暁庵の茶事クロスロード

茶事が好きです。茶事の持つ無限の可能性に魅了されて楽しんでいます。2015年2月に京都から終の棲家の横浜へ戻りました。

華甲のお祝いの茶会

2018年02月12日 | 茶事・茶会(2015年~他会記録)

         冬牡丹・・・・嵐山・吉兆にて

    淡雪の灑ぐ牡丹の紅増して
         華甲の恩師慕ふごとく・・・
   

1月28日(日)、S先生の「華甲のお祝いの茶会」にお招き頂きました。

「華甲(かこう)」とは還暦のことを言うそうです。
「華」という字が6つの「十」と一つの「一」からなるので六十一歳、昔は歳は数え歳で数えていました。
「甲」は「きのえ」で十干の一番目。十干十二支が一回りして最初の「甲子(きのえね)」に帰ったことを表しています。


 待合の「鶴亀寿老人」・・・上部に鶴、下部に亀が表具の上に画かれているのが珍しい

ご案内に京都嵐山・吉兆にて・・・とあり、2日前から京都入りしました。
嵐山・吉兆は気になる存在でしたが、なかなか入る機会も勇気もなく、伺うのが楽しみでした。
嵐電「嵐山」駅で降り、雪がちらつく中Oさまと吉兆へ向かいました。
門の外で男衆の出迎えを受け玄関へ入ると、着物姿の美しい奥様が笑顔でお迎えくださり、やっと安堵しました。

待合の床には「鶴亀寿老人」の図(岡本豊彦筆)が掛けられています。
穏やかな鶴亀寿老人に、茶道に向き合い切磋琢磨されて還暦を迎えられた先生の若々しいお顔を重ねました。
待合で同席の皆さまとご挨拶を交わし、「御菱葩」(道喜製)を頂戴しました。
今年3回目の花びら餅でしたが、やはり道喜製は一味違いますね。味は同じでも、味噌餡が以前より少し固めになり食べやすくなったような・・・。


   大きくて美味しい!「御菱葩(花びら餅)」(道喜製)

いよいよ濃茶席、先生自ら濃茶を練ってくださいます。
席入りの直前に奥様から「お正客をお願いします」と言われて飛び上ってしまいました。
でも、ぐずぐずしていてはご迷惑をお掛けすることになるので、覚悟を決めて席入りしたものの、待合で会記をしっかり読んでおけばよかった!・・・と後悔しました。



本席の床に「千眼看不見」の御軸、裏千家9代不見斎石翁の御筆です。
読み下しは、千眼(せんがん)を持って看(み)れども見えず。
S先生から眼からだけでなく、目に見えないものをしっかりと心で見ることの大切さをお教えいただき、時にはきっと大変なご苦労もありながら、真摯に茶の道を歩んで来られた先生の御心を推察し、胸が熱くなりました。
私も先生の御心を慕いながら茶の道を後から歩んで参りたい・・・と思いました。



今でも時折いろいろなシーンが頭を横切ります。
先生のお点前を約20名の方々が固唾をのんだように見詰めていると
「濃茶なので本来はお話をしないのですが、今日はいろいろお話をしながら濃茶を差し上げたいと思います」
それで、不肖の正客はすっかり安心して、先生のお話を伺うことにし、お話の流れの中でお祝いの気持ちを代表してお伝えできれば・・・と思ったのですが、緊張して何を話したのか覚えていないのです(トホホ・・・)。

それでもお点前が進み、先ほどから気になって仕方がなかったことをお尋ねしました。
「柄杓の柄の部分が赤く塗られているように見えるのですが?・・・」
すると柄杓の柄だけでなく、茶筅の綴じ紐、茶巾が「赤備え」でした。さらに手桶水指(認得斎好)を華甲を祝う「赤色」、そんなS先生のこだわりのお話に座が「わっ!・・・」と湧きました。
未熟な正客も一座の方々も緊張から解き放たれ、一気に席が楽しくなったように思います。



天命の釜「古狸」(認得斎銘)から湯が汲まれ、心を込めて練ってくださった濃茶を頂戴いたしました。
茶碗は如心斎好の嶋台、慶入造、濃茶は銘「延年の昔」(八女・星野園詰)です。
熱くまろやかな濃茶が喉をやさしく潤し、暁庵だけでなく順次頂戴した連客様の寿命を伸ばしてくださるように思われました。

私にとって垂涎のお道具ばかりでしたが、中でも作者・不見斎の指痕を感じる黒楽茶入「玄鶴」と、御家元からお祝いに頂戴したという茶杓・銘「天眼」が心に残っています。

素敵なお道具との、一つ一つのご縁を想像し、きっと長い歳月を掛けられたことと推察されました。
そして先生と巡り会ったお道具たちの声が一斉に聴こえたように思ったのです。
「S先生、無事に華甲を迎えられ、おめでとうございます。
 S先生と巡り会え、お祝いの席に使って頂いて喜んでいます。ヨカッタ!ヨカッタ!」
またいつかお道具たちとお目に掛かれますように・・・。





窓外に降る雪や、可憐に咲く寒牡丹にみとれ、見事な敷松葉の庭に感心しながら、あこがれの吉兆で会席料理を美味しく頂戴しました。
目に美しく上品で凝った料理を堪能しましたが、それらの器も凄かったです・・・。

不束な正客ながら、お優しいS先生のお助けのもと、素敵な御連客様のお蔭にて華甲をお祝いする一座建立ができました。
今となってはとても好い思い出となり、喜んでおります。ありがとうございました!


追伸)カメラの電池ギレで写真はFさんとMさんにご協力を仰ぎました。ありがとうございます! 


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