宇宙のはなしと、ときどきツーリング

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材料を持って行かれて星の形成を止めてしまった銀河、原因は合体というゆっくりとしたプロセスだった

2022年09月28日 | 銀河・銀河団
70億光年彼方に、内部で新たな星の誕生が止まった銀河があります。
この銀河をアルマ望遠鏡で観測してみると、別の銀河と衝突合体したことが分かったんですねー
どうやら、この衝突合体で星の材料となるガスが放り出されてしまったようです。

星の材料となる材料がなくなってしまった銀河

私たちの天の川銀河では、今でも新しい恒星が生まれています。

でも、星の形成が止まってしまった銀河もあるんですねー

原因として考えられるのは、星の材料となるガスが無くってしまったこと。
どうして星の材料は無くなってしまったのでしょうか?
このことについては様々な議論があります。

“うしかい座”の方向約70億光年の彼方に位置する大質量銀河“SDSS J1448+1010”も、燃料切れとなってしまった銀河の1つです。

“SDSS J1448+1010”は別の銀河との衝突合体を経たばかりで、その際に重力によって引っ張り出されたガスや星が尾を形成していました。
その尾の長さは64kpc(約21万光年)にもなります。

今回の研究では、テキサスA&M大学の研究チームがハッブル宇宙望遠鏡とアルマ望遠鏡を使って“SDSS J1448+1010”を観測。
すると、この尾に大量のガスを持って行かれたことが分かってきます。
“うしかい座”の方向約70億光年の彼方に位置する大質量銀河“SDSS J1448+1010”。ハッブル宇宙望遠鏡観測データ(青と白)と、アマル望遠鏡観測データ(赤とオレンジ)を合成している。(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), J. Spilker et al. (Texas A&M), S. Dagnello (NRAO/AUI/NSF))
“うしかい座”の方向約70億光年の彼方に位置する大質量銀河“SDSS J1448+1010”。ハッブル宇宙望遠鏡観測データ(青と白)と、アマル望遠鏡観測データ(赤とオレンジ)を合成している。(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), J. Spilker et al. (Texas A&M), S. Dagnello (NRAO/AUI/NSF))

銀河が星形成を止める理由

大質量銀河“SDSS J1448+1010”には興味深い点がありました。

それは、どういうわけか爆発的な星形成の直後約7000万年前に突然星形成を停止したことでした。
ほとんどの銀河は、そのまま星形成を続けるにもかかわらずです。

アルマ望遠鏡とハッブル宇宙望遠鏡による観測から明らかになったのは、この銀河が星形成をやめた本当の理由は、合体の過程で星形成に必要なガスの約半分が銀河間空間に放出されたためであることでした。

燃料が無くなったため、銀河は星を作り続けることが出来なくなったわけです。
ハッブル宇宙望遠鏡による“SDSS J1448+1010”の近赤外線画像(左)とアルマ望遠鏡による一酸化炭素分子(星の材料となる冷たいガス)の分布。点線内が中心銀河に属するとみられる放射、それ以外は尾を構成している部分。(Credit: Justin S. Spilker et al. 2022 ApJL 936 L11)
ハッブル宇宙望遠鏡による“SDSS J1448+1010”の近赤外線画像(左)とアルマ望遠鏡による一酸化炭素分子(星の材料となる冷たいガス)の分布。点線内が中心銀河に属するとみられる放射、それ以外は尾を構成している部分。(Credit: Justin S. Spilker et al. 2022 ApJL 936 L11)
今回の発見は、星形成がどのように停止し、銀河がどのように死滅するかについての長年の理論を覆すものと言えます。

ただ今回の成果は、たった1つの観測から得られた結果なんですねー
なので、銀河同士の相互作用の結果として、星形成が止まることがどの程度一般的であるかは、今のところ不明です。

これまで、天文学者が想定していた銀河の星形成を止める唯一の方法は、猛烈で速いプロセスでした。

例えば、銀河の中でたくさんの超新星爆発が起こって、ガスの大半を外に吹き飛ばして、残りのガスを加熱してしまうことです。

そう、今回の観測から分かったのは、派手なプロセスでなくても星形成を止められること。
合体という、もっとゆっくりなプロセスでも、星形成と銀河に終止符を打つことができるのですね。
休眠状態にある“SDSS J1448+1010”のイメージ図。他の銀河と合体した際に放出されたガスと星からなる巨大な尾が近くにみられる。(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), S.Dagnello (NRAO/AUI/NSF))
休眠状態にある“SDSS J1448+1010”のイメージ図。他の銀河と合体した際に放出されたガスと星からなる巨大な尾が近くにみられる。(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), S.Dagnello (NRAO/AUI/NSF))


