宇宙のはなしと、ときどきツーリング

モバライダー mobarider

密度の低い巨大な中心核が木星には存在している? それは大規模な正面衝突の痕跡かも…

2019年08月30日 | 木星の探査
木星の中心に低密度で巨大な中心核が存在する可能性が、探査機“ジュノー”による観測から分かってきたんですねー

2011年8月5日に打ち上げられた“ジュノー”の目的は木星誕生の謎を解明すること。
この低密度な核は、形成から間もない木星に地球の10倍ほどの天体が正面衝突した結果作られたようです。
○○○


木星には巨大な中心核が存在する?

太陽系最大の惑星である木星は、質量の90%以上が水素とヘリウムでできた巨大ガス惑星です。

その深部に存在すると考えられているのが、岩石と氷成分からなる中心核。
でも、詳細はいまだ謎に包まれているんですねー

木星の中心核の存在の有無及び大きさは、木星誕生を紐解く重要なカギになるとされています。

現在、NASAの探査機“ジュノー”が木星を周回しながら、大気や磁場、重力場などの調査を行っています。

その重力場の測定から、地球質量の8倍以下と従来予想されていたよりもはるかに巨大な中心核が木星内部に存在し、最大で木星の大きさの半分程度にも達する可能性があることが示されました。

さらに分かってきたのが、この中心核が岩石・氷成分と水素・ヘリウムが混ざり合った、密度の低い巨大な核であること。

木星が低密度の巨大中心核を持っているとすれば、これがどのようにして誕生したのかが新たな疑問となっていました。


木星と天体の大規模な正面衝突

今回の研究では、この巨大中心核の起源として天体衝突の可能性に着目。
約45億年前に形成の最終段階にあった木星で大規模な天体衝突が起こったとして、数値シミュレーションによる研究を進めています。

様々な条件でシミュレーションを行った結果示されたのが、地球の10倍程度の質量をもつ天体が木星にほぼ正面衝突した場合に、衝突天体が木星の深部まで到達し、木星の中心核と衝突合体すること。

このとき、衝突に伴う衝撃波と乱流による大気の乱れで木星の中心核の物質が上層部へと輸送され、周囲の水素やヘリウムと激しく混ざり合うことで、密度の低い巨大な中心核が形成されることが分かります。

一方、より小さな天体が衝突したり、天体が大きな角度で衝突した場合には、低密度の巨大中心核は形成されませんでした。
○○○
木星と地球の10倍の質量をもつ天体との正面衝突の様子。
(左上)衝突前、(右上)木星の中心核との衝突直前、(左下)木星の中心核の破壊後、(右下)衝突から10時間後。色は密度を表す。

また、多数のシミュレーション結果を解析すると、衝突現象のおよそ50%は正面衝突に近いものであることも分かります。
そう、木星と天体の大規模な正面衝突は、確率的に十分に起こりうる現象だということも示されたんですねー
木星若い頃に大規模な正面衝突を経験していた
これらの結果から結論付けられるのは、木星が形成の最終段階に大規模な天体衝突を経験した可能性があること。
太陽系形成初期に起こった天体衝突によって、木星に低密度で巨大な中心核ができたんですね。
○○○
太陽系形成初期に起こった若い木星と原始惑星との衝突(イメージ図)。



こちらの記事もどうぞ
  “ジュノー”の軌道周期短縮はなし。理由は探査機の状態と軌道変更のリスク
    

“かに星雲”は天の川銀河内最強の電子の天然加速器かも… 高エネルギー ガンマ線の生成過程が分かってきた

2019年08月28日 | 宇宙 space
チベットに設置された観測装置により、“かに星雲”から高エネルギーのガンマ線が検出されました。
このガンマ線は最大450テラ電子ボルトにも達していて、この数値はこれまでに観測された最高記録の6倍も高いもの。

では、この高エネルギーのガンマ線は、どのような過程で生成されたのでしょうか?
ビッグバンの名残り“宇宙マイクロ波背景放射”が関係しているようです。


超新星残骸“かに星雲”

1054年に“おうし座”の一角に超新星が出現します。
この名残りが超新星残骸として観測されている“かに星雲”です。

“かに星雲”はアマチュア天文家の撮影対象として人気がある天体なんですが、学術的にも非常に精力的に研究が行われていて、電波、X線、ガンマ線と幅広い波長領域で観測されてるんですねー
○○○
かに星雲
これまでの観測で“かに星雲”から検出されたガンマ線の最高エネルギーは75テラ電子ボルト。
この数値は可視光線のエネルギーの数兆倍という超高エネルギーでした。

