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ブラックホールが活動性を高めるのに必要なダークマターハローの質量を測定! 130億年前の時代から質量は変化していない

2023年10月31日 | ダークマターとダークエネルギー
東京大学と愛媛大学は、約130億年前の初期宇宙におけるクエーサーの分布を調べ、ダークマターの塊である“ダークマターハロー”の質量を初めて測定することに成功したことを発表しました。

130億年前の時代から、ブラックホールが活動性を高めるために必要なダークマターハローの質量が、一定であることを発見。
そして、ブラックホールが活動的になる普遍的なメカニズムが存在する可能性が示唆されたことも、併せて発表しています。
この成果は、東京大学大学院 理学系研究科 天文学専攻の有田淳也大学院生、同・柏川伸成教授、愛媛大学の松岡良樹淳教授たちの共同研究チームによるものです。
詳細は、米天体物理学専門誌“The Astrophysical Journal”に掲載されています。

ダークマターハローの質量

ビッグバンから間もない頃、ダークマター(※1)はほぼ一様に宇宙に広がっていたとされています。
※1.ダークマターは暗黒物質とも呼ばれ、光などの電磁波では観測することができず、重力を介してのみ間接的に存在を知ることができる物質。
その後、宇宙初期の急加速膨張であるインフレーションの際に生じた密度ゆらぎがもとになり、わずかな密度差から濃い部分に次々と集積してダークマターハローを形成。
さらに、ダークマターハローがその重力によって物質を集めるきっかけとなり、通常物質が集められ星や銀河が誕生したと考えられています。

そうしてできた大半の銀河の中心には、大質量ブラックホールが存在するとされています。

活動的な銀河のうちでも激しく明るく輝いているものはクエーサー(※2)と呼ばれ、大量の物質を吸い込んで成長している超大質量ブラックホールが、そのエンジンと考えられています。
※2.クエーサーは、銀河中心にある超大質量ブラックホールに物質が落ち込む過程で生み出される莫大なエネルギーによって輝く天体。遠方にあるにもかかわらず明るく見えている。
ダークマターハロー(左)、銀河(中央)、ブラックホール(右)の相互関係のイメージ。それぞれ図のサイズは数十万光年、数万光年、0.00001光年程度(0.6天文単位)。左図はシミュレーション結果で、濃淡によってダークマターが集まっている量が表されている。中央付近の白い領域にダークマターが集まっていて、その中では星質量の大きい銀河が誕生する。そして、そのような重たい銀河の中心には大質量ブラックホールが形成され、非常に明るく輝くクエーサーとして観測される。((c)2015 石山智明、中山弘敬、国立天文台4D2Uプロジェクト(出所:愛媛大プレスリリースPDF))
ダークマターハロー(左)、銀河(中央)、ブラックホール(右)の相互関係のイメージ。それぞれ図のサイズは数十万光年、数万光年、0.00001光年程度(0.6天文単位)。左図はシミュレーション結果で、濃淡によってダークマターが集まっている量が表されている。中央付近の白い領域にダークマターが集まっていて、その中では星質量の大きい銀河が誕生する。そして、そのような重たい銀河の中心には大質量ブラックホールが形成され、非常に明るく輝くクエーサーとして観測される。((c)2015 石山智明、中山弘敬、国立天文台4D2Uプロジェクト(出所:愛媛大プレスリリースPDF))
これまでの観測から、大質量ブラックホールの質量が大きいほど、銀河の持つ星の質量が大きく(共進化)、そして銀河の星質量が大きいほどダークマターハローの質量も大きいことが普遍的に知られていました。

つまり、クエーサーとダークマターハローには関係があることになります。
でも、クエーサーが実際にどの程度の質量のダークマターハローを持っているかは、これまでのところ詳細は不明でした。

ただ、光などの電磁波では観測することができないダークマターでも、重力を介して間接的に存在を知ることができます。
例えば、銀河の“群れ具合”からそこに働く重力を測定することで、その質量を見積もることが可能になります。

ダークマターの質量が大きければ、他のダークマターに加えて通常の物質も引き寄せられるので、その結果生まれてくる銀河やクエーサーも強く群れるはずです。

これまで、クエーサーのダークマターハロー質量は上記の方法で測定されてきました。
でも、遠方になるほどクエーサーの個数密度が著しく減少するんですねー
なので、群れ具合の測定が困難になり、これまでの限界は120億年前でした。

観測不能だった遠方の暗いクエーサーの探査

この問題を解決するには、より暗いクエーサーをとらえるような長時間の観測が必要でした。

そこで、今回の研究で用いているのは、すばる望遠鏡の“SHELLQs”プロジェクトで発見されたクエーサー。
SHELLQsは、すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラ“HSC(Hyper Suprime-cam)”を用いて、300夜にわたる大規模撮像探査を行ったプロジェクト“すばるHSC戦略枠観測プログラム(HSC-SSP)”のデータの中から、遠方の暗いクエーサーを探査するプロジェクトです。

