玄関に掛けられていたタンカ
(ブータン伝統のチベット仏教の仏画の掛軸)
11月2日、嬉しいお茶事のお招きがありました。
五葉会(七事式の勉強会)のHさまが昨年からリフォームに取り掛かり、その際、茶室をつくられたそうなのです。
いつお招き頂けるかしら?と楽しみに待っておりましたところ、五葉会の皆さまとお招き頂きました。
ご案内によるとお茶事のテーマは「出会い」とか、どんな「出会い」が待っているのでしょうか?
不肖暁庵が正客、Kさま、Fさま、Yさま、詰はWさまです。
その日は台風一過、暑いくらいの日差しで高い秋の空に美しいすじ雲がかかっていました。
二階の一室が待合です。
「日々是好日」(紫野 太玄和尚筆)の色紙が掛けられ、小さな旗を掲げた舟形の煙草盆が置かれています。
あとで伺うと旗はブータンの国旗で、ブータンで出会った方々にお茶のおもてなしをされ、交流していらっしゃる・・・とのことでした。
板木が打たれ、白湯が運ばれてきました。
喉が渇いていたので、たっぷりの白湯が美味しく喉を潤してくれました。
汲み出しは九谷焼、ウン十年前にご主人と金沢へ旅した時の思い出の御品でした。
きっと亡きご主人もリフォームと新しい茶室を喜んで、どこかで応援していることでしょう。
駐車場に設けられた腰掛待合に座ると、煙草盆の火入が目に留まりました。
春慶塗の手付盆に辰砂を思わせる赤みのある楽茶碗の火入が珍しく、皆で賞玩しました。
玄関わきに新しく造られた出入り口からぴかぴかの新席へ席入りすると、そこは八畳の広間。
床に「無事」の御軸、待合と同じ紫野 太玄和尚筆です。
点前座には五行棚が設えてあり、名残のご趣向かしら。
ご亭主と一人ずつ挨拶を交わし、お招き頂いた喜びをお伝えしました。
懐石が運ばれ、一同美味しくボリュームたっぷりの懐石を有難く頂戴しました。
今日はHさまの一人亭主、懐石は全てご自分で作られたもので、それだけでも一同もう感激です・・・。
不調法の暁庵ですが、美味しい懐石とお酒(越後のさくら)につい盃を重ねてしまい、これから大丈夫かしら?
風炉初炭になり、前日炉開きの初稽古だったので、また炉から風炉へ頭を切り替えて・・・この時期は大変です。
釜は裏千家十一代玄々斎好みの常盤釜、美之助造、鐶付は松毬(まつかさ)です。
風炉は黒紅鉢、美しい羽根は野雁、火箸は高額に驚きながら頑張って購入したという明珍作です。
香が焚かれ、まもなく優しい香りが漂ってきました。
香合は存在感のある椎黒、中につけ干し香、小さな香片が盛り上がるようにたくさんつけられていました。
その香合は、はじめて息子さんが中国旅行へ連れて行ってくれた時に出会ったそうです。
手に取るとずっしり重く、黒檀でしょうか?
円い蓋表に桐のような樹の中に鳳凰が繊細に彫られていて、とっさに凡鳥(ぼんちょう)棗にまつわる藤村庸軒の漢詩を思いだしていました。
元禄7年(1694)の藤村庸軒の漢詩に「鳳凰」があります。
この漢詩は、中国の「世説新語」にある「はるばる親友を訪ねてきたが会えず、
門上に「鳳」字を書いて去った」という話に基づいています。
鳳凰
彩羽金毛下世難
高翔千仭可伴鸞
棲桐食竹亦余事
更識文明天下安
凡鳥棗の凡鳥とは鳳のことで、鳳の字を二つに分けると凡鳥(平凡な鳥、とるに足らぬ俗人)
というような意味で、「世俗新語」では親友に会えぬ無念さを物語っているとか。
・・・勝手ながら(きっと息子さんとの大事な思い出の御品なのだと思いながら)、鳳凰の椎黒香合が「友情」を示しているように思われ、Hさまとの十数年前のお茶の出会いを懐かしく思いだしていました。
練きり「山茶花」(和作製)を頂戴し、腰掛待合へ中立しました。(つづく)
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