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天の川銀河は標準的な銀河なのか? 衛星銀河の観測で見えてきた、天の川銀河の普遍性と特異性

2022年09月22日 | 銀河・銀河団
すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラを用いて、天の川銀河と同程度の質量を持つ銀河9個の周囲を撮像してみると、93個もの衛星銀河の候補が発見されたんですねー

次に、これら衛星銀河の個数や配置を天の川銀河の衛星銀河と比較。
すると、あぶり出されたのは天の川銀河の普遍性と特異性でした。

このことは、将来的には宇宙論モデルの検証にも影響を与える研究成果だそうです。
観測された9つの銀河の中の1つ“NGC3338”。しし座の方向約7600万光年彼方の渦巻銀河で、質量は天の川銀河と同じくらいと考えられている。(Credit: 国立天文台)
観測された9つの銀河の中の1つ“NGC3338”。しし座の方向約7600万光年彼方の渦巻銀河で、質量は天の川銀河と同じくらいと考えられている。(Credit: 国立天文台)

天の川銀河の周囲を公転する衛星銀河

天の川銀河のような大きな銀河の周囲には、小さな“衛星銀河”が存在しています。
衛星銀河(伴銀河ともいう)とは重力の相互作用により、より大きな銀河の周囲を公転する銀河。
これまでに天の川銀河で見つかっている衛星銀河の数は50個以上。
ただ、その数は理論的な予想よりも一桁以上少なく、またその空間分布は等方的ではなく偏りがありました。

この問題は、現在広く支持されている標準的な宇宙論モデルの“ほつれ”の一つとして見なされていて、理論と観測のギャップを埋めるべく精力的な研究が進められています。

一方、衛星銀河の問題が普遍的なものなのか、それとも天の川銀河に特有の問題なのかは明らかになっていません。

なので、宇宙の普遍的な理解を深めるのに、天の川銀河にも目を向けて衛星銀河をたくさん調べることが重要といえます。

天の川銀河と同程度の質量を持つ銀河の衛星銀河

今回の研究で使用されたのは、すばる望遠鏡に搭載された超広視野主焦点カメラ“HSC”でした。
“HSC(Hyper Suprime-Cam:ハイパー・シュプリーム・カム)”は、すばる望遠鏡に搭載されている超広視野主焦点カメラ。満月9個分の広さの天域を一度に撮影でき、独自に開発した116個のCCD素子により計8億7000万画素を持つ。まさに巨大な超広視野デジタルカメラ。
国立天文台の研究者が主導する研究チームは、約5~8千光年離れた天の川銀河と同程度の質量を持つ9つの銀河について、衛星銀河が分布する領域をくまなく“HSC”で撮影しています。

ただ、HSC”が撮影した高感度画像には無数の銀河が写り込んでいたんですねー

この中から衛星銀河を検出するため、それら銀河の画像を詳細に解析して衛星銀河と背景の銀河を区別していきます。
これにより、暗く小さな衛星銀河の候補を93天体検出することに成功しました。
検出された衛星銀河の一部。多くの衛星銀河は淡く広がっている。(Credit: 国立天文台)
検出された衛星銀河の一部。多くの衛星銀河は淡く広がっている。(Credit: 国立天文台)

違いは親銀河から見た衛星銀河の配置

検出された衛星銀河と天の川銀河の衛星銀河を比べて分かったことは、銀河ごとの衛星銀河数には大きなバラつきがあること。
でも、天の川銀河の衛星銀河の数と同程度であり、天の川銀河が衛星性銀河の特段少ない銀河ではないことでした。

一方、親銀河から見た衛星銀河の配置を調べてみると、どの方向にも同程度の衛星銀河が存在する等方的な配置の兆候を示していたんですねー

天の川銀河の衛星銀河の多くは同一平面上に偏って分布しているので、その配置の特異性が浮き彫りにされる結果になりました。

この結果は、実は天の川銀河が宇宙の中で典型的な銀河でないことを示しているのかもしれません。

天の川銀河は標準的な銀河なのか?