SHELLQsでは、とても暗いクエーサーを複数発見していて、これまで観測不能だった暗いクエーサーまで探査することで、サンプル数を大きく増やしていました。

これにより、これまでより約30倍の個数密度で約130億年前のクエーサーの検出に成功。
その時代のクエーサーの群れ具合を測定することが可能になりました。
SHELLQs(赤)と他の観測(青)から発見されたクエーサーの一例。SHELLQsでは暗いクエーサーまでとらえられるので、他の観測と比較しても同じ領域からより多くのクエーサーを検出することが可能。((c) HSC-SSP/M. Koike/国立天文台(出所:愛媛大プレスリリースPDF))
SHELLQs(赤)と他の観測(青)から発見されたクエーサーの一例。SHELLQsでは暗いクエーサーまでとらえられるので、他の観測と比較しても同じ領域からより多くのクエーサーを検出することが可能。((c) HSC-SSP/M. Koike/国立天文台(出所:愛媛大プレスリリースPDF))
その後の解析には107個のクエーサーを使用し、その空間分布からダークマターハローの質量が評価されています。

その結果得られたのは、5×1012太陽質量(太陽の5兆倍)という結果…
研究チームによると、130億年前の初期宇宙でのこの結果は、かなり重たいということです。

これを他の時代の測定結果と比較すると、クエーサーの存在するダークマターハローの質量は、時代に依らずほとんど一定だということが判明。
このことは、クエーサーのように大質量ブラックホールが活動的になっている銀河のダークマターハロー質量は、ほとんど変化しないことを示していました。
各時代で測定されたクエーサーのダークマターハロー質量。図の左端が現在で、右へ行くほど過去になる。今回の研究結果(赤丸)は、先行研究(黒四角)よりも遥かに過去の時代で測定されている。大半の測定結果が赤色で塗られた領域内に存在していることから、宇宙の幅広い時代でクエーサーのダークマターハローの質量は変化していないことが分かる。また、130億年前の様々な質量のダークマターハローの標準的な質量変化が、赤と緑の線で表されている。今回の研究結果(赤)をもとに質量変化を計算してみると、約130億年前のクエーサーは現在の宇宙で最も重い銀河団ダークマターハロー(1014太陽質量)くらいに成長すると予測された。(出所:愛媛大プレスリリースPDF)
各時代で測定されたクエーサーのダークマターハロー質量。図の左端が現在で、右へ行くほど過去になる。今回の研究結果(赤丸)は、先行研究(黒四角)よりも遥かに過去の時代で測定されている。大半の測定結果が赤色で塗られた領域内に存在していることから、宇宙の幅広い時代でクエーサーのダークマターハローの質量は変化していないことが分かる。また、130億年前の様々な質量のダークマターハローの標準的な質量変化が、赤と緑の線で表されている。今回の研究結果(赤)をもとに質量変化を計算してみると、約130億年前のクエーサーは現在の宇宙で最も重い銀河団ダークマターハロー(1014太陽質量)くらいに成長すると予測された。(出所:愛媛大プレスリリースPDF)
一般に、1つのダークマターハローは時間と共に、より多くのダークマターを集めて成長するので、その質量は時間と共に増加することになります。

今回の結果から、ダークマターハローの質量がある範囲内にあると、その内部のブラックホールの活動性が高まる、つまり時代に依らないクエーサーの出現に関わる普遍的なメカニズムが働いているとも考えることができます。

今後、遠方クエーサーの探査は、2023年7月に打ち上げが成功したヨーロッパ宇宙機関(ESA)主導の近赤外線宇宙望遠鏡“ユークリッド”や、アメリカが中心となってチリに建設中のヴェラ・C・ルービン天文台の“大型シノプティック・サーベイ望遠鏡(LSST)”により、大きく進展することが期待されています。

それらと今回の研究成果の活用により、今後のプロジェクトでの探査領域拡大や、より暗いクエーサーの探査が可能になると、初期宇宙のクエーサー、ひいては大質量ブラックホールの誕生と成長、さらに銀河と大質量ブラックホールの共進化についての理解がより深まるはずです。


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宇宙から降り注ぐ宇宙線“空気シャワー”の可視化に成功! ダークマターの探査・物質優勢宇宙の成因の探査に応用できるかも

2023年10月30日 | 宇宙 space
今回、国立天文台や大阪公立大学などの研究者からなる研究チームは、すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラ(※1)で撮られた2万枚もの画像を解析。
すると、宇宙から降り注ぐ高エネルギー粒子の“空気シャワー”を、非常に高い空間分解能で可視化できることを発見したんですねー

