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重い元素を生成する爆発現象“キロノバ”は、 非対称? それとも球対称なエネルギー放出?

2023年03月18日 | 宇宙 space

金やウランなど鉄よりも重い元素を生成する爆発現象“キロノバ”

太陽よりも数十倍重い星が一生の最期を迎えると超新星爆発を起こし、その爆発の中心部には極めて高密度な天体“中性子星”が形成されることがあります。
 中性子星は、太陽の10~30倍程度の恒星が、一生の最期に大爆発した後に残される宇宙で最も高密度な天体。主に中性子からなる天体で、ブラックホールと異なり半径10キロ程度の表面が存在し、そこに地球の約50万倍の質量が詰まっていている。一般に強い磁場を持つものが多い。
中性子星は、密度が地球の数100兆倍、磁場が地球の約1兆倍もある天体。
多くが超高速で自転していて、地球から観測すると非常に短い周期で明滅する規則的な信号がとらえられるので、パルサーとも呼ばれています。

このような中性子星同士が衝突すると、その瞬間に1兆℃と推定される超高温・超高圧な状態が生じ、“キロノバ”と呼ばれるエネルギー放出現象が起きます。
 “キロノバ”は、中性子星の連星または中性子星とブラックホールの連星が融合することによって発生すると考えられている爆発現象。中性子を多く持つ鉄より重い元素のほぼ半分を合成すると考えられている。
“キロノバ”では同時に核反応が高速で進行し、金やウランといった重い元素が生成されます。

鉄の核融合反応ではエネルギーが放出されず、鉄を生成するようになった恒星は自重を支えきれずに超新星爆発を起こしてしまいます。
なので、鉄よりも重い元素は、恒星中心部の核融合反応では生成されないと考えられていて、“キロノバ”を重い元素が宇宙に存在する理由の1つとして考えています。

このような重い元素も地球や生物の重要な構成物になるので、その生成過程に関心がもたれています。
図1.中性子星同士の合体の瞬間(イメージ図)。中性子星同士の合体は、極端な超高温・超高圧状態を生じ、重い元素の供給源になっていると推定されている。(Credit: Robin Dienel/Carnegie Institution for Science)
図1.中性子星同士の合体の瞬間(イメージ図)。中性子星同士の合体は、極端な超高温・超高圧状態を生じ、重い元素の供給源になっていると推定されている。(Credit: Robin Dienel/Carnegie Institution for Science)

電磁波と重力波の両方でとらえられた現象

“キロノバ”という名称は、白色矮星への質量降着による爆発で生じる新星(ノバ)の約1000倍の明るさに達することが由来。
超新星(スーパーノバ)と比べると10分の1から100分の1程度の明るさになります。

このような爆発現象が起こると最初に予測されたのは1974年のこと。
実際に観測されたのは2013年に入ってからでした。

でも、宇宙で最も高密度な物質でできた中性子星同士の合体現象は、実験室で再現することができず…
その性質はほとんど理解されていませんでした。

また、実際に発生した“キロノバ”をとらえるにしても、大半が遠方の宇宙で起きた現象であり、その過程も一瞬しか持続しないんですねー

それに、“キロノバ”を観測するにはガンマ線バーストや重力波といった、ごく最近になってから観測が可能になった現象を利用する必要があるので、観測データそのものが限られてしまうという事情もありました。

こうした背景事情を踏まえると、2017年に観測された“AT2017gfo/GW170817”は極めて貴重な観測結果だっといえます。

“AT2017gfo”は超新星爆発のカタログ名で、“GW170817”は重力波のカタログ名なんですが、この2つが連名で表記されているのは、どちらも同じ現象であることを示すためです。
 この他に、ガンマ線バーストのカタログ名である“GRB150101B”とも呼ばれている。
“AT2017gfo/GW170817”は、現在までにキロノバと重力波が関連付けられた唯一の事例。
電磁波と重力波の両方で詳細な計測が行われたことで、“AT2017gfo/GW170817”は“キロノバ”に関する詳細な研究を行うことができる極めて貴重なデータを提供してくれています。

“キロノバ”のエネルギー放出は球対称だった

ニールス・ボーア研究所のAlbert Sneppenさんたちの研究チームは、“AT2017gfo/GW170817”の観測データをもとに、“キロノバ”で起こるエネルギー放出現象の解析を行っています。

過去のモデルから推定されていたのは、“キロノバ”のエネルギー放出は全方向に対象ではなく非対称であり、方向によってかなりの偏りがあることでした。

合体直前の中性子星のペアは、共通の重心を1秒間に数百万回というペースで公転。
互いの重力で変形し、歪んだ形状の中性子星が合体の瞬間に一点で接触することになるので、回転面に沿った方向と回転面に対して垂直な方向では物質の分布に偏りが生じることになります。