今回の研究では、“HSC”が誇る広視野・高感度の特性を生かすことで、発見されずにいた淡い衛星銀河の美しい姿を一度にとらえることができました。

新たに検出された近傍銀河の衛星銀河は、衛星銀河に関する諸問題を統計的に検証するために貴重な情報になります。

一方、今回の観測では衛星銀河かどうかはっきりしない天体もあり、今後すばる望遠鏡の超広視野多天体分光器“PSF”による追観測によって同定していくことが期待されます。

最も観測が進む天の川銀河は、宇宙論モデルの比較対象としてよく採用されます。

このため、天の川銀河が標準的な銀河であることの正否は宇宙論モデルの根幹にかかわる問題と言えます。

さらなる観測によって天の川銀河以外の衛星銀河の3次元分布の精査と観測例の蓄積が進めば、衛星銀河の普遍的な性質が明らかになり、宇宙論モデルと観測結果をより公平に比較できるようになるのでしょうね。


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スーパーコンピュータが見つけた! 棒状構造の形成が引き起こした天の川銀河の変動の歴史

2022年09月17日 | 銀河・銀河団
国立天文台“ジャスミン”プロジェクトの国際研究チームは、私たちの住む天の川銀河の中心付近に存在する棒状構造の形成が引き起こした変動の歴史について、新しいシナリオを打ち出しました。

この新しいシナリオは、国立天文台の天文学専用スーパーコンピュータ“アテルイⅡ”を用いたシミュレーションによるもの。
明らかになってきたのは、形成後間もない棒状構造のガスが銀河の中心領域に流れ込み、そこで爆発的な星形成が起こり、新たに“中心核バルジ”が形成されたことでした。
一方、棒状構造ではガスが枯渇し星形成が急停止するそうです。

このような棒状構造の形成に伴う星形成活動の領域による違いの影響は、星の年齢構成の違いとして情報が刻まれています。

なので、位置天文観測衛星“ガイア”や2028年に打ち上げ予定の赤外線位置天文観測衛星“ジャスミン”の観測データによって、棒構造の形成時期の解明に向けた研究に役立てられるようです。
スーパーコンピュータ“アテルイⅡ”のシミュレーションによって描き出された天の川銀河の姿。(Credit: 馬場淳一、中山弘敬、国立天文台 4 次元デジタル宇宙プロジェクト)
スーパーコンピュータ“アテルイⅡ”のシミュレーションによって描き出された天の川銀河の姿。(Credit: 馬場淳一、中山弘敬、国立天文台 4 次元デジタル宇宙プロジェクト)

天の川銀河の中心付近に存在する棒状構造

夜空を彩る天の川は、天の川銀河と呼ばれる星の大集団を真横から見たものです。

この天の川銀河は、太陽のような恒星が数千億個も集まったもので、渦巻き碗を持った円盤型をしていると考えられています。

また、様々な観測からその円盤の中央付近には、星が細長く分布する“棒状構造”を持っていることが分かっています。

このような銀河の構造は、いつどのようにしてできたのでしょうか?
その変動の歴史は天文学における最大の謎の一つでした。
天の川銀河の円盤を正面から見た概略図。円盤の中心付近に星が細長く集まる棒状構造があり、その両端付近から渦巻き碗が伸びた形をしている。棒状構造の中心部には、中心核バルジと呼ばれるさらに星が集中した領域が存在する。(Credit: 国立天文台)
天の川銀河の円盤を正面から見た概略図。円盤の中心付近に星が細長く集まる棒状構造があり、その両端付近から渦巻き碗が伸びた形をしている。棒状構造の中心部には、中心核バルジと呼ばれるさらに星が集中した領域が存在する。(Credit: 国立天文台)

棒状構造は、いつどのようにしてできたの?

