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『そこのみにて光輝く』

2014年05月14日 | 映画(さ行)
『そこのみにて光輝く』
監督:呉美保
出演:綾野剛,池脇千鶴,菅田将暉,高橋和也,火野正平,伊佐山ひろ子,田村泰二郎他

テアトル梅田にて、『ワレサ 連帯の男』とハシゴ。満席でした。

北海道函館市出身の作家、佐藤泰志。
1949年に生まれ、まだ高校生のときにとある文芸賞を受賞。
大学卒業後には数々の有名な文学賞の候補に何度も挙げられながら、受賞には至らず。
受賞できなかったのは、審査員のやっかみもあったと噂されています。
1990年に首つり自殺。死後20年近く経って注目されたという人。

にわかに脚光を浴びるきっかけとなったのは、熊切和嘉監督による『海炭市叙景』(2010)。
その予告編があまりに暗くて躊躇していたら観る機会なく、
呉美保監督による映画化の本作は絶対に観なくちゃと思っていました。

北海道の短い夏。
ある出来事から立ち直れずに仕事を辞めてしまった男、達夫(綾野剛)。
以前の雇い主、松本(火野正平)がしばしば仕事に戻れと言いにくるが、
達夫はアパートとパチンコ屋の往復で、無為な毎日を過ごしている。

そんな達夫がパチンコ屋でチンピラ風の青年、拓児(菅田将暉)と出会う。
前科者らしいが気のいい奴で、初対面の達夫にメシ食いに自宅へ来いと誘う。
海辺のバラック小屋に、拓児は母親(伊佐山ひろ子)と寝たきりの父親(田村泰二郎)、
それに拓児の姉の千夏(池脇千鶴)とともに暮らす。
千夏を一目見るなり、なぜか特別な想いを抱く達夫。

千夏はといえば、妻子ある植木屋の社長、中島(高橋和也)と長年の不倫関係。
腐れ縁を切りたいが、保護観察処分中の拓児に仕事を世話してもらっている手前、
関係の続行を迫る中島に強く言えないでいるのだ。

家族を養うため、夜は場末のスナックで体を売る千夏。
たまたまそうとは知らずに達夫が訪れて……。

これも暗そうだなぁと、凹むことを想定して観に行ったのですが、
満席も納得、とてもとても良い作品でした。

『ジョゼと虎と魚たち』(2003)を観たときは痛々しさも感じた池脇千鶴。
本作もそうであっても不思議はないのに、力強さのほうを感じます。
『男子高校生の日常』(2013)の詰め襟姿がイマイチだった菅田将暉は、
こんな見た目軽そうな役のほうがよく似合うし、非常に上手い。
2人とも悲惨な状況をどうにもならないとあきらめつつ、後ろを向いているわけじゃない。
ひたすら家族を守ろうとしています。

達夫が拓児を何度も叩くシーン。
これほど愛情を感じる叩きかたがあるものなのかと、涙じわり。

卑劣な中島だけど、不倫なんて精算して家族を守るべきだと達也から言われて、
彼が口にする台詞がいちばん印象に残っています。
「家族を守ろうとするからこそ、おかしくなるんだ」。

ラストの光が温かい作品です。
そこのみにてであっても、輝ける場所があれば。

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