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なぜ、約30分周期で明るさが変動するの? 天の川銀河中心の超大質量ブラックホールが起こす現象。

2020年05月30日 | ブラックホール
天の川銀河の中心に存在する超大質量ブラックホール“いて座A*”。
このブラックホールの電波強度が、ゆっくりとした変動だけでなく、30分程度の瞬きのような短周期変動も見せることが分かりました。
なぜ、このような現象が起きるのでしょうか?
どうやら、この現象はブラックホール周囲にある降着円盤内の“ホットスポット”に起因するようです。


ブラックホールが起こす明るさの変動

ほとんどの銀河の中心には、太陽の数百万倍から数十億倍の質量を持つ超大質量ブラックホールが存在すると考えられています。

私たちのいる天の川銀河の中心にも、太陽の400万倍の質量を持つ超大質量ブラックホール“いて座A*(エースター)”が存在しています。

“いて座A*”がまれに起こすのが、数時間の間に数倍明るくなる“フレア”という現象。
ブラックホールの放射メカニズムの解明や、周囲の時空の理解につながるのが、こうした明るさの変動を調べることなんですねー

今回の研究では慶應義塾大学のチームが、天の川銀河の中心方向のデータを解析し、“いて座A*”の電波強度を精密に測定。
2017年10月にアルマ望遠鏡で観測したデータが使われている。

1日あたり70分の観測データを10日間にわたって調べてみると、“いて座A*”の電波強度が1時間以上の時間をかけてゆっくりと変化しながら、ときおり30分程度の短い周期的な変動(瞬き)を見せることが分かりました。
(a)2017年10月10日(上)と2017年10月14日(下)の観測で得られた電波強度の時間変化。青、緑、赤の点は観測周波数の違いに対応。強度変化は、1時間以上のゆっくりとした変動と周期的な短時間変動が合わさったオレンジの影で示した曲線におおむね沿っている。(Credit: Y. Iwata et al./慶應義塾大学)
(a)2017年10月10日(上)と2017年10月14日(下)の観測で得られた電波強度の時間変化。青、緑、赤の点は観測周波数の違いに対応。強度変化は、1時間以上のゆっくりとした変動と周期的な短時間変動が合わさったオレンジの影で示した曲線におおむね沿っている。(Credit: Y. Iwata et al./慶應義塾大学)


フレア時に発生する降着円盤内の熱いガスの塊

電波強度の時間変動のうち、過去の研究ですでに指摘されていたのが、1時間以上のゆっくりとした強度変動です。
これは、ブラックホールの周囲に広がる高温のガス円盤“降着円盤”の粘性を反映したものと考えられています。

一方で約30分周期の“瞬き”については、フレア時の赤外線及びX線強度において検出報告はあったのですが、静穏時の電波強度で見いだされたのは今回が初めてのこと。

30分という変動周期が相当するのは、中心から約3000万キロという降着円盤内の最も内縁における回転周期。
つまり、この“瞬き”は、ブラックホールに極めて近い場所での現象に起因する可能性があるんですねー

研究チームが考えているのは、フレア時に発生する降着円盤内の熱いガスの塊“ホットスポット”が、静穏時にも小規模ながら発生しているということ。

今回の現象は、その“ホットスポット”が回転運動をすることで、“相対論的ビーミング効果”により周期的な強度変動となって観測されたものになります。
相対論的ビーミング効果とは、光速に近い速度を持つ放射源が観測者の方向に運動する際、放射エネルギーが上昇して観測される効果。
超大質量ブラックホールとそのごく近傍で周回する“ホットスポット”のイメージ図。(Credit: 慶應義塾大学)
超大質量ブラックホールとそのごく近傍で周回する“ホットスポット”のイメージ図。(Credit: 慶應義塾大学)
昨年、イベント・ホライズン・テレスコープにより史上初めて撮影されたブラックホール・シャドウの画像が公開され、大きな話題になりました。

この時の観測対象は、おとめ座の巨大楕円銀河M87の中心ブラックホールでした。

同じく観測対象の一つになっていた“いて座A*”ですが、まだ画像は公開されていません。

今回の結果が示唆するように、“いて座A*”は明るさと共に形状まで刻々と変化しています。
そう、長時間の観測を必要とするイベント・ホライズン・テレスコープで、ブラックホール・シャドウを撮像するのは簡単なことではないんですねー