この新しい検出手法を発展させることで期待されるのは、宇宙線の粒子種の解明や、ダークマターの探査です。
さらに、物質優勢の宇宙の解明につながるようですよ。
※1.“HSC(Hyper Suprime-Cam:ハイパー・シュプリーム・カム)”は、すばる望遠鏡に搭載されている超広視野主焦点カメラ。満月9個分の広さの天域を一度に撮影でき、独自に開発した116個のCCD素子により計8億7000万画素を持つ。まさに巨大な超広視野デジタルカメラといえる。
図1.すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラで可視化された高エネルギー宇宙線の2次粒子群(空気シャワー; 図では黄色で表されている)。天体観測では宇宙線は厄介なノイズになるが、研究ではそのノイズに着目している。(Credit: NAOJ/HSC Collaboration)
図1.すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラで可視化された高エネルギー宇宙線の2次粒子群(空気シャワー; 図では黄色で表されている)。天体観測では宇宙線は厄介なノイズになるが、研究ではそのノイズに着目している。(Credit: NAOJ/HSC Collaboration)

高エネルギー粒子群の飛跡

宇宙空間には高エネルギーの放射線(宇宙線)が存在していて、地球に絶えず降り注いでいます。

中でも非常に高いエネルギーを持った宇宙線は、地球大気に入射すると大量の電子や陽電子、ミューオンなどからなる高エネルギー粒子群(空気シャワー)となって地表に到達します。

すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラで撮影された画像には、その宇宙線がCCDを貫通することで生じる飛跡(図1,2)として、1回の撮影につき約2万個映り込んでいるんですねー

ただ、宇宙線の飛跡は、星や銀河を観測する天体観測においてノイズになるので、通常はデータ処理の過程で除去されてしまいます。
図2.(左)宇宙線がCCD内を通過した時に残る飛跡の概念図。(右)超広視野主焦点カメラのカメラ部分には、6センチ×3センチの大型CCDが116枚並べられている。(Credit: 大阪公立大学/HSC Project)
図2.(左)宇宙線がCCD内を通過した時に残る飛跡の概念図。(右)超広視野主焦点カメラのカメラ部分には、6センチ×3センチの大型CCDが116枚並べられている。(Credit: 大阪公立大学/HSC Project)
今回の研究では、2014年~2020年にかけて超広視野主焦点カメラを用いた大規模撮像探査“すばるHSC戦略枠観測プログラム(HSC-SSP)”で撮影された画像約17,000枚について、映り込んだ宇宙線の飛跡を詳しく再解析しています。(※2)
その結果、13枚の画像で通常の飛跡数をはるかに上回る、空気シャワーの粒子群がとらえられていたことを突き止めています。
※2.この研究は、国立天文台ハワイ観測所の川野元聡 特任研究員、小池美知太郎 研究技師、宮崎聡 教授、大阪公立大学の藤井俊博 准教授、Fraser Bradfield 大学院生、千葉工業大学の諸隈智貴 主席研究員、法政大学の小宮山裕 教授たちの研究チームが進めています。
これらの空気シャワーは、高い解像度で撮影されていて、その飛跡が同じ方向を向いていることから、非常にエネルギーの高い1つの宇宙線から生成された2次粒子群であることが明らかになりました。

このような事象が系統的に解析され、専門誌に報告されたのは初めてのこと。

シャワーを検出するには、それが広がる前の高山で観測する必要があります。
また、検出器の厚みが充分でないと、長い軌跡を記録することはできません。

標高4200メートルという高地に設置され、空乏層の厚いCCDを採用したすばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラを長期間観測運用したからこそ、初めて得られたデータでした。
超広視野主焦点カメラとすばるHSC戦略枠観測プログラムのユニークさを、全く別の角度からも示した事例と言えます。

ダークマターや物質優勢宇宙の成因の探査へ

従来の宇宙線検出器(※3)は、入射した宇宙線の総粒子数と時刻情報を記録するもので、空気シャワーを構成している粒子の種類(電子や陽電子、ミューオン)は区別できませんでした。
※3.宇宙線検出器には、プラスチックなどの物質内を宇宙線が通過した際の微弱な蛍光発光を検出するシンチレーターや、水中の荷電粒子からのチェレンコフ光を検出する水チェレンコフ光検出器などがある。
一方、超広視野主焦点カメラに搭載されているCCDを使えば、各飛跡の形からミューオンか電子であるかを個別に判断できる可能性があります。

空気シャワーの粒子がこれほど詳細に見えたことは、宇宙線研究の新たな方法を拓く可能性があり、とても興味深いことと言えます。

将来的には、この研究の新しい観測手法と伝統的な観測手法の特徴を活かし、宇宙線の解明に重要な質量組成(粒子種)の決定が可能になるかもしれません。

さらに、超広視野主焦点カメラがとらえた空気シャワーには、ダークマター由来の信号が含まれている可能性も示唆されているので、ダークマター探査への応用も考えられます。

また、高精度でとらえられた飛跡の詳細な解析からは、物質優勢の宇宙(※4)の成因を探るなど、新たな研究を切り開く可能性も期待できます。
※4.宇宙の始まりでは物質と反物質が同じだけ存在していたと予想されている。でも、現在の宇宙では反物質が消え去り、物質が大部分を占めている。この状態を“物質優勢”という。反物質が消える理由は明らかになっておらず、私たちの知らない物理法則が関連していると考えられている。
宇宙線の飛跡は、天体画像においては補正の対象となる宇宙線イベントになります。