このことにより、エネルギーの放出も非対称になると考えたわけです。

これは直感的にも理解しやすい推定でした。
図2.球対称なエネルギー放出(イメージ図)。今回の研究により、“キロノバ”は非対称なエネルギー放出ではなく、球対称であることが明らかにされた。(Credit: Albert Sneppen)
図2.球対称なエネルギー放出(イメージ図)。今回の研究により、“キロノバ”は非対称なエネルギー放出ではなく、球対称であることが明らかにされた。(Credit: Albert Sneppen)
でも、研究チームが“AT2017gfo/GW170817”の観測データを元に2つの方法で解析を行ってみると、全く予想外なことに…
どちらのエネルギー放出も、ほぼ球対象だという結果が導き出されたんですねー

この結果は、過去のモデルに認識されていない何らかの誤りがあり、非対称なエネルギー放出という実際とは異なる結果が算出されている可能性を示していました。
ただ、何を誤っているのかは全くの謎であり、これからの研究が必要な状況でした。

そこで研究チームでは、限られた結果を元にしていますが、次のような予測を立てています。

エネルギーの放出が球対称であるということは、衝突の中心点からの放出が、物質の非対称な分布を均してしまうほどに膨大な量であることを示唆していると考えたんですねー
これは、過去のモデルよりもずっと多い放出量を前提としていました。

中性子星同士が衝突した場所では、極めて寿命の短い放射性同位体が大量に生成されると考えられています。
でも、その崩壊による追加のエネルギーでは、これほどの放出量を説明するには不十分であり、研究チームでは衝突直後に生成される一時的な天体がカギになると考えています。

合体した中性子星は、衝突後の一瞬だけ単一の大きな中性子星を形成。
でも、この星は数ミリ秒(1000分の数秒)しか存在できず、すぐさま重力崩壊してブラックホールになります。

こうした瞬間的な過程で一時的に生じた強大な磁場は、エネルギーに変換されて外部に放出されます。

つまり、この一瞬だけ存在する巨大な中性子星が“磁気爆弾”となって、球対称で膨大なエネルギーを生み出す源になっているわけです。

“キロノバ”で生成される元素の傾向

ただ、それでも謎は残ります。

研究チームでは、“キロノバ”を重い元素が宇宙に存在する理由の1つとして考えています。
でも、今回の計算結果で分かったのは、過去のモデルと比べて軽い元素がより多く生まれる傾向にあることでした。

この点も大きな謎ですが、研究チームではこれも一時的に生じる巨大な中性子星がカギであると推定しています。

崩壊までのわずかな間、中性子星はニュートリノという素粒子を放出します。

ニュートリノは他の物質との相互作用に乏しく、“幽霊粒子”と呼ばれるほどの素粒子です。
でも、巨大な中性子星から放出されるニュートリノは膨大な量になるので、無視できない数の熱核反応が生じることになります。

ニュートリノが中性子に衝突すると陽子と電子が生み出されるので、全体として軽い元素を生み出す源になるわけです。

とはいえ、この推定にはうまく説明できない部分もあり、完全な説明にはなっていません。

いずれにしても、“キロノバ”で生成される元素の傾向がどのようになっているのかという点は、宇宙全体での重い元素の供給源を理解することにも関わる話であり、重い元素にお世話になっている私たちにも決して縁遠いものではありません。

“キロノバ”は宇宙でも最大級のエネルギッシュな現場であり、その理解は現在の人類の知見を大幅に超えているのかもしれません。

ただ、将来の研究や観測により、少しずつであっても着実に理解が進んでいくはず。
今回の研究による“キロノバ”の解析で生まれた新たな謎は、さらなる研究対象を開拓したとも言えますね。


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実験で偶然合成した“塩化ナトリウム超水和物”は、木星や土星の氷衛星にも存在しているかもしれない

2023年03月14日 | 宇宙 space

塩化ナトリウムと水分子が結合した結晶

“塩化ナトリウム(NaCl)”は調味料として私たちに身近な物質の1つです。
その塩化ナトリウムを様々な割合で水に溶かした後、水分を蒸発させて結晶を作ると、通常であれば現れるのは塩化ナトリウムです。