天の川銀河の内側に存在する棒状構造は、その重力の影響により天の川銀河広域にわたる星やガスの移動を支配していると言っても過言ではありません。

太陽系も、現在の位置より天の川銀河の内側で誕生し、棒状構造の影響により46億年かけて現在の位置まで移動してきた可能性があるそうです。

近年の大規模地上サーベイ観測、そしてヨーロッパ宇宙機関の位置天文観測衛星“ガイア”の革新的な高精度データにより、現在の棒状構造の大きさや回転速度は明らかになりつつあります。
“ガイア”は、ヨーロッパ宇宙機関が2013年12月に打ち上げ運用する位置天文衛星。
可視光線の波長帯で観測を行い、10憶個以上の天の川銀河の恒星の位置と速度を三角測量の原理に基づいて測定する位置天文学に特化した宇宙望遠鏡。
測定精度は10マイクロ秒角(1度の1/60の1/60の1/10マンの角度)であり、これは地球から月面の1円玉を数えられる精度。
でも、棒状構造がいつ形成され、どのような変動を経て進化してきたのかは、全く明らかになっていないんですねー

これは、棒状構造の形成進化が、どのような観測情報にどのように刻まれるのかが理解されていないためでした。

そこで今回の研究では、棒状構造の形成時期を観測的に明らかにするために、棒状構造の形成進化が星形成活動や星の年齢分布にどのような影響を与えるのかを調べています。

天の川銀河の3次元重力多体・流体シミュレーションを行うため、国立天文台の天文学専用スーパーコンピュータ“アテルイⅡ”とASURAコードが用いられています。
ASURAコードは、重力他体系と流体系の自己無撞着な重力相互作用と星形成過程・超新星爆発加熱などの銀河進化素過程を考慮した数値シミュレーションを行える並列N体/SPH法のシミュレーションコード。神戸大学の斎藤貴之准教授により独自に開発されたもの。

国立天文台の天文学専用スーパーコンピュータ

今回の研究のシミュレーションには、国立天文台のスーパーコンピュータ“アテルイⅡ”が使用されました。

理論演算値は3.087ペタフトップスで、天文学の数値計算専用機としては世界最速。
1ペタは10の15乗、フロップスはコンピュータが1秒間に処理可能な演算回数を示す単位。
岩手県奥州にある国立天文台水沢キャンパスに設置されていて、平安時代に活躍したこの土地の英雄アテルイにあやかり命名。
「勇猛果敢に宇宙の謎に挑んでほしい」という願いが込められています。
国立天文台の天文学専用スーパーコンピュータ

棒状構造の形成により、天の川銀河内での星形成活動は領域によって異なっている

棒状構造の形成進化は、星形成活動や星の年齢分布にどのような影響を与えるのでしょうか?
このことを調べるには、銀河のどこでどのように星が誕生し死んでいくのかをシミュレーションする必要があります。

でも、これには様々な物理過程を考慮した大規模な計算が必要になるんですねー

今回の研究では“アテルイⅡ”を用いることで、天の川銀河を構成する星と星間ガスの進化を追い、放射冷却で冷えた低温・高密度になったガスから新たに星が形成され、その星の進化に伴う紫外線放射や超新星爆発による星間ガスの過熱の過程を含めたシミュレーションが可能になりました。

シミュレーションにより示されたのは、棒状構造の形成後間もなく回転の勢いを失った大量の星間ガスが、銀河中心の約6000光年以内の領域に流れ込んだこと。
そこで爆発的に星が形成されることで、新たな銀河構造である“中心核バルジ”を形成することでした。

