万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

英国民投票ー正反対の二つの理想

2016年06月24日 10時01分02秒 | ヨーロッパ
英国民投票:サンダーランドは離脱派が勝利
 昨日、EUからの離脱の是非を問う国民投票がイギリスで実施され、現在、開票作業が続いています。締め切り直後の世論調査では、残留派が僅かにリードしたものの、開票速報でも、接戦状態のようです。

 離脱派と残留派とを地域的に色分けすると、中部サンダーランドで離脱票が61%に達するなど、イングランドでは離脱票が優勢であり、スコットランド等では、逆に残留票が多数を占めています(ただし、都市部の開票はまだかもしれない…)。地域差も見られるのですが、英国の国民投票は、自国に対して、国民が全く逆の異なる”理想”、あるいは、”将来像”を持つ場合の混迷をも示しています。

 離脱派にとりましては、国民投票は、いわば”独立”の問題と化しており、死活問題ですらありました。何故ならば、EUへの残留が、国境管理や移民・難民政策を含む国家の主権的な権限の喪失を意味し、近い将来、イギリスという国が移民社会に変貌する可能性があるからです。離脱派の理想とは、イギリスの歴史や伝統が息づく安定した社会なのでしょう。その一方で、残留派は、EUとの経済的関係のメリットを強調しましたが、それは、イギリスの移民社会化の容認と表裏一体でもありました。否、国境がなく、全ての人種、民族、宗教等が融合し、仲良く共存する社会こそが理想であったのです。たとえ現実においては、深刻な社会的分裂やテロ事件が起きていたとしても…。となりますと、双方とも、他方の理想実現に向けた行動は、自らにとっては”地獄”への道の強要となります。こうした場合には、”理想”への献身は、褒め言葉とはならないのです。

 コンセンサスなき”理想”の強要は、国民の反発を買う原因となります。何れの結果となったとしても、勝利した側も、国民の凡そ半数が、逆の理想を抱いていることを考慮すべきですし、その懸念を払拭する努力を怠るべきではないのでしょう。投票結果を待つばかりとなりましたが、イギリスの国民投票は、”その後”にも関心を払うべきではないかと思うのです。

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