でも、0.1℃未満で結晶を作る場合には“塩化ナトリウム2水和物(NaCl・2H2O)”という、塩化ナトリウムと水分子が結合した結晶が生じます。
図1.エウロパの表面には無数の筋があり、色がついて見える。これは地下から運ばれた様々な物質に由来するとみられている。そしてスペクトルデータでは、塩化ナトリウム水和物の存在を示唆しているものの、対応する物質が見つかっていないという問題があった。(Credit: NASA/JPL/Galileo)
図1.エウロパの表面には無数の筋があり、色がついて見える。これは地下から運ばれた様々な物質に由来するとみられている。そしてスペクトルデータでは、塩化ナトリウム水和物の存在を示唆しているものの、対応する物質が見つかっていないという問題があった。(Credit: NASA/JPL/Galileo)
塩化ナトリウム2水和物は、0.1度以上で水と塩化ナトリウムに分解するので、通常は見かけることはありません。
ただ、寒冷地では塩化ナトリウム2水和物が生じるような低温乾燥環境がしばしば存在します。

同じようなことは、木星の衛星エウロパや土星の衛星エンケラドスといった氷天体でもいえるので、宇宙には塩化ナトリウム水和物が多量に存在すると考えられてきました。

例えば、エウロパの表面にある多数の筋“線条”の色は、地下から運ばれた水以外の様々な物質に由来するとみられています。
 表面が3キロに及ぶ氷で覆われている木星の第2衛星エウロパ。このエウロパは木星の潮汐力を受けることで、揺れ動かされ摩擦で熱が生じ、星の内部が熱くなっている。この熱により地殻下では氷が解け液体の水が存在していて、そこには生命が存在するかもしれないと考えられている。このエウロパの表面に見られる黄色い模様は、海水の塩分の主成分で食塩としても利用されている塩化ナトリウムに由来している。地下にあると考えられている海から噴出した物質でできていると考えられている。
なので、塩化ナトリウム水和物が存在すると考えても不思議ではありません。

ところが、実際に宇宙探査機でこれらの氷天体を観測してみると、予想とは異なる結果が得られ長年の謎になることに…

観測で得られるスペクトルデータから分かってきたのは、2個よりも多い水分子を含む“水っぽい”塩化ナトリウム水和物の存在でした。

でも、これが実際に2水和物とは異なる塩化ナトリウム水和物の存在を示しているのか、それともスペクトルデータが誤っているのかは不明のままになっています。

偶然見つかった水分子の割合が多い塩化ナトリウム水和物

ワシントン大学のBaptiste Journauxさんたちの研究チームは、実験室で塩水を高圧にかける実験を行っていました。

塩化ナトリウムを含んだ水である塩水は、通常の環境でも凍る温度“凍結点”が低くなります。

この作用は融雪剤などで応用されていますが、凍る温度は圧力でも変化します。

研究チームは当初、高圧下で塩水の凍る温度がどう変化するかを調べるために、この実験を行っていました。
図2、今回合成された塩化ナトリウム超水和物の1つ、“NaCl・8.5H2O”の結晶。合成には高圧を必要とするが、低温であれば大気圧まで減圧しても安定して存在する。(Credit: Journaux et al./PNAS)
図2、今回合成された塩化ナトリウム超水和物の1つ、“NaCl・8.5H2O”の結晶。合成には高圧を必要とするが、低温であれば大気圧まで減圧しても安定して存在する。(Credit: Journaux et al./PNAS)
でも、予想とは異なり、大気圧の2万5000倍もの高圧下で氷ではなく、塩化ナトリウム水和物の結晶が生じたことに研究チームは驚くことになります。

さらに、得られた結晶の構造と成分を調べてみると、これまで知られていなかった塩化ナトリウム水和物の存在が明らかになったんですねー
このことは、150年ぶりに水と塩化ナトリウムの混合物の相図を書き換える発見になりました。
図3、塩化ナトリウム水和物の結晶構造。従来知られていた塩化ナトリウム水和物は1種類だけであった(左)。今回偶然にも、新たに2種類の塩化ナトリウム超水和物が発見された(中および右)。(Credit: Baptiste Journaux/University of Washington)
図3、塩化ナトリウム水和物の結晶構造。従来知られていた塩化ナトリウム水和物は1種類だけであった(左)。今回偶然にも、新たに2種類の塩化ナトリウム超水和物が発見された(中および右)。(Credit: Baptiste Journaux/University of Washington)
この結晶は、“塩化ナトリウム超水和物(hyperhydrated sodium chloride)”と呼ばれ、2種類の化学成分があることも分かりました。