一方で、棒状構造となった領域では星間ガスが枯渇するため、星形成活動は急激に低下することも分かりました。

このように棒状構造の形成により、天の川銀河内での星形成活動は領域によって異なる。 っという現象が引き起こされる可能性が指摘されました。
“アテルイⅡ”がシミュレーションした天の川銀河の棒状構造の進化の様子。上段が銀河面を真横から見た星の分布、中段が銀河を正面から見た星の分布(オレンジ)とガスの分布(黒)。下段が銀河を正面から見た時の星形成の活発さを表したもので、赤い部分ほど星形成が活発なことを示している。左から銀河の形成が始まってから10億年、15億年、25億年、35億年の様子をそれぞれ示している。15億年頃に棒状構造が形成され始めると、中心核バルジ部分(中心から1キロパーセク程度、つまり約3000光年以内)にガスが集まり、星形成が活発になる。一方、棒状構造(中心から1~3キロパーセクと程度の間)のガスは徐々になくなり、35億年では棒状構造でほとんど星が作られていないことが分かる。また、棒状構造を真横から見ると(上段)、次第に長方形またはピーナッツ形状になっていくことも分かる。(Credit: 馬場淳一)
“アテルイⅡ”がシミュレーションした天の川銀河の棒状構造の進化の様子。上段が銀河面を真横から見た星の分布、中段が銀河を正面から見た星の分布(オレンジ)とガスの分布(黒)。下段が銀河を正面から見た時の星形成の活発さを表したもので、赤い部分ほど星形成が活発なことを示している。左から銀河の形成が始まってから10億年、15億年、25億年、35億年の様子をそれぞれ示している。15億年頃に棒状構造が形成され始めると、中心核バルジ部分(中心から1キロパーセク程度、つまり約3000光年以内)にガスが集まり、星形成が活発になる。一方、棒状構造(中心から1~3キロパーセクと程度の間)のガスは徐々になくなり、35億年では棒状構造でほとんど星が作られていないことが分かる。また、棒状構造を真横から見ると(上段)、次第に長方形またはピーナッツ形状になっていくことも分かる。(Credit: 馬場淳一)
さらに、棒状構造となる前に存在した星は、棒状構造との重力相互作用による“軌道共鳴”によって銀河円盤の鉛直方向に散乱され、棒状構造がピーナッツ型に立体化することが示されました。
軌道共鳴とは、銀河系の中を周回運動する星が棒状構造と周期的に会合することにより、棒状構造からの重力を同じように受けて、軌道が大きく変化する(または、特定の軌道状態に捕捉される)現象。
これまでの研究では、このようなピーナッツ型化する現象は、星々の運動の速度差が大きいことによって生じる不安定性によって棒状構造が鉛直方向に振動し、“へ”の字型に“たわむ”ことによって生じると考えられてきました。

でも、今回の研究では、棒状構造がたわむのではなく、棒状構造形成による星の軌道共鳴現象によって引き起こされることを指摘しています。
スーパーコンピュータ“アテルイⅡ”のシミュレーションによって描き出された天の川銀河の棒状構造の進化の様子。映像中の“1 Gyr”は“10億年”を表す。(Credit: 馬場淳一、中山弘敬、国立天文台4次元デジタル宇宙プロジェクト)

期待される世界初の赤外線位置天文衛星“ジャスミン”による観測

棒状構造形成時に爆発的に星が生まれる領域と星形成活動が不活発な領域ができることで期待されたのは、構造内の異なる領域で全く異なる星の年齢構成を示すことでした。

このような年齢分布の違いを観測的に明らかにすることで、天の川銀河に棒状構造がいつ形成されたのかを推定することができます。
中心核バルジと銀河面から離れた棒状構造の星で期待される年齢構成のシミュレーション結果。中心核バルジでは棒状構造の形成時期より若い星が多く、銀河面から離れた棒状構造の領域では逆に古い星が多いと期待されている。(Credit: 馬場淳一)
中心核バルジと銀河面から離れた棒状構造の星で期待される年齢構成のシミュレーション結果。中心核バルジでは棒状構造の形成時期より若い星が多く、銀河面から離れた棒状構造の領域では逆に古い星が多いと期待されている。(Credit: 馬場淳一)
このためには、地球から観測した星がどの距離にあり、どのような運動をしているのかを知る必要があります。

外側のピーナッツ型領域は、“ガイア”によりある程度観測することが可能です。

でも、“中心核バルジ”の領域は星間物質によって可視光線が強く吸収されるので、“ガイア”の可視光帯観測では星の運動を確定できないんですねー
そこで期待されているのが、世界初の赤外線位置天文衛星“ジャスミン”による観測でした。
“JASMINE(ジャスミン)”は、JAXA宇宙科学研究所と国立天文台JASMINEプロジェクトを中心として計画されている世界初の赤外線位置天文衛星。
特に中心核ディスクを含む天の川銀河の中心周辺約2.5平方度の天域の位置天文観測と、ハビタブル系外惑星探査のための高精度測光観測を行う。
2019年にJAXA宇宙科学研究所“公募型小型衛星3号機”に選定され、2028年の打ち上げを目指して急ピッチで準備が進められている。
今回のシミュレーション結果に基づくと、天の川銀河の棒状構造の星の年齢分布から、棒状構造ができた時期を推定できる可能性が出てきました。

私たちの住む太陽系の軌道変化にも影響を与えている可能性がある棒状構造。
この研究がきっかけになって、棒状構造のできた時期やその後の時間変化の様子を明らかにできればいいですね。


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宇宙が誕生した頃の軽い元素が多く存在した環境では、どのように星が誕生するのか?

