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なぜ超新星“SN2018ivc”は2度発光したのか? 超新星の電波再増光が示す連星の進化

2023年04月07日 | 宇宙 space
今回の研究では、アルマ望遠鏡で超新星“SN2018ivc”の長期モニタリング観測を実施し、超新星からの電波発光が弱まった後、約1年経過後からミリ波帯で再増光したことを発見しています。

さらに、理論モデルと比較することで、この大質量星が爆発前の一生の末期に連星相互作用の影響を受け、星の表面のガスを周囲にまき散らした末に終焉を迎えたことが分かりました。

このような電波再増光を示す超新星の発見は、大質量星進化における連星進化の役割を体系的に理解するうえで、重要な成果になるようです。
 今回の研究を進めているのは、京都大学大学院理学研究科の前田啓一教授(研究当時は同准教授)・大阪大学大学院理学研究科特任研究員(ALMA共同科学研究事業特任研究員)の道山知成さんをはじめとする国際研究チームです。
天文学者が想像する大質量星の終焉の様子。(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), K. Maeda et al.)

大質量星はどのように終焉に向かうのか?

図1.超新星“SN2018ivc”お爆発後、一度減光した後の電波再増光のイメージ図。この星が爆発前の一生の末期に連星相互作用の影響で星の表面のガスを周囲に撒き散らし、爆発で飛び散った星の残骸がそれに衝突することで時間差で電波放射が強くなったと考えられる。(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), K. Maeda et al.)
図1.超新星“SN2018ivc”お爆発後、一度減光した後の電波再増光のイメージ図。この星が爆発前の一生の末期に連星相互作用の影響で星の表面のガスを周囲に撒き散らし、爆発で飛び散った星の残骸がそれに衝突することで時間差で電波放射が強くなったと考えられる。(Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), K. Maeda et al.)
太陽の約8倍以上の質量を持つ恒星“大質量星”は、その一生の最期を迎えると“超新星爆発”と呼ばれる爆発を起こすとされています。

それでは、大質量星は一生の末期に、どのようにこの終焉に向かうのでしょうか?
このことは、現在の宇宙物理学の大きな謎の一つになっています。

多くの大質量星は連星を成しています。
なので、相手の星(伴星)からどのような影響を受けるかが、終焉の迎え方を決めるポイントになるんですねー

伴星の重力の影響を受けて、大質量星の表面のガス(星周ガス)が剝ぎ取られ、連星系の外にまき散らされる場合が考えられます。

ただ、連星相互作用は短期間に発生するので、直接的に現場を観測することは非常に困難です。

そこで、研究チームが着目したのは超新星からの電波観測でした。

爆発により飛び散った星の残骸は、光速の10%にも達する速度で周囲に膨張します。

これが、終焉前の一生の末期において連星相互作用によりまき散らされた星周ガスと衝突することで電波を放射(シンクロトロン放射)。
この電波の放射強度やその時間変化から逆算することで、星周ガスの性質を特定し、そのガスを放出した恒星進化過程を調査することができるわけです。

超新星の再増光

今回の研究では、近傍渦巻銀河“M77”で見つかった超新星“SN2018ivc”が出す電波を、アルマ望遠鏡を用いて数年にわたって観測しています。

超新星によるミリ波の放射は、爆発から200日後には弱まっていました。
でも、爆発から約1年後以降に“再増光”するという珍しい観測結果を得ることに成功しています。

センチ波における超新星の再増光は、これまでに何例か観測されていました。

ただ、センチ波におけるシンクロトロン放射は、放射されても大部分がすぐに衝撃波や星周ガスに吸収されてしまいます。
なので、放射された量を正確に知ることが困難でした。