1つは“NaCl・8.5H2O(塩化ナトリウム8.5水和物)”、もう1つは“NaCl・13H2O(塩化ナトリウム13水和物)”です。

どちらも塩化ナトリウム2水和物と比較して水分子の割合が多いので、氷天体で見つかった“水っぽい”塩化ナトリウム水和物に対応する可能性があります。

氷天体の地殻内部は高圧であり、実験室で生み出した高圧環境とも一致します。

この結果は予想外の発見であり、条件面の探索が進んでいない中で偶然に見つかったもの。
実験条件を変えれば、さらに異なる塩化ナトリウム超水和物が見つかる可能性もあります。

また、2つの塩化ナトリウム超水和物のうち“NaCl・8.5H2O”の方は、実験的には約-50度以下、理論的には-38度以下であれば、大気圧まで減圧しても安定して存在することが示されました。

つまり、氷天体の表面のみならず、地球でも塩化ナトリウム超水和物が存在する可能性があるということになります。

例えば、南極大陸の分厚い氷床の内部には、非常に塩分濃度の高い塩湖が存在していることが知られています。

塩湖の底で塩化ナトリウム超水和物が生成されていれば、氷床の表面に運ばれたものが存在する可能性もあります。

それでは、今回発見された塩化ナトリウム超水和物は、氷天体を含む自然界にも存在するのでしょうか?
このことは、現時点ではまだ確定できていません。

そのためには、宇宙探査機による詳細な観測と、実験室でより大きな結晶を生成するという両方のアプローチを通して、データの精度を上げる作業が必要になります。


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暗黒エネルギーの源はブラックホールで、その中心には物理法則の適用できない特異点は存在しないかも

2023年03月11日 | ブラックホール
ハワイ大学の天文学者Duncan Farrahさんを中心とする研究チームは、ブラックホールと暗黒エネルギー(ダークエネルギー)を結び付ける初の観測的証拠が得られたとする研究成果を発表しました。

今回の成果は、まだ検証されるべき仮説の段階のもの。
でも、ブラックホールが暗黒エネルギーの源になっている可能性を示すものです。
ひょっとすると、ブラックホールの存在を再定義することになるのかもしれません。
超大質量ブラックホールのイメージ図。(Credit: NASA/JPL-Caltech)
超大質量ブラックホールのイメージ図。(Credit: NASA/JPL-Caltech)

ブラックホールは物質を取り込むこと以外の方法でも成長している

ほとんどの銀河の中心には、太陽の100万倍から100億倍の質量を持つ“超大質量ブラックホール”が存在すると考えられています。

私たちの天の川銀河の中心にも、太陽の400万倍の質量を持つ超大質量ブラックホール“いて座A*(エースター)”が存在しています。
さらに、おとめ座の方向約5500万光年の彼方に位置する楕円銀河“M87”の中心には、太陽の約65億倍もの質量を持つ超大質量ブラックホールが存在しています。
従来の説に基づいてブラックホールとその周辺を解説した図。(Credit: ESO, ESA/Hubble, M. Kornmesser/N. Bartmann)
従来の説に基づいてブラックホールとその周辺を解説した図。(Credit: ESO, ESA/Hubble, M. Kornmesser/N. Bartmann)
このような超大質量ブラックホールは、どのようにして成長してきたのでしょうか?
天文学者は長年この謎に取り組んできましたが、まだよく理解されていないんですねー

ブラックホールが成長する(質量を増やす)には、接近した星やガスなどの物質を取り込む必要があります。

ただ、物質を取り込んで成長するペースには限界(エディントン限界)があります。
 “エディントン限界”とは、外側の放射圧と内側への重力とが釣り合う最大光度。天体の光度がある値を超えると光の圧力が重力を上回り、ガスが天体に落ちることができなくなる。
近年では、ビッグバンから10億年と経たない初期の宇宙にも、質量が太陽の数億~十数億倍もある超大質量ブラックホールが存在していたことを示す観測結果が得られていて、世界中の天文学者たちはブラックホールが急成長を遂げた理由の解明に取り組んでいます。

それでは、ブラックホールの成長を周囲からの物質の取り込みだけで説明できるのでしょうか?