2022年09月13日 | 銀河・銀河団
宇宙が誕生した頃は、恒星の中で長時間かけて起こる元素合成が進んでいませんでした。
なので、重元素が少なく、軽い元素が多く存在していたんですねー

このように軽い元素が多く存在する環境は、現在の宇宙と大きく異なるので、どのように星が誕生するかは明確には分かっていませんでした。

そこで今回の研究で目指したのは、重元素が少ない環境で幼年期の星“原始星”を見つけ出すこと。
アルマ望遠鏡による観測で、太陽系よりも重元素が少なく、約100億年前の宇宙の環境を残した場所から星の産声を検出することに成功しています。

この発見により、宇宙の進化の歴史において星が誕生するメカニズムが共通しているということが分かってきたようです。

宇宙が誕生して間もない重元素が少ない環境

ヘリウムよりも重い元素のことを天文学では“重元素”と呼びます。
天文学では水素とヘリウムよりも重い元素のことを重元素と呼ぶ。太陽およびその周辺を基準とし、最も多い元素である水素に対して重元素がどれくらい含まれているかを表す。
宇宙が誕生した頃は、恒星の中で長時間かけて起こる元素合成が、現在よりも進んでいませんでした。

なので、重元素量が少ない環境を調べることは、宇宙が誕生して間もない頃を調べることに相当します。

このような場所では、星が誕生する条件(主に、星の卵となる分子雲コアの温度や密度の状態)が大きく異なっています。

現在よりも活発に星を誕生させている銀河が多いので、星の誕生メカニズムが現在と異なっているか、もしくは共通しているかを調べることは宇宙の歴史紐解く上で重要な課題でした。

地球から約19万光年の距離に位置する銀河

でも、重元素が少ない場所は100億光年ほど彼方に存在することが多く、現在の観測技術をもってしても星の産声を直接聞くことは不可能でした。

ただ、私たちが住む天の川銀河も属する局所銀河群の銀河の中には、重元素量が太陽系の1/5と最も低い環境にある小マゼラン雲があるんですねー
小マゼラン雲は、地球から約19万光年の距離に位置する銀河。私たちの天の川銀河も含まれている局所銀河群の中では、分子ガスが観測できてかつ原始星(幼年期の星)が詳しく観測できるものの中では、天の川銀河の1/5程度と最も重元素量が少ない環境にある。
小マゼラン雲は、太陽系から19万光年と比較的近い距離にあるので、宇宙の昔の状態を色濃く残した場所での星の誕生を調べるのに絶好な場所といえます。

星誕生の目印“双極分子流”

今回の研究では、小マゼラン雲に存在する大質量星の原始星をアルマ望遠鏡で観測。
小マゼラン雲内で、星の誕生の産声とも呼べる双極分子流を初めて検出しています。
双極分子流とは、原始星からほぼ反対向き(南極方向と北極方向)に放出される分子ガスの高速な流れで、星の産声に例えられる。これにより分子コアが持っている回転の勢いを捨て去ることで星に成長する。太陽系の周辺数万光年以内や大マゼラン雲の原始星では普遍的に観測されてきたが、今回最も重元素の少ない銀河で検出できたことが、この研究のポイントになる。
双極分子流自体は、これまでの天の川銀河を初めとする原始星の観測で“星誕生の目印”として普遍的に見られていた現象です。

ただ、小マゼラン雲においては、分子ガスを観測するために一般的に用いられている一酸化炭素からの電波が非常に微弱なんですねー
このため、この産声を検出するのは、局所銀河群の他の銀河よりも困難を極めていました。

そこで、今回は温度や密度が高い場所でより強い電波が期待される輝線を選択。
これにより、“Y246”という原始星からの双極分子流を初めて検出することが出来ました。
(左)ヨーロッパ宇宙機関の赤外線天文衛星“ハーシェル”が遠赤外線で観測した小マゼラン雲と(右)原始星“Y246”からの双極分子流。シアンおよび赤色で示した部分が、それぞれ地球に近づく方向および遠ざかる方向に時速54000キロ以上の速さで運動している。十字マークが示しているのは原始星の位置。(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), Tokuda et al. ESA/Herschel)
(左)ヨーロッパ宇宙機関の赤外線天文衛星“ハーシェル”が遠赤外線で観測した小マゼラン雲と(右)原始星“Y246”からの双極分子流。シアンおよび赤色で示した部分が、それぞれ地球に近づく方向および遠ざかる方向に時速54000キロ以上の速さで運動している。十字マークが示しているのは原始星の位置。(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), Tokuda et al. ESA/Herschel)