でも、今回の研究成果が示しているのは、すばるHSC戦略枠観測プログラムという長期にわたる一様な観測データを解析することで、元々の観測目的ではなかった科学の領域にまで有効な情報を引き出せる可能性でした。

高エネルギー粒子の観測手法についての知見はもちろん、一様な品質が保証されたデータアーカイブの重要性についての示唆も与えてくれる結果になりましたね。

今回の研究成果は、Springer Nature社の国際学術誌“Scientific Reports”に2023年10月12日付で掲載されました(Kawanomoto et al. "Observing Cosmic-Ray Extensive Air Showers with a Silicon Imaging Detector")。


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星間分子から初めて“炭酸“を発見! カルボン酸を含む分子の発見は半世紀で3番目

2023年10月29日 | 宇宙 space
“炭酸(Carbonic acid / HOCOOH”)は飲み物から環境問題まで様々な場面に登場する身近な化合物です。

天文学で見れば、炭酸は生命の起源に関わる重要な有機化合物の素になった“プレバイオティック分子”の1つと考えられています。
でも、これまで“星間分子”として炭酸が発見されたことは一度もありませんでした。

今回の研究では、分子雲“G+0.693-0.027”の観測データから、星間分子として初めて炭酸を発見。
また、その存在量から、星間分子における炭酸の役割も推定できたそうです。
この研究は、バリャドリッド大学のMiguel Sanz-Novoさんたちの研究チームが進めています。
天の川銀河中心方向の天の川とへびつかい座ロー分子雲。(Credit: NOIRLab/NSF/AURA/ P. Horálek (Institute of Physics in Opava)
天の川銀河中心方向の天の川とへびつかい座ロー分子雲。(Credit: NOIRLab/NSF/AURA/ P. Horálek (Institute of Physics in Opava)

とても身近で、そして珍しい“炭酸”

“炭酸”という言葉を聞くと、多くの人は炭酸飲料を思い浮かべると思います。(※1)
※1.“炭酸ガス”という言葉は、その名に反して気体の二酸化炭素を指す名称。ややこしいことに、水中から取り出した炭酸も常温では気体だと考えられているが、少なくとも日常的な環境下の炭酸は速やかに分解されてしまうので、文字通りの“炭酸ガス”は身近には存在しない。
化学的な意味での炭酸は、二酸化炭素が水に溶けた時に生じる分子のことを指し、“酸”と名がつく通り弱酸性を示します。

その性質上、大気中の二酸化炭素が海水に溶ければ海洋の酸性度が増加するので、炭酸は環境問題の1つである海洋酸性化の原因にもなります。

ただ、炭酸は天文学者も注目している分子なんですねー

それは、炭酸が“カルボン酸(-COOH)”を含む分子だからです。
カルボン酸を含む分子は自然界のあらゆる場所に存在し、生命にとって重要なアミノ酸や脂質といった分子の素になったのではないかと考えられています。

生命が誕生するには、まずその前に生命が存在しない環境でこれらの分子が作られなければならないので、その素になる“プレバイオティック分子”の種類や存在量を知ることは非常に重要になります。

そこで、天文学者は、このようなプレバイオティック分子が“星間分子”として、どのくらい存在するのかに注目しているわけです。

星間分子は、宇宙に広がるチリやガスのことで、これらが集まると恒星や惑星になります。

つまり、地球に住む私たちも元をたどれば星間分子を起源としているともいえるので、星間分子にどのような化学形態の分子が存在するのかを知るのは重要なことになります。

では、炭酸は星間分子として存在するのでしょうか?
これまでは、その答えは「いいえ」でした。

ただ、地球以外の惑星や衛星に存在するのか?
っと質問を変えれば、答えは「はい」になります。

実際に炭酸が検出されているのは、水星の北極地域、火星の表面や大気中、木星のガリレオ衛星など。
でも、これらよりも地質学的に乏しく、星間分子の情報が比較的保存されていると考えられている小惑星や彗星では、炭酸は未発見のままでした。

これは、炭酸が水中以外では極めて不安定な分子であることが関係していると見られていますが、これまで詳しいことは分かっていませんでした。(※2)
※2.水中から取り出した炭酸は気体であり、単独では安定な分子だと考えらている。一方で、近くに水分子や有機分子があると、炭酸は速やかに水と二酸化炭素に分解されてしまう。小惑星リュウグウは過去に液体の水による変質が起きたとされていて、その頃に炭酸は分解されてしまったのかもしれない。でも、リュウグウよりも不活発だと考えられているチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星でも検出されなかった理由はよく分かっていない。
これまでに炭酸が検出されている天体では、おそらく天体表面で独自に起こる化学反応によって炭酸が生成されたと考えられています。
なので、星間分子としての炭酸とは関係性に乏しいようです。