このことを検証するため、研究チームは近年活動していない楕円銀河に着目して観測と分析を行っています。

天の川銀河やアンドロメダ銀河といった渦巻銀河には、星の材料となるガスが存在していて、新たな世代の星を生み出す星形成活動が起きています。

一方、古い星々が目立つ楕円銀河には、ガスがほとんど残っておらず、星形成活動は早い段階で止まってしまったと考えられています。

ブラックホールが成長するうえで物質を取り込む必要があるとすれば、ガスを失った楕円銀河の中心に潜む超大質量ブラックホールの成長も、やはり早い段階で止まっているはずです。

そこで研究チームでは、古い時代に存在していた若い銀河と現在の楕円銀河の観測データを分析。
すると、超大質量ブラックホールの質量は90億年間で7~20倍に増えていたことが分かってきました。

ただ、この成長率は、物質の取り込みによる質量の増加や、ブラックホール同士の合体などでは説明できないもの。
そう、この結果は、ブラックホールが物質を取り込むこと以外の方法で成長してきた可能性があることを示していました。

宇宙の膨張にあわせてブラックホールの質量も増えた可能性

おとめ座の方向約5000万光年彼方の楕円銀河“M59”。(Credit: ESA/Hubble & NASA, P. Cote)
おとめ座の方向約5000万光年彼方の楕円銀河“M59”。(Credit: ESA/Hubble & NASA, P. Cote)
そこで、研究チームが検証を進めたのは、ブラックホールの成長を“宇宙論的カップリング(Cosmological Coupling)”だけで説明できるかどうかでした。

宇宙論的カップリングはアルベルト・アインシュタインの重力理論をもとに新たに予測されていた現象。
特異点が存在しない代わりに、真空のエネルギー“Vacuum Energy”を内包するブラックホールと、膨張する宇宙が結びつくことで成り立つと考えられています。

宇宙が膨張するとブラックホールに内包されている真空のエネルギーが増加、それによりブラックホールの質量が増加することになります。
 E=mc2(E:エネルギー、m:質量、c:光速)、すなわちエネルギーと質量は比例関係にあるため。
様々な時代に存在していた銀河を分析した結果、ブラックホールの成長は宇宙論的カップリングに基づく予測通りで、ブラックホールの質量と宇宙の大きさはよく一致する関係にあることが示されたそうです。

また、宇宙論的カップリングのもとでブラックホールの質量がどれくらい増加するのかは、膨張する宇宙とブラックホールの結びつきの強さに左右されるようです。

宇宙の大きさが現在の“2分の1”と“3分の1”だった時代の楕円銀河に存在していた超大質量ブラックホールに関するデータを、研究チームが分析した結果、結びつきの強さを示す変数“k”(宇宙論的カップリングにおけるブラックホールの質量増加を示すモデルに含まれる)の値は、ほぼ“3”であることが示されました。

この“k=3”という値は、今回の研究にも参加しているハワイ大学のKevin Crokerさん(当時は同大学の大学院生)とJoel Weiner教授が2019年に発表した研究成果でも予測されていて、宇宙最初の世代の星を起源とするブラックホールに内包されている真空のエネルギーの合計と、現在測定されている暗黒エネルギーの値が一致することを示していたようです。

真空のエネルギーの合計については、初期の宇宙で誕生したブラックホールの数をなるべく正確に推定するために、研究チームはジェームズウェッブ宇宙望遠鏡の観測で得られた最初期の宇宙の星形成率に関する最新の測定値も利用。
数値がそろっていることを研究チームで確認しています。

宇宙の加速膨張をもたらしていると考えられている暗黒エネルギーについては、宇宙の約7割を占める成分だとされていますが、その正体はわかっていません。

暗黒エネルギーの有力な候補の一つが、アインシュタインの提唱した宇宙定数であり、宇宙定数は真空のエネルギー密度の絶対値を意味します。

今回の研究成果は、超大質量ブラックホールの成長に関する謎を解決するもの。
同時に、真空のエネルギーを内包するブラックホールが暗黒エネルギーの天体物理学的な供給源であり、なおかつブラックホールの中心に物理法則の適用できない特異点が存在しない可能性を示したことになります。

もし、今回の研究が示した理論が成り立つなら、宇宙論全体に革命を起こすことになるはず。
現在の宇宙が加速していることを説明する今回の測定データは、アインシュタインの重力理論の底力を垣間見せてくれました。

ただ、今回の研究成果はまだ仮説の段階。
検証には数年を要する可能性もあります。

果たして、人類はブラックホールや暗黒エネルギーの謎を解き明かす糸口をつかんだのでしょうか。
その答えが得られるのは、もう少し持つ必要がありそうですね。
電波でとらえた天の川銀河中心の超大質量ブラックホール“いて座A*”。(Credit: EHT Collaboration)
電波でとらえた天の川銀河中心の超大質量ブラックホール“いて座A*”。(Credit: EHT Collaboration)



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中間質量ブラックホールの証拠? 天の川銀河中心の超大質量ブラックホール付近で“おたまじゃくし”の形をした分子雲を発見

2023年03月09日 | 銀河と中心ブラックホールの進化
天の川銀河の中心にある超大質量ブラックホール“いて座A*(エースター)”付近に、独立した“おたまじゃくし”の形をした分子雲が見つかりました。