一方で、電波の強度変動が降着円盤内の“ホットスポット”に起因するなら、明るさの変動からガスの運動を描き出すこともできるはずです。

また、同様の観測をさらに高感度かつ継続的に行うことで期待されるのが、ガスがブラックホールを周回しながら吸い込まれていく様子が観測できること。

こうした観測・研究を進めていけば、強い重力場における時空構造の理解も進みそうですね。


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光の偏光を調べてみると、褐色惑星の表面に木星のような縞模様が見えてきた

2020年05月28日 | 宇宙 space
現在知られている褐色矮星の中で太陽系に一番近い“Luhman 16A”。
ここから届く光の偏光を調べてみると、“Luhman 16A”には雲の帯があり、木星のような縞模様になっていることが分かってきました。
将来的には、恒星の近くを回る高温のガス惑星の大気も調べられるようです。


6.5光年彼方にある褐色矮星の連星

光輝くのに必要な核融合反応を起こすには質量が小さすぎるため“恒星になることができなかった”天体。
それが褐色矮星です。

質量は木星の13倍~80倍もあるのに、重力で収縮しているのでサイズは木星と同程度。

こうした“惑星”でも“恒星”でもない褐色矮星に、木星や土星のような縞模様が存在することが観測により明らかになったんですねー

縞模様の証拠が得られたのは、ほ座の方向約6.5光年の彼方にある褐色矮星“Luhman 16A”。
“Luhman 16A”は、もう一つの褐色矮星“Luhman 16B”と連星を成していました。

どちらの褐色矮星も質量は木星の約30倍ほど、温度も摂氏1000度と同程度で、おそらく同時に形成されたと考えられています。

この連星系は、ケンタウルス座α星の3連星と、へびつかい座のバーナード星に次いで3番目に太陽系に近いものでした。
木星のような縞模様を持つ褐色矮星“Luhman 16A”のイメージ図(Credit: Caltech/R. Hurt (IPAC))
木星のような縞模様を持つ褐色矮星“Luhman 16A”のイメージ図(Credit: Caltech/R. Hurt (IPAC))


光の偏光により褐色矮星の雲を調べる

今回の研究を進めたのはアメリカ・カリフォルニア工科大学のチーム。
ヨーロッパ南天天文台の超大型望遠鏡VLTで“Luhman 16”系からの偏光を調べています。

通常、光の波は様々な方向に振動しています。
でも、何らかの要因で特定の方向に振動が偏ることがあり、この状態を偏光といいます。

例えば、雲の中のしずくのような粒子が光を反射すると、特定の角度に偏向する傾向があります。
つまり、遠く離れた星系から届く光の偏光を調べることで、雲の姿を直接観測しなくてもその存在を確認することができるわけです。

研究では、光が何かとぶつかったのかを特定するため、観測結果をいろいろなモデルと比較。
褐色矮星の大気にはっきりとした雲の層がある場合、縞状の雲の帯がある場合、さらには自転速度が速くて褐色矮星が扁平な場合も考えています。

その結果、大気中に雲の帯があるモデルだけが、“Luhman 16A”の観測結果と一致することが分かったんですねー

“Luhman 16A”に安定した縞模様がある一方で、“Luhman 16B”の雲は不規則なまだら模様になっているようです。
そのため、“Luhman 16B”のほうだけが表面の明るさが変化していました。

偏光を測定する手法は褐色矮星だけでなく系外惑星にも適用できます。

褐色矮星の大気は、恒星の近くを回る高温のガス惑星の大気と似ているからです。
ただ、このような系外惑星は暗く、すぐ近くに恒星があるので偏光の観測はかなり難しくなります。

それでも、褐色矮星から得られた情報が将来の研究に役立つ可能性はあるそうです。

2021年にはNASAの“ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡”の打ち上げが予定されています。
さらに、NASAが計画中の“近赤外線広視野サーベイ望遠鏡”が加われば、系外惑星や褐色惑星の大気と雲に関する研究が進むはずですよ。


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生命誕生前の初期の地球に似た姿をしていた? 隕石が物語る40億年前の火星環境。

2020年05月26日 | 火星の探査
40億年前の火星に起源を持つ隕石から有機窒素化合物が検出されました。
現在の火星は乾いた過酷な環境なので、こうした化合物はすぐに破壊されてしまいます。
やはり太古の火星には大気があり温暖で水が存在していたのでしょうか。


火星で形成され地球へ飛来した“火星隕石”の分析

やっぱり、太古の火星は水や多様な有機物に富む、初期の地球のような惑星だったのかもしれません。

火星の環境に関しては、火星を直接訪れた探査機によって数多くの知見がもたらされています。
ただ、火星の試料を地球で直接分析することも、研究の上では欠かせないことなんですねー