今回、アルマ望遠鏡を用いた観測により、星周物質の正確な情報を伝えるミリ波帯における超新星の再増光を、世界で初めてとらえることに成功しています。
図2.超新星爆発直後にハッブル宇宙望遠鏡によって撮像された“M77”の可視光画像(左図)、超新星“SN2018ivc”の位置が示してある。アルマ望遠鏡による超新星“SN2018ivc”の爆発から約200日後の画像(右上)と約1000日後の画像(右下)は、超新星“SN2018ivc”の周囲を拡大したもの。約300~500日後の時点で始まったと考えられれ、明確な再増光が確認できる。(Credit: (左)Based on observations made with the NASA/ESA Hubble Space Telescope, and obtained from the Hubble Legacy Archive, which is a collaboration between the Space Telescope Science Institute (STScI/NASA), the Space Telescope European Coordinating Facility (ST-ECF/ESA) and the Canadian Astronomy Data Centre (CADC/NRC/CSA). (右)ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), K. Maeda et al.)
図2.超新星爆発直後にハッブル宇宙望遠鏡によって撮像された“M77”の可視光画像(左図)、超新星“SN2018ivc”の位置が示してある。アルマ望遠鏡による超新星“SN2018ivc”の爆発から約200日後の画像(右上)と約1000日後の画像(右下)は、超新星“SN2018ivc”の周囲を拡大したもの。約300~500日後の時点で始まったと考えられれ、明確な再増光が確認できる。(Credit: (左)Based on observations made with the NASA/ESA Hubble Space Telescope, and obtained from the Hubble Legacy Archive, which is a collaboration between the Space Telescope Science Institute (STScI/NASA), the Space Telescope European Coordinating Facility (ST-ECF/ESA) and the Canadian Astronomy Data Centre (CADC/NRC/CSA). (右)ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), K. Maeda et al.)
爆発後200日では、衝撃波はまだこの濃いガスに到達していません。
その後に衝撃波が到達し、約1年後以降に再増光が観測されたと考えられています。

この増光の強度とその時間変化を理論による予測と比較することで、超新星爆発の位置から0.1光年ほどの距離に、爆発前のこの星からばらまかれた濃いガスが分布していると推測されています。

さらに、このようなガスの分布は、超新星爆発の約1500年前に連星相互作用により星周ガスが剥ぎ取られた場合に、実現すると推測されています。

大質量星の一生について、連星系を成さない場合や、連星の軌道半径が長い場合。
生涯、連星相互作用の影響を受けない“単独星進化”の経路を辿ることになります。

軌道半径が短い場合には、爆発のずっと前に連星相互作用を起こして、進化最終期には静かな状態で超新星爆発を起こす“連星進化”の経路を辿ると考えられています。

その中間の場合については、これまで観測的証拠が見つかっていませんでした。
なので、大質量星の一生についての体系的な理解が欠けた部分がミッシングリンクになってたんですねー
それが今回の研究で、この部分を埋める非常に重要な成果を得ることができたわけです。

アルマ望遠鏡の柔軟な運用体制

アルマ望遠鏡では、突発天体現象の出現を受けて、予定されていた観測スケジュールに割り込んで観測を行う体制“ToO観測”があります。
今回の研究成果は、このアルマ望遠鏡の柔軟な運用体制により、時間軸天文学を実現した点も重要なことになります。

研究チームは、まず超新星爆発のToO観測を行い、その後に母銀河“M77”のアルマ望遠鏡アーカイブデータを用いて、長期モニタリングを実現し、ミリ波増光の傾向をとらえています。

モデル計算には、さらに詳細な観測が必要になるので、通常の観測提案スケジュール以外に、即時性を求められる観測などを随時観測提案が可能な枠で観測しています。

宇宙には、重力波を放出する連星中性子合体、恒星同士の合体現象、新星爆発や恒星の表面爆発など、超新星以外にも様々な突発的爆発現象が存在しています。

今回の成果は、アルマ望遠鏡がこうした突発現象観測において、ユニークな地位を占めることを示したものといえます。
今後のアルマ望遠鏡の突発天体現象観測による成果が期待されます。


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