この分子雲は、天球面上で円弧上の形態をしていて、その円弧に沿って視線速度が単調に変化していることが明らかになるんですねー

さらに、この空間速度構造は、太陽の10万倍の質量を持つ点状重力源周りのケプラー軌道によって極めてよく再現されました。
 ケプラー軌道は、3次元空間で2次元の軌道面を形成する楕円、放物線、または双曲線としての、ある物体の別の物体に対する運動。
また、様々な波長の光でその位置を調べても明るい天体が見つからず…
このことが意味するのは、この点状重力源が高密度の星団などではないことでした。

現時点で有力視されているのは、点状重力源が中間質量ブラックホールである可能性。
そう、これまでに確実な発見例がほとんど無い中間質量ブラックホールによって作られた可能性があるようです。

分子ガスの分布・運動の解析から発見された中間質量ブラックホール候補天体の中で、最も確実さが高いようです。
 今回の研究を進めているのは、慶応義塾大学大学院理工学研究科の金子美幸(博士課程2年)と同理工学部物理学科の岡朋治教授、国立天文台、神奈川大学からなる研究チームです。

中間質量ブラックホールの見つけ方

ほとんどの銀河の中心には、太陽の100万倍から100億倍の質量を持つ“超大質量ブラックホール”が存在すると考えられています。

私たちの天の川銀河の中心にも、太陽の400万倍の質量を持つ超大質量ブラックホール“いて座A*(エースター)”が存在しています。

また、大質量星が超新星爆発を起こした後に誕生する、太陽の数倍~数十倍程度の質量を持つ“恒星質量ブラックホール”も宇宙には多数存在しています。

一方で、存在は予測されていても、確実な発見例がほとんど無いブラックホールもあります。
それが、太陽質量の100倍~10万倍という“中間質量ブラックホール”です。

超大質量ブラックホールは、恒星質量ブラックホールが合体を繰り返すことで形成されたとも考えられています。
なので、この2つのブラックホールの中間くらいの質量を持つ“中間質量ブラックホール”もあるはずなんですねー

超大質量ブラックホールや恒星質量ブラックホールは、その重力に引き寄せられた物質が加熱されて放つX線を観測したり、周囲の天体の運動を調べたりすることで存在が確認できます。

同じ方法を使えば中間質量ブラックホールの存在も確認できると思いますよね。
それでは、なぜ決定的な証拠が見つからないのでしょうか?

その理由として考えられているのは、中間質量ブラックホールの周りには物質が少なく、超大質量ブラックホールほど重力が強くないため他の恒星や星間物質を引き寄せにくいこと。
そう、見つからない理由は中間質量ブラックホールが目立たないことにあると考えられています。

分子雲を“オタマジャクシ”形に変形させたもの

天の川銀河中心の超大質量ブラックホール“いて座A*”の近傍には、中間質量ブラックホールの存在が示唆されている星団“IRS13E”があります。

でも、“IRS13E”が中間質量ブラックホールを含むとする説には異論もあり、確実に存在するとは言えないんですねー

一方で研究チームが指摘していたのは、銀河系中心分子層に発見されたコンパクトかつ異様に速度幅が広い分子雲の存在について。
同領域に“IRS13E”以外にも中間質量ブラックホールが複数存在する可能性でした。
 銀河系中心分子層は、“いて座A*”から半径1000光年程度の範囲に広がる特に激しい運動状態の領域。
 観測される光の波長ごとの強度分布“スペクトル”に現れる線は、光のドップラー効果によって私たちの方へ動いている物質からの光は波長が短く(青く)なり、遠ざかっている物質の光は波長が長く(赤く)なる。この周波数の変化量を測定することで、天体の視線速度を知ることができる。周波数で表されたスペクトル線幅を視線速度に換算したものを“速度幅”という。
ただ、ブラックホール以外の天体や要因でも同様の分子雲を生成することは可能。
その確認のためには、ブラックホールのような点状重力源が生じるガスの運動状態を、正確に再現している分子雲を検出することが重要になってきます。

このような研究は、銀河中心の超大質量ブラックホールの形成・成長過程を明らかにすることにつながるので、非常に重要なことになります。

そこで、今回の研究では、ハワイのジェームズ・クラーク・マクスウェル望遠鏡を使用して取得された一酸化炭素(CO)の回転スペクトル線サーベイデータを精査。
これにより、点状重力源との相互作用によって生じたと考えられるコンパクトかつ速度幅が広い分子雲の探査を集中的に行いました。