残念ながら火星からのサンプルリターンは、まだ実現していません。
そこで、ターゲットになるのが、火星で形成された岩石が隕石の衝突などで火星重力圏から飛び出し、地球へ飛来した“火星隕石”です。

その“火星隕石”の中でも、研究が重ねられてきたのが1984年に南極で発見された“Allan Hills 84001”。
この隕石には、40億年前の火星において水中で沈殿した炭酸塩鉱物がわずかに含まれていて、太古の火星環境を知る手掛かりになると考えられたからです。

でも、隕石には落下地点の南極で物質が混入している上に、これまでの分析手法では実験の過程で試料が汚染されるという問題もあり、火星の有機物を探るのは困難なことでした。

特に課題になっていたのが、大気・水・岩石の間で循環する重要な元素である窒素の分析でした。

今回、JAXA宇宙科学研究所の研究チームは、試料にX線を照射して吸収される波長を調べる“窒素X線吸収端近傍構造(μ-XANES)分析”によって、“Allan Hills 84001”の炭酸塩鉱物を分析。
この手法を用いると試料を破壊せずに調べられるので、実験中の汚染を抑えることができるからでした。

研究チームではX線照射装置として理化学研究所の大型放射光施設“SPring-8”のビームライン“BL27SU”を使用。
試料を準備する過程でも、物質の混入を最低限に抑える手法も開発しています。
(a)火星隕石“Allan Hills 84001”の全体像。四角内の領域に炭酸塩鉱物が集まっている。(b)メタルテープを用いて採取した炭酸塩鉱物の粒の顕微鏡写真。(c)採取した粒の表面に付着した汚染物を走査電子顕微鏡・収束イオンビーム装置で除去したもの。(Credit: Koike et al. (2020) Nature Communications)
(a)火星隕石“Allan Hills 84001”の全体像。四角内の領域に炭酸塩鉱物が集まっている。(b)メタルテープを用いて採取した炭酸塩鉱物の粒の顕微鏡写真。(c)採取した粒の表面に付着した汚染物を走査電子顕微鏡・収束イオンビーム装置で除去したもの。(Credit: Koike et al. (2020) Nature Communications)


太古の火星は水や多様な有機物に特徴づけられる惑星だった

その結果、“Allan Hills 84001”の炭酸塩鉱物から検出されたのは、混入物ではなく火星由来と推測できる有機窒素化合物。
一方で検出されなかったのが、窒素と酸素が結びついてできる硝酸塩のような無機窒素でした。

現在の火星表面は物質が酸化しやすく、多くの化合物が短時間で壊れてしまいます。
でも、40億年前の火星は、そこまで酸化的ではなかったことを示唆する結果でした。

“Allan Hills 84001”の炭酸塩鉱物は、そのころの表層水や地下水に存在した有機物を閉じ込め、過酷な環境から守る保管庫の役割を果たしていたといえます。
(a)今回の研究で取得された窒素XANESスペクトルの一部。上3つが炭酸塩鉱物(Crb-1~3)、下は参照試薬など。水色の網掛け部分が有機窒素化合物に特有の吸収エネルギー位置。(b)有機物ピーク付近のみを拡大した図。(Credit: Koike et al. (2020) Nature Communications)
(a)今回の研究で取得された窒素XANESスペクトルの一部。上3つが炭酸塩鉱物(Crb-1~3)、下は参照試薬など。水色の網掛け部分が有機窒素化合物に特有の吸収エネルギー位置。(b)有機物ピーク付近のみを拡大した図。(Credit: Koike et al. (2020) Nature Communications)
今回検出された火星の有機窒素化合物には、外来と内製という2つの起源が考えられます。

太古の地球や火星には有機物を含む多数の隕石や彗星が衝突していて、その中の有機窒素化合物が火星の炭酸塩鉱物に取り込まれたのかもしれません。

あるいは、大気中の窒素や窒素酸化物からアンモニアを介して、有機窒素化合物を作り出す還元反応が起こった可能性もあります。

かつての火星は、現在のような乾いた“赤い惑星”ではなく、水や多様な有機物に特徴づけられる、生命誕生前の初期の地球に似た姿をしていたのかもしれませんね。


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国際宇宙ステーションのX線監視装置“MAXI”により見えてきた全天に広がる巨大構造

