万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

南シナ海問題解決の奥の手はサンフランシスコ講和条約にあり?

2016年07月24日 15時10分23秒 | 国際政治
岸田文雄外相、米と南シナ海問題で対中包囲網強化目指す ASEAN関連会合出席へ
 南シナ海問題について仲裁判決が示されてから日が浅いため、いささか議論が先走っている観もありますが、南シナ海問題を根本的に解決するためには、何れは領有権問題へと歩を進める必要があります。その際、サンフランシスコ講和条約を利用するのも一案です。

 何故、サンフランシスコ講和条約が南シナ海問題と結びつくのかと申しますと、同条約第2条(c)こそ、日本国によるパラセル(西沙諸島)、並びに、スプラトリー(南沙)諸島の放棄を明記しているからです。講和条約によって領土を放棄する場合には、一般的には放棄先の相手国を明示します。しかしながら、同条約の条文には放棄先国が欠けており、ここから、”放棄された領土は無主地化された”とする解釈が成り立つのです。となりますと、南シナ海の領有権問題は、”両諸島は、日本国の一方的放棄により無主地化されたのか、否か”という問題として再設定し、同条約の解釈に関する紛争として扱うことが可能となります。

 幸いにして、同条約第22条には、「この条約のいずれかの当事国が特別請求権裁判所への付託又は他の合意された方法で解決されない条約の解釈又は実施に関する紛争が生じたと認められるときは、紛争は、いずれかの紛争当事国の要請により、国際司法裁判所に決定のため付託しなければならない。…」とあります。注目すべきは、”いずれかの紛争当事国の要請により”とされ、紛争の当事国であれば、一国のみでも国際司法裁判所に付託できることです。

 この条文に照らしますと、まずはフィリピンとベトナムは同条約の締約国であって、南シナ海問題の紛争当事国でもありますので、同条の手続きを利用する資格があります。無主地化されたと判断されれば、フィリピンやベトナム、並びに、その他の諸国も、現在実効支配している島や岩礁の領有権が事実上確定されますし(日本国が改めて法的に承認?)、一方、無主地化が否定されても、国際司法裁判所の解釈に沿った平和的解決を模索することができます。

 もっとも、この手段には、(1)中国は、サンフランシスコ講和条約の当事国ではありませんので、中国に対して法的拘束力が及ばない、(2)先占の要件となる各国の実効支配の有効性については個別の裁判が必要となる…といった難点があります。しかしながら、国際司法裁判所によって同条約の解釈が確定すれば、それに反する中国の行動は間接的ながら”違法”と見なされることでしょう。軍事面に限らず、法によって中国を”雁字搦め”にすることも、対中包囲網の一環なのではないでしょうか。

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