一方で、天体からのガンマ線はエネルギーが高いほど強度が弱く、安定した長時間の観測が必要になります。
なので、これまで他の天体を含めて100テラ電子ボルト以上のガンマ線が観測されたことはありませんでした。


高エネルギーのガンマ線を観測する

今回の研究を進めたのは“チベットASγ実験グループ”という国際研究グループ。
中国チベット自治区の標高4300メートルの高原に設置された“チベット空気シャワー観測装置”を用いて超高エネルギー宇宙線を観測しています。

高エネルギーの宇宙線やガンマ線が地球大気に衝突すると“空気シャワー”という現象が起きます。
この現象では多数の粒子が発生するので、それを観測すれば宇宙線やガンマ線のエネルギーや到来方向を知ることが出来るんですねー
○○○
チベット高原の標高4300メートルに設置されている“空気シャワー観測装置”
ただ、天体からやってくる高エネルギーのガンマ線の強度は、一様にやってくる宇宙線雑音の数百分の1以下しかありません。

この雑音を減らすため研究グループが着目したのは、“空気シャワー”に含まれるミューオンの数でした。

ガンマ線起源の“空気シャワー”中のミューオン数は、宇宙線起源のものの50分の1程度。
なので、ミューオンの数を計測すればガンマ線と宇宙線雑音雑音とを区別できることになります。


どのようにして高エネルギーのガンマ線が生成されたのか

“チベットASγ実験”による2014年から約2年間のデータを解析した結果、“かに星雲”の方向から10テラ電子ボルトを超えるようなガンマ線が約20回観測されていたことが明らかになります。

最高エネルギーは450テラ電子ボルトにも達していて、これはこれまでの最高記録の6倍も高い観測成功例となりました。
○○○
(左)“チベット空気シャワー観測装置”で見た“かに星雲”方向の100テラ電子ボルト以上のガンマ線イメージ。
(右)ハッブル宇宙望遠鏡による“かに星雲”の可視光線画像。
それでは、こうした高エネルギーのガンマ線は、どのような過程で生成されたのでしょうか?

いま考えられているのは、以下の通りです。
まず、超新星爆発後の数百年間に電子が星雲中で超高エネルギー(ペタ電子ボルト=1000テラ電子ボルト)まで加速されます。
この加速された電子が、宇宙全体を一様に満たす宇宙マイクロ波背景放射(ビッグバンの名残り)と衝突。
すると、宇宙マイクロ波背景放射が電子により叩き上げられ、450テラ電子ボルトのガンマ線になる。

この解釈が正しければ、“かに星雲”は私たちが知る天体のうちで“天の川銀河内最強の電子の天然加速器”と考えることが出来ます。

現在、南米のボリビアにも“チベットASγ実験”と類似の観測装置“ALPACA”の建設が計画されています。

今後、同様の観測や研究が進むことで、天の川銀河内の宇宙線のエネルギー限界や発生原理、発生源を特定できるようになるそうですよ。


こちらの記事もどうぞ
  国際ガンマ線天文台に大口径望遠鏡設置へ
    

惑星は大気をどのように失うのか? 金属元素が流れ出すラグビーボール型の惑星からヒントが得られるかも

2019年08月26日 | 宇宙 space
ハッブル宇宙望遠鏡の観測により、系外惑星の大気からマグネシウムと鉄が流れ出す様子が初めてとらえられました。

なぜ、このような重元素が惑星から流れ出すのでしょうか?
どうやら、主星が放つ強い紫外線が惑星を加熱することに原因があるようです。

主星の近くを回る巨大ガス惑星

今回観測対象になったのは、とも座の方向約900光年彼方の距離に位置する“WASP-121 b”。
2015年に発見された系外惑星で、質量は木星の1.2倍ほどある巨大ガス惑星です。

主星の“WASP-121”の半径は太陽の1.4倍で、表面温度は太陽よりやや高い6400K。
“WASP-121 b”は、この主星からわずか380万キロ(地球から太陽までの距離の40分の1)しか離れていない軌道を1.27日周期で公転しています。

そう、“WASP-121 b”は巨大ガス惑星が主星のごく近くを回る“ホットジュピター”に分類される惑星なんですねー
https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4e/56/eb4f9cc3382e3ff9d17a378bb70aa5b1.jpg
WASP-121 b(イメージ図)


惑星からマグネシウムや鉄が流出している?