2020年05月23日 | 宇宙 space
国際宇宙ステーションの日本実験棟“きぼう”に設置されているX線観測装置“MAXI”。
この装置のデータから、世界初となるX線CCDでの軟X線全天マップが作成されたんですねー
そして、見えてきたのが非常に大きく広がった軟X線の巨大構造でした。
この巨大構造、まだ詳しい起源は分かっていないようです。


軟X線領域での全天マップ

宇宙のあらゆる方向から地球にやってくる電磁波の強さを描き出した“全天マップ”は、天文学で重要なデータの一つになります。

有名なのは、ビッグバンの熱放射の名残りであるマイクロ波を全天に渡って観測したもの。
NASAの“COBE”や“WMAP”、ヨーロッパ宇宙機関の“プランク”などの天文衛星で得られた宇宙マイクロ波背景放射の全天マップです。
宇宙マイクロ波背景放射のマップは、宇宙の成り立ちや性質について様々な情報をもたらし、ノーベル賞の受賞にもつながった。

一方、X線についても、いくつかの全天マップが過去に得られています。
ドイツのX線観測衛星“ROSAT”で、軟X線の全天マップが作られたのは1990年代のことでした。
軟X線は光子のエネルギーが1キロ電子ボルト前後のX線。

ただ、この“ROSAT”の全天マップには、“太陽風電荷交換反応”のX線が混ざっていることが後の研究で分かります。
遠い宇宙からのX線放射だけではなかったんですねー
“太陽風電荷交換反応”とは、地球の近くに存在する中性原子に太陽風のイオンが衝突し発生する電荷交換現象。

その後、日本の“あすか”や“すざく”、NASAの“チャンドラ”、ヨーロッパ宇宙機関の“XMMニュートン”などのX線天文衛星が打ち上げられます。

でも、これらの衛星のX線望遠鏡は視野が狭く、広い範囲を観測するのには向かいないもの…
このため、軟X線領域での全天マップは長い間“ROSAT”のデータしか利用できない状況でした。


世界初のX線CCDで得られた軟X線全天マップ

一方、国際宇宙ステーションの日本実験棟“きぼう”でも、2009年からX線の観測装置が稼働していました。
約90分で地球を一周する国際宇宙ステーションの動きを利用して、宇宙の全方向のX線をモニターする全天X線監視装置“MAXI”です。

今回、JAXA宇宙科学研究所の“MAXI”プロジェクトチームは、新しい軟X線の全天マップを公開。
2009年8月~2011年8月の2年間に“MAXI”のX線CCDカメラ“SSC”で観測されたデータを元にしたマップでした。

“SSC”の特徴はX線の検出にCCDを採用していること。
“ROSAT”で使われた比例計数管よりもX線のエネルギー分解能が良く、遠くの宇宙からのX線と地球近辺の“太陽風電荷交換反応”に由来するX線とを区別し易くなっています。

また、“MAXI”は国際宇宙ステーションの周回に合わせて天空を繰り返しスキャンしています。
なので、最終的には1000回分以上の観測データを合成することができ、全天に渡って滑らかなマップを作ることができました。
X線CCDで得られた軟X線の全天マップは世界初の成果でした。
“MAXI”のX線CCDカメラ“SSC”で得られた軟X線での全天マップ。赤・緑・青は、それぞれエネルギーが0.7~1・1~2・2~4キロ電子ボルトのX線の分布を表す。図の中央の水平線が天の川銀河の銀河面に対応する。明るい点はブラックホールや中性子星など、強いX線を放射する天体を示している。銀河面の北側(上側)に広がる円弧状の構造は“ノース・ポーラー・スパー”呼ばれている。(Credit: 2020 RIKEN/JAXA/MAXI team)
“MAXI”のX線CCDカメラ“SSC”で得られた軟X線での全天マップ。赤・緑・青は、それぞれエネルギーが0.7~1・1~2・2~4キロ電子ボルトのX線の分布を表す。図の中央の水平線が天の川銀河の銀河面に対応する。明るい点はブラックホールや中性子星など、強いX線を放射する天体を示している。銀河面の北側(上側)に広がる円弧状の構造は“ノース・ポーラー・スパー”呼ばれている。(Credit: 2020 RIKEN/JAXA/MAXI team)


軟X線の巨大構造

今回得られた全天マップでは、ブラックホールや中性子星などの点源のX線天体の他にもとらえられていたものがありました。
それは、赤色で表されるエネルギーの低い、広がりを持ったX線の分布です。