その結果の一つとして、“いて座A*”の北西約20光年の距離に一つの特異な分子雲を発見。
この分子雲は周囲から孤立して存在していて、立体的な構造を調べると“おたまじゃくし”のような形であることが分かります。
 国立天文台野辺山宇宙電波観測所45メートル望遠鏡で取得されたCO及びCS(硫化炭素)サーベイデータ中でも、その存在が確認された。
この分子雲の形は、太陽10万個分の質量をもつ点状重力源を回る運動でうまく説明できました。
そう、今のところ重力源の最有力候補といえるのがブラックホールでした。
“おたまじゃくし”分子雲(左)と中間質量ブラックホール(中央)のイメージ図。(Credit: 国立天文台野辺山宇宙電波観測所)
“おたまじゃくし”分子雲(左)と中間質量ブラックホール(中央)のイメージ図。(Credit: 国立天文台野辺山宇宙電波観測所)
“おたまじゃくし”が孤立しているということは、分子雲を変形させた要因が重力源以外に見当たらないことを意味しています。

次に研究チームは、この点状重力源の正体を探るため、“おたまじゃくし”を含む天域の様々な波長のイメージを確認。
でも、想定される位置に明るい天体が見つからないので、点状重力源が星団である可能性は低いと考えられています。

また、軌道要素から与えられる質量密度の下限値が膨大であることから、この点状重力源が中間質量ブラックホールである可能性が強く示唆されました。

これらのことから研究チームは、“おたまじゃくし”が太陽10万個分の質量をもつ不活発な中間質量ブラックホールによって形作られたと結論付けています。

今回見つかった天体は、分子ガスの分布や運動の解析から見つかった中間質量ブラックホールの候補としては、最も確実さが高いそうです。
(a)“いて座A*”(十字印)周辺の一酸化炭素分子の回転スペクトル線の積分強度図(346GHz)。(b)“おたまじゃくし”周辺の拡大図。(c)(b)中の水色線に沿って作成した位置-速度図。(d)各速度におけるピーク強度位置(紫十字)とケプラー軌道(緑実線)を重ねた3次元図。(Credit: 国立天文台野辺山宇宙電波観測所)
(a)“いて座A*”(十字印)周辺の一酸化炭素分子の回転スペクトル線の積分強度図(346GHz)。(b)“おたまじゃくし”周辺の拡大図。(c)(b)中の水色線に沿って作成した位置-速度図。(d)各速度におけるピーク強度位置(紫十字)とケプラー軌道(緑実線)を重ねた3次元図。(Credit: 国立天文台野辺山宇宙電波観測所)
この“おたまじゃくし”を駆動しているのが本当に中間質量ブラックホールだとすれば、この位置は超大質量ブラックホールの“いて座A*”から非常に近いことになります。

そのため、この中間質量ブラックホールは“いて座A*”に飲み込まれていく運命にあるとみられています。

今後、研究チームでは“おたまじゃくし”を形成する点状重力源の実態に迫るため、アルマ望遠鏡による高解像度観測を行う予定です。


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なぜ“超淡銀河”は大きさに対して星の数が少ないのか? 銀河から伸びる尻尾のような構造“恒星ストリーム”を見つけて分かったこと

2023年03月07日 | 銀河・銀河団
すばる望遠鏡を用いた“M81銀河群”の観測から、この銀河群に属する“超淡銀河”から中心銀河の方向へ星が流れ出ている様子が明らかになりました。

このような尻尾のように伸びた構造“恒星ストリーム”が“超淡銀河”で見つかったのは初めてのこと。
銀河群の力学進化とともに、謎に包まれた“超淡銀河”の起源に対して重要な示唆を与えてくれそうです。
すばる望遠鏡“HSC”による“M81銀河群”の観測領域(点線と赤戦で囲まれた範囲、背景はスローン・デジタル・スカイサーベイ(SDSS)の観測画像)(左)と、赤線で囲まれた超淡銀河“F8D1”を含む領域における赤色巨星の分布(右)。右上は、“F8D1”本体の“HSC”による観測画像。今回発見された“恒星ストリーム”はとても暗いため、“HSC”による観測画像からは判別できなかったが、赤色巨星の分布から、“F8D1”から銀河群の中心方向である“M81”へと伸びる星の流れ(ストリーム)があることが分かる。銀河“NGC 2976”は“M81銀河群”よりも手前に位置していて、右図では偶然ストリームに重なるように見えている。(Credit: 国立天文台)
すばる望遠鏡“HSC”による“M81銀河群”の観測領域(点線と赤戦で囲まれた範囲、背景はスローン・デジタル・スカイサーベイ(SDSS)の観測画像)(左)と、赤線で囲まれた超淡銀河“F8D1”を含む領域における赤色巨星の分布(右)。右上は、“F8D1”本体の“HSC”による観測画像。今回発見された“恒星ストリーム”はとても暗いため、“HSC”による観測画像からは判別できなかったが、赤色巨星の分布から、“F8D1”から銀河群の中心方向である“M81”へと伸びる星の流れ(ストリーム)があることが分かる。銀河“NGC 2976”は“M81銀河群”よりも手前に位置していて、右図では偶然ストリームに重なるように見えている。(Credit: 国立天文台)

