万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

実効支配50年領有権確立説のナンセンス

2012年08月11日 16時05分32秒 | 国際政治
国際司法裁判所に提訴検討=竹島問題で韓国に対抗措置(時事通信) - goo ニュース
 本日、新聞の竹島関連の記事を読んで初めて知ったのですが、最近、”50年間実効支配すれば、実効支配した側の領有権が認められる”とする説が流布しているそうです。根拠は、国際裁判の判例とされていますが、この説、極めて怪しいと思うのです。

 ネット情報によりますと、中国の軍関係者が言い始め、日本国内では、池上彰氏が唱えたことで広まったそうです。ところが、根拠とされる判例は不明であり(植民地獲得に際しての西欧列強間における争いの国際裁判か?)、国際法でも、長期の実効支配による領有権の成立は、平穏無事に何処の国からもクレームが付かない場合に限定されており、一般的な原則として実効支配優位は確立していません。それもそのはず、実効支配優位を認めれば、侵略であっても、50年軍事力で支配すれば、領有権が確立してしまうのですから。国際法が、実効支配優位を認めることは、法の自殺行為なのです。この奇妙な説は、沖縄返還から50年を経過する前に、軍事力を行使してでも日本国による尖閣諸島の実効支配を阻止したい中国側の意思表示とも解することができます。もっとも、中国は、沖縄返還を起点としてしますが、日本国が、尖閣諸島を沖縄県の管轄下に置いたのは1895年であり、尖閣諸島の領有を主張し始めた1970年代において、既に75年が経過しています(沖縄は、アメリカの施政下にあったものの、領有権は日本国にある…)。そして、この説は韓国にも伝わり、50年以上にわたって実効支配している竹島の領有を正当化するために利用されているのです。

 中国が、この説を信じ込むことで、沖縄返還から50年目に当たる2022年5月を前に、尖閣諸島に対する軍事力行使を急ぎ、韓国が、この説を根拠に竹島の実効支配強化に走っているとしますと、全くナンセンスなことです。両国とも、国際法に照らしますと、全く無駄なことをしているのですから。

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4 コメント

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初めまして (バッキー)
2012-08-11 17:50:06
初めまして。名古屋のバッキーと申します。

先月末から、興味深くブログを読ませて頂いております。私には少し難しい内容ですが、それでも読ませて頂くだけの価値あるブログです。

どうぞ今後ともよろしくお願いいたします。
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バッキーさま (kuranishi masako)
2012-08-11 22:22:30
 こちらこそ、はじめまして。拙いブログではございますが、読んでいただいておりますとのこと、大変、うれしゅうございます。今後とも、どうぞ、よろしくお願い申し上げます。
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Unknown (kenji)
2013-04-18 20:18:04
民法の時効とほぼ同じことです。
何もクレームがなければ成立するが、領有権を対立して主張され、係争がある場合は成立しない。
尖閣は成立済み。竹島は成立していない。
北方領土もそうだが、こちらのほうは千島=クリル、の解釈と千島樺太交換条約の翻訳ミスからくる日本側の瑕疵から国際法上は無理があるのでは?
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kenjiさま (kuranishi masako)
2013-04-19 09:37:54
 コメントをいただきまして、ありがとうございました。
 確かに、民法の時効取得と同様の概念で理解できますが、国際法では、明確には50年という年数を明確に定めてはいないのです。もっとも、尖閣諸島は、75年間平穏に日本国が領有し、かつ、国際法上の無主地先占の要件を満たしておりますので、間違いなく、日本領と言えます。一方、竹島は、韓国による不法占拠以来、継続的に日本国が自国の領有を訴えていますので、時効取得は成立しません。北方領土については、日本国は、ヤルタ協定の無効を訴えることができますし、たとえ、千島樺太交換条約の締結に際して翻訳ミスがあったとしても、事実としては、北方領土を実効支配していたわけですから、ロシア領であったと見なすことはできません。また、ロシアによる領有を認めますと、戦争による領土割譲となり、第二次政界大戦における連合国側の基本方針にも反します(現在の国際法にも違反…)。ロシアは、サンフランシスコ講和条約に参加もしておりませんので、国際裁判において、日本国側が不利と言うことはないと思います。
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