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『百円の恋』

2015年01月16日 | 映画(は行)
『百円の恋』
監督:武正晴
出演:安藤サクラ,新井浩文,稲川実代子,早織,宇野祥平,坂田聡,
   沖田裕樹,吉村界人,松浦慎一郎,伊藤洋三郎,重松収,根岸季衣他

前述の『あと1センチの恋』とハシゴ、同じくシネ・リーブル梅田にて。
同じ「恋」でもあっちは凡庸、こっちのイタイほうが私は断然好き。

松田優作の出身地である山口県で開催された周南映画祭で、
2012年に新設された脚本賞「松田優作賞」第1回グランプリ受賞した足立紳の脚本を、
『モンゴル野球青春記 バクシャー』(2013)や『イン・ザ・ヒーロー』(2014)の武正晴監督が映画化。
オーディションに普通に応募して主演を勝ち取ったという安藤サクラ
共演の新井浩文はかねてから彼女のことを「現役の映画女優でトップ」と評していますが、
ホントにそうだと思います。いやはや、参りました。

一子(安藤サクラ)は弁当屋を営む実家に引きこもり、自堕落な毎日を送る32歳。
1週間前に妹の二三子(早織)が息子を連れて出戻り。
家の手伝いもせず金も入れず、息子とゲームばかりしている一子に二三子が業を煮やし、
姉妹は殴る蹴る物を壊すの取っ組み合いの喧嘩に。
殺し合わないうちにふたりとも出て行ってくれと母親(稲川実代子)から言われ、
一子は「私が出て行く」と家を飛び出す。

安いアパートに入居、就職先として思いつくのは行きつけの100円ショップだけ。
かねてから面識のある店員(宇野祥平)が意外とあっさり採用を通知、
一子は時給高めの深夜バイトにありつく。
通り道沿いの青木ボクシングジムで練習に励む狩野(新井浩文)と目が合うこと数回。
そのうち彼も100円ショップの常連であることを知る。

ある日、狩野からデートに誘われ、勝負パンツを手に入れる一子。
しかしまったく盛り上がらないままサヨウナラ。
狩野の試合をしつこくやかましい従業員(坂田聡)と観戦し、頭の中で何かが閃く。
泥酔して雨のなか倒れていた狩野を看病したのをきっかけに、
ふたりは同棲を始めるが、一子が一生懸命になった途端に捨てられる。

一子はもう狩野の姿はない青木ボクシングジムに入会すると、
無心でボクシングに打ち込み始めるのだが……。

ずたぼろになった主人公がどん底から這い上がる話は珍しくはありません。
これだって凡庸といや凡庸なのでしょうけれども、
そうならないのは人間の描き方が非常に面白いから。
100円ショップの店員はみんなワケありで仕事が長続きしない奴ばかり。
実際にいないけどいるかもしれない妙な奴が、今の社会を表すかのよう。
あまり感情を露出させない一子がかいま見せる表情や仕草、台詞が楽しく、
それに対する狩野のツッコミに笑わされ、泣かされます。

劇場内が笑いの渦に巻き込まれたシーンもいくつか。
狩野が用意した肉を一子が食べるシーンでは、なかなか噛み切れない様子に、
ある客が「どんな肉やねん」とツッコミ。それでまた大笑い。

一子がリングで戦う姿は、涙なしでは見られません。
冒頭のたるんだお尻を思い出せば、この美しく引き締まった体にも感嘆。
イマイチだった『あと1センチの恋』も父親の台詞だけはよかったですが、
こちらの伊藤洋三郎演じる父親も泣かせてくれます。
彼に見せる一子の笑顔にまたホロリと涙。

正月明けからこんな良い映画を観てしまったら、あとが心配です。
だけど、良い1年になりそうな。
エンディングのクリープハイプの曲のタイトルが『百八円の恋』というのもオツ。

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