万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

イギリスとEUへの外務省メッセージーいささか無神経では?

2016年09月07日 13時43分31秒 | 国際政治
日本の「警告」、大きく報道=EU離脱めぐる要望書―英メディア
 外務省のホームページには、イギリスとEUとの間に予定されている将来の離脱交渉を念頭に置いた、日本国政府による両者に宛てたメッセージが掲載されています。このメッセージの文面を読んでみますと、イギリスの国民感情に対していささか無神経であったのではないかと思うのです。

 本メッセージは、日本企業の要望を纏めており、イギリスに進出している日本企業の利益を代弁しています。イギリスのEUからの離脱は、現地の日本企業にも直接にマイナス影響や不利益を与えますので、日本国が、イギリス、並びに、EUに対して要望を述べる機会はあって然るべきです。日本国側の意見を伝えること自体には問題はないのですが、その要望の内容が、イギリス国民の選択を真っ向から否定するとなりますと、相手国との間に摩擦が生じることは当然に予測されます。

 特に問題となるのは、人の自由移動に関わる部分です。”高度人材”のみならず、単純労働者についても、”日本企業は、製造業や農業ビジネス分野で東欧からの低賃金の労働者に依存しており、仮に、こうした労働力へのアクセスに制限が設けられた場合には、人材不足と労働コストの上昇が、製品価格に影響を与えるであろう”とはっきり書いているのです。つまり、しばしば批判的に指摘されている通り、外資系の企業がイギリスに製造拠点を移しても、イギリスの雇用改善に貢献しない実態を明かにしており、移民を呼び込む日本企業のイメージは、イギリスにおいて反日感情を煽りかねないのです。当メッセージは、既にイギリス国内のメディアによって取り上げられており、日本製品のボイコットを呼びかけたり、”英国から出て行け”といったコメントも見られるそうです。

 日本国内においても、国民の多くは移民の受け入れ拡大には反対ですが、本メッセージから読み取れる日本の経済界の本音が安い労働力としての移民歓迎であるならば、この問題は、イギリス・EU間の問題に留まらなくなります。仮に、同様の要望書を日本国政府が受け取った場合、日本国政府は、その要望を素直に受け入れるのでしょうか。少なくとも一般の日本国民の多くは反発を感じることでしょう。もっとも、このメッセージは、EU残留派を含む新自由主義勢力の利益を代表して書かれたのかもしれません。

 本メッセージの本文では、冒頭でイギリス国民の選択を尊重すると明記してありますし、直接的には”人の自由移動の原則を維持せよ”とも書いていません。しかしながら、国民投票で最大の焦点となった移民問題に関しては、相手国国民に対する配慮と慎重さが必要であったのではないかと思うのです。

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2 コメント

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我が日本ならどうか。 (goen)
2016-09-07 15:46:19
ご指摘通りと感じます。
英国のEU離脱は国民の代表意志で、主権者の総意です。政治家が事業者の意志より有権者の総意を優先するのは当然であるからです。国民が何故EU離脱を望んだのか、その理由の筆頭にあるのが「逃亡者」の流入である。移民と難民を同列に扱うメディアの可否はともかく「逃亡者」を無制限に流入する事は防がなければなりません。国の社会制度を崩壊させる危険が濃厚であり、企業が利益のみを優先さたEU経済は利害対立を生みます。
日本の一般的な市民感覚では、英国との島国と言う共通環境のもと賛成でしょう。自国の企業工場があり企業利益のため、自国を代表する政治家が相手国の政策に口を出す事は慎むべきである。企業は選挙民ではありません、利益追求に倫理より論理を優先させる団体です。英国の判断は実に民主主義に沿った判断であると考えます。我が日本では果たしてこの様な結果が出るでしょうか?..実に不安です
「逃亡者」を送出している相手国の立場で考えてみれば解ることです。
自国の有望な労働者を無制限に受け入れる国に対しては敵対する感情が生まれます。現状の動乱は過渡期の現象でありやがて安定すると必ず逃亡者の利益に反する結果を生みます。個人の利益優先で国を渡り歩く逃亡者に、国益の説明は無理だとしても...自国のトラブルの解決を放棄した逃亡者は歴史上沢山あります。全て悲惨です..問題解決に努力する事を放棄する人民に明日は無いことを知るべきだ。其の意味では英国は極めて大切な事を考えさせます。
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goenさま (kuranishi masako)
2016-09-07 19:57:57
 コメントをいただきまして、ありがとうございました。
 相手の立場になって考えてみることは、国であれ、個人であれ、大切な事ではないかと思います。一般イギリス人の立場からしますと、年間、約30万人の移民が流入しており、経済が好調とはいえ、人口比率が変化するのですから、切実な問題です。しかも、その移民を雇用しているのも、同様に外国企業であるとしますと、その外国企業に対する風当たりも強くなります。そして、送出し国側でも、人材流出に頭を抱えているとしますと、双方の国民にとりましては、まことに不幸なことです。人の自由移動に対しては、各地で懐疑論が湧きあがっているにも拘らず、それを無視した要求を致しますと、”火に油”ということになりかねないと思うのです。
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