万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

‘爪でも戦う’ネタヤフ首相を止める方法-イスラエルに対する国家承認の取り消し

2024年05月16日 11時33分15秒 | 国際政治
 イスラエルのネタニヤフ政権が進めているガザ地区のラファ侵攻作戦については、さしものアメリカも武器供与を停止することで、その実行を止めようとしています。ラファ侵攻に対する批判はアメリカに限ったことではなく、世界各地でイスラエルに対する抗議活動も起きています。ラファ侵攻反対がいわば国際世論と化しているのですが、こうした批判の嵐をものともせず、ネタニヤフ首相は、必要とあれば爪でも戦うと述べ、あくまでもラファを攻略する構えを崩してはいません。かつてスピノザが、戦争とは一方だけの意思で起こすことができると語ったように、戦う意思を貫こうとする人物を翻意させることは簡単なことではありません。

 一般社会にあっては、暴力を振るい続ける人が出現した場合、誰かが止めに入ったり、警察を呼ぶことで、その場を納めることが出来ます。暴力を振るわれていた人は助かり、一件落着するのですが、国際社会では、こうした暴力抑止の仕組みはあまりにも不十分です。暴力主義の国の行動を抑止するには、まずもってそれを圧倒的に上回る軍事力を要します。この点、コソボ紛争にあってはNATO軍が人道的介入を理由に域外派兵に踏み込んだのですが、今般のジェノサイドとも称されるガザ地区に対する攻撃に対しては、人道的介入の動きは見られません。NATOが見せる悪しきダブル・スタンダードの背景としては、イスラエルをサポートするユダヤ系勢力のマネー・パワーの存在を挙げることができます。そして、これは、世界第一位の軍事力を誇るアメリカを後ろ盾とすることを意味するのです。言い換えますと、今日の国際社会とは、国家レベルとは異なり、人道や正義といった善性に基づく価値が、力によってねじ伏せられてしまう世界なのです。

 しかも、国際レベルでの介入は、たとえ人道的な介入としての武力行使であっても、無辜の民間人も巻き添えとし、多くの人々の家財産や生活基盤のみならず、命をも失わせます。国際社会には、一筋縄ではいかない難しさがあるのですが、それでは、イスラエルの蛮行は放置すべきなのでしょうか。仮に、本気で世界各国の政府がイスラエルの行動を制止しようとするならば、全く方法がないわけではありません。各国の政府が独自に実行できる方法としては、イスラエルの国家承認、あるいは、ネタニヤフ政権に対する政府承認を取り消すという方法があります。国家には、その存在が認められるには、国際法上において国家承認という手続きを要するからです。

 この点に関しては、先日、イスラエルは、国連憲章の細断という過激なパフォーマンスをもって、ハマスによるテロ行為を根拠にパレスチナ国の国連加盟に反対を表明しています。その背景には、独立国家としてのパレスチナ国の存在を認めたくないネタニヤフ政権の本音があることは疑いようもないのですが、イスラエルが自らの行為を正当化する根拠としてテロを挙げたことは、イスラエル自身も、この論理を受け入れざるを得ないことを意味します。同ケースでは、未加盟国の国連の加盟問題でしたが、イスラエルに対しては、国家承認の要件として、その違法行為を問うのです(なお、もう一つの方法としては、イスラエルの国連追放決議もあり得るかもしれない・・・)。

 かつて、神聖ローマ帝国では帝国アハトという刑罰があり、この刑を受けますと、その人は、法律上の人格を失い、法による保護を一切受けることができなくなりました。つまり、実態としては存在していても、社会的には‘存在しない人’の扱いを受けたのです。イスラエルに対して軍事力をもってその暴力的な違法行為を止めることができないならば、各国政府は、停戦に応じず、ラファに侵攻した場合、独立国家としての独自の判断としてイスラエルに対する国家承認を取り消すべきと言えましょう。第二次世界大戦後に至り、ようやく自らの国家を持つことがユダヤの人々にとりましては、各国からの国家承認を失うことは相当なダメージとなるはずです。

 もっとも、イスラエルに対する‘現代版帝国アハト’については、野獣を野に放すようなもの、つまり、一切の法的義務や拘束から解放されて、より暴力化とする反論もありましょう。しかしながら、現状が既に野獣状態なのですから変わりはなく、国家承認の取り消しは、各国が人類の一員としての良心を示すことになりましょう。イスラエルの国家承認の取り消しは、日本国政府を含む全ての諸国に人道を護る決意を問うていると思うのです。


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