今回、“WASP-121 b”が主星の前を横切る瞬間を、アメリカ・ジョンズ・ホプキンズ大学を中心とする研究グループが観測。

観測に使われたのはハッブル宇宙望遠鏡の撮像分光器“STIS”。
このとき、“WASP-121 b”の大気を通り抜けてくる主星の光が紫外線の波長で調べられました。

そして見つかったのが、惑星から流れ出すマグネシウムや鉄などの重元素でした。

金属元素はほかのホットジュピターでも見つかっています。

でも、それらが検出されていたのは惑星大気の表面よりもずっと深い場所。
なので、今回検出された重元素が惑星から流出したものなのかどうかは、よく分かっていません。

今回、“WASP-121 b”の観測でマグネシウムと鉄が検出されたのは、惑星の重力の影響が及ばないほど遠く離れた場所でした。


流出の原因は主星からの紫外線

通常、ホットジュピターのようなサイズの惑星では内部は十分に低温で、マグネシウムや鉄は雲の中で凝結しています。

でも、この惑星系では、主星が放射する紫外線が太陽よりも強く、エネルギーも高いんですねー
このため、紫外線によって“WASP-121 b”の上層大気が約2800Kもの高温に加熱され、重元素とともに惑星の外に流出してしまいます。

惑星の大気に重元素が含まれていれば、主星からの紫外線は上層大気の重元素が吸収・散乱するので大気の奥深くまで届きません。

でも、“WASP-121 b”では重元素が失われつつあるので、大気が紫外線を透過して、余計に強く加熱されていると考えられます。

また、主星と“WASP-121 b”の距離は、主星から受ける潮汐力で惑星自体が破壊されるかどうかというぎりぎりの近さ。

そのため、“WASP-121 b”は潮汐力によって引き延ばされ、ラグビーボールのような形をしているはず…
今回、この惑星が観測対象に選ばれたのは、非常に極端な環境にあるからだそうです。

この後、惑星は主星に近づくにつれて大気は散逸すると考えられます。

ホットジュピターの大気は、ほとんど水素で構成されています。
これらの惑星が比較的容易にガスを失いうることは、これまでの観測から知られていました。

でも、“WASP-121 b”の場合、水素とヘリウムは川のように絶えず流出していて、重元素も一緒に流れ出しています。
惑星大気が失われるメカニズムとしては非常に効率が良いといえます。

“WASP-121 b”の観測結果は、惑星は原始大気をどのように失うのか? っというシナリオを解明するうえで手掛かりになるものかもしれませんね。


こちらの記事もどうぞ
  主星のすぐ近くから遠く離れた軌道を回るホットジュピターまで! 謎がいっぱいある幼い惑星系
    

小惑星からのサンプルリターンはアメリカ宇宙探査史上初! “オシリス・レックス”の着陸候補地点4か所を選定

2019年08月24日 | 太陽系・小惑星
2016年に打ち上げられた探査機“オシリス・レックス”の着陸候補地点が4か所選ばれました。
予定では、来年の後半に小惑星ベンヌに着陸して試料採取を行うことになります。

小惑星からのサンプルリターンはアメリカの宇宙探査史上でも初めてのこと。
アポロ計画で月の物質を持ち帰って以来、最大量のサンプルを持ち帰る計画なんですねー

小惑星は、46億年前に太陽系を作った物質が残されている貴重な研究対象になります。
初期太陽系の姿の解明に役立つ発見があるといいですね。


神話に登場する鳥の名前が付けられた着陸候補地点

NASAの小惑星探査機“オシリス・レックス”が小惑星ベンヌに到着したのが2018年12月。
以来、ベンヌ全球の地形を観測し、試料採取を安全に行える場所を探してきました。

今回選定されたのは4か所の候補地点。
それぞれに、Nightingale(サヨナキドリ)、Kingfisher(カワセミ)、Osprey(ミサゴ)、Sandpiper(シギ)と、エジプトに生息する鳥の名前が付けられています。

探査機の名前“オシリス・レックス(OSIRIS-REx)”と小惑星“ベンヌ(Bennu)”は、エジプトの神々にちなんだもので、ベンヌ表面の地形には神話に登場する鳥の名前が付けられることになっています。
○○○
試料採取を行う4か所の候補地点(各画像の円部分)。


着陸候補地点の特徴

Nightingale(サヨナキドリ)北緯56度
4つの中で最も北にあり、試料採取できそうな場所が複数存在している。
直径140メートルの大きなクレーターの内部にある小クレーターの内側の地点。
粒子が細かく暗い色をした物質が存在していて、反射率や表面温度は4地点の中で最も低い。

Kingfisher(カワセミ)北緯11度
ベンヌの赤道に近い小クレーターの内部にある。
このクレーターは直径8メートルで岩塊に囲まれているが、エリア内に大きな岩はない。
4か所の中で含水鉱物のスペクトルが最も強い。