プロジェクトチームでは、この広がったX線源のうち、特に天の川銀河の北側に円弧状に広がる“ノース・ポーラー・スパー”と呼ばれる構造のエネルギースペクトルを調査。

その結果、この広がったX線源は約100万度の高温プラズマであり、地球近辺での“太陽風電荷交換反応”によるX線ではないことが確かめられました。

また、今回の全天マップの中央部分に写っていたのが、天の川銀河の中心部や“ノース・ポーラー・スパー”を含む、非常に大きく広がった軟X線の巨大構造でした。

この軟X線巨大構造は“ROSAT”の全天マップにもみられるもので、これとほぼ同じ領域にはガンマ線を放射する“フェルミバブル”と呼ばれる大きな構造も見つかっています。

この巨大構造の正体として考えられているのは、天の川銀河に分布する大規模な高温プラズマなんですが、まだ詳しい起源は分かっていません。
“MAXI”のX線CCDカメラ“SSC”で得られた0.7~1キロ電子ボルトのX線強度マップ(上図の赤色の成分を、エネルギーによってさらに細かく色分けしたもの)。天の川銀河面に沿って“ぼ座超新星残骸”や“はくちょう座スーパーバブル”などの構造が存在している。銀河中心部には大きく広がったX線構造が存在している。(Credit: 2020 RIKEN/JAXA/MAXI team)
“MAXI”のX線CCDカメラ“SSC”で得られた0.7~1キロ電子ボルトのX線強度マップ(上図の赤色の成分を、エネルギーによってさらに細かく色分けしたもの)。天の川銀河面に沿って“ぼ座超新星残骸”や“はくちょう座スーパーバブル”などの構造が存在している。銀河中心部には大きく広がったX線構造が存在している。(Credit: 2020 RIKEN/JAXA/MAXI team)
軟X線巨大構造のうち、特にX線が強い領域は天の川銀河面よりやや北寄りの位置を中心に分布していました。
このことから、巨大構造は地球に比較的近い距離にある超新星残骸が見えているものかもしれないとプロジェクトチームでは考えています。

ただ、弱いX線を放射している部分まで含めると、銀河面に対して南北にほぼ対象に広がっているように見えるんですねー
天の川銀河の中心ブラックホールが過去に激しい活動をしていた名残りという可能性もあります。

今後期待されるのは、“MAXI”のX線CCDカメラ“SSC”で観測されたデータの解析がさらに進められ、こうした全天に広がるX線構造の起源が解明されること。
さらに、次世代のX線観測装置による研究が加わると実現できそうですね。


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もっとも地球に近いブラックホールを発見! これまで見つからなかったのは周囲の環境との相互作用がないから。

2020年05月21日 | ブラックホール
地球から約1000光年の距離にあるブラックホールが見つかりました。
このブラックホールは、これまでに知られている中では最も地球に近いもの。
2個の恒星と三重連星を構成しているようです。


1000光年彼方にある三重連星

ぼうえんきょう座の方向約1000光年彼方にある恒星“HR 6819(ぼうえんきょう座QV)”は、肉眼でも見ることができる5.3等級の天体です。

この星は“Be型星”と呼ばれるタイプの星で、比較的高温で青白く、輝線スペクトルを持つという特徴があります。
ぼうえんきょう座の恒星“HR 6819”(中央の青い星)。1個の恒星に見えるが、実際には内側に恒星とブラックホールの連星があり、その外側にもう1つの恒星が回っている三重連星であることが分かった。(Credit: ESO/Digitized Sky Survey 2. Acknowledgement: Davide De Martin)
ぼうえんきょう座の恒星“HR 6819”(中央の青い星)。1個の恒星に見えるが、実際には内側に恒星とブラックホールの連星があり、その外側にもう1つの恒星が回っている三重連星であることが分かった。(Credit: ESO/Digitized Sky Survey 2. Acknowledgement: Davide De Martin)
これまでの分光観測で分かっていたのは、“HR 6819”のスペクトルには、この“Be型星”とは別の“B3型”というスペクトル型の星の光が混ざっていること。
“HR 6819”は、“Be型星”と“B3型星”からなる連星であることを示唆していました。

今回の研究では、連星系の研究の一環としてヨーロッパ南天天文台の研究チームが“HR 6819”の観測を実施。
すると、“B3型星”の方のスペクトルに、わずかなふらつきがあることを見つけます。

このふらつきは何を意味しているのでしょうか?