天の川銀河と同様の現象を観測

この分子流の性質について詳しく調べてみると、ガスの運動の勢いなどが天の川銀河で見られていたものと共通していることが突き止められたんですねー

天の川銀河を初めとする現在の宇宙の原始星は、分子雲コアと呼ばれる星の卵から誕生します。
宇宙空間には星の材料となる水素原子や水素分子を主成分としたガスが漂っている。その中でも特に水素分子が豊富に存在する場所が分子雲。さらに濃くなった場所は分子雲コアと呼ばれていて、いわゆる星の卵に相当する。分子雲コアがさらに収縮することによって、太陽のような恒星や、それよりもさらに重い星(大質量星)その連星が誕生する。
そして、分子流を通して余分な回転の勢いを捨てることにより、収縮して大人の星へ成長していきます。

この天の川銀河と同様の現象を、今回の観測により小マゼラン雲で初めて検出することができたというわけです。

100億光年という遥か彼方に存在する重元素が少ない場所では、現在の観測技術では星の産声を直接聞くことは不可能でした。

なので、これまではアルマ望遠鏡を用いて、大マゼラン雲(地球から16万光年の距離)など、現在の太陽系や天の川銀河とは異なる環境での星の誕生に関しての研究が続けられていました。

今回は小マゼラン雲という、現在の観測技術を用いて幼少期の星“原始星”に手が届く範囲では最も重元素量の低い銀河で、星の産声をとらえることができたときは、まさにパズルのピースを埋めたときのような達成感があったそうです。

100億年前から現在に至るまで、星や惑星系の形成メカニズムは同じだった

双極分子流の発生源は、原始星周辺の円盤“原始惑星系円盤”であると考えられています。
この“原始惑星系円盤”の中で太陽系は形成されました。

今回の小マゼラン雲における初めての双極分子流の発見は、何を示しているのでしょうか?

それは、宇宙の歴史の中で重元素が少ない100億年前から現在に至るまで、星や惑星系の形成メカニズムが同様であることです。

また、今回の研究成果は、このような重元素量が少ない環境での原始星アウトフローの検出手法に、大きな指針を与えたという意味でも重要なことと言えます。

今後、予定されているのは、小マゼラン雲において数10個以上確認されている同種の原始星に対して、網羅的な観測を行うことです。

これにより、双極分子流の発生が全ての環境に通じる性質であることを検証していくそうです。

さらに、アルマ望遠鏡はさらなる解像度を達成することを期待できるので、実際に原始星の周辺に円盤が形成されているかどうかも検証できる可能性があります。

重元素が少ない環境のコンピュータシミュレーションにより、星々の誕生を描き出す理論的な計算の進展も期待されますね。


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千屋牛ラーメンとホルモン焼きうどんを食べてきた😋青春18きっぷを使って新見と津山へ

2022年09月09日 | バイク・旅・ツーリング
和牛のルーツ“千屋牛”を使ったラーメンとB級グルメ“ホルモン焼きうどん”を食べに、岡山県の新見と津山に行ってきました。

乗り継ぎの関係で津山をスルーした前回の旅とは違い、今回の移動距離(時間)は少し短め。
その分、新見と津山での滞在時間を多く取っているんですねー

ルートは、大阪から山陽本線で岡山へ。
岡山からは伯備線で新見へ行き、お昼を食べた後に姫新線を使って津山へ。
その後は津山線で岡山へ戻って大阪まで帰ってきました。

ゲリラ豪雨に遭遇した津山では、岡山行きの列車が運転を見合わせになったけど😅ハプニングも楽しめた良い旅でした。
タイトル

思っていたより簡単! 大阪からは乗り換え1回で岡山の新見へ行けた

ちょっとビックリしたのは、岡山県の新見まで乗り換えが1回で行けたこと。
大阪6:00発の網干行きの快速に乗って、姫路7:31発の新見行きに乗り換えると、終点の新見到着は10:49でした。