Osprey(ミサゴ)北緯11度
直径20メートルの中にあり、試料採取できそうな場所が複数存在している。
周囲に様々なタイプの岩石が存在するため、Osprey内部の砂(レゴリス)も様々な種類からなる可能性がある。
4か所の中で炭素質の物質のスペクトルが最も強い。

Sandpiper(シギ)南緯47度
直径63メートルの大きなクレーターの壁の上にある比較的平らな場所。
含水鉱物が存在していて、変成を受けていない水に富んだ物質を含む可能性がある。


粒子の細かい物質が存在する場所を特定する

当初、地球からの観測で推定されていたのは、ベンヌの表面には粒子の細かい物質が堆積した大きな平坦地がありそうなこと。

でも、“オシリス・レックス”がベンヌに到着して表面を撮影すると、ベンヌの地形は岩だらけだと分かります。

そのため、岩塊で埋め尽くされたベンヌの表面で、サンプリングできる物質が存在する安全なエリアを見つけることが運用チームの課題に…
でも、こうした予想外の事態に対応する準備もされていて、“オシリス・レックス”のミッションの日程には300日以上の余裕が見込まれています。

もともと運用チームが予定していたのは、今夏までに着陸地点を2か所まで絞り込むこと。

それを変更し、今回4か所の候補地点を選び出し、今後4か月かけて詳しく調査していきます。
特に各地点の高解像度観測を行って、粒子の細かい物質が存在する場所を特定することに重点を置くそうです。


狭い着陸地点へ探査機を誘導する方法

4地点の安全性を評価するにあたって活用されたのは、今年初めに一般のボランティアも参加して作成されたベンヌ表面の岩塊の分布図でした。

元の計画では着陸地点は半径25メートルの円を想定。
でも、この広さの岩塊のない場所はベンヌには全く存在せず…
運用チームは半径5~10メートルの範囲で平坦なエリアを探し出すことにします。

こうした狭い場所へ探査機を正確に着陸させるため、運用チームでは探査機の航法誘導の要求精度を厳しくし、“ブルズアイTAG”と名付けられた新たなサンプリング方法を編み出しています。
  “はやぶさ2”で用いられたのは“ピンポイントタッチダウン”と呼ばれる誘導方法。
  リュウグウ表面に投下済みのターゲットマーカーをカメラの視野内に捕捉し続けることで、
  マーカーから指定の距離・方向にシフトした場所へ着陸する。


“ブルズアイTAG”では、ベンヌ表面の画像を使い探査機が表面に設置するまで高い精度で誘導。
これまでの運用実績から、新たな要求精度を十分にクリアできる見込みです。


着陸地点の詳細な分析を行う“偵察”フェーズ

“オシリス・レックス”の試料採取方法は“タッチ・アンド・ゴー(Touch And Go:TAG)”と呼ばれています。

探査機本体から“TAGSAM”と呼ばれるアームを伸ばし、その先端をベンヌの表面に接地。接地時間はわずか5秒程度だそうです。

アームの先端には鍋の蓋のようなカバーが取り付けられていて、接地すると同時にカバーの内側に窒素ガスを噴射。
これによってベンヌ表面の物質が巻き上げられ、カバー内にキャッチされる仕組みなんですねー
“TAGSAM”で取り込める物質は、粒径が2.5センチ以下のものに限られているそうです。
  “はやぶさ2”もリュウグウ表面に接地するのは数秒程度。
  接地すると弾丸を地表に発射して舞い上がった地表物質を採取し上昇する。

試料採取アーム“TAGSAM”の動作を解説する動画。

今回選ばれた4地点は、地理的な位置も地質学的な特徴も異なっています。

採取可能な物質がどのくらいの量存在しているかはまだ分かりません。
でも、4か所とも徹底的に安全評価が行われていて、探査機が降下して表面に接地しサンプルを採取しても安全であることは確認済みです。

今秋には、この4地点の詳細な分析を行う“偵察”フェーズが始まります。

このフェーズの第1段階では、探査機は4地点を高度1.29キロから観測。
着陸の安全性や試料採取が可能であることを確認します。

また、各地点の近接撮影も行われ、探査機を自動誘導する際に目印となる特徴的な地形をマッピング。
この観測で得られたデーを使って、最終的に第1候補地点と予備地点の計2か所が12月に決定される予定です。

偵察フェーズの第2・第3段階が始まるのは来年の初め頃。
より解像度の高いデータを得るため、最終候補地点の2か所を低高度から観測します。

試料採取は来年の後半になる見込みで、地球にサンプルを持ち帰るのは2023年9月24日になるそうですよ。
4つの候補地点の解説動画。


こちらの記事もどうぞ
  探査機“はやぶさ2”が小惑星リュウグウへのタッチダウンに成功!
    

