は限られるので、遠方の超新星については得られる情報も少なかったんですねー

特に、爆発する前の恒星の性質が明らかになった超新星は、地球から数億光年以内の近傍の超新星爆発に限られていました。

光の経路を曲げる重力レンズ

今回、アメリカ・ミネソタ大学を中心とする国際共同研究チームが見つけたのは、地球から約115億光年という非常に遠く離れた銀河で起こった超新星。
さらに、爆発前の恒星が太陽の約5000倍の半径を持つ赤色巨星であったことも突き止めています。

この快挙は、超新星と地球の間に位置するくじら座方向の銀河団“Abell 370”の重力がレンズのような役割を果たしてくれたおかげ。
この重力により超新星からの光が曲げられ、複数の経路を通じて地球に届けられました。
重力レンズとは、恒星や銀河などが発する光が、途中にある天体などの重力によって曲げられたり、その結果として複数の経路を通過する光が集まるために明るく見えたりする現象。
光源と重力源との位置関係によっては、複数の像が見えたり、弓状に変形した像が見えたりする。その効果を重力レンズ効果と呼んでいる。
光が地球へ到達するまでの所要時間には、経路によって数日程度の差があったんですねー
なので、研究チームは超新星の爆発初日から8日目までの変化を、1つの画像から知ることが出来ました。

超新星が3つに分かれて移っていた画像は、ハッブル宇宙望遠鏡が201012月に撮影していたものでした。
研究チームは、ハッブル宇宙望遠鏡が残したアーカイブ画像を系統的に調査する中で、今回の超新星を見つけています。
ハッブル宇宙望遠鏡が撮影した銀河団“Abell 370”(左)と、超新星を含む銀河の重力レンズ像(右のA~D)。重力レンズ像には時系列順に1から3までの番号が降られている。(A)2011年から2016年にかけて撮影された画像の重ね合わせ。超新星は暗くなっていて銀河だけが見える。(B)超新星が写った2010年12月の画像。(C)BからAを差し引いて超新星だけを浮かび上がらせた画像。A~Cは1つの波長だけをとらえたモノクロ画像。(D)ハッブル宇宙望遠鏡がとらえた3つの波長についてCと同様の減産処理を施し重ね合わせたカラー画像。超新星の色が時間とともに変化していることが分かる。(Credit: NASA, ESA, STScI, Wenlei Chen (UMN), Patrick Kelly (UMN), Hubble Frontier Fields)
ハッブル宇宙望遠鏡が撮影した銀河団“Abell 370”(左)と、超新星を含む銀河の重力レンズ像(右のA~D)。重力レンズ像には時系列順に1から3までの番号が降られている。(A)2011年から2016年にかけて撮影された画像の重ね合わせ。超新星は暗くなっていて銀河だけが見える。(B)超新星が写った2010年12月の画像。(C)BからAを差し引いて超新星だけを浮かび上がらせた画像。A~Cは1つの波長だけをとらえたモノクロ画像。(D)ハッブル宇宙望遠鏡がとらえた3つの波長についてCと同様の減産処理を施し重ね合わせたカラー画像。超新星の色が時間とともに変化していることが分かる。(Credit: NASA, ESA, STScI, Wenlei Chen (UMN), Patrick Kelly (UMN), Hubble Frontier Fields)
3つの像のうち時系列で一番最初のものは、爆発から6時間後という非常に早い段階の超新星をとらえていました。
2番目は爆発後約2日、3番目は爆発後約8日の姿で、色は徐々に赤くなっていました。

この色の変化は何を意味しているのでしょうか?
それは、爆発の衝撃波によって星が膨張して温度が低下した結果だと考えられ、この冷却のペースから爆発前の恒星の大きさが計算されています。

また、この発見に基づき、115億光年の遠方までの超新星爆発の頻度を求めて分かったこともあります。

それは、遠方宇宙ではこれまで考えられていたよりも多くの超新星爆発が起こっていること。
どうやら遠方の宇宙では、星の形成が活発だったようですね。
今回の研究成果の紹介動画“Hubble Captures 3 Faces of Evolving Supernova”(Credit: NASA's Goddard Space Flight Center)


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星の材料の流出を防いでくれるシールドがあるから、大小マゼラン雲では活発な星形成が続いている