ごくわずかな数の星しか含まない銀河

“M81銀河群”は、渦巻銀河“M81”を中心に大小40余りの銀河で構成される、地球から1200万光年彼方に位置する私たちに最も近い銀河群の一つです。

天の川銀河とアンドロメダ銀河を中心とする“局所銀河群”に似た性質を持つことから、天の川銀河の歴史を解き明かす上で重要な研究対象になっているんですねー

この“M81銀河群”に属する矮小銀河の一つ“F8D1”は、銀河の大きさに対して含まれる星の数がごくわずかで、極端に暗く淡く広がっている“超淡銀河”です。

それでは、超淡銀河がその大きさに比べて、ごくわずかな数の星しか含まないのはなぜなのでしょうか?
この長年にわたって天文学者たちを悩ませている問題に取り組む上で、私たちに最も近い超淡銀河である“F8D1”は格好の調査対象でした。

銀河から伸びる尻尾のような構造“恒星ストリーム”

国立天文台とエジンバラ大学の研究者を中心とする国際研究チームは、2014年からすばる望遠鏡に搭載された超広視野主焦点カメラ“ハイパー・シュプリーム・カム(Hyper Suprime-Cam:HSC)”を用いた、“M81銀河群”の撮像探査“M81 銀河考古学プロジェクト”を続けています。

超淡銀河“F8D1”の周辺については、観測画像に写る一つ一つの天体から、“M81銀河群”の距離にある赤色巨星を取り出しその分布を調査。
すると、“F8D1”から渦巻銀河“M81”の方向に1度角以上に渡って伸びる、尻尾のような構造“恒星ストリーム”が見つかります(図1右)。

“恒星ストリーム”の長さは銀河本体の大きさの30倍以上に及び、またその明るさは銀河に含まれる星の3分の1以上が流れ出たことを示していました。
 超淡銀河“F8D1”の明るさや中心座標を調べるために、研究チームはハワイ州マウナケア山に設置された天文台“カナダ・フランス・ハワイ望遠鏡(Canada-France-Hawaii Telescope:CFHT)”の“MegaCam”カメラによる観測も行っている。
研究チームの推測は、超淡銀河“F8D1”が巨大な渦巻銀河“M81”の近くを通過した際に強い潮汐力を受けた結果、このような姿になったというもの。
“F8D1”とその巨大な“恒星ストリーム”は、過去数十億年の間に起こった銀河間の重力相互作用が、銀河の性質を大きく変えてしまった一つの例と言えます。

超淡銀河は、生まれながらにして淡く広がっていたのでしょうか?
それとも、銀河の成長過程でこのような姿になったのでしょうか?

この問いに対して、超淡銀河“F8D1”の“恒星ストリーム”の発見は、超淡銀河の起源について、その答えを明確に示す初めての例になりました。

今後、重要になってくるのは、他の超淡銀河にも同様の尻尾のような構造が存在するのかを調べることになります。

今回見つかったような潮汐力による“恒星ストリーム”は、一般的には銀河を中心に対象となる両側の位置に見られます。

ただ、“F8D1”は探査領域の端に位置しているので、片側の構造しか確認されていないんですねー

研究チームは、今後も“HSC”での観測を続ける予定で、今回見つけたものとは対象となるストリームがどのようになっているのかを調べていくそうです。

さらに、超広視野多天体分光器“プライム・フォーカス・スペクトログラフ(Prime Focus Spectrograph:PFS)”などを用いて運動の情報を調べることで、超淡銀河の詳しい性質や銀河群の力学進化にさらに迫ることができると期待されています。

今回の研究により、“M81銀河群”の力学進化が、これまで考えられていた以上に複雑であることが分かりました。

“M81”のような巨大銀河は“F8D1”のような小さな銀河がいくつも合体することで、大きく成長してきたと考えられています。
そう、“F8D1”から多くの星々が流れ出ている様子は、“M81”が成長するまさにその瞬間を見ているとも言えますね。


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