新見に滞在出来るのは2時間ほど。
前に来たときには備中そばを食べたので、今回の昼食は和牛のルーツ“千屋牛”です。

まずは駅を出て、短い商店街を抜けて高梁川を渡って行きます。
この日は雨予報だったけど、天気が良すぎて日差しが眩しいくらい、昼以降に雨降るのかな? っと思うくらいでした。

国道180号に出ると右折、少し歩いてからまた右折すれば到着。
新見商工会議所の1階に入っている“焼肉・ステーキ🥩牛弘さん”が目的のお店です。

このお店を選んだのは、ランチメニューに“千屋牛丼”があったから。
「ご当地のブランド牛を使った丼を食べ歩くのが好き」っというのが理由なんですねー
でも、今回はビジュアルに負けて“炙り千屋牛ラーメン”にしちゃいました😅

このラーメンのスープは、千屋牛の牛筋、牛骨、昆布、鰹、煮干で取った出汁に醤油を足したもの。
このあっさりとした味に炙った千屋牛がアクセントになって旨い🍴😆✨
胡麻コショウをかけて締まった味も楽しめました☺️
新見
お昼を食べた後は、町を散策しながら駅の反対側にある新見美術館へ。
天気が良かったので山手にある新見美術館へ行くまでに汗かいちゃいました。

いま、新見美術館で開催されているのは、“紙の魔術師 太田隆司ペーパーアート展”。
このペーパーアート展では、日本や海外の情景を紙を使って再現しています。

紙を微妙に重ねて立体的に表現された世界がいくつも展示されていて、その世界ひとつひとつにストーリーが隠されているんですねー

見ていると、その世界に引き込まれていく感じ、ついつい見入ってしまいました。
旅先で美術館もありですね。

旧津山扇形機関車庫と津山ホルモン焼きうどん

新見を出発するときに良かった天気も、津山に近づくにつれ雲行きが怪しくなってきて、窓に雨粒がポツリポツリ…
津山駅に着いた時にはパラパラと降っている状態。
まだ大丈夫だと思うけど、急いで“津山まなびの鉄道館”へ行って扇形機関車庫を見学です。

ここの扇形機関車庫は、昭和初期から中期まで蒸気機関車の基地として使われてきたものです。
国内で二番目に大きい扇形機関車庫で、いま展示してあるのは古い特急や除雪車、ディーゼルカーなど。
見覚えがある車両や初めて見る車両、近くで見ると迫力があります。
津山まなびの鉄道館
ゆっくり見学したいけど、時折降る激しい雨と風が気になって気になって…
機関車庫は一通り見学できたので、雨が小降りになったタイミングで駅に戻ることにしました。

ただ、ホルモン焼きうどんはどうしても食べたかったので駅近を検索。
“陣笠”というお店を見つけたので立ち寄ることにしました。

でもね、歩いて行くうちに雨と風が激しくなっていくんですよー
雷はゴロゴロ ドカーンだし、お店に着いた時にはズボンはびちょびちょでした〇

外が大変なことになっているのに、店内は大将と先客1名が高校野球を見ながら昼飲み○まったりとした雰囲気を壊すかのように入店して、ホルモン焼きうどんを注文してやりました〇

うどんは普通のものかな、野菜とホルモンの食感が楽しめ、一味や七味が欲しくなってくる。
タレはビールに合う濃い目の味付けで、大きなホルモンに甘味があって旨かった。

食べているうちに小雨になってくれないかなぁ〜 っという淡い期待は打ち砕かれ、お外は相変わらず荒れ狂っています。
ホルモン焼きうどん
お勘定を済ませ覚悟を決めて駅まで戻ると、もう岡山行きの列車は到着してる。
けど、何かおかしい… 車両の横で話す車掌さんと駅員さん、それに何か放送が聞こえてくる。
この雨のため運転見合わせるというアナウンスでした。

運転再開の目途が立たないので車内で待機です。
まぁ~ こんなハプニングも楽しめたりするのが、気ままな青春18きっぷの旅。
20分ほど待っていると、岡山方面からの列車が到着してから運転は再開。

初めは徐行運転を続けていた列車も通常運転に戻り、40分遅れで無事岡山に着きました😊

その後は姫路で新快速に乗り継ぎ、20:28大阪到着で旅は無事に終了。
そして、青春18きっぷの旅も今回が最後、この夏は楽しめました。


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