2022年11月18日 | 銀河・銀河団
天の川銀河には、周囲を公転している“衛星銀河”が50個以上見つかっています。
その衛星銀河に含まれている大小マゼラン雲の周りに、銀河コロナと呼ばれる高温ガスが見つかったんですねー
どうやら、この構造が星の材料の流出を防いでくれているので、大小マゼラン雲では今も星の形成が続いているようです。

活発な星形成を続ける銀河

かつては小さな棒渦巻銀河だったと考えられている大マゼラン雲と小マゼラン雲。
現在では、天の川銀河に引き込まれて形が大きく崩れ、両銀河が通った後にはガスの尾が残されています。

このような過去を経た大小マゼラン雲では、星の材料になるガスが流出していてもおかしくありません。

でも、どちらの銀河でも活発な星形成が続いていて、天文学者たちは頭をひねっています。

今回、アメリカ・コロラド大学の研究チームが突き止めたのは、大小マゼラン雲を繭(まゆ)のように包む高温のガスの存在でした。
この高温のガスが星の材料を保持し、今でも活発な星の形成を続けることが出来ているようです。

このガスは直接観測ができないほど薄いもの。
でも、特定の波長を吸収する性質があり、奥の天体からの光を観測することで見つけることが出来ました。
今回の研究手法の概念図。大小マゼラン雲の背後に存在するクエーサー(右下)の光が、太陽系(中央上)の私たちに届くまでの間に、特定の波長の紫外線がマゼラン雲の銀河コロナに吸収される。天の川銀河にもコロナがあるが、マゼラン雲のコロナは大小マゼラン雲に近い部分ほど紫外線を多く吸収するので、存在が確認できる。(Credit: STScI, Leah Hustak)
今回の研究手法の概念図。大小マゼラン雲の背後に存在するクエーサー(右下)の光が、太陽系(中央上)の私たちに届くまでの間に、特定の波長の紫外線がマゼラン雲の銀河コロナに吸収される。天の川銀河にもコロナがあるが、マゼラン雲のコロナは大小マゼラン雲に近い部分ほど紫外線を多く吸収するので、存在が確認できる。(Credit: STScI, Leah Hustak)

銀河を包むプラズマ化した高温のガス

今回見つかったような、銀河を包むプラズマ化した高温のガスは“銀河コロナ”と呼ばれ、天の川銀河でも見つかっています。

その成因については、何十億年も前にガスが集まって銀河を形成したときの残りだという説もあります。

“銀河コロナ”は質量が小さい矮小銀河でも検出されているので、大小マゼラン雲にも存在する可能性は以前から指摘されていました。

そこで、研究チームはNASAのハッブル宇宙望遠鏡と遠紫外線分光衛星“FUSE”の観測データから28個のクエーサーの紫外線スペクトルを調査。
選ばれたクエーサーは、見かけ上は大小マゼラン雲の近くにありますが、実際には遥か遠方にある天体でした。
クエーサーは、銀河中心にある超大質量ブラックホールに物質が落ち込むことで生み出される莫大なエネルギーによって輝く天体。遠方にあるにもかかわらず明るく見える。
その光が私たちへ届くまでの間に、プラズマ化している炭素、酸素、ケイ素などに特定の波長が吸収されていることが紫外線スペクトルから分かりました。
スペクトルは光の波長ごとの強度分布。個々の元素は決まった波長の光を吸収する性質があるので、その波長での光の強度が弱まり吸収線として観測される。このスペクトルに見られる吸収線を調べることで、元素の種類を直接特定することができる。
さらに、判明したのは大マゼラン雲に見かけ上近いほど吸収量は多く、それだけプラズマが濃いこと。
このことから、研究チームでは大小マゼラン雲を中心とした高温ガスのコロナが実在すると結論付けています。

ただ、コロナのガスは薄く、そこに無いも同然なんですねー
それだけ薄いガスが、どうして大小マゼラン雲を守るシールドになれるのでしょうか?

何かが銀河に入り込もうとするなら、最初にこの物質“銀河コロナ”を通過しなければならないので、それが衝撃を吸収する役目を果たします。

また、コロナは最初に引きずり出される物質でもあります。
このコロナのごく一部を代償にすることで、銀河の内部で星の材料になるガスは守られているようですよ。


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