一方で、カルボン酸を含むほかの分子まで対象を拡げれば、炭素に富んだ隕石(炭素質コンドライト)や、ヨーロッパ宇宙機関の彗星探査機“ロゼッタ”が周回探査を行った“チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星”の分析で見つかっています。

最近では、JAXAの小惑星探査機“はやぶさ2”がサンプルを採取した小惑星“リュウグウ”のサンプルの分析でも、カルボン酸を含む多種多様なアミノ酸が見つかっています。

このため、プレバイオティック分子としてのカルボン酸は非常に注目度が高く、集中的に探索されています。

でも、星間分子としてのカルボン酸となると、これまでに報告されたのは1971年に発見された“ギ酸(Formic acid / HCOOH)”と、1997年に発見された“酢酸(Acetic acid / CH3COOH)”だけしかなく、非常に珍しい存在でした。

炭酸以外にも多数のカルボン酸を含む分子(※3)が観測対象になっているものの、その存在は捉えどころのないものでした。
※3.これまでにアクリル酸、プロピオン酸、シアノ酢酸、グリコール酸、ヒダント酸、グリシンが観測対象になっている。

分子雲“G+0.693-0.027”で炭酸を初検出

今回の研究では、天の川銀河の中心部付近に存在する分子雲“G+0.693-0.027”に焦点を当て、炭酸が存在するのかを調査しています。

“G+0.693-0.027”は、この研究以前から注目度の高かった分子雲の1つ。
6原子以上で構成された複雑な有機分子に限定しても、新しい分子が12種類も見つかっていて、まさに“宝の山”と呼べる存在でした。

今回の研究では、いずれもスペインに設置されている“イエベス40メートル電波望遠鏡(スペイン国立チリ研究所)”と“IRAM30メートル望遠鏡(ミリは電波天文学研究所)”が観測に用いられています。
炭酸分子から放射される電波の波長ごとの特徴。放射が強く、他の分子からの電波と区別できる波長を持つ分子の形状はシス-トランス型だと推定される。(Credit: Miguel Sanz-Novo, et al.)
炭酸分子から放射される電波の波長ごとの特徴。放射が強く、他の分子からの電波と区別できる波長を持つ分子の形状はシス-トランス型だと推定される。(Credit: Miguel Sanz-Novo, et al.)
電波観測の結果、炭酸分子から放射されるいくつかの電波を分子雲“G+0.693-0.027”から検出することに成功。
その存在量は、水素分子(H2)に対して約200兆分の1でした。

検出された電波のうち特定の周波数(約40GHz)では予想通りの特性が得られたことや、事前に予測されていた“シス‐トランス炭酸”という分子構造(※4)が示されたことから、実際に炭酸を観測したと判断されています。
※4.炭酸分子に含まれる2つの水素原子がどのような配置になっているのかによって、炭酸分子は“シス‐トランス炭酸”、“シス‐シス炭酸”、“トランス‐トランス炭酸”の3種類存在し、それぞれが放射する電波の波長は異なると考えられている。でも、実験室での合成実験では“トランス‐トランス炭酸”の合成には成功しておらず、“シス‐シス炭酸”は電波放射が極めて弱いことから、検出される可能性が高いのは“シス‐トランス炭酸”だと考えられていた。
これは、星間分子では初めてになる炭酸の発見で、カルボン酸を含む星間分子としては3番目、酸素原子を3つ含む化合物(※5)としては初めての発見でもあります。
※5.これは、化合物(2種類以上の元素でできている分子)に限る場合。単体(1種類の元素でできている分子)を含む場合、最初の発見は1980年に発見されたオゾン(O3)になる。
今回の観測では、これまで分子雲“G+0.693-0.027”では未発見だった酢酸の観測にも成功しています。
また、安定性が低いためにトランスギ酸と比べて存在量が少ないと推定されるシスギ酸も、暫定的ながら観測に成功したと報告されています。

星間分子の炭酸はもっと豊富に存在している

今回の炭酸の検出は、「新しい星間分子の発見」という言葉以上の意味を持っています。

まず、炭酸の存在量が具体的に判明したことで、星間分子における炭酸の役割も、今回推定することができています。

たとえば、ギ酸や酢酸と比較したときに、炭酸の存在量はそれほど希少ではないことが分かってきました。

炭酸は酸素原子を3個も含む酸素に富んだ分子なので、星間分子における酸素原子の主要な供給源の役割を果たしている可能性があります。

また、分子雲“G+0.693-0.027”に存在するすべての分子に対するカルボン酸を含む分子の比率と、太陽系の始原的な物質に存在するカルボン酸を含む分子比率は、ほぼ同じであることも分かりました。

このことは、激しい熱が発生する惑星形成の現場を熱に弱い星間分子が生き延び、形成後の惑星に供給されていく可能性があることを示唆しています。

ただ、今回の観測では、分子構造がより安定していると見られる“シス-シス炭酸”の検出には成功しませんでした。

でも、他の観測データから推定する限りでは、炭酸の本当の存在量(“シス-シス炭酸”と“シス-トランス炭酸”の合計値)は水素分子の約8兆分の1であり、今回実測された炭酸の存在量と比べて25倍も豊富に存在する可能性があります。

なぜ、その豊富さにもかかわらず炭酸が見逃されてきたのでしょうか?