月と水星の浅いクレーターの地下には厚い氷の堆積物が埋まっている?

2019年08月22日 | 月の探査
月と水星のクレーターの観測データを新たに解析してみると、この2つの天体の極域に大量の氷が存在する可能性が示されました。
極域にあるクレーターの内部には太陽光が全く当たらない影の部分があり、氷はそこに隠されているそうです。


クレーター内部にある太陽光が全く当たらない場所

意外な気がしますが、月と水星の極域は太陽系の中で最も温度が低い場所の一つなんですねー

地球の自転の傾き23.4度に対して、月は5.1度、水星が7度と小さいので、月や水星の極域では太陽は高く昇ることがなく、クレーターの内部には太陽光が全く当たらない“永久影”もあります。

“永久影”は極めて低温なので、何らかの原因でここに溜まった水の氷は数十億年にわたって残ると考えられています。
○○○
月の南極域のイメージ図。太陽光が当たらないクレーターの永久影に水の氷(青色)が大量に堆積しているのかも。
水星の場合、地球からのレーダー観測により、厚くてほぼ純粋な水の氷の特徴を示す信号がとらえられています。
こうした氷の堆積物の証拠は、NASAの水星探査機“メッセンジャー”でも得られていました。

一方、月の極地方も熱環境は水星の極域とよく似ているのですが、まばらで薄い氷堆積物しか見つかっていません。

“メッセンジャー”の観測で明らかになったのは、水星の両極域には水の氷を主成分とする堆積物が広い範囲に分布していること。
さらに、月の氷のようにまばらな分布ではなく、年代も月より新しくて、過去数千万年以内にとどまったもののようです。
  水星に大量の“水の氷”
    

浅いクレーターの地下にあるもの

こうした月と水星の氷の違いについて、今回の研究では両方の天体にある衝突クレーターに着目。
分析を進めたのはカリフォルニア大学ロサンゼルス校の研究チームでした。

大気をほぼ持たない月と水星の表面にはたくさんの衝突クレーターが残されています。
その中でも、直径が小さい“単純クレーター”と呼ばれるタイプのクレーターが分析されました。

“単純クレーター”はエネルギーの小さな衝突でできたもの。
天体の表面に積もっているチリ(レゴリス)の層の強度によって形が保たれています。
大きなクレーターのような中央丘や台地を持たず、円に近い対象な形をしていて、断面も単純なお椀型なのが特徴です。

分析に用いたのは、NASAの月探査機“ルナー・リコナサンス・オービター”と“メッセンジャー”で得ていた高度データ。
水星のクレーター約2,000個と月のクレーター12,000個から、深さと直系の比率が調べられました。
  調べたクレーターの直径は、2.5キロから15キロまでの範囲にわたっていた。

その結果分かったのは、水星の北極域や月の南極域の単純クレーターは、他の領域に比べて深さが最大で10%ほど浅いこと。
ただ、月の北極域ではこうした傾向はみられませんでした。

なぜ、過去に水の氷が検出されている月の南極域に、浅いクレーターが多く存在しているのでしょうか?
これらのクレーターの地下に、未発見の厚い氷の堆積物が埋まっている可能性が高いことを示唆しているのかもしれません。

また、クレーターの斜面の角度を比べて分かったのが、極側に面している斜面の方が赤道側に面している斜面よりもわずかに傾きが小さいこと。
極に対面する斜面の方がより太陽光が当たりにくいので、氷堆積物が残って傾きが緩くなっていると考えることができます。

ほぼ純粋な氷が見つかっている水星と違い、月で検出されている氷はレゴリスと混ざった地層を作っていると考えられています。

今回研究チームが調べた“単純クレーター”の年代から考えられるのは、クレーターの内部に水の氷が溜まった後、氷の上に降り積もったレゴリスが長い時間をかけて氷と混ざったということ。

また、浅いクレーターの分布が、過去に月や水星の表面で氷が見つかっている場所と相関があることも分かりました。

ひょっとすると、これまでの探査で検出された月と水星表面の氷は、地下の氷が掘り出されたか、あるいは地下深くから水分子が拡散して表面に出てきたものかもしれませんね。


こちらの記事もどうぞ
  月の南極域を調べる世界初の探査機、インドの“チャンドラヤーン2号”が打ち上げに成功!