万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

自ら犯罪国家の道を選んだ北朝鮮

2017年09月19日 16時19分33秒 | 国際政治
防衛相 北朝鮮ミサイル 実戦的な能力向上の可能性
北朝鮮問題は、核兵器の国際的な規制を目的として成立したNPT体制と密接不可分の関係にあります。1970年3月5日に発効したNPT(核拡散防止条約)とは、一般国際法において国家の行動規範を定めた点において、国際法秩序、即ち、世界大での法の支配の確立に向けた流れの中に位置付けることができます。

 国際法秩序は、二度の世界大戦がもたらした戦禍に対する反省から人類がその必要性を痛感した文明の所産であり、様々な不備や欠陥を抱えながらも、凡そ国際社会の合意事項と見なされてきました。国連の仕組みも、基本的には法秩序をベースとしており、加盟国に対して法の誠実な順守を義務付けつつも、侵略など国際法で定められた行動規範に反する行動をとる国が出現した場合には、軍事的であれ、非軍事的であれ、必要な措置をとることができるように設計されています。

 この観点から北朝鮮の行動を見ますと、1991年に国連に加盟した時点で法の支配に同意したに等しいのですが、実のところ、同国は、国連加盟に先立つ1986年12月12日にNPTを批准しています。今となって考えて見ますと、この時から、同国の善性悪用戦略が始まったのかもしれません。何故ならば、朝鮮戦争の当事国であることを考慮しますと、NPT体制への同国の参加は、極めて不自然であるからです。

 朝鮮戦争は休戦協定が締結されているとはいえ終結しているわけではなく、いわば、朝鮮半島では、戦時体制が常態化しています。軍事的緊張は北朝鮮における軍事独裁体制の背景でもありますが、仮に、同国が、朝鮮戦争を民族統一戦争という政治問題の文脈において理解するならば(もっとも、北朝鮮が38度線を越えて南進したため、国際法の違法行為、即ち、侵略と認定された…)、NPTに批准することは、自国を絶望的なほど不利な状況に置くことを意味します。何故ならば、交戦状態に至った場合、核保有国であるアメリカとの間に使用兵器において圧倒的な差が生じるからです(因みに韓国は1975年にNPTを批准)。戦争の勝敗は、武器の優劣によって決せられるのが世の常ですので、戦略的観点からすれば、自ら核兵器の開発・保有を断念することは奇妙なのです。実際に、NPTにおいて核保有国と非核保有国の差が生じない紛争当事国でさえ、印パ戦争の当事国であるインドとパキスタンはNPTを批准せず、中東戦争の当事国であったイスラエルも、同様の理由から批准を見送ったと推測されています。

 北朝鮮の戦略とは、一先ずはNPTに加盟し、平和を愛好する非核国の一員を装いながら秘密裏に核兵器を開発することで、核保有国と同等の特権的な地位を獲得すると共に、他の非核保有国に対して軍事的な優位性を確立する、というものであったのかもしれません。平和の実現のために義務付ける核不拡散体制は、まんまと北朝鮮に悪用されたのです。しかしながら、NPT体制への参加は、同国が国際法秩序の形成に合意し、法の支配の価値を認めたことを意味します。乃ち、同条約を批准した以上、その規範に反する行動を取りますと、犯罪国家、無法者国家の認定を受ける結果を招くのは当然であり、今日、北朝鮮が、厳しい制裁を受けるのも自業自得なのです(なお、北朝鮮は、1993年と2003年にNPTからの脱退を表明しているが、脱退要件を満たしていないとして正式に承認されていない)。国際社会を騙し、国際法秩序を破壊しようとしたのですから。

 このように考えますと、北朝鮮は、国際法秩序を認め、その体制の内にありながら、後にそれに反したことで、法に反する犯罪国家への道を自ら選択したことになります。もはや、自国の核・ミサイル問題を、法律問題から政治問題に戻すことはできないのです(禁反言の法理…)。マスメディア等では、アメリカと北朝鮮を同列に扱う記事も見受けられますが、人類の退化と文明の破壊をもたらす北朝鮮の狡猾、かつ、暴力的行動こそ、厳しく批判されるべきではないかと思うのです。

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コメント (2)
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