研究チームでは、電波放射が極めて弱いという分子の特性が理由ではないかと考えています。
今後、性能が高い電波天文台による観測が進めば、より多くの炭酸が星間分子として見つかるはずです。


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3万光年という小さなスケールでもダークマターの密度に空間的ゆらぎがあった! 重力レンズとアルマ望遠鏡の組み合わで初めて検出

2023年10月28日 | ダークマターとダークエネルギー
今回の研究では、南米チリに設置された世界最高の性能を誇る巨大電波干渉計“アルマ望遠鏡”(※1)を用いた観測により、宇宙空間に漂うダークマターの空間的なゆらぎを約3万光年というスケールにおいて検出することに初めて成功しています。

この結果は、これまでの観測に比べ約10分の1以下という小さなスケールにおいても“冷たいダークマター”(※2)が支持されることを示していて、ダークマターの正体を解明するための重要な一歩になるようです。
※1.日本を含む22の国と地域が協力して、南米チリのアタカマ砂漠(標高5000メートル)に建設されたのが、アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計(Atacama Large Millimeter/submillimeter Array = ALMA:アルマ望遠鏡)。人間の目には見えない波長数ミリメートルの“ミリ波”やそれより波長の短い“サブミリ波”の電波を観測する。高精度パラボラアンテナを合計66台設置し、それら全体をひとつの電波望遠鏡として観測することができる。

※2.冷たいダークマター:ダークマターが素粒子の場合、宇宙膨張により宇宙の密度が下がると、他の粒子と出会うことが無くなるので、通常の物質の運動とは異なる独立した運動を始める。この時、通常の物質に対して光速より十分小さい速さで運動するダークマターを“冷たいダークマター”と呼ぶ。速さが小さいので、大きなスケールの構造を壊す働きがないので、比較的大きな銀河や銀河の集団などの構造を説明できる。

この研究は、近畿大学理工学部 井上開輝教授、東京大学大学院理学系研究科 峰崎岳夫特任教授、中央研究院天文及天文物理研究所(台湾) 松下聡樹研究員、国立天文台 中⻄康⼀郎特任准教授からなる研究チームが進めています。
図1.検出されたダークマターの空間的なゆらぎ。オレンジ色が明るいほどダークマターの密度が高い場所で、暗いほど密度が低い場所を表している。青白色は、クエーサーが重力レンズ効果を受けた結果として、アルマ望遠鏡が観測した見かけの像を表している。(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), K.T. Inoue et al.)
図1.検出されたダークマターの空間的なゆらぎ。オレンジ色が明るいほどダークマターの密度が高い場所で、暗いほど密度が低い場所を表している。青白色は、クエーサーが重力レンズ効果を受けた結果として、アルマ望遠鏡が観測した見かけの像を表している。(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), K.T. Inoue et al.)

目には見えない物質の重力効果

宇宙の質量の大部分を占める目に見えない物質ダークマターは、星や銀河といった宇宙の構造が作られる過程(※3)で、重要な役割を果たしてきたと考えられています。

ダークマターは空間的に一様でなく群がって宇宙に分布しているので、その重力により、遠方の光源からやってくる光(電波を含む)の経路をわずかに変えることができます。

この“重力レンズ効果”の観測から分かっているのは、ダークマターが比較的大きな質量を持つ銀河や銀河の集団と共にあること。
でも、より小さなスケールで、どのように分布しているのかは、これまで分かっていませんでした。
※3.宇宙の構造が作られる過程:宇宙初期においてダークマターの密度の空間的なゆらぎが重力によって成長し、ダークマターの塊に引き寄せられた水素やヘリウムが集まって、星や銀河が作られたと考えられている。ただ、銀河より小さなスケールでダークマターがどのように分布しているか、まだ詳しいことは分かっていない。

