新宿少数民族の声

国際ビジネスに長年携わった経験を活かして世相を論じる。

続X3 America Inside

2023-07-12 08:26:02 | コラム
異文化の国なのだ:

Joke of the day:
1988年の9月だった。ある本部の1週間の勉強会(Education sessionとなっていた)に参加したことがあった。月曜から金曜まで朝8時から午後5時まで1時間のlunch breakを挟んでビッシリと講義と質疑応答が入るものだった。午前と午後に1度ずつのCoffee breakも入る。この他にも厳密な決め事があってかなり束縛されたが、我が国の勉強会と大きく違っていた点があったので紹介しよう。

それは講師が非常に真面目な講義をしているにも拘わらず、突然話を止めて受講者を恣意的に指名して「何かjokeを言え」と要求するのだ。内容は笑い話である。勿論、事前に通告などないのだそうだ。そこで即席で手短に一席語るのだが、その内容次第で「No good!」と判定されると、1ドルの罰金を司会者に渡すのだ。これが何時指名されるのは全く解らないのが、ある意味で恐怖だった。また、悲しいかな、私の英語力ではどれが合格で、どれが駄目かは全く判断できない内容だった。

中には全員が抱腹絶倒のような面白い事が語られると、逆に全員から1ドル貰える仕組みになっていた。何れにせよ、非常に真面目な講義が続いているので、緊張感と集中力の維持が難しくなってくるのだ。そこに講師が頃合いを推し量ったかのように、突如として誰かを指名して笑い話になって行くのだった。結果として緊張感から解放されるので、終わった後には集中力が戻ってくるという寸法なのだ。そして1日の講義が終わると、“joke of the day”が選ばれる仕組み。

私は何時指名が来るかと戦々恐々となっていた。そういう経験がなかったしstoryになっているjokeを語るなどとなどという経験がなかったから。講義を聴きながら考えていたのでは付いていけないし、矢張り突然指名される質問にも答えられなくなる。だが、矢張り指名は来た。何とか冷や汗もので語り終えた。講師の評価は「たいして面白くはなかったが、外国人が一所懸命に語ったのを評価してペナルテイーはなし」だった。

この要点は「彼らは難しい内容の講義の間でも受講者の集中力が途切れないような工夫をしているのであり、決して不謹慎な姿勢ではない」というアメリカ人たち独特のユーモアのセンスを活かしているのだと解釈した。なお、私が何とか工夫して語った笑い話をご所望の方がおられればお知らせ下さい。そっと、お教えします。

Division Meetingの冒頭の挨拶が・・・:
1974年4月にMead Corporationのパルプ部の「部会」=Division Meetingに参加した時のことだった。この部会はフロリダ州の有名な大規模なクラブを借り切って1週間(月曜から金曜まで)開催された。未だアメリカのビジネスの社会に慣れていなかったのから、驚きばかりだった。それは、会議は朝8時から正午までで、午後は各人がクラブ内のあらゆる施設を好きなように使って遊んで過ごすことになっていたこと。

しかも、パルプ部のアメリカ全土と世界の営業所の責任者と、ヨーロッパの全代理店の代表者が参加していても、クラブ内では一切の費用な会社負担だった。このPonte Vedra Inn & Clubには全米オープンだったかのプロの選手権のゴルフ大会が開催された36ホールのゴルフ場他、各種のスポーツができる施設がある。

そして、ownerであるNelson Mead海外担当副社長も参加されて全員が揃った月曜日の朝に、副社長兼事業部長が開会の挨拶を始めた。ところが、その挨拶は一向に会議の趣旨や目的や内容に触れないで、何を言っているのだろうかという事ばかりだったが、何となく興味を惹かれる物語が展開されていた。だが、参加者一同は怪訝な表情で聞いていた。私も筋は追えていたが、何処に話をもっていくのか見当持つかかなった。

だが、終わってみれば、非常に良く練り上げられた上品な猥談に近い冗談話だった。聞き終わった全員は大爆笑だった。ではあっても、不謹慎ではないかなと思っていると、壇上の副社長は「これから1週間皆が元気を出して緊張することなく部会を楽しもうではないか」と締めくくったのだった。いきなり冗談から入って緊張感をほぐそうとしたのが狙いだったかと思って、異文化の世界に来たのだと、少しばかり感じ始めていた。

思うに、我が国で部会を開催した時に、担当の常務なり取締役がいきなり冗談で開会を宣言するだろうか」ということ。彼らは常にユーモアと冗談を忘れないので、日本人から見れば不謹慎だし、悪ふざけの感は拭えなかったことが多く、失礼だと激怒された方がおられたことすらあった。次にその余り宜しくなかった一例を挙げておこう。

はい、では10円:
我が国の印刷加工業界も、食品関連の会社も、消費者も衛生観念が非常に発達しているし、食品容器や包装材料に清潔さを厳しく求めておられる。ところが、アメリカでは加工業者も消費者も「容器でも何でもその機能さえ果たしていれば、日本では欠陥だと決めつけられるような、細かい本質的ではない問題点まで追求しない」という、言うなれば寛容で大まかなところがあるのだ。

その違いが、アメリカ人が何気なく使った冗談に極端に現れたことがあった。それは、乳業会社に納品された何万枚もの牛乳パックの中の1枚の表面に小さな黒い異物のような物が付いていて不衛生で不潔であると苦情が来たと、そのパックを印刷加工した大手印刷会社から苦情が申し入れられた。その異物は細かい説明を省けば「表面にラミネートされているポリエチレンが加工工程で炭化して黒くなったもので、人畜無害」なのだった。

その苦情があった席に折悪しく来日していた本部のマネージャーがいて、「それは残念だったが、何分にもPEが炭化しただけで問題ではない」と説明した。ご注意願いたいことは「アメリカのビジネスの社会には謝罪という風習も文化もない」ということ。謝罪を期待されていた印刷会社さんはその説明には納得されず、追及が続いた。すると、マネージャーは「ところで、そのパックのコストは1枚いくらか」と尋ねた。

「約10円」と答えが来た。すると、彼はおもむろに小銭入れを取り出して10円玉をテーブルの上に置いて「では。はい10円」とやったのだった、勿論軽い冗談のつもりで。ところがお察しの通りで印刷会社の方々は激怒されて、危うく席を蹴って立たれる一歩手前になった。賢明なるマネージャーも流石に事態を理解して改めてお詫びをして「今後とも工場に原紙を生産しラミネート加工する際には厳重に管理するよう戒告する」と言って収めた。

これって、単なる文化の違いだけのことだっただろうか。私には我が国とアメリカの間には何かにつけて、これだけではないお互いに理解していないが為に生じる行き違いが常に生じているような気がするのだが。その異文化間の要らざる衝突を避けるように努力するのが、私のような日本人の社員の勤めであると思ってやってきていた。