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過去の地球の公転軌道を予測することは想像以上に困難! 恒星の接近を考慮したモデルの検証で分かったこと

2024年03月30日 | 太陽系・小惑星
地球の公転軌道は、長い時間の中で少しずつ変化することが知られています。
過去に起きた極端な気候変動は、この公転軌道の変化が原因となっているのかもしれません。

でも、公転軌道の変化を数学的に解析することは困難なんですねー
これまの研究でも、過去の公転軌道を正確に予測できるのは、5000万~1億年前までが限界だと考えられてきました。

今回の研究では、正確な軌道予測を行うため、太陽系の近くを恒星が通過したことで、巨大惑星の軌道が乱される影響を考慮しています。
その結果、5000万年より短い期間であっても、正確な軌道予測が困難なことを突き止めています。

恒星が通過することは、これまでの計算ではあまり考慮されていなかったことでした。
この研究により、地球の公転軌道を正確に予測できる期間は、さらに約10%ほど短くなるようです。
この研究は、オクラホマ大学のNathan A. Kaibさんとボルドー大学のSean N. Raymondさんの研究チームが進めています。
図1.恒星“HD 7977”の接近を考慮した地球の公転軌道の変化の計算結果。1点1点が、特定の時点での公転軌道の性質(軌道離心率と近日点引数)の数に基づいてプロットされている。それだけ推定に幅があることを示している。(Credit: N. Kaib / PSI)
図1.恒星“HD 7977”の接近を考慮した地球の公転軌道の変化の計算結果。1点1点が、特定の時点での公転軌道の性質(軌道離心率と近日点引数)の数に基づいてプロットされている。それだけ推定に幅があることを示している。(Credit: N. Kaib / PSI)


惑星の公転軌道の変化

2024年は閏(うるう)年なので、前後の年と比べると1年の長さが1日だけ違います。
ただ、これは地球の公転軌道が変化したわけではなく、地球の1年には約365.242日と端数があるので、その調整のために設けられた日数です。

実際、地球やその他の惑星の公転軌道は安定しています。
このため、公転の周期や軌道の形、およびそれらの変化率など、といった公転に関する数値は、短期的にはほぼ固定の値と見なしても問題はありません。

でも、数千万年以上という長い時間スケールになると、そういう訳にもいきません。

太陽とすべての惑星は、お互いに重力で引っ張り合っているので、公転軌道の性質はごくわずかながら変化していきます。
短期的には無視できるほどの小さな変化も、数千万年以上という長い時間スケールとなれば、大きな変動として顕在化することになります。

このような惑星の公転軌道の変化のように、初期条件のごくわずかな違いが、最終的に予測できないほど大きな結果の違いをもたらす数学の分野を“カオス力学”と呼びます。


地球の気候の変化

カオス力学が適用される非常に身近な例に天気予報があります。
明日の天気はほぼ正確に予測できても、1週間後の天気予報は大きく外れてしまう。
これは、気象現象がカオス力学の典型的なケースだからです。

惑星の公転軌道も本質的にカオス力学になるので、はるかに遠い昔や未来の公転軌道を予測することは本質的に不可能です。

効率の良い計算方法の開発やコンピューターの計算能力の向上によって、予測できる範囲はどんどん広くはなっています。
それでも、過去の地球の公転軌道を正確に計算できるのは、これまで約5000万~1億年前までが限界だとされてきました。

このような公転軌道の変化で特に関心がもたれるのは、どの程度のきつい楕円形になるかです(軌道離心率の変化)。
これは、公転軌道がより楕円形になれば、太陽に対して最も近づく時と最も遠ざかるときの差が大きくなるので、地球の気候を直接変化させる可能性もあるからです。

特に関連性が指摘されているのは、今から約5600万年前に起きた“暁新世~始新世温暖化極大”です。
この頃の地球の平均気温は、現在より5~8度も高く、多くの生物に絶滅または生息域の拡大という影響を与えたと言われています。

暁新世~始新世温暖化極大が起こった理由は、具体的な証拠が見つかっていないので不明です。
ただ、地球の公転軌道の変化は証拠が残りにくいので、逆説的に有力な候補になっています。