銀河による大きな重力レンズ効果とダークマターの塊によるわずかな重力レンズ効果

そこで、今回の研究ではアルマ望遠鏡を用いて、おうし座の方向約110億光年彼方に位置する明るく輝く天体を観測しています。
観測対象となったのは、クエーサー(※4)の1つ“MG J0414+0534”(※5)でした。
※4.クエーサーは、銀河中心にある超大質量ブラックホールに物質が落ち込む過程で生み出される莫大なエネルギーによって輝く天体。遠方にあるにもかかわらず明るく見えている。
“MG J0414+0534”は、手前にある銀河の重力レンズ効果により4つの像に分かれて見えていました。
※5.“MG J0414+0534”は、地球から見ておうし座の方向に位置するクエーサー。この天体の赤方偏移(光の波長の伸び率)はz=2.639。これをもとに赤外線天文衛星“プランク”の観測から得られたパラメータを用いて“MG J0414+0534”が光を発したときの宇宙年齢を計算し、パラメータの不定性も考慮して、距離を110億光年としている。
ただ、この見かけの像の位置や形は、手前にある銀河の重力レンズ効果のみから計算されたものとはズレていたんですねー

研究チームが考えたのは、手前にある銀河以外の重力源による追加の重力レンズ効果が働いていること。
そう、この観測結果が示していたのは、銀河よりも小さなダークマターの塊による重力レンズ効果が働いていることでした。

このことで、宇宙論的なスケール(数百億光年)に対して十分小さい、3万光年程度というスケールにおいても、ダークマターの密度に空間的なゆらぎがあることが分かりました。(図1)

この結果は“冷たい”ダークマターの理論的な予測と一致するもの。
予測とは、銀河内だけでなく、銀河外の宇宙空間にもダークマターの塊が多数存在する(図2)というものです。

今回見つけたダークマターの塊による重力レンズ効果は非常に小さいので、単独で検出することは極めて困難なはずです。

でも、銀河による重力レンズ効果とアルマ望遠鏡の高い解像度を組み合わせることで、初めてその効果を検出することができました。

今回の研究は、ダークマターの理論を検証し、正体を解明するための重要な一歩と言えます。
図2.重力レンズ効果の概念図。画像中央の天体は銀河。橙色が銀河間のダークマター、薄い黄色が銀河内のダークマターを表している。光源のクエーサーから出た光(電波)は、銀河による大きな重力レンズ効果とダークマターの塊によるわずかな重力レンズ効果を受けると考えらる。銀河による重力レンズ効果のみを受けた場合の4重像の見え方と実際に観測された4重像とのズレから、光(電波)の経路上におけるダークマターの塊の分布を推定している。(Credit: NAOJ, K.T. Inoue)
図2.重力レンズ効果の概念図。画像中央の天体は銀河。橙色が銀河間のダークマター、薄い黄色が銀河内のダークマターを表している。光源のクエーサーから出た光(電波)は、銀河による大きな重力レンズ効果とダークマターの塊によるわずかな重力レンズ効果を受けると考えらる。銀河による重力レンズ効果のみを受けた場合の4重像の見え方と実際に観測された4重像とのズレから、光(電波)の経路上におけるダークマターの塊の分布を推定している。(Credit: NAOJ, K.T. Inoue)

この研究に関する論文“ALMA Measurement of 10 kpc-scale Lensing Power Spectra towards the Lensed Quasar MG J0414+0534”が、2023年9月7日(木)13:00(UTC)、アメリカの宇宙物理学専門誌“The Astrophysical Journal”(インパクトファクター 5.521、2023)に掲載されています。



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弱い放射を初めて観測! 周期的に信号を放射す中性子星“パルサー”が短時間だけ信号を途絶する現象“パルサー・ヌリング”

2023年10月27日 | 宇宙 space
中性子星の一種“パルサー”は、電子時計並みに正確な信号を発することで知られています。
ただ、形成から時間が経った古いパルサーでは、短期間信号が途絶する“パルサー・ヌリング(Pulsar Nulling)”が発生することもあるんですねー

今回の研究対象となっているのは、偶然観測したパルサー・ヌリング中に放射された弱い信号。
この電波の解析結果から、パルサー・ヌリングの原因をある程度絞り込めたそうです。
この研究は、中国科学院国家天文台の韩金林(Han Jinlin)さんたちの研究チームが進めています。
中性子星のイメージ図。(Credit: Kevin Gill (CC BY 2.0))
中性子星のイメージ図。(Credit: Kevin Gill (CC BY 2.0))

短時間だけ信号が途絶する現象“パルサー・ヌリング”

中性子星のうち、周期的な信号を放射しているタイプを“パルサー(Pulsar)”と呼びます。

パルサーの信号周期の正確さは電子時計に匹敵するほどで、1960年代に発見されてから間もない頃には、地球外文明の信号ではないかと考えられたほどです。

基本的にパルサーの信号は周期的に繰り返されています。
でも、まれに短時間だけ途絶することが1970年から知られていました。

この現象は“パルサー・ヌリング”と呼ばれています。

パルサー・ヌリングは古いパルサーで多く見られるので、パルサー周辺の磁場の構造やプラズマの密度などの変化が、信号の発生源となる荷電粒子(電気を帯びた粒子)の生成を一時的に止めてしまうことが、原因ではないかと考えられています。