考えられるのは“第3の天体”の存在です。
“B3型星”は、さらに別の“第3の天体”との連星になっているということです。

このことを確認するため研究チームは、南米チリのヨーロッパ南天天文台・ラシーヤ観測所にあるMPG/ESO 2.2m望遠鏡で数か月にわたる詳細な観測を実施。
その結果、“B3型星”と“第3の天体”とが、40日周期で回り合っていることを突き止めます。

今回の研究で分かってきたのは、内側に“B3型星”と“第3の天体”が回り合う連星系があり、さらにその外側を“Be型星”が公転していること。
そう、“HR 6819”は三重連星だということです。
三重連星系“HR 6819”のイメージ図。内側に“B3型”の恒星(水色の軌跡)と、ブラックホール(赤い軌跡)との連星系があり、40日周期で互いの周りを回っている。ブラックホールには激しい活動性が見られないので光では見えない。その外側をもう一つの“Be型星”が回っている(水色の大きな軌跡)。(Credit: ESO/L. Calçada)
三重連星系“HR 6819”のイメージ図。内側に“B3型”の恒星(水色の軌跡)と、ブラックホール(赤い軌跡)との連星系があり、40日周期で互いの周りを回っている。ブラックホールには激しい活動性が見られないので光では見えない。その外側をもう一つの“Be型星”が回っている(水色の大きな軌跡)。(Credit: ESO/L. Calçada)


“第3の天体”の正体

連星が回る周期が分かると、2個の天体の質量を求めることができます。

観測結果から見積もって分かった内側の連星の質量は、“B3型星”が太陽質量の約5倍以上、“第3の天体”は太陽質量の約4.2倍以上というもの。

通常、質量が太陽の4.2倍ほどの恒星は“B7型”という青白い星のスペクトルを持っています。
でも、“HR 6819”の光に“B7型”の星のスペクトルの特徴は全く見られず… “Be型星”と“B3型星”の光以外は含まれていませんでした。

このため、“第3の天体”の正体は普通の恒星ではないことになります。

恒星以外のコンパクトな天体の候補になるのは、巨大惑星や褐色矮星、もしくは白色矮星・中性子星・ブラックホールなどがあります。

恒星進化の理論で知られているのは、白色矮星は1.4太陽質量、中性子星だと2.6太陽質量以上のものは存在しないこと。
“第3の天体”の質量が太陽の4.2倍ほどなので、研究チームではブラックホール以外にあり得ないと結論付けています。


激しい活動を見せないブラックホール

一般的に、ブラックホールは強い重力で周囲の物質を吸い込むため、周りに降着円盤と呼ばれるガス円盤を形成します。

さらに、降着円盤の物質が激しく回転することで発熱しX線などを強く放射。
また、ブラックホールの自転軸の方向に強力なジェットを噴出するものもあります。

これまでに見つかっているブラックホールのほとんどでは、こうした激しい活動が見られています。
でも、今回見つかった“HR 6819”のブラックホールでは、周囲の環境と相互作用している様子が全く見られず…
まさに真っ黒の珍しいブラックホールでした。

これまでに、私たちの天の川銀河で見つかったブラックホールは20個ほど。
その中で最も太陽系に近いものでも約3000光年彼方、有名な“はくちょう座X-1”だと約6000光年彼方になります。

今回見つかった“HR 6819”の距離は地球から約1000光年彼方で、地球に近いブラックホールの記録を更新するものでした。

天の川銀河の年齢を考えれば、実際には膨大な数の恒星が一生終えてブラックホールになっているはず。
でも、激しい活動を見せないブラックホールだと、その存在に気付くことが難しいんですねー

では、こうした静穏なブラックホールは、天の川銀河のどこに隠れているのでしょうか?
この問題を解くヒントになるのが、今回地球の近くで見つかった“HR 6819”なのかもしれません。

“HR 6819”のような三重連星をたくさん見つけることができれば、近年“LIGO”などの重力波望遠鏡で検出されている、強い重力波を放出する激しい合体現象についても、謎を解く手がかりが得られるかもしれません。

三重連星系の内側の連星が“2個のブラックホール”か“ブラックホールと中性子星”というペアの場合に、こうした合体現象が起こりうると考える研究者もいます。

内側の連星に外側の星が接近遭遇することで、内側の連星の合体を引き起こし重力波が生じるそうです。

“HR 6819”のような多重連星系を研究することは、天体同士の衝突が多重連星系の中でどのように起こるのかを理解するのに役立ちそうですね。


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