太陽の近くを通過する別の恒星の存在

今回の研究では、惑星の公転軌道の変化に関する計算に、重要な前提が欠けていることを指摘しています。

公転軌道の変化に関する多くの計算では、太陽系内の天体の動きのみを考慮していて、周りには何もないことを前提としています。
これは、前提条件を簡単にすることで、コンピューターの計算時間を短くするための工夫でした。

ただ、実際の太陽系は孤立しておらず、天の川銀河の中を周回しているんですねー
ただ、このことを考慮すると計算があまりにも複雑になってしまうので、これまであまりタッチできない領域となっていました。

天の川銀河に属する個々の恒星は、銀河の中をほぼ同じような向きと速度で運動していますが、実際にはわずかな違いがあります。

このため、太陽の近くを別の恒星が通過することがあります。
その距離は、100万年ごとに約0.8光年(5万au/7兆5000億キロ)以内、2000万年ごとに約0.2光年(1万au/1兆5000億キロ)以内と言われています。

恒星がここまで接近すると、太陽系の外側を公転する4つの巨大惑星(木星・土星・天王星・海王星)の軌道を、ごくわずかながら変化させると考えられています。
例えば、海王星の公転軌道の現在の形は、その約3分の1が、過去数十億年の間に接近したいくつもの恒星の影響だと考えられています。

巨大惑星はそれだけ重力が強いので、巨大惑星の公転軌道が乱されれば、内側を公転する地球などの公転軌道を乱すことに繋がることになります。


惑星軌道の予測モデルに恒星の存在は必須

本研究では、惑星の公転軌道の予測モデルに恒星の通過を加えたシミュレーションを行っています。
使用したモデルでは、100万年当たり18個の恒星が1パーセクト(約3.3光年)以内を通過すると仮定していました。

その結果、恒星の通過による巨大惑星の公転軌道の変化、それによって起こる地球の公転軌道の変化は、かなり大きいことが分かりました。

特に注目されたのは“HD 7977”という恒星の接近でした。
太陽とほぼ同じ質量を持つ“HD 7977”は、約280万年前に太陽に接近したと考えられています。

ただ、接近距離の推定には幅があり、最も近い場合では約0.06光年(4000au/6000億キロ)、最も遠い場合では約0.5光年(3万1000au/4兆5000億キロ)と推定されています。
図2.恒星“HD 7977”の接近を考慮したモデル(左側)と考慮しないモデル(右側)での計算結果の比較。恒星の通過を考慮したモデルでは、考慮しないモデルと比べて、予測される地球軌道に大きな幅があることを示している。(Credit: N. Kaib / PSI)
図2.恒星“HD 7977”の接近を考慮したモデル(左側)と考慮しないモデル(右側)での計算結果の比較。恒星の通過を考慮したモデルでは、考慮しないモデルと比べて、予測される地球軌道に大きな幅があることを示している。(Credit: N. Kaib / PSI)
研究チームでは、“HD 7977”の接近距離について、様々な過程を考慮してシミュレーションを実施。
すると、接近距離が比較的近い場合、地球の公転軌道の変化が早い段階で予測が困難になることが分かりました。

接近距離の推定に幅があることも考慮して総合的に考えると、地球の公転軌道について精度の高い推定が可能な期間は最大で約10%短くなると研究チームは考えています。

約5600万年前の暁新世~始新世温暖化極大は、5000万年前までは地球の公転軌道が正確に予測できるという前提の下、公転軌道の変化が原因だという説が提唱されました。

でも、今回の研究で示されたように、正確に予測可能な範囲が1割も短くなってしまうと、前提の一部が成立しないことになります。
これまでの説を否定するほどの重大な問題ではないものの、これは留意すべき結果と言えます。

今回の研究が示しているのは、これまでのモデルで省かれてきた恒星の影響を盛り込むことの重要性でした。

計算の困難さや、時間がかかり過ぎる問題は、技術革新によって徐々に改善されています。
恒星の接近距離の不確実さも、より正確な観測によって縮まるはずです。
今後の惑星軌道の予測モデルでは、恒星の存在は必須となるかもしれません。


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1 コメント

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Unknown (blogtaiji)
2024-03-31 00:00:02
初期は、公転速度が速く、太陽との距離が近かったらしいですね。引力そのものが、いまだにはたらく原理が解明されていないらしいです。

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