どうせ、叶わね想いなら…一時でも、満たされれば良い。日に日に、その想いは強くなっていくような気がした。
そして、向かえた満月の夜。
夢で聞こえていた声が…やけにはっきりと、夜風に乗って届いた。それに驚く事もなく…俺は現実として受け止める。
【…覚悟は決まったか?】
「…ああ」
【…お前の選んだ答えを聞こう…】
「…俺は…今宵、想いを遂げたい…」
【…ああ、分かった。それがお前の望みなら…最後に叶えてやろう…】
この世との別れを選んだ感覚はない。ただ、俺は…もう一度、あの温もりを感じたいだけだった…。
何時もより、大きく見える満ちた月…。
頭の何処かが鈍くて…もう既に…魂を奪われてしまったような錯覚に陥る。
妹に何も告げなかった事を他人事のように悔やんでいると、柔らかな夜風が頬を掠めた。
【…夜明けまで…せいぜい、楽しめ…】
闇に溶けて消えた悪魔の声。それと入れ代わり、焦がれた姿がそこにあった。
「…っ!」
どちらから駆け寄ったのだろう。お互いに強く引き寄せられる。一秒すら惜しくて、きつくその身体を抱き寄せた。
「…ずっと。お目にかかりたかった…」
「……」
「それだけでなく…こうして…抱き締めたかった…」
「……」
響くのは俺の声だけ。それでも、一方的な想いでないと知らせるように…回された腕にこもる力は…強かった。
部屋から綺麗な満月を見上げ、僕は待っていた。ユノとの再会を…。
その先に待つ結果なんて、どうでも良かった。いや、本当は考えないといけない。この国の行く末と二人の未来の事。
でも…月が満ちていく姿を目にする度…次第に考えられなくなっていた。
ユノに包まれたくて、仕方がなかった。言葉以外で想いを伝えるなんて、自信はない。
だけど、僕が求めるのはあの温もり。回された腕の力強さ。それから、あの低い声。優しい笑顔…。
ユノを感じた時間は、短すぎて…僕には足りなかった。
もっと、見つめ合い…抱き締め合い…込み上がる想いを分け合いたかった。
僕がユノへ導かれ、再会を果たせたのは…ユノが悪魔の誘いに乗ったと言う事。
それが二人の未来を閉ざす事を意味していても…望み以上に激しく、ユノに抱き締められた瞬間。僕は…悪魔にすら…感謝していた。
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