万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

保護主義の効用は過小評価されているのでは?

2017年02月08日 14時58分17秒 | 国際政治
米、対中制裁関税を確定=道路舗装材の廉売372%―トランプ政権で初
 アメリカにおけるトランプ政権の成立以来、保護主義批判の大合唱が聞えておりますが、保護主義には、内需喚起という効用があることがすっかり忘れられているようです。米国経済全体の視点からしますと、保護主義による国内生産への回帰は、むしろ経済成長を促す可能性があります。

 保護主義が採用されますと、関税率の引き上げ等により、輸入から国内生産への転換が起きます。この転換は、国内の雇用創出に留まらず、様々な波及効果が期待されます。国内生産には、それに付随する裾野の広い連鎖的な経済効果があるからです。当然と言えば当然のことなのですが、製造拠点の周辺では、部品や原材料等を収める中小企業も潤うと共に、従業員の生活の場が形成されることで、生活必需品から教育や娯楽にいたるまで様々なサービス業も賑わいます。製造拠点の移転によって”企業城下町”が一気に寂れるのもこの連鎖的経済活動の消滅の結果です。企業の給与支払いは、民間部門において国内のマネーサプライの増加をもたらし、消費の拡大は結果的に景気を上向かせるのです。このスパイラルを逆方向に回転させれば、連鎖効果は縮小から拡大へと転じ、景気を押し上げる効果が期待できます。この点は、持続性には問題はあるものの、インフラ建設による雇用創出にも同様の効果が期待できます。

 もっとも、こうした保護主義擁護論に対しては、自由貿易を支えてきた比較優位説に依拠し、双方ともがより生産性の高い分野に特化すれば、ウィン・ウィンの関係に至り、双方において経済成長が見込めるとする反論が提起されるかもしれません。しかしながら、古典的な自由貿易論が唱えられた時代は、製造拠点の移動も、国境を越えた人の移動も想定されておりませんでした。貿易を取り巻く状況、すなわち、自由貿易論の前提条件が、今日とは違っていたのです。否、理論が想定していなかった”大移動”の結果、一方の雇用喪失や所得水準の低下に留まらず、看過し得ない政治、並びに、社会問題をも引き起こしているのが現状なのではないでしょうか。

 ”グローバル市場”の現実とは、プラス効果とマイナス効果が貿易国の間で不均等に分散する不均等分散型であり、政府による政策を含めた国家間の差異を考慮すれば、両方向の効果にはさらなる偏りが生じます。自由貿易が必ずしもウィン・ウィン関係を約束しないからこそ、保護主義的政策の導入にも一理があるのではないかと思うのです。

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