ただ、パルサー・ヌリング中に信号が届かないということは、信号が途絶している間の様子を知るための情報も届かないことを意味します。
なので、これまで信号途絶中の正確な状況を知ることはできませんでした。
中性子星は、太陽の10~30倍程度の恒星が、一生の最期に大爆発した後に残される宇宙で最も高密度な天体。主に中性子からなる天体で、ブラックホールと異なり半径10キロ程度の表面が存在し、そこに地球の約50万倍の質量が詰まっていている。一般に強い磁場を持つものが多い。
パルサーは中性子星の中でも、規則正しいパルス状の可視光線や電波が観測される“天然の発振器”と言える天体。多くが超高速で自転していて、地球から観測すると非常に短い周期で明滅する規則的な信号がとらえられるので、パルサーと呼ばれている。パルス状の信号が観測されるのは、パルサーからビーム状に放射されている電磁波の向きが、自転とともに変化しているからだと考えられている。

パルサー・ヌリング中に観測された信号“矮小パルス”

中国科学院国家天文台の韩金林さんたちの研究チームは、中国の貴州省に設置された電波望遠鏡“500メートル球面電波望遠鏡(FAST; Five-hundred-meter Aperture Spherical radio Telescope)”を用いて、天の川銀河に存在する多数のパルサーを観測するプロジェクトを進めています。

観測対象の中には、パルサー観測の歴史の初期から存在が知られていて、しばしばパルサー・ヌリングが発生する“FSR B2111+46”も含まれていました。

この観測プロジェクトにおいて、“FSR B2111+46”は単なる観測対象の1つに過ぎませんでした。
でも、2020年8月24日・8月26日・9月17日のデータを分析してみると、パルサー・ヌリング中だったにも関わらず“FSR B2111+46”から届いたパルス信号が数十個含まれていることが明らかになります。

信号の強度は非常に弱く、パルスの幅も狭いもので、これは“FSR B2111+46”自身から放射されたものである可能性がありました。

研究チームは、観測された弱い信号の正体を探るため、2022年3月8日に再び“FSR B2111+46”を2時間観測。
その結果、パルサー・ヌリング中に100個以上の信号を観測することに成功し、強度だけでなくパルスの幅も通常のパルス信号とは異なることが改めて明確に示されました。

研究チームでは、パルサー・ヌリング中に観測されたこの信号を“矮小パルス(dwarf pulse)”と名付けています。
“FSR B2111+46”の電波観測結果の一例。番号237番のパルス(左側の237と書かれた横線、および右側中央のグラフ)が矮小パルスで、他のパルスと比べて強度も幅も小さいことを特徴としている。(Credit: Chen, et al.)
“FSR B2111+46”の電波観測結果の一例。番号237番のパルス(左側の237と書かれた横線、および右側中央のグラフ)が矮小パルスで、他のパルスと比べて強度も幅も小さいことを特徴としている。(Credit: Chen, et al.)
観測された信号を強度と幅で分けた分布図。矮小パルス(dwarf pulses)は通常のパルス(normal pulses)とは異なる分布域にあることが分かる。(Credit: Chen, et al.)
観測された信号を強度と幅で分けた分布図。矮小パルス(dwarf pulses)は通常のパルス(normal pulses)とは異なる分布域にあることが分かる。(Credit: Chen, et al.)

荷電粒子生成の一時停止がパルサー・ヌリングの原因

興味深いことに、矮小パルスの偏光特性は通常のパルス信号と比べて変化していませんでした。

このことは、少なくともパルサー・ヌリングが、パルサー周辺磁場の構造変化によって起こるという仮説を否定するものになります。

一方で、矮小パルスは通常のパルス信号では非常にまれな“スペクトル反転”(より短い波長の電波で強い放射が発せられる現象)が起こりやすいことも観測されています。

このことから研究チームは、荷電粒子生成の一時停止がパルサー・ヌリングの原因ではないかと予測しています。

パルサー表面の磁極の近くでは、磁場によって周期的に作られる溝の中で膨大な放電現象が発生することで、荷電粒子が周期的に生成されて電波が発生します。
これが、周期的なパルス信号の発生源だと考えられています。

でも、古いパルサーでは時々この放電が発生せず、荷電粒子の生成も極めて少なくなってしまうことがあります。

この場合、電波はほとんど、または全く発生しないので、遠く離れた私たちには“信号が届かないパルサー・ヌリング”として観測されるというわけです。

パルサー・ヌリング中の矮小パルスの発見は今回が初めてのこと。
電波の強度と周波数の特性により“500メートル球面電波望遠鏡”以外の電波望遠鏡では観測が困難なことから、これまで見逃されていたのかもしれません。

今回の“500メートル球面電波望遠鏡”による矮小パルスの観測は偶然によるものでしたが、すでに“500メートル球面電波望遠鏡”は他のいくつかのパルサーでも矮小パルスのような信号をとらえることに成功しています。

観測データが増えれば、今回推定された矮小パルスの発生機構が正しいかどうかの検